私が君(読者)に勝ってやろう
夢遊貞丈
準備はいいかい? 5分しか無いんだ。
やあ、元気かい?
まず唐突だけど、もし手元にストップウォッチがあったらスタートして欲しい。
無ければ、今、現在の時間を覚えておいてくれ。さて、
「5分で読書」短編小説コンテスト!
朝読で読みたい、5分で本の世界のとりこになれる物語を募集!
ってね。ああ、コピペだとも。これは許されるのかな?
まあいいや。私には時間が無いんでね。
君(読者)が今読んでいるこの文章はね、上記のコンテストに応募されている作品なんだが、その中でも、
「最後はかならず私が勝つ(どんでん返し)」
なんてテーマでの応募になっていてね、どんでん返しってのは中々難しいお題なんだけど、そんな中で私は君に勝負を申し込みたいと思っているんだ。
どんな勝負かって? なに、簡単だよ。君に私の書く小説を5分以内で読ませる事が出来たら、私の勝ち。5分以内で読ませる事が出来なければ、私の負け、だ。
あ、ただし、ここらで一旦、君が読むのを止めてしまう、ってのは反則だよ?
一秒に一文字だけ読むとか、そういうひねくれた読み方も、勿論ダメさ。
あくまでも普通に。そうだね、普通に読み進めていってもらって、5分、だよ。
ああそれと、もし、分からない単語があったりして調べるような事があったり、予期せぬ事態で読むのを止めなければならなくなった場合は、悪いけど5分のカウントを一旦止めて欲しいな。
ごめんね、流石にこれくらいのルールを決めておかないと、私の不利が過ぎるからね。
逆に、君の方にも不利な事がある? 文章がここいらで終わってしまったらズルイじゃないかって?
安心してくれ。いや、安心かどうかは分からないが、このコンテストの応募要項に、
「3,000文字以上6,000文字以下の作品」
ってのがあるのさ。
ここまでで、この文章の文字数はまだ750文字程度だから、最低でもここまでの文章の、更にあと三倍は文字数が必要なわけで、ここで終わらす事は出来ないんだよ。
「750×3=2250」+750だから、丁度三倍ね。君に計算をさせてしまったら更に時間を使ってしまうと思って、予め計算をさせてもらったよ。
ああ、こんな説明をしている間にも時間は進んでしまっているね。さっさと君に読み終わらせさせないと。
読み終わらせさせる。ふふ、なんだか面白い言葉だね。まあいいか。
じゃあまず、君にスムーズに物語を理解してもらう為に内容から書いてしまおうか。
その内容ってのはこうさ。
〝ある日、何者かに殺害された主人公。しかし、死んだ筈の主人公が目覚めた場所は、大きな窓のある研究所の一室だった。窓の外では巨大な怪物が空を飛んでいて、明らかに今までの世界とは違う。そして、自らの身体にも異変を感じる主人公。そう、彼は異世界の人造人間として転生してしまったのだ。そんな境遇で、主人公は最強の身体を駆使し、数多の強大な敵、そして最終的には魔王を倒す。〟
どうだい、話が広がりまくりそうな感じだろ?
え、改めて私に勝ち目はあるのかって? そうだな、ちょっと厳しいかもしれないけど、善処するさ。
さて、ここまででもう1,000文字を超えているのだけど、気付いているかな?
あ! いや、いい、なんでもない! 君に文字数を細かくカウントされながら読まれてしまったら、ただただ私に不利なだけじゃないか。
ところで何? 気になる事があるだって?
「私」は男か、女か? ふむ。
それは重要な事かい? 無駄な話をしている時間は、私には無いのだが。
まあ、想像にお任せするよ。さあ、話を広げていこう。
まず「何者かに殺害された主人公」だね。
ここは、重要だったり、ただ物語に入るためだけの適当な演出だったりするわけだけど、物語に深みを出す為には、やっぱり重要だった方がいいかもしれないね。
伏線、ってやつ? 実は、ここで主人公を殺害した人物は、意図的に主人公を転生させようとしていた、だとか、主人公が転生してしまったのは、この特殊な死に方に理由があった、だとか。
でもそうだな……とりあえずは、冒頭部分で広げる様な部分じゃないか。失敗失敗。
えーと、次が、と、その前に、どうだい、気付いているかな?
