第6話 赤姫

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 21年前となる白国歴148年。赤国は白国ほど豊かではないが、他国との貿易で食糧の問題もなく、軍事的にも大きい国だった。しかし、その年、大陸南西部に存在していた『血龍湖』に隕石が落下したこと、別名『太陽神の制裁』や『神の鉄槌』と呼ばれる災害が起きたことにより状況が一変した。湖自体の消滅が砂漠化を進行させ赤国を蝕んでいったのだ。一部の町は滅んでいき、国内では避難民や食糧難などの問題が次々に発生した。それだけに留まらず、他民族では赤民のことを『裁きを受けた民』『罪民』として蔑視するようになり、赤国はその誇りすら傷つけてられたのだ。そして、自国のみでは対処できないと考えた赤国が黄国を侵略することを企てて、153年の戦争に至ったというのが白国の見解である。

 赤国は土地にも恵まれていない。赤国の国土は、そのほとんどが乾燥帯であり、植物が育ちにくい環境となっている。だが隕石の落下の後には、それがより酷い環境となった。植物が育たなくなり、井戸が枯れることも多々あった。環境が悪化したことによって各地域では砂埃がひどくなり、常に赤民は口と鼻を布などで覆うこととなった。


 現在となる白歴169年。赤国は、度重なる他国への潜入工作等を繰り返しているが、リクたちの活躍によりことごとく失敗に終わっている。赤国の目的は、他国への侵略である可能性が高かった。リクたちが赤国へ潜入して情報収集するうちに、その可能性が確信に変わっていった。その一つとなる出来事として、田舎の村落で10代半ばの男性たちが徴兵されたという件があった。話によると、戦で必要な人員を集めるためだということだが、貧しい民たちから貴重な労働力を取り上げてまで軍力の増強を進めるということは余程のことである。つまりそれは、遠くない未来に大規模な行動が行われる可能性を示唆していた。また、国政からもある程度情勢を読み取ることができた。先代の国王が亡くなったばかりではあったが、王の弟が王位を継承し、軍事に多く予算を充てているとのことだ。この現国王は、以前から他国への侵略計画を公言してきた人物で、振る舞いなども乱暴なことで有名であった。徴兵を言い出したのもこの現国王である。他にも噂話はあったが、聞けば聞くほど危機感が増す内容ばかりだった。


 リクたちは、赤国最東部にある都市『言里(ことり)』の宿で、ある程度集めたこれらの情報を整理しながら対策を検討していた。

「集めた情報を整理したけど、どう考えても戦争が起きるよな、これ。いつ仕掛けられてもおかしくない状況だよ。」

 リクの言葉にメトスが付け加えた。

「どれだけ準備が進んでいるかというところで変わってくると思いますが、間違いなさそうですね。」

「しかし、先代の国王が亡くなって間もないのに、これだけ活発に動くとは変じゃぁないか。」

「確かにそうですね。先代の意志か、現国王の思惑かというところですが、どちらにしても前々から準備を進めていたのでしょう。」

「とりあえず、報告しとくか。ルーモアとの定期連絡時期も近づいてきているし。」

 赤国へ侵入する前に、特別部隊第4番員のルーモアを通じての定期報告については、2ヶ月に一度という約束をしていた。ムーで1ヶ月を費やしてしまったことから、短期間で得た少ない情報であったが、それでも議会に考えさせることくらいはできる話ではあった。

「ですが、これだけではソネラ議員が納得してくれないでしょう。もう少し確度のある情報を手に入れなければ、我々の存在意義も示せないというものです。」

「それには、西にある王都の波打(ハウチ)へ行くしかないが、今からじゃぁ時間が足りない。」

「そこでですが、リク。ここから二手に別れるのはどうでしょう。貴方にはルーモアさんへの報告に向かってもらい、私は波打に向かって情報収集しに行きますので。」

「それしかなさそうだな。でも何で俺が報告に行くんだよ。俺のこと信用してないだろ。」

「まぁ確かに、パムセさんに一度負けてますからね。それを考えると私の方が確実ですね。」

「それを言われると何も言えない…」

「ですが、そうではありません。議会の方には、リクが私の指示に従っているところを見せたいのですよ。そうすることで、命令に忠実な印象を与えたいのです。」

「そんなことまで察してくれるのか、あの議員たちは。」

「やらないよりマシです。少なくとも私が行けば貴方が暴走していると思われ兼ねません。」

「確かにソネラ議員ならそう考えるだろうな。」

「とにかく、私は早いうちに出発しようと思っています。リクは時間を合わせてルーモアさんと合流してください。」

 話を終えると、メトスは直ぐにでもと準備をし、二週間後に再び宿で合流するということを決めて、目的地となる波打へ向けて出発した。しかし、リクは一つだけ気になっていたことがあった。なぜ、赤国がこれだけ大掛かりな動きをしていたのに、白国ではそれに気付いてすらいなかったのかということである。たとえ黒国が裏切っていたとは言え、白国にも諜報員はいる。ここまで情報が届いていないのも変な話だった。しかし、考えても仕方ないと思ったリクは、ベッドに横たわり疲れを癒すことにした。そして、ルーモアとの待ち合わせまで言里で日にちを調整することを考えた。


 2


 翌日、リクは言里の街でルーモアへのお土産を探していた。赤国に潜入する前にルーモアから半ば強引にお願いされていたのである。リクの本心から言うと本当は断りたかった。というのも、以前ルーモアにお願いされてお土産を買って帰ったとき、よほど気に食わなかったのか、「センスがない」「お願いするんじゃなかった」などと散々文句を言われたからだ。今回も気にいらないものを買ってしまえば、嫌というほど文句を言われてしまう。リクは足取り重くなりつつも、自分を奮い立たせながら店を見て回ることにした。

 言里は、赤国でも水源が確保できている都市で、農業なども盛んな方である。また物流の要所となっており、人々の往来も多くそれなりに活気のある街である。当然、市場も軒を連ねており、大抵の物であれば手に入れることができた。リクは、その市場で赤国ならではの物を探してみたが、どうも決めかねていた。


 昼過ぎころまでかかったが、ようやく購入することができた。前回は一つだけしか購入していなかったが、今回は数で押し切ろうと考えて三つお土産を用意した。リクが購入したのは首飾りと腕輪と髪飾りで、どれか一つでもルーモアが気に入ってくれれば酷い目には遭うことはない。一先ずは胸を撫で下ろしていた。

 そして、目的を終えて宿に戻っている途中のことだった。人通りの少ない路地で揉めている声が聞こえてきた。リクは、あまり関わらないようにしようと思い、声が聞こえた路地先を避けて通ろうとした。ふと、横目で路地先を見ると、4人の男が中年の男性と若い女性に剣を向けて切り掛かっているところだった。中年の男性は剣で防ぎながら、若い女性を守っている様子で、まさに絶体絶命という状態だった。

 リクの目にその状況が写ったとき、あることに気がついた。なんと、中年の男性が手に持っている剣が灰色の刀身だったのだ。そんな色をした剣は、上級の灰鉱石で作られた剣以外は存在しない。白国でも上級の剣を持つことが許されているのは、特別部隊か白国軍の大佐級以上、または著しく武功を挙げている者となる。赤国も小隊長クラスのガッドナスでさえ一級の剣だったのに、上級の剣を持っている中年の男性はより身分が高い人物だということになる。そして、そんな男性が狙われているということは只事ではなく、間違いなく関わるべきではないことが分かる。

 隠れて様子を見ていたリクは、何とか中年の男性が助からないかと願った。おそらく、中年の男性が守っている若い女性も身分が高い人物なのだろう。もし、中年の男性が倒されたら、その女性が辿る末路は悲惨なものしかない。敵国とは言え、そんな光景を見せられては気分がいいものではない。しかし、リクの願いとは逆に中年の男性は斬り倒された。そして、4人の男は若い女性を捕まえた。

