最終話 エピローグ

 常盤永和の引き起こした、関東区域の野生動物暴獣化現象。

 その騒動こそ大騒ぎになったが、その理由がたった一人の少女による復讐準備のためだったとは、ニュースになっていない。

 だから世間的に知られている暴獣化現象は、原因不明のまま落ち着いた。

 表向きには野性動物に詳しい専門家が調べていくことになっているし、実際に興味を持った人が調べようとしているが、ニュースとしてはもう話題になることはないだろう。

 ──もちろん、それはなにも知らない世間の結末。


 白鳥引越センターの車は、埼玉県にある大きなサービスエリアに停車していた。

「サイコストーン、拾ってきてくれてありがと。次もよろしくね?」

 永和が微笑みかけると、野生の鳩は「くるっくー」と鳴いて天井の扉から飛び立っていった。

 袋の中にサイコストーンを入れる永和を一瞥して、将がソファに背中をもたれる。

「野性動物を操れる能力……便利だよなー」

「操るってほどじゃないんだけどね」

 永和は空笑いを浮かべて説明した。

「通常サイコアーツ時は、あくまでもお願いしているだけなの。だから動物たちには拒否権があるし、強制力もないんだ」

「はーん? 使いづらそうだな」

「お兄ちゃん……」

 対面に座る穂乃花が呆れて溜息を吐く。

 穂乃花の隣、マリヤが永和を労った。

「でもまあ、永和さんに協力してもらえるようになって助かったよ。おかげでサイコストーン集めが順調だ」

 サイコアーツの覚醒には、サイコストーンの消費が伴う。苦痛もある上に連続使用すると反動もあるため滅多に使うことはないだろうが、それでもいざという時の手段として選択肢にあって損はない。

 優紀は数秒間無敵になり、マリヤは無数の刀を大量に遠隔操作でき、美空は氷の破壊力が兵器級になり、永和は人間すら意のままに操る獣の化身になるのだ。穂乃花と将は覚醒まだ覚醒を経験していないが、四人も前例があれば常識外れな能力が発現するのは想像に難くない。

 そんなわけで、今SETはサイコストーン集めに躍起になっているのだった。

「そんな。皆には色々と迷惑かけたんだから、こんなことしかできないけど……」

「常磐さん。皆無事だったんだから、引きずらなくていいんだよ?」

 将の隣に座る優紀が頷くと、永和の表情が柔らかくなった。

「ありがと、田中君」

 優紀も単純なもので、それだけで照れてなにも言えなくなっている。

 将が「よそでやれ」と目をそらしたタイミングで、スピーカーがガサッと音を立てる。

『全員揃ってるか?』

「はーい」

 マリヤが代表で返事をすると、スピーカーの向こう、文雄が言った。

『穂乃花に今データを送った。見てくれ』

 すかさず穂乃花がパソコンを開き、そばのサイドテーブルに置いて皆の方に向ける。こぞって顔を寄せ、五人は画面を覗きこんだ。

「どこの町だ……?」

 将が呟くと同時、優紀が叫ぶ。

「あっ! 空だ!」

 画面上部、穏やかな晴れ模様に、すーっと人影が通過していた。あまりに小さくてわかりづらいが、少なくとも鳥のような翼はなく、人間の四肢のシルエットをしている。

「拡大します」

 すかさず穂乃花が画像を操作し、飛翔体の姿を鮮明にする。

 空を飛んでいるのは、サイコオーラを纏った一人の少女だ。年齢は高校生くらいか。風邪になびく黒のポニーテールが凛々しく、そしてその面影は、マリヤの記憶に強く訴えかける雰囲気があった。

「な、えぇ!? 優子……!?」

 名前を聞けば、優紀の記憶にもヒットする。

「まさか、この人が、成人式に七草おかゆのコスプレをしていったお姉さんを持つという──」

「優紀君そういう覚え方してたの!? 間違ってはいないけどさ!」

 以前マリヤの過去を聞いた際に出てきた友人の名だ。

「お前ら、接点あるのかよ?」

「あたしだけね。古い友人なの。その話を優紀君にしたことがあるってだけなんだけど……そっか、優子も元気にやってるんだ」

「懐かしい友人が生身で空飛んでる映像見てその感想が出てくるのも中々ですけど……」

 穂乃花が小声でツッコミつつ、話を本筋に戻す。

「それで室長、この映像はいったい?」

『見ての通りだ。こないだまでの常磐同様、野良のサイコホルダーだな。おれたちはこれから、彼女の保護のために動く』

「優子……」

『いったいどういう因果でこうなったのかはわからねぇ。でもそれを知るためにいくんだ。不安がってる場合じゃないぞ』

 文雄から檄を飛ばされ、俯いていたマリヤの顔が上がる。

「はいっ!」

 こうして、新たに仲間を加えつつ、SETは南へとトラックを走らせるのだった──。

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日本で少年少女の異能バトルが始まろうとしたら真っ先に警察と自衛隊が反応した結果 千馬 いつき @itsuki-senma

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