君に少しでもスムーズに読んでもらう為に、この文章の大部分は「口語文」にしているのさ。
おっと、もし「口語文」の意味が分からなくても調べに行く必要は無いよ。私は親切だからね。これ位は説明するさ。
いやまあ、インターネットで検索すれば一瞬で出てくるし、勿論、アナログな紙媒体の辞書にも載っている筈なんだけど、要するに「人が話す様な感じで書かれている文章」の事さ。
ごめんね、分かりにくかったら改めて調べにいってくれても構わないよ。ただし、ルール通り、5分のカウントは一旦停止してくれよ?
よし、大丈夫かな? 続けていこう。
「死んだ筈の主人公が目覚めた場所は、大きな窓のある研究所の一室だった」っていうのは、まあ、主人公に自分の置かれている状況を理解してもらう為、分かりやすい形で外の景色を見せるってのは、結構良いアイディアだろう?
これが無いと、続いて自分の身体の異変に気付いた主人公が、ベッド、かな? 書いてなかったね、ごめん。から起き上がった後、きっと研究所の中を探索した上で外の景色を見るんだろうけど、そこまでその場所が異世界だって事に気付けない——
あれ、そっちでも面白いかもね。ようやく研究所の外に出た主人公。眼前に広がる世界。それが巨大な怪物が空を飛んでいる異世界だったら。
おお、こんな感じなら、もし、アニメになったら一話のラストは完璧かもね。研究所の扉を開き、外の光景を見て絶望する主人公の表情、台詞でエンディング、さ。
うーん、内容を訂正する必要があるかもな。これだから物語を作るのは面白いんだよ。君もそうは思わないかい?
さて、そんなで「主人公は最強の身体を駆使し、数多の強大な敵、そして最終的には魔王を倒す」なんだけど、まず、何で最強なのかだよね。
やっぱり人造人間、サイボーグなんだから、単純に攻撃力、防御力共に、常人とは違く、機械の力で強くなっているって事は明白なんだけど、何か特殊な攻撃方法……そうだな、パッと思いつくのは、やっぱりビームとか火炎放射とかかな。異世界って事で、魔物特化の魔法が出るってのもいいね。
防御の方も、バリアとか、あ、広範囲に展開出来ると仲間も守れるし主人公力も上がるし、体力や傷や病気を回復できる光? なんかも出たらチートみが増すなあ。
後は、旅の先々でパワーアップパーツを入手したりとか?
逆に人造人間である事によって、エネルギー問題や、機械部分のメンテナンスでトラブルが発生すれば面白くなりそう。
そうなると、メンテナンスをしてくれたりするヒロインが登場しても良いんじゃないか? パワーアップパーツも、そのヒロインが作ったりしてくれてもいいかも。
そうだ、造られてるって事は、作者、博士かな? が居るわけだし、同じ博士に造られたライバル人造人間や、博士のライバルが造った敵、なんかが出ても面白いな。
「数多の強大な敵」の部分だね。うん、やっぱり「数多の強大な魔物」にしなくて良かった。敵は魔物だけとは限らないものね。
おや、この辺でどれ位の時間を使ってしまっているのかな?
ちょっと待ってくれ、もし、もう既に5分経ってしまっていたとしても、頼むから最後までこの文章を読んで欲しい。君も、中途半端な形で一つの物語を中断してしまうのは心苦しいだろう?
ありがとう。さあ、主人公の旅を一旦この文章では終わらせてしまおうか。
「最終的に魔王を倒す」だったね。ああ、まず魔王ってなんだってところからか。
どうしようか、一口に魔王と言っても、それがこの世界を総ている者なのか、それとも平和を脅かしていて人間と戦争を行っている者なのか、そもそも、人間なのか、魔物なのか。
そう考えると、この魔王が「博士」っていうのはいいね。「博士」って言っても、主人公を造った博士なのか、その博士のライバルの博士なのか……
もしくは、複数人の博士が主人公含む人造人間を造ったのは、魔王を倒す為だった、とか。
まあ、主人公と戦ったライバル人造人間なんて、そりゃ大体仲間になるんだし、魔王と博士達は敵対している形の方が良いかな。
ああいや、その昔、共に研究をしていた博士達の中から悪い博士が出てしまって魔王となってしまった、が良いかな。そして自らの身体も人造人間として改造している、みたいな。
もしくは、そう思わせておいて、魔王は「悪い博士が造ったが、暴走してしまい悪い博士にも制御が出来なくなってしまった人造人間」でも悪くないかも。
最終的に「悪い博士」はそれでも自らの造った人造人間を愛していて、命を賭してその動きを止め、主人公に自分もろともトドメを刺すように訴える、とかとか。
考え進めていくと止まらなくなってしまうな。はは、もう3,000文字も、とうに超えてしまっているし。
そもそも、よくよく読み返すと、直近の文章、博士、博士ってうるさいし、正直ちょっと読みにくいかもしれない。
あれ、これ、大分失敗してないか? ちょっと待ってくれ、ジャッジはまだだ。
え、まさかもう、終わっているって?
