第42話 どうやら俺はワンチャンあれば何でも食べると噂らしい

 自分からシスコン宣言したこともない。

 ましてや妹に恋しているわけでもないのに、いったいいつの間にそんな風評が広まっていたのだろうか。


「お兄ちゃん、大丈夫だよ!きちんとキラが広めておいたから!」

「おう!ありがとう……って、犯人は身近にいたよ!?」

「えっへへぇー!どういたしまして♪」


 嬉し恥ずかしという感じでニンマリするキラだが、俺は一切褒める気はない。

 むしろどうやってこの変な風評をかき消すかを考えていた。


 近藤さんと容易に近づけたからまだ良かったけど、もしこの風評が変な方向に作用して警戒されていたらと思うと少し厄介になっていたかもしれない。

 そもそも近藤さんと接点を持つことすらできなかっただろうな。

 そう思うと、俺にとって悪いことが良い方向に作用しているように思える。シスコンの件も、朝倉と友達以上恋人未満という件も。

 ほんと、俺の評判的にはとっても悪いことなんだけど。


 にしても、どうやって俺=シスコンという噂をかき消そうか……妹であるキラが広めたからには信ぴょう性の問題で簡単にかき消すことは難しいだろう。


「うーん、広まってしまったのは仕方ない。しばらくは目を瞑るとしよう。それより、近藤さんの件を先に何とかすべきなのだが、ひとまず彼女の連絡先は手に入ったからこれから連絡を取ってみる予定だ。内容によっては多分二人にも……」


 これからの予定としては、近藤さんと連絡を取って色々情報を仕入れる予定だ。その後の事は情報次第で決めるつもりである。

 で、その情報によってはまた二人にも手伝ってもらう必要があるかもしれないというニュアンスで話したのだが――


「さすがワンチャンあれば何でも食べる昴君ね。手が早いわ」

「確かに、ワンチャンあれば妹ですら食べるお兄ちゃんだからね」

「待て、まさかそんな噂も広まってるのか?」


 もし俺=プレイボーイ的な噂まで広まってしまっていたら本気で泣けてきそうだ。

 そう思っていると、二人は首を横に振って否定した。ひとまず泣く必要はなさそうで安堵する。


「あっ、でもあたし、お兄ちゃんがロリコンって噂は聞いたことがあるよ」

「何その身に覚えのない噂!?」

「お兄ちゃんはあたし達のお兄ちゃんってだけでも嫉妬されているのに、朝倉先輩とも仲良くしてるじゃない?それをあまり良く思わない人たちがそんな話をしているのは聞いたよ!」


 ――理不尽かつどうしようもなさすぎて反論できない……俺、もしかして周囲から見たら羨ましい生活を送ってたりするのか……?


 ここ最近の事を思い出してみる。

 キラの乳を服の上から触ったり、やむなく朝倉とラブホテルに入ったり、女性声優のおとちゃんとシャワーに入ったり――


 うん、一般男性からしたら羨ましいことこの上ないな。

 まあ、どれも不可抗力ではあるのだけれど、くれぐれも行動には注意するとしよう。


「あー、まあ、色々思うところはあるが、そこは置いておくとして、しばらく俺に任せてくれ」

「「りょ!」」


 意外にもあっさりとした返答が来たので、会議はここで終わりという運びとなるのだった。


~~~~~~~~~~~~~


 それからすぐに近藤さんに連絡を取る。

 というか取ろうとしたらあちらから連絡がきた。

 内容が長文過ぎるので要約すると、どうやらキラの好みのタイプについて細かく知りたいようだ。

 これに答えてしまったらきっと寄せてくるんだろうな、と思いながら思いつく限りを列挙した後、俺は返信する。

 内容を確認したらしい近藤さんから『それってお兄さんのことですよね?真面目に答えてください!』と突っ込みが来たのはその後だった。


 ――いや、真面目に答えたつもりなのだが……つか、キラの好きな人=俺なのだから返答はどうしても俺のようなタイプで固定されてしまうんだよなぁ……


 そう思った後、俺は文章を考え直す。

 そして【近藤さんは妹の好みに寄せたいのかな?もしそうだとしたら今の君という個性はどうなってしまうと思う?】と返してみる。

 すると、近藤さんから【ありのままの僕を好きになってもらうためにどうするかが肝心……そういうことですね、お兄さん!】と返ってきた。

 俺は、右手でサムズアップしているアイコンだけを送り返す。

 その後、ふと思った。


 ――文章には慣れているけど、実際に会って話さないと内容って伝わりにくいところあるよな……それに近藤さんの本心をきちんと把握しておかないとだし……


 というわけで、俺は近藤さんにおまけの文章を送る。

 内容は、これから電話できないか?という単刀直入なもの。

 即座にOK!と言わんばかりの可愛いスタンプが返ってきたので、そのまま電話をかけてみる。


『も、もしもし!?お兄さんですか!?』

「そうデース!私がレジーナ・テラ・サディデース!」

『えっ!?外人さん!?』

「ハーイ!」

『えと、えっと、は、はうどぅーゆーどぅー?』


 ――待って!軽くボケただけなのになんか本気にしちゃってるのだが!?


『あ、あいむふぁいんせんきゅー、えんどゆー?』


 ――しかも一人で受け答えしちゃってるよ!?


「……すまない、俺だ。瓜生昴だ」

『あっ、お兄さんですか……って!変なボケしないでください!!』

「あぁ、それについては本当に申し訳ないと思っている。ところで君のキラに対する想いを聞いておきたいと思ってね」


 周りくどい聞き方をするのも良いが、もう時間的に22時を超えている。人によっては寝ている時間なので単刀直入に聞くことにした。


「それで、ぶっちゃけ好きなのかい?」

『そ、それは……言わなきゃダメですか……?』

「嫌なら無理にとは言わない。だがはっきり聞いておかないと協力しようにも何をすれば良いか分からなくなりそうだからな」

『うぅっ……じ、じゃあ明日の放課後二人で一緒に帰りませんか……?』


 俺と一緒に?しかも二人で?もしかして電話ではあまり言いたくない要件なのだろうか。もしかしたら顔を合わせてじゃなければ言いづらいのかもしれないし……


「分かった。じゃあ明日の放課後だな」

『はい……では、おやすみなさい……』

「ん、おう……おやすみ」


 と、そこで通話は終了した。


 明日、近藤さんからどのような告白があるかは分からない。

 だが、それなりに覚悟しておくとしよう。


 ひとまずの経過報告として、朝倉にはメッセージで『明日の放課後は近藤さんと二人でデートになりました』と送っておいた。

 すぐに返信がきたのだが、『浮気死すべし!』とだけ返ってきた。


「いつからそういう関係になったんだよ……って、今は友達以上恋人未満ってことになってるんだっけ?」


 シスコンであり、朝倉とはそのような関係……さらに俺の風評は悪い方向へ転んでいきそうな気がする……いつか嫉妬した男性に後ろから刺されたりして……


 そう思うと急に寒気を感じる俺であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る