第44話 俺が3日で成り上がる!?

 さて、近藤さ……いや、朱莉ちゃんに罠にはめられてから3日が経過した頃、俺はというと何故かは知らないがラバーズクランの最高幹部にまでのし上がっていた。

 このラバーズクランは一般会員が一番下の位で、その上に幹部と最高幹部がいて、その上に最上位である尊師がいるのだが、俺がここで最高幹部にまで上り詰めた理由も説明しておこう。


 これは朱莉ちゃんに騙されたその日、クラン入会初日のことである。


「昴せーんぱい!この入会届けに自分のプロフィールとサインの記載お願いしますっ!」


 俺に逃げる意思が無いと悟るや、朱莉ちゃんはこちらに入会届を差し出してサインを求めてきた。

 署名欄には、がっつり住所や電話番号まで書かないといけないので、もしここを抜け出したとしてもすぐに掴まってしまうんだろうな、と思いながらも色々な項目を記入していく。


 途中、職業を記入する欄があったのだが、そこには【学生兼イラストレーター】と記載しておいた。

 それから入会届を提出したのだが、すぐに俺はこのクランで一番偉い尊師と一対一で会うことになった。


 建物の一番奥にあるピンク色の扉が印象的な部屋に通されて中を見るとこれまた部屋中ピンク色。まるでエッチな部屋かラブホテルを彷彿とさせるその部屋の奥に尊師はいた。

 こういういかがわしいクランを作るくらいだからきっとエロ親父が尊師なのだろうと思っていたが、驚くことに尊師は見た目で言うと20代前半と思われる女性だった。


「同志、瓜生昴よ。あなたのプロフィールを確認しましたが学生兼イラストレーターとはどういうことですか?」

「読んで字のごとくであります」

「では、どのようなイラストを描くのか実際に見せてください」


 そう言って、紙とペンを俺の前に持ってくる尊師。

 その際、尊師からとてもフローラルな良い香りがして、ちょっと興奮した。

 それに、こういう恋愛を主軸としたクランの尊師になるぐらいなんだ。胸も大きいし、やけにエロい体をしている。


 ――そうだ、ここは嫌がらせも兼ねて……


「では、存分に書かせてもらいます!」


 5分後、その紙に仕上がったのは、輪姦〇辱される尊師のイラストであった。


「……こ、ここ……これは、何ですの……?」


 おっとぉー、さすがに怒ったか?これが原因で追放ですかぁー?


「そ、それにこのエロさと絵のタッチは……しかもその顔、よく見ると……アヘ顔至高伝説先生じゃないですか!?」


 って、まさかの俺を知ってるパターンかよ!


「ほ、ほう、この俺を知っているとは、もしかしてコミケにでも来たことがあるのかな?」


 尊師の興奮度合いとワクワクしたような様子からして俺を知っているはずだ。実際、俺のペンネームを知っていたし、これはもしかしたら俺のファンである可能性も考えられるだろう。

 そう思っていると――


「ファンです!!先生の書く同人誌は毎度すべて買わせていただいてますぅー!」


 案の定、尊師は俺のファンだった。

 これはもしかしたらワンチャンここから抜け出す方法が見つかるかもしれない。


「そうかそうか、ところで尊師よ」

「愛子と、お呼びください♡」


 どうやら相当なアヘ顔至高伝説ファンらしい。

 愛子の目がハートになっていて、今にも俺に襲い掛かってきそうだ。

 少し身の危険を感じるが、ここは強気に行くとしよう。


「あ、愛子よ……俺をここから解放してくれないか?」

「お断りします」


 これは行ける!と思ったが、即断で却下されてしまった。


「何故だ?」

「それはひとえに、アヘ顔先生をわたくしが帰したくないからです!それにこのままアヘ顔先生がここに居続ければいずれわたくしと……でゅふっ、でゅふふふふっ……」


 不穏なことを言って、これまた不穏な笑みを浮かべる愛子。この先、悪い想像しか浮かばないのは言うまでもない。もしこのまま居続けたら、きっといずれは……


~~~~~~~~~~~~~~~~


『おぎゃ~!おぎゃ~!!』


 クラン建物内に突如、赤子の泣き声が響き渡る。

 ついにこの時が来たか!と嬉々として分娩室に入る俺。


『愛子ー!ついに産まれたんだなー!』

『あなた、この子がわたくしたちの子供ですわ!』


 満身創痍の表示ではあるが、幸せいっぱいと言わんばかりの笑みで赤子を抱き上げる愛子。俺はそんな愛子の傍らへ行くと、彼女と赤子を抱きしめる。


『愛子!では決めた通りに男の子だから名前はアヘ君ということにしよう!』

『はいですわ!あなた♡』


 こうして、新たな家庭がラバーズクラン内に築かれるのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


 って、そんな想像をしている場合ではない。

 そもそもここに来た理由を思い出すのだ。

 俺はキラに近藤さんからの告白を何とか阻止するか、こちらから断りを入れるために色々と作戦を練っていたはずだ。

 そこから変な方向に事態は運ばれてしまったが、何とか軌道修正をして最終的には万事解決まで持って行かなければならない。


「では、交換条件としよう!」

「交換条件……ですか?」


 コクリと頷いて俺はこう続ける。


「俺がこのラバーズクランに多大に貢献したらここから出してくれ」

「多大な貢献……正気ですか?」

「もちろんだ。見た限り、このクランには欠陥が多く見られる。それらを完璧なまでに訂正してみせよう!その暁には、このクランには多くのメンバーが加入することだろう!」


 そう言って不敵な笑みを浮かべて、ふっはははははっ!と笑って見せる。

 そんな俺に愛子は再び目をハートにしてこう答えるのであった。


「さすがアヘ顔先生ですわ!それではその交換条件で行きましょう♪」


 それを聞いて俺は更に高笑うのであった。


「ところで欠陥とは?」


 きっと聞かれるだろうと思っていたので、僅かな間で考えていた思いつく限りの欠陥部分を列挙することにする。


「まずはそう!あの俺に見せた映像だ!なんだあの雑なイラストは!?もっとやりようがあるだろうが!!」

「た、確かに!」

「次に、このクランの主目的をもっとはっきりとさせるのだ!今時、愛だなんだでチームがまとまるかぁっ!!ひとまず、俺がこれから描く漫画を教本とせよ!」

「は、はい!」

「他はまた今挙げたことが片付いたら教えてやる!!」

「アヘ様……素敵!結婚してくださーい♡」


 そして俺は愛子の求婚に応えることなく再び高笑う。

 何がなんだか、ひとまずはこういう流れになってしまった。

 せっかく色々と指図できる立ち位置になったから、どうせなら滅茶苦茶な方向へ持って行って、このラバーズクランが勝手に自滅するよう計らうことにする俺であった。


☆☆☆☆☆


 ――クラン入会1日目――


 何はともあれ、結果を残さない以上はここから出ることは不可能だろう。

 そこで、俺は始めにあの急展開過ぎて片腹痛しな映像を改編することから開始した。

 画のタッチが本格的かつアニメチックな3DCGのキャラクターを作成し、そこから動きを付けていって、上手い具合に映像の改編は完了。

 その映像にアテレコし、更に間にコンマ数秒しか映らない文章で『クランに金を使いなさい』という文言と『アヘ顔最高!』という文言を挟み、サブリミナル効果を付与。

 更にとどめと言わんばかりに、耳では認識できない周波数で『ケモ耳を崇めよ~!』という音声を追加する。

 愛子には本命であるこのふざけた文言と音声がばれないよう、ダミーの文言と音声も追加しておいた。


 ――クラン入会2日目――


 朝になると、朝食を摂る。それから俺の作成した映像の鑑賞会が始まったわけだが、そのクオリティに他のクランメンバーは愕然としていた。あまりの完成度に朱莉ちゃんに至っては涙する始末だった。


 午後は午後で、幹部連中とのミーティング。

 新参者の俺が気に食わなさそうな連中も複数いたが、正論っぽいことを並べて論破してやったら、泣いて俺に従うようになった。

 そのうちの一人が『あなたは神ですか?』と聞いてきたのが印象的というかあほらしすぎて笑いそうになったが、俺は『尊師より偉いことには違いないだろう』と答えてやった。

 それが原因か、その時から俺は幹部連中を差し置いて最高幹部へと成り上がってしまうのだった。


 ちなみに、この時のミーティングで決まったのはラバーズクランの今後の方針で、まずはエロいことを讃えるのが主軸で色々と決まった。

 例えば、俺の描くイラストや同人誌は聖書と同義であり、読めば幸せになるだけでなく、幸運が訪れるということや、クラン内での淫姦や姦通の禁止などである。

 その禁止事項と同時に、愛と自慰〇為の素晴らしさを伝えて行こうという運びとなった。


 一言コメントすることがあるとすれば、俺だったら絶対にこのクランには入ろうと思わないだろうということだけだ。

 だからこれ以上、このクランに入ろうと思う者もいないだろうと思われる。


 ――クラン入会3日目――


 俺は完全にクラン内で成り上がっていた。

 最高幹部であり、立場は尊師より上ときたのだから、それはもうやりたい放題……と、言いたいところだがそうもいかないのが世の常と言うべきだろう。


 この日、遂に事件は起きてしまうのであった。


「いたぞ!最高幹部様だ!」

「最高幹部様!どうか、どうかわたくしめに最高幹部様の聖水をお恵みください~!!」


 それが起きた原因や理由はさっぱり見当はつかない。

 だが、いつの間にか俺のおしっこには、幸福をもたらす魔法がかかっているという噂が流れ始めたのだ。


 ――って、なんじゃそりゃ!?

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