第41話 妹的には4P=4パックらしい

 放課後になったので、さっそくまさこさまのアドバイス通りに動いてみることにした。

 作戦としては、これからキラと近藤さんが一緒に下校する予定とのことなので、俺と朝倉は偶然を装ってさりげなく合流する。

 それから少しずつ距離を縮めて色々話を聞いてみる。

 という流れが作戦の第一段階であるのだが、早速作戦実行のために玄関で朝倉と駄弁っている風を装いつつ、キラ達が現れるのを待っている。


「いやはや、朝倉殿。君の叔母上はどうしてああもMADな接し方をしてくるのでしょうか?」

「小生の叔母上は学生の頃はビ〇チ四天王だった故、その頃の残念な思考回路が未だに使われているのでしょう」


 という不自然なやり取りをしていると、早速キラと近藤さんが玄関に現れ、上履きを靴に変え始めた。

 見た感じでは、相変わらず近藤さんが積極的にキラに話しかけて、キラは不自然な笑みを浮かべながら近藤さんと会話している。

 二人とも靴を変え終えて、玄関から出てきたところでキラと目が合ったので、右手を振って歩み寄る。


「やあ、妹よ。その人はお友達かな?」

「お、おお、鬼、鬼ぃちゃん!や、やっほー!そっちは彼女かな?かな?」


 実に違和感たっぷりなやり取り。

 キラには予め作戦は伝えずに、放課後合流できないか?とコンタクトを取っていた。

 そのやり取りがなかった体でのこの会話というのもあるので、不自然さはどうしても否めないものだろう。


「妹よ、俺は鬼ではないぞよ?あと、こっちの子も恋人というわけでは――」

「あら、そういうわけでもないでしょう?私たちはもう友達以上恋人未満で交際も間近じゃない」


 俺が完全に否定する前に、朝倉がこちらの右腕に抱きつきながらそんなことを言う。

 朝倉が俺に触れた瞬間、キラの眉がピクリと動いたが気づいていないことにしよう。


「あっはっはっ!そうかそうか、確かにそうだったな!」


 ここぞとばかりにグイグイ胸を押し付ける朝倉。

 正直、恥ずかしすぎて突き放したいところだが、あまり騒ぎを大きくしたくないので、今だけは肯定しておくことにした。

 それから俺はこう続ける。


「ところで妹よ!これから一緒に遊びにでも行かないかい?」

「そうですね、事情も色々と伺いたいのでそうしましょう」


 真顔かつ声をワントーン下げてそう言い、俺の隣に来るキラ。

 表情に出さないようにして自分のイメージを守っているのか、はたまた近藤さんの前ではブラコンと知られたくないのか、どっちなのかは分からないが後で朝倉との関係性について問い詰められそうな気がして少し怖いと感じる俺であった。


~~~~~~~~~~~~~


 キラ達と合流から約2時間が経過した。

 その間、お互いに自己紹介を済ませてそこそこの賑やかな雰囲気のまま、スイーツ店に寄ったり、モールでウィンドウショッピングしたりした。


 最後に近くのゲーセンで何故かプリクラを撮ることになり、それなりに楽しい時間を過ごすことができたのだが……


「あっはっはっ!変な顔ー!って、お兄ちゃん、ここに書かれてる『4P中!』の4Pって何?4……パック?んん?パブリックかな?」

「はあ?4Pってのは……って、朝倉ぁー!犯人はお前かぁー!」

「きゃははははっ!」

「あわわわわ……」


 本気で4Pの意味を知らないキラ、落書きした犯人を即座に特定して羞恥の声を上げる俺、笑いながら脱兎のごとく逃げる朝倉、そして意味を理解して赤面する近藤さんであった。


 ひとまずコンタクト1日目は上場の結果だったので、これで解散することになった。

 ちなみに今は、帰路に就くための満員電車の中、4人で立ち乗りしているのだが、何故か俺は近藤さんと密着した状態で向き合っている。

 押し流されて少し後方にいる朝倉もキラと同様に向き合った感じで密着していた。


「お兄さんお兄さん、キラさんについて質問なのですが、今恋人はいるんですか?」


 更にちなみにだが、近藤さんとの交流と言っても、主にキラに関係するネタばかり聞いてくるのだが、そこはそういうネタで質問責めするぐらいキラのことが好きなのだろうと思っている。


「いや、いないはずだぞ」


 答えた後、ふと考える。


 しっかし、何故ここまでキラのことが好きなのだろうか。

 見てくれは確かに良い方だと兄の俺から見ても思う。

 だが、きっと近藤さんが好きなのはただの外見だけというわけではないはず。

 そう思う根拠はカノンの存在だ。カノンはキラと同じレベルの美少女だし、性格はキラ以上に良い。他人への面倒見が良いし、人当たりも俺と兄妹とは思えないほど良い。

 もし外見だけでなく、中身も見て好きになるとしたら俺だったらキラよりカノンの方を好きになるだろう。

 だからこそ、何故キラのことを?と思ってしまうのだ。

 運動神経や活発さを取るのであれば一応キラではあるが、それもまた違うような気もする。

 なので、もしかしたら近藤さん的にキラを好きになる何かがあったのだろうと思うのだが、果たしてそれは何なのか……


「それより近藤さん、もし良ければ俺とID交換しない?キラについて聞きたいことあれば色々答えきれるよ?」

「えっ?良いんですか!?」

「あぁ、ひとまず君についても知りたいからね」

「ぼ、僕についてですか……?」


 驚いた様子で自らを右手で指さして訊ねる近藤さん。

 そんな彼女にコクコクと頷くことで答えた後、付け加えるようにこう続ける。


「そ、好きなんだろ?キラのこと。妹のことを好きになってくれる人がどんな人なのか知っておきたいってのもあるからね。その変わりにあいつの情報を色々教えるぞ」

「っ!」


 最後の一言に目をキラキラと輝かせる近藤さん。


 ――うわぁ、どんだけ好きなんだ……


 とは思ったが少しだけ思うところはあるようだ。

 目を瞑って考え込んだかと思えば、目を開けて数秒口をパクパクさせると、はぁー、とため息。

 それから意を決したようにカッと目を大きく開き、胸ポケットにあるスマホを右手で取り出し数秒操作するとSNSのアカウントのQRコードをこちらに見せる。

 俺はカメラアプリを起動してQRコードを読み取り、そのまま友達申請までを済ませるのだった。

 それからすぐに【コン】さんが友達になりましたという通知が届く。


「よろしく♪」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 ニカッと笑みを浮かべる俺と、やや複雑ながらも同じく笑みを浮かべる近藤さんであった。


 その後、先に近藤さんが電車を降りて、俺、キラ、朝倉は同じ駅で降りて俺の家で作戦会議を行うことになった。


「それでお兄ちゃん、なんで朝倉さんまでここにいるのかな?かな?」

「待て、これから話すからひ〇らし的なヤンデレぽい目をするのはやめろ」


 光を感じない目でこちらを凝視するキラの顔を両手で挟んで、強引に視線を朝倉に方へと向けさせる。


「朝倉は今回諸事情により協力者となった。悪いようにはしないからお前は気にするな」

「それで、今はどういった関係性なの?」

「進んでも離れてもいないから安心しろ」

「つまりはどっち付かず?」

「そうなる。それにあの友達以上恋人未満発言は、きっと朝倉なりの接近するための手段なのだろう」


 思い返してみると、俺と朝倉がそういった関係であれば、近藤さんも気兼ねなくこちらと接することができるようになるはずだ。

 だから朝倉はそうなることを見越してあのような発言をしたと思われる。


「ええ、まさにその通りよ」


 確認するまでもなく、朝倉が答えた。彼女はこうも続ける。


「そもそも、そういった関係または彼女と一緒にいる前提でない以上、あなたと近藤さんに接近するのは難しいわ。何せ、昴君は大のシスコンで通っているのだもの」

「そ、そう言われると確かに!」


 朝倉の説明を聞いて、キラは納得したようにポンと手を打つ。


「ちょーっと待て!いったいいつからそんな風評が!?」

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