第45話 俺の聖水と真意について
逃げる……とにかく他のクランメンバーに見つからないように逃げ回って、見つかっては他の場所へ逃げ隠れしてを繰り返し、俺は尊師の部屋にあるデスク下に隠れた。
部屋の外からはクランメンバー達が慌ただしく走り回る足音や怒声罵声が聞こえる。
――おっかねぇー!もし掴まったら俺はきっと……
全裸に剥かれ、両手両足を縄で縛られている自分と、その下で聖水が出るのを今か今かと待ち受けるクランメンバー達の姿を想像してしまう。
途端に寒気を感じ、状況が状況だからか尿意を催す。
辺りを見回し、何か排尿できるものは無いかと探してみると、少し離れたところに大きめの壺が見えた。
「……背に腹は変えられない、か」
入口の扉が開いてないことを確認し、すかさず身を乗り出して壺をデスク前まで運ぶ。
そしてそのままズボンを半脱ぎして息子を出そうをしたところで少し思い留まる。
もし、このタイミングで扉が開いたら俺の息子どころか排尿シーンまで丸見えではないか。
これではもしもの時恥ずかしいので、少し位置を変えて扉に背を向けて息子を壺の縁に沿える、というか乗せる。
そして首を後ろに捻って扉を確認しながら排尿開始。
「ぬはぁ……とてつもない解放感……」
と、そこでガチャリと扉のノブが動く。
「そ、尊師様!こんな時に失礼します!」
という声と共に顔を覗かせたのは――
「「っ!?」」
ま、まさかの朱莉ちゃん登場ーっ!?
そう、朱莉ちゃんだった。
彼女は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに真顔になって静かに部屋に入り、そのまま扉と鍵を閉める。
それから顔を上げたかと思うと、じりじりとこちらへにじり寄ってきた。
「ま、待つんだ朱莉ちゃん!今どういう時か分かっているだろ!?」
「シーッ!静かにしてください。他のクランメンバーにバレてしまいますよ?」
「お、おう……」
――なんだ?やけにおとなしいし、理性的だぞ?
と考えている間に排尿は済んだ。
俺はそそくさと息子を仕舞い、朱莉ちゃんの方へ向き直る。が、なんと声をかけて良いか分からないので、シーンとした気まずい空気がしばらくその場を支配する。
「……あー、その、なんだ?ひとまずは騒がないでくれてありがとう。おかげで他のクランメンバーにバレずに済んだよ」
「…………」
俯き、モジモジして何も返さない朱莉ちゃん。
――見るからに顔が真っ赤だな、もしかして俺の排尿シーンを目の当たりにして恥ずかしくなったのだろうか?
と、思っていると――
「昴先輩……その……たい……です……」
「ん、なんて?」
あまりの小さい声に、聴き返しながら朱莉ちゃんに近寄る。そして俺が朱莉ちゃんの正面まで来ると、俺は彼女に突然押し倒された。
「しゅしゅしゅ、しゅばるしぇんぱいの子供を産みたいんでしゅ~!!」
「は?えっ?なん……なんてぇ!?」
「ももも、もう我慢の限界なんでしゅ~!ひ、一人でするなんて……こんなの修行僧じゃないですか!?」
朱莉ちゃんの言い方から要約すると、どうやら俺がクラン入会2日目に策定した方針が変な方向に作用してしまったようだ。
2日目に策定した【淫姦・姦通の禁止】【一人えっち推奨】というこの2つの方針が――
それも仕方のないことかもしれない。
もんの凄いエロ同人誌を教本・もしくは聖書として使用させておいて、それらを策定するのは本当に苦行でしかないだろう。
もし俺がこのクランの信者だったとしたら、我慢の限界すぎて誰かを襲うかそもそもクラン自体脱退するはずだ。
――ふむ、それでその通り朱莉ちゃんは俺を押し倒した
と……あれれー?これなんて自業自得ぅ~?
「って、言ってる場合かぁー!放せ!この淫乱女ぁー!」
「一回だけ!ほんの5㏄だけで良いのです!先っちょだけ先っちょだけ!」
「待て!それだと俺が先っちょだけで果てる男に聞こえるだろうが!」
――って、突っ込みどころはそこじゃねえ!
支離滅裂なやり取りをしながらも、朱莉ちゃんがこちらにグイグイと顔を近づけてきたり、俺のズボンを脱がせにかかるので、それらを阻止するのに全力を注ぐ。
同時に、何か武器になるものか説得に使えそうな何かを探すべく周囲に目を向ける。
デスクに備え付けられた椅子は凶器過ぎるから即座に却下。同じく、筆立てに入ったペン類も使いようによっては危険すぎるので却下。最後に俺の聖水が入った壺。
――くっ、どうとでもなれだ!!
朱莉ちゃんの顔を両手で掴み、顔をゆっくりと顔を寄せる。
「キス、ミー……」
目を閉じて唇を尖らせ、俺からのキスを待つ体制に入る朱莉ちゃんだが、俺はその顔を――
「目を覚ませ!この淫乱少女ぉー!!」
掴んだまま、壺に強引に入れた。
呼吸ができないのだろう、手足をじたばたと激しく動かす朱莉ちゃん。だが、俺はすぐには朱莉ちゃんを解放せずに動きが鎮まるまでそのままにすることにした。
とはいえ、その、俺の聖水で溺死されては困るので、ある程度は加減してある。
――そ、そろそろ落ち着いたか……?
抵抗も弱くなり、朱莉ちゃんがぐったりとし始めたので、恐る恐る両手を離してみる。
すると、不穏とも言える嚥下音が聞こえた。
――こ、コイツ……まさか俺の聖水をっ!?
「あ、朱莉ちゃん……?れ、冷静になったかな……?」
それから3秒ほど、その、まあ、これ以上はノーコメントしたい音が続いてやっと顔を壺から離した朱莉ちゃんの顔は、なんとも言えない幸福感溢れるものであったのは言うまでもない。
「ぷっはぁー!こ、これが祝福というものなのですね!」
――うん、ただの変態行為だよ?
「この充実感……胃の奥から突き上げて、逆流しそうになるこれが、幸福であり祝福……」
――それは単に吐き気というものでは?
「とても、極上の祝福でございました……けぷっ」
右手で口を押え、左手をみぞおちに添えて、吐き気を必死に堪えるようにそう言う朱莉ちゃん。その表情はやはり幸せそのものである。
「あー、うん。色々と突っ込みたいところだけど止めておくとしよう。それよりも、だ。君、本当は何がしたかったの?」
今聞くべきことではないのだろうが、せっかく二人っきりになれたんだ。この機会に根本的な核心を突いておくことにした。
「正直、君の行動には違和感を覚えるんだよね。そもそも、キラがターゲットならもっとキラに固執して俺で妥協することもないだろうし、クランに来てからもなんか行動が曖昧なんだよね」
そう、もしキラがターゲットなら俺で妥協することはない。それに妥協するタイミングというか、俺に切り替えるのが早すぎる。
これじゃあまるで本来のターゲットが俺だったと言うこともできるだろう。
「と、言いますと……?」
「うーん、クランに来てから俺は色々忙しかった。それなのに朱莉ちゃんはそんな俺に労いの言葉をかけるでもなく、傍に居続けるわけでもなく、ただただ尊師である愛子の傍にいることに徹しているように見えたんだよね」
俺が愛子と接する時はもちろんのこと。2日目の幹部とのミーティングとの時も愛子はいたのだが、朱莉ちゃんはその傍らに居続けていた。
きっと俺が居ないところでもずっと愛子の隣にいたか、愛子を崇め讃え続けていたのだろう。
そしてそれはただの憶測ではなく、実際にそうだったのだと悟るには充分なほどにたじろぐ朱莉ちゃん。
「あ、うー、その……」
言葉も既に言葉とは思えないほどのしどろもどろ加減である。
そんな朱莉ちゃんを見て、俺は更に色々と察した。
「君、もしかしてだけど……」
「ま、待って!それ以上は――」
「愛子が好きなんじゃ?」
「うっ……」
図星だと言わんばかりにびくっと身を震わせる朱莉ちゃん。
――あー、なんか色々わかっちゃったよ……つまりは俺もキラも当て馬のようなもので、朱莉ちゃんの本命は愛子だったんだ。
全ての真相が分かった途端、俺はアハ体験したかのようなスッキリとした気持ちになる。
怒りはもはや通り越しているので、もう苦笑いしか出てこない。
「……ぴ」
「ぴ?」
「ぴええええええぇぇぇん!!違うもぉぉぉん!!そんなんじゃないもぉぉぉん!!」
遂には号泣する始末の朱莉ちゃんであった。
それから朱莉ちゃんはことの真相をボロボロと話し始める。
ヒロイン達が俺のエロイラストを所望するのだが!? スーザン @Su-zan
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