もしくは、もう終わってしまいそうになっているって?
いやいや、何を言っているんだ。もし仮に終わってしまっているとしても、それは私の勝ちで、だろう?
ん、言っている意味が分からないだって? 5分で君に私の小説を読み終わらせる事が出来なかったのだから?
はは、そうだね、今この文章を読んでいる時点で既に5分経ってしまっているのであれば、君がそう思うのは当然だろうね。
だけどね、そうじゃないんだよ。
あ、勿論、勝負の内容である「君に私の書く小説を5分以内で読ませる事が出来たら、私の勝ち。5分以内で読ませる事が出来なければ、私の負け」という部分に偽りは無いよ。
君は気付いているかな? さあ、ここからがこの文章の核、種明かしの部分だ。
まず、「私」は君が今読んでいる文章の主人公さ。あ、主人公って、一応言っておくと、別に人造人間の事じゃ無いよ。あくまでも、この文章の主人公、さ。
もし、感の良い人ならこの辺で気が付くかな?
つまりね、「私が書いた小説」っていうのは、君が今読んでいるこの文章の事じゃ無いんだ。君が結構前に読んだ筈の、
〝ある日、何者かに殺害された主人公。しかし、死んだ筈の主人公が目覚めた場所は、大きな窓のある研究所の一室だった。窓の外では巨大な怪物が空を飛んでいて、明らかに今までの世界とは違う。そして、自らの身体にも異変を感じる主人公。そう、彼女は異世界の人造人間として転生してしまったのだ。そんな境遇で、主人公は最強の身体を駆使し、数多の強大な敵、そして最終的には魔王を倒す。〟
の部分なんだよ。
言いたいことがあるのは分かるよ? でもさ、ちゃんと言っただろう? 「その内容ってのはこうさ」ってね。
内容、だよ。あらすじでも概要でも無く、私の書いた小説は、あくまで上記で全て、上記で完結、完成なんだ。
そこからまあ、時間稼ぎ、というか、悪い言い方をすると、君を騙す為に色々続けたけど、つまりは、そういう事さ。
君が覚えているかは分からないが、1,000文字を超えた部分の文字数の話や、「口語文」の意味の説明の箇所で「意味を改めて調べるなら5分のカウントは一旦停止してくれよ」とは言ったけど、実はフェイクで、その時にはもう、勝負は決していたのさ。
ああ、ここで更に、本当は上記小説のちゃんとした物があったりしたら、宣伝にもなって二つの意味で私の勝利なわけだけれども、残念ながらそれは、無いんだ。とりあえず今は、ね。
さて、長々と付き合わせてしまって悪かったね。でも、君も楽しんでくれたんじゃないかな? つまらなかったのなら、それはごめん。本当にごめん。
ただ、最後にこれだけは言わせて欲しい。まあ、この文章の全てがこの為なんだから。君は少し悔しいかもしれないけどね。そこは勘弁してくれ。
よし、では満を持して、
「最後はかならず私が勝つ!」
ありがとう。あ、最後に、ちょっとだけ仕掛けもしてあるんだけど、気が付いたかな?
実は、私が小説を書いた最初の部分では、主人公の事を「彼」って書いているんだけど、種明かし後では「彼女」って書いてあるんだよ。どうせ読み飛ばしたんじゃないかと思って遊び心で、ね。もし気付いていなかったのなら、読み返してみても良いんじゃ無いかな。
ふふ、それじゃあね。
私が君(読者)に勝ってやろう 夢遊貞丈 @giougio
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます