第43話 俺がハメられる件

 あれから翌日になり、普通に教科をこなし、放課後になった。

 今日の放課後の予定としては、これから近藤さんと合流し、二人でキラへの想いについて話し合いということになっているのだが、果たして近藤さんはちゃんと現れるだろうか。

 合流場所は学校正門となっている。

 先に到着した俺は、度々スマホで時間やメッセージが来ていないかを確認していた。

 特に合流時間は指定していないが少し遅いような気もする。

 正門に到着して既に30分は経過しているし、近藤さんからのメッセージも特に来てはいない。


「もしかしてヘタレたか……?」


 気持ちを言葉にすることが躊躇われるのは分かる。

 俺も好きな相手に告白とまではいかないが、その兄に『妹さんが好きです』って伝えるのは気が引けるしな。

 だからもし近藤さんが現れなくても彼女を責めるような真似はしないでおこう。


 そんなことを考えていると――


「瓜生せんぱーい!」


 どうやら俺の考えは杞憂だったらしく、近藤さんはきちんと来てくれた。


「お待たせしてすみません……少し、下準備がありまして……」

「下準備……?」

「はい……それより早速移動しましょう!」

「ん、おう」


 先導するように前を駆け足でゆく近藤さんをこちらも速足で追いかける。


 ――にしても、下準備ってどういうことなのだろうか……もしかして予め話をする場所を考えてくれたりしていたのか?


 もしそうなら有難いと思う俺であったわけだが、その10分後に到着したのはとあるセミナーの会場だった。

 まず入場の際、スマホが途中で鳴ると大変だからと係員が預かる運びとなった。そこまでする必要があるのか、と思いながらも近藤さんが先にスマホを預けたので、俺もそれに倣ったのは言うまでもない。

 それから入場したのだが、会場には当然の如く、他にも人がいて皆、セミナーのパンフレットを片手にパイプ椅子に座り、講演が開始されるのを今か今かと待っている様子だ。

 たくさん並ぶパイプ椅子のうち、近くの2つ空いているところへ腰かける。


「近藤さん、何故にセミナー?」

「まあ、もう少し待っててください。理由がわかると思うので!」

「……おう」


 俺が返事したところで、会場の明かりが消え、正面にあるプロジェクターが映し出された。

 そのタイトルには、【恋愛は人生を華やかにします!】と書かれており、次に恋愛の素晴らしい部分を色々と列挙しだした。

 かと思えば、今度は恋愛する男女のストーリーがアニメとして流れる。

 最初はよくある感じの出会いから始まり、徐々に関係を深めて男性が告白。そこまでは良かったが、直後場所が病院になり、女性が末期ガンと宣告され、病院帰りの車で男性と別れ話になっていた。

 そこで男性の友達がとある宗教団体を勧誘し、教祖様とやらが現れ、魔法のお守りとやらを授けて後日、女性のガンが緩解して世界は恋愛と魔法で幸せになるようになっているという話をして締めくくられた。


 ――って、まるっきり宗教の話やんけ!?えっ、つまりこのセミナーと称した集まりは宗教団体の集会で、俺はまんまと誘い出されたみたいな!?


「本当はキラさんと一緒にここに来たかったのですが……この際、お兄さんとでも構いませんよね?」

「待て待て、これはどういうことだよ!」

「お兄さん、僕はキラさんが好きです……でも同性同士ですからこの際、キラさんの姉になるのもやぶさかではないんですよ?」


 そう言ってニコッと笑みを浮かべる近藤さん。

 周りを確認して逃げ道は無いか探してみるも、どうやら俺は仕組まれてしまったらしく、そう言った隙は一切見つからなかった。


 つまるところ、近藤さんが合流するのが遅かったのは、この集会に俺を参加させ、延いては逃げられないようにするために根回しをしていたということなのだろう。


「さあ、僕とこのラバーズクランで幸せになりましょう!」


 どうやらガチでそう思っているようだ。

 近藤さんの目がハートになってしまっている。


 この場で逃げるのは無理。しかも入場前にスマホを預けたので、助けを求めるのも不可能である。となればやることは一つだろう。

 それに近藤さんが俺を騙していて、元々はキラを騙してここに連れてくる気だったということをキラに知られたらまずいことになりそうだしな。


「そう、だな……一つ言うことがあるとすれば、それは……俺も近藤さんに魅かれてしまっているということだろう!」


 俺は、このラバーズクランから解放されるまで完全に洗脳されたという体裁を保っていくことにした。

 同時に、このクランに所属している間に、隙を見て近藤さんの意識を変えていけそうならそうする流れに決める。


「これから一緒に幸せになろう!近藤さ……いや、朱莉ちゃん!」


 近藤さん近藤さんと呼んではいたが、ここで信ぴょう性を増させるために彼女の下の名前を読んでみる。

 一瞬、びっくりした表情を浮かべる朱莉ちゃんだったが、すぐに嬉しそうに感涙したかと思えば、こちらに飛びついてきた。


「はい、末永くよろしくお願いします!」


【ヒロイン達が俺のエロイラストを所望するのだが!?】

――完――


 って、勝手に人の人生をここで終わりにされては困る。

 俺の戦いはまだまだこれから始まったばかりなのだから!


※完結でも『俺たちの物語はまだまだ始まったばかりだ!』的な終わりフラグでもありません。


~~~~~~~~~~~~~


 昴が近藤と二人で放課後を過ごすという流れから急展開になって既に3日が経過し、再び翌日から夏休みとなった。

 普通の学生なら喜ぶべき事態なのだろうが、近藤だけでなく昴まであれから姿を消してしまったのだから、心中が穏やかではない者たちがここにいる。

 その一人、瓜生キラは自宅で絶叫する。


「お兄はまだ帰ってこないの!?もう3日だよ、3日!さすがにおーかーしーいー!」


 床に寝そべって手足をじたばたさせる。まるで子供のようなキラの頭をポンポンと優しく叩いた後、これまた優しく撫で始めるカノン。そんな落ち着いた様子に見えるカノンだが、彼女もまた昴が心配でならないのは言うまでもない。


「そうね、お兄ちゃんが心配だよね……朝倉先輩は何か知らないんですか……?」


 そう言って昴が消えた翌日から瓜生家に泊まっている遥を見るカノン。


「うーん、どうにも分からないのよね……連絡取ろうにも返信どころか既読すら付かないし、電話も通じないとなればお手上げとしか言いようがないわ……」


 連絡が一切取れないのでは本当にどうしようもない。それはそうなのだが、どうにかしたいと遥が思っているのもまた確かなわけで、スマホの画面を見ながら方法を考えつつ、遥がそう答えるのであった。


 ――方法がないわけではないけど……きっとお金がかかるのよね……


 と考えてため息を吐く遥。


「ぴえーん!お兄……カムバーーック!!」


 絶叫のキラ。

 その頭を相変わらず撫で続けるカノンは遥にダメ元でこう告げる。


「あの、もし何かあるなら何でも言ってください……協力できることは協力しますので……」

「……はあ、全く昴君ときたら、こんなに兄思いの妹2人を心配させちゃって……仕方ないわ、この際遥お姉さんに任せておいて!」


 そう言って右手でドンと胸を叩く遥。それからすぐにとある相手に電話をかけ始める。


「……あっ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。うん、昴君が姿を消して3日経つから、うん、さすがに何かあったら困るでしょ?だから彼を探すために少し協力して欲しいんだけど……お願いよ、叔母さん」

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