「…くっ、離しなさい。」

「悪く思わないで下さい、これも命令ですから。」

「最期に悔いが残らぬように、俺らが可愛がってあげます。」

「くぅ、俺たちついているぜ。」

「早くしよう、順番だからっ、おごゎ。」

 何が起きたか分からないうちに、4人のうちの1人が血を吐き出していた。よく見ると胸部から剣先が突き出ていた。

「やってしまったじゃぁないか。」

 顔を布で隠したリクが1人を倒したのだった。

「まだ護衛がいたのか。」

 男たちも一級の剣を持っていたが、所詮リクの相手ではなかった。ムーでの修業の成果もあって、3人ともすぐに倒すことができた。だが、この後のことは考えていなかった。とりあえず、女性をこのままにしておくわけにはいかなかったので、リクは声をかけることにした。

「ここは危険ですので、一度避難しよう。」

「…あなたは、誰。」

 それはそうだと思いつつも、名乗るわけにはいかないので、

「あなたの命を狙う者ではない。」

とだけ答えたところ、思いっきり疑いの目を向けられた。リクは仕方なく、中年の男性が持っていた上級の剣を手に取り、それを女性に渡した。

「この剣があれば、多少身を守れるだろ。俺が出来るのも一時的なものだから。」

 リクがそう言うと、女性はしぶしぶリクについてくることを承諾した。リクは自分のしたことに後悔しながらも、メトスにどうすればバレないかを考えていた。


 3


 リクたちが避難したのは宿泊していた宿だった。女性からは益々疑いの目を向けられていた。リクは、状況を判断するために安全な場所が必要だったと釈明をしながら、話を聞くことにした。

「なぜ狙われていたんだ。君は位の高い人なんだろう。」

「それを答えなければならないのであれば、まずは貴方から身元を明かしてはどうかしら。この国の人ではなさそうだしね。」

「な、なんでそう思う。」

「貴方が持っていたのは灰鉱石の剣。しかも、私が今持っている上級の剣と一緒。そんな代物持っているなんて赤国では数える程しかいないもの。」

 女性がそんなことまで考えて頭が回っていたとは思っておらず、リクは助けたことを後悔をしていた。しかし、もう後には引けなかった。顔を覆っていた布を取って女性に名乗った。

「俺は白国の特別部隊に所属するリクだ。」

 ついに言ってしまったと後悔した。

「…っ。」

 女性も面食らって絶句している様子だった。リクはつくづく自分が馬鹿だと思った。嘘の一つも言えたはずなのに。でも、言えなかった。この女性にはなんとも言えない凄みがあったからだ。少し怯えながらも堂々と立ち向かう姿、人を惹きつける話し方、どれも魅力的だった。年齢も20代前半で同い年くらいだろうが、年上かのような雰囲気だった。しかし、秘密を喋ってしまった以上、彼女をこのままにはできない。身勝手だが連れ去るか、処分するしかない。苦悩していると、女性は口を開いた。

「私は、先代の国王の娘、エマリィです。」

 リクもとても驚いた。貴族の令嬢とは思っていたが、これほどまでとは思っていなかった。

「なんで言ったんだ、俺は敵国の人間だぞ。さらわれたりしたら大変な事になるぞ。」

「貴方に言われたくないわ。普通、わざわざ敵の国に潜入しておきながら、自ら敵だと名乗る人なんていないわ。」

「それは…、そうだよね。」

 同世代とは言え、敵国の人間に当たり前の指摘を受けて、リクは恥ずかしくなった。

「リクさん、お願いがあるの。私を守ってくれないかしら。」

 さらにエマリィが驚くことを言い始めた。

「…いや、何言ってんの。姫さんもどうかしてるだろ、今の状況が分かっているのか。」

「えぇ、貴方が敵国の人間に重大な機密情報を漏らしてしまい、これが本国にバレたら重罪になってしまうかもしれないということを。」

「しっかりしてるな、おい。」

「私も父上が亡くなって、叔父さまから命を狙われている身なのです。護衛の者も殺されてしまい、恥ずかしながら一人ではどうすることもできません。」

「ちょっと待って、情報量が多くて消化できてない。命を狙われていることから順番に話してくれ。」

 エマリィは、自分が置かれている現状について説明を始めた。先代のリーカー王が亡くなった後、現国王のイフミィが実権を握り、先代派を弾圧していった。そして、リーカーの右腕となる貴族がエマリィを匿ってくれていたが、それも限界を迎えてしまい、まさに消されそうになったところにリクが通りがかったのであった。

「貴方は私を助けてくれた命の恩人。そして、嘘をつかなかった人。敵ではありますが、リクさん。どうか私を助けてくれませんか。」

 リクは一瞬考えた。敵国の内情に干渉して、お姫様を助けることなんかをすれば、白国で間違いなく重罪になってしまい、下手すれば極刑となるからだ。しかし、それは相手側も一緒で白国に助けられたとなると、失った求心力が元に戻ることはなくなるだろう。

「何が望みなんだ。」

「安全な場所へ保護してほしいのです。」

「それは、白国への亡命ということか。」

「それは絶対に嫌です。赤国内でです。」

 おそらく、エマリィ自身も白国を良く思っていないと考えられる。勝手なことを言ってきているが、気持ちを殺して頭を下げていることは理解できた。

「と言っても、赤国東端の街まで追手が来ているなら安全な場所はないと思うけど…」

 ふと、一箇所だけ頭に浮かんだ場所があった。問題が多々あったが、思い当たるのはそこしかなかった。

「上手くいくかは約束できないが、それでもいいと言うなら、要望どおり赤国内で現国王に命を狙われない場所に連れて行ってやる。」

「よろしくお願いします。リクさん。」

「リクでいい。あと、特別に姫さま扱いはしないぞ。白国は王族制度じゃないからな。」

「分かりました。私もエマリィでいいです。」

「それなら早速出発の準備をしよう。」


 4


 エマリィの服も着替えさせ、顔も布で覆ってから宿を出発した。リクは道中、自分が赤国に潜入した理由を伝えた。当然重要な話は言っていないが、ある程度信用を得ておかないと話が聞けないと思ったからだ。ただ、取り返しのつかない事をした手前、多少投げやりな気持ちもあった。そして、概ねの事情説明が終わった。

「だから、赤国が工作員を潜入させてきたということは、戦争でもやろうと思ってるんじゃないかと思ってね。」

「それで実際に来てみれば戦争の準備をしていたってことね。でも、おかしくないですか。」

「何が」

「もう随分前から準備はしていたのですよ。なんで今更になって潜入調査してるのですか。」

「うーん。それだけど…」

「イフミィ叔父さまと赤国の誰が繋がってるのじゃないかしら」

「思ったことをすぐ口にしすぎだよ、エマリィは。」

「ちゃんと時と場所を考えてます。」

「でも、確かにその可能性はあるんだよな。まぁ、どちらにしてもとりあえず安全な場所に行かないとな。」

「お願いします。」

 もし、イフミィ王と赤国のソネラ議員あたりが繋がっていれば、これまで身近に起きてきた事の辻褄が合う。しかし、物事を簡単に考え過ぎているおそれもあったので、その点においてリクは肝に銘じていた。そして、リクたちは東を目指して進んで行った。


 赤国の東部は砂漠化が進んでおり、岩場はあるが木々はなく、黒国の血龍湖付近に似た地形となっている。それ故に、日中移動するのは体力も消耗して過酷を極めている。リクはエマリィの体調に気遣いながら、適宜休憩を挟んで進んでいった。

「リクは優しいのですね。私が足を引っ張っているのに責めるどころか心配してくれて。しかも敵国の人間なのに」

「気にすることはないよ。護衛については訓練していたから多少はできるけど、良いとは言えないので反対に申し訳ない。あと、敵国なんて関係ないよ。俺が正しいと思っていることをしてるだけだよ。」

「私は白国が嫌いです。白国が赤国にやってきたことは人道に反していますし、決して許されることはありません。ですが、あなただけは私が思っていた白国の人とは違っています。」

「買い被りすぎだよ。俺も酷いことはしてきている。ただ、エマリィのことは守ってやるよ。多少白国の不利になろうとしても。」

「そんなこと言っていいのですか。それは言い過ぎだと思いますよ。」

「…飴と鞭が激しいな。…もし、この先エマリィが王権に関わることがあれば一つ頼みがあるんだ。」

「なんですか。」

「俺は両国間で和解まではしなくていいと思っているが、完全な終戦にしてほしいと思っている。それを赤国で提案してもらいたいんだ。」

「それが私を助けた理由ですか。」

「あぁ、そうだよ。でも、俺の願いは簡潔だろ。それに無理強いしてないし。…戦争なんかやらないに越したことはないと思うんだけどな、素人考えでは

…」

「約束を守れるよう尽くします。」

「頼んだよ。」

 2人が話をしていると砂馬の鳴き声が聞こえた。

「近いな。エマリィ、この辺は野生の砂馬がいるのか。」

「いいえ、砂馬の生息地帯だなんて聞いたことがない。おそらく、誰かが引き連れている砂馬だと思う。」

「ちょっと、様子を見に行ってみよう。」

 一体何が起きているのかを確認するために、2人は砂馬の鳴き声の方向に向かった。


 岩影に隠れながら目的地に向かうと、大きめな馬車を中心にして、野盗らしき人物20人くらいが群がっていた。

「確か、この辺に野盗が出没すると聞いたことがあるわ。そして、おそらくあの馬車は商人のもの。」

「あいつらは皆殺しにされるな。」

「えっ、荷物取られるだけじゃないの。」

「まさか、野盗たちは報復されることも考えて襲っているんだから、見逃してはくれないはずだよ。もし、女がいればすぐに殺さないかもしれないが、弄ばれた挙句殺されると思う。」

「なんとかしなきゃ」

「いや、やめた方がいい。」

「なんでですか。」

「エマリィを危険に晒してしまうからだよ。野盗はあそこにいるだけじゃないかもしれない。俺が戦っているうちに野盗に襲われる可能性がある。それに野盗を殲滅しても、商人に『怪しい2人組が助けてくれた』と噂を流された場合に足がついてしまう可能性が出てくる。」

「しかし…」

「それに断言はできないけど、商人が来た方向から考えると、襲われているのは赤国民ではなく黒国商会の者だと思う。つまり、エマリィが助けてあげる義理は全くない。むしろ救わなくてはいけないのは赤国の野盗たちの方だ。」

「無法者まで面倒を見る義はありません。」

「エマリィ…。そこに対しては冷酷なんだね。まぁその通りではあるけど…」

「リクは、大義のためなら小さな犠牲もやむを得ないと言うのですか。」

「あぁ、残念だけどそれが現実だと思う。」

「でも、リク次第で救える命があるのですよ。自国民じゃないからって、危険があるから見殺しにするって、私の義に背いています。」

 リクは、エマリィの真っ直ぐな眼を見て心が揺らいでしまった。ふと、養父ケンエクトの言葉を思い出したからだ。

『どれだけ生きるかではなく、どう生きるかが大切だ』

 死を前にした父親が言ったこの言葉が、今のリクを突き動かしているのだ。そして、リクは深呼吸をした。

「エマリィ、自分の灰鉱石の剣を持ってて。何かあったら大声で知らせてくれ。そして、合図をするまで出てくるなよ。」

「リク。」

「やってやるよ。」


 馬車に繋がれた砂馬は野盗にやられたのか、怪我を負っている。つまり、野盗は砂馬諸共処分しようとしているということであり、それだけ野盗にとっても切迫している状況だということだった。馬車の外には野盗の他に商人2人がおり、その足元には護衛らしき人物の亡骸が横たわっていた。野盗の1人が商人に言い放った。

「もう逃げられないぞ、護衛も死んだ。」

 商人たちは恐れ慄いていた。

「若い女の声がしたよな、馬車の中にいるんだな。ついてるな、久々に女を抱ける。」

「おい、先に食い物だろうが、まぁどっちでもいいが。」

「とりあえず、こいつらを始末しないとな。」

 野盗たちが馬車に詰め寄り始めたときである。馬車より離れた位置にいた3人が倒れた。それに気付いた2人も同じように倒れた。

「なんだ、どうしたんだ。」

 馬車の近くにいた野盗の長が異変に気付いた時には、すでに7人の仲間がやられていた。訳もわからないうちに見たことのない人物が次々に仲間を襲っていたのだ。

「敵襲だ、早く仕留めろ。」

 しかし、すっかり油断していた野盗たちは、奇襲をかけられて動揺している。リクはその隙を見逃すことなく弱い奴から次々と切り倒していった。そして気付けば野盗たちの人数もたったの5人になっていた。

 野盗の長は子分に囲ませて陣形を整えたが、リクは中距離から灰鉱石の剣を伸ばしては1人ずつ刺していった。

「撤退だ。」

 残り3人になったときには既に遅かった。リクが背後から2人を倒して、野盗の長の両足を切りつけた。そこでリクは初めて声を出した。

「お前が持っている砂馬をよこせ。」

「す、砂馬だってぇ。砂馬ならそこに。」

 長が言う通り、近くに野盗たちが乗っていた砂馬が待機していた。

「まだいるだろ、子分たちがまだ持っているんじゃないのか。」

「もうねぇよ。子分もみんなあんたが全員殺しただろが。」

「そうか。しかし、砂馬をよこせだなんて粗末なやり方だったが、こんなに上手くいくとは思わなかった。」

 リクは野盗の長を切り捨てた。これで残党がいないことも把握でき、エマリィの危険回避も一段階は終了した。


 リクが商人たちに声をかけて、無事を確認した。2人の商人は赤民だったが、やはり黒国商会の人間だった。この者たちが持参しているであろう信書などを奪って白国に持ち帰れば、議会の流れを変えることは出来るかもしれない。しかし、同時に自身の単独行動も露呈することとなり、特別部隊の立場を危うくしてしまう。リクは、今持っている情報だけで充分だと言い聞かせ、諦めることにした。

「ここからは野盗の砂馬を使って進むといいよ。俺も砂馬を頂戴するとするし。」

「ありがとうございました。」

 リクが立ち去ろうとしたときに、馬車の中から引き留める声が聞こえてきた。

「お待ち下さい。」

 リクが振り返ると、馬車から1人の男性と3人の女性が降りてきた。

「危ないところ助けていただきありがとうございます。私は黒国商会の副社長をしております、オツカーと申します。」

 リクは助けた人物が噂に聞くオツカーだと知り、焦りを覚えた。まさかこんな大物が簡素な護衛で移動しているとは思わなかったからだ。また、オツカーに白民だとバレてしまうと厄介なことになると想像がついたからでもある。幸いにもエマリィの姿は見られていない。リクは、なんとかやり過ごして素早く立ち去ろうと考えた。

「このままでは、助けられた者として礼儀に反してしまいます。」

 リクは、赤民であるオツカーが義を重んじている人物であることに気付き少し驚いたが、すぐさま気持ちを切り替えた。

「いえ、大丈夫です。私も砂馬が欲しかっただけですから。」

 適当なことを言ってやり抜けようとしたが、オツカーは食い下がってきた。

「まぁ、そうおっしゃらず。ところで、貴方が持っている剣…、灰鉱石の剣ですね。しかも上級の灰鉱石じゃないですか。」

「これは、賊から奪ったものです。まぁ私も賊みたいなものですけど。」

「そうですか。では、助けていただいたお礼にそれより良い物を差し上げましょう。用意してくれ。」

 オツカーが秘書らしき女性に命じて、馬車から剣を持ってこさせた。

「これは、上級よりも純度が高い灰鉱石。特級の灰鉱石で作り上げた剣です。あなたの戦いぶりを馬車の中から見させていたが、素晴らしい。私が見てきた中でも最も灰鉱石の特性を活かしている。試作品ですので性能検証が不十分ではありますが、我が社の最新技術を使っていますので私が保証します。是非ともあなたのような人に使ってもらいたい。」

「いやいや、頂けません。」

 リクの状況は悪い方に進んでいた。敵対する国で強力な武器を使われたくないが、難を避けることを考えれば受け取るわけにはいかなかった。しかし、オツカーがリクに近寄り小さな声で呟いたことで、さらに状況がかわった。

「あなた、白国の方でしょ。顔を隠してもわかりますよ。安心して下さい、私は赤国も白国にも味方ではありませんよ。」

 リクは焦ったが、慎重にオツカーの言葉に耳を傾けた。

「私は武器商人ですよ。大事な事は良い物を売って利益を上げる事なのですよ。あなたがこれを使って活躍してくれたら、当社のためになりますから。大丈夫、これは野盗に盗まれたとでも言っておきます。」

 そう言うとオツカーは特級の剣をリクに手渡した。リクはそれ以上断ることはできず、黙って受け取った。

「あなたは、何が目的なんですか。」

「言ったでしょ、会社の利益を上げる事。そして、私を拾ってくれた黒国商会の社員の生活を守ることですよ。お礼も受け取ってもらえましたし、私たちは先を急がせてもらいます。」

 護衛の埋葬を終え、オツカーたちの馬車はそのまま赤国の街を目指して出発して行った。


 しばらくして、リクはエマリィと合流して無事を確認した。

「リク、さっきの人たちから剣をもらってなかったですか。」

「あぁ、俺たちが持っている剣より性能がいい灰鉱石の剣をもらった。」

「なんでそんなことになるのですか。一体、今のは誰だったのですか。それにあなたの剣も伸びてたように見えたのですが、あれはなんですか。」

 リクは、エマリィに事情を説明した。

「エマリィは出てこなくて正解だったよ。オツカーは何を考えてるかわからない人物だったからね。」

「私も話だけは耳にしたことがあります。実質的な黒国商会のトップとも言われていて、イフミィ叔父さまも彼が赤国に来た際は、国賓級の扱いをしていました。」

「なのに、あんな簡素な護衛で行動するなんて。余程腕に自信があるのか、そうじゃなければどうかしてるよ。」

「それにしても、その剣はどうするのですか。」

「一度くらいは使ってみようとは思うけど、基本的には使わないようにするよ。」

 リクたちは、幸いにも砂馬を手に入れることが出来たので、その足でさらに東を目指した。


 6


 リクたちは、赤国東端に面している樹海に到着した。到着した場所も、リクたちが樹海を抜けて赤国に潜入した地点であった。

「まさか、リク。樹海に入るつもりじゃぁないですよね。」

「そのまさかだよ。」

「樹海の中で何かできるのですか。下手すれば死んでしまうかもしれないのに。」

「…これから行く場所について、誰にも言わないと約束できるか。」

「…内容次第です。」

 リクはムーの集落について説明をした。

「信じられない。赤国も何度か調査団を派遣していますが、そのような話聞いたことがないです。」

「帰ってこなかった者もいるんじゃないか。」

「はい。」

「おそらく、運良く集落を見つけたが、集落の者に始末されているだろう。ちなみに、殺されずに済んだが俺も一度負けているからな。」

「そんな恐ろしいところに行くのですか。」

「あぁ、そこしかない。でも、彼らはただ平穏を邪魔されたくないだけなんだよ。」

「受け入れてもらえるのですか。」

「やってみるしかない。そのために一芝居を打つから、エマリィは適当に話を合わせてもらいたい。」

「分かりました。」

「それじゃぁ、樹海に入る準備をしたら出発しよう。」

 リクたちは砂馬を野に放って、服装などの準備を整えると樹海の中へ入って行った。


 樹海の中は険しく、赤国の姫であるエマリィにとっては辛い環境であった。見慣れない虫や獣がおり、休憩するためのベッドも木で作った即席のもので身体が痛くなる。リクも出来る範囲の気遣いをしているが、訓練でもしていなければ嫌気がさすような環境であった。しかし、エマリィは決して弱音を吐かなかった。その姿を見たリクは複雑な気持ちになっていた。

 

 メトスと移動した時より倍くらいの時間がかかったが、ようやくムーの集落まで辿り着いた。

「本当にこんなところがあっただなんて。」

「この前も言ったけど、適当に話を合わせておいてよ。」

「わかりました。」

 集落に近づくとパムセの姿が見えた。

「パムセ。」

「これはリク殿、思ったより早く戻って来られたな。しかし、…そちらの方は。」

「赤国の姫様だ。さらに余所者を連れてきて申し訳ないが、事態が深刻なんだ。リティと話をさせてもらえないか。」

「…しばらく待たれ。」

 さすがにパムセも警戒していた。見慣れないエマリィの存在が大きく、それだけ外部の者に対する警戒心が強いのである。しばらく待っているとパムセが戻ってきた。

「長はこちらだ。ついて来られよ。」

 リクたちはパムセの後をついて行くと、リティの家まで案内してくれた。リティは家の中で座っていた。

「リク、どういうつもりなの。返答次第ではパムセたちで対応させるわよ。どうやらメトスはいなさそうじゃないの。」

「落ち着いてくれ、こうなることもわかっていたんだが、急を要することだったんだ。まず説明を聞いてくれ。」

「だから早く答えなさいよ。」

 エマリィは、見た目が少女だがリティが集落の長であることに驚いたが、ムーの住民の異様なまでの外部に対するアレルギーにも驚いていた。

「実は、近々赤国側と白国側が戦争することになる。」

「そんなの勝手にやってなさいよ。」

「最後まで聞いてくれよ。赤国が黄国との国境に向けて軍を進行させるみたいなんだ。そうなると、ここも危なくなる可能性が出てくる。」

「リク、先程から私たちにとって不安なことしか言っていないわよ。やはり、あなたたちを招き入れたのは間違いだったようね。」

「いや、そうじゃなくて…」

「リク、私が話をします。」

 収拾がつかなくなったと感じたエマリィが話に入ってきた。

「私は、赤国先代王リーカーの娘、エマリィと申します。まず我が国の状況とその他の国との状況についてお話しします。」

 エマリィは、現在のイフミィ王に変わってからの国政や、自分自身が命が狙われていることについて説明した。

「なるほどね。それでここで匿ってほしいということね。」

「もちろん、ただとは言いません。」

 そう言うと、エマリィは上級灰鉱石の剣を差し出した。

「これは、灰鉱石という軽くて硬く、そして貴重な材質で作られた剣です。まず、手付けとしてこれを差し上げます。」

「エマリィ、いいのかよ。しかも手付けって」

「えぇ。それに私は、今後イフミィ叔父さまを倒して赤国の王になるつもりなので、王になったときには樹海へ手を出さないと誓います。もちろん、ここの存在を秘匿にした上でです