ケーキ以上に
「んー、おいし!!」
注文し、運ばれてきたケーキを口に入れ、美香は目を見開きながら言った。
「よかったな」
目の前で幸せそうな美香の姿を見て、おれはついつい頬を緩めてしまう。
なんて、かわいいんだ……
ケーキ食べてるだけなのにかわいすぎだろ、全く。どうなってんだ。
「本当においしいよ?海斗も食べる?」
言って、一口サイズに切ったケーキをフォークに刺して、おれの口元に近づけてくる。
「え、いや、いいよ……」
おそらくこの感じはあーん。させたいんだよな……
2人っきりとかなら全然いいんだけど、ほぼ満席に近いこの空間でそれは少しハードルが高いと思う……
「えー、私のケーキが食べれないっていうの?」
しかし、おれの心情とは裏腹に美香は少し頬を膨らませながら、どんどんとおれの口元にフォークを近づけてくる。
「い、いやそういうわけじゃ……」
「じゃあ食べれるよね」
そう言って、半ば無理やり、おれの口にフォークを突っ込んできた。
「ん、んん……」
甘い風味が口いっぱいに広がる。
確かにおいしい……気がする。
「ふふ。あーんが恥ずかしくて困ってた海斗、かわいい……」
美香は少し意地の悪そうな笑みを浮かべながら、そう言った。
おれの心情、見透かさせてたのかよ……
「気づいてたんならやめてくれよ……」
「そういうわけにはいかないって。せっかくのデートなんだし、思い出は沢山作っておかないと」
「ん、そういうもんか……」
思い出という言葉におれは少しドキッとした。
確かに美香との思い出は沢山作っておきたい。
こういう些細な、何気ないやりとりだって大切な思い出だもんな……
「じゃあ美香にも食べさせてあげるよ」
言って、おれはまだ口のつけていなかったケーキをフォークで一口大に切って、美香の口元に近づける。
「え、あ……」
まさか自分がやられるとは思っていなかったのか、美香は少し戸惑ったように声を小さく上げた。
「ん……」
だが、戸惑ったのも僅か一瞬ですぐさまおれのフォークをパクった咥えた。
「ん、こっちもおいしいね」
もぐもぐとケーキを噛んだ後、美香はそう言った。
「お、おお、ならよかった……」
あーんってされる側も恥ずかしいが、する側も恥ずかしいんだな……
「ほら、海斗も食べてみなよ」
言って、美香は自分のフォークでおれのケーキを切り分け、おれの口元に差し出してきた。
「おいしいよ?」
「あ、ああ……」
おれは恥ずかしい気持ちを隠しながら、ケーキが刺さったフォークを咥えた。
恥ずかしさのせいでさっきから味がわからない……
そうして、おれ達は結局お互いのケーキが無くなるまであーんのしあいっこをするのだった。
ケーキ以上に甘ったるい空間を作り出してしまったのは言うまでもない。
命を助けたのは学校一の美少女で、彼女は何故かおれにだけデレてます。 あすか @gantz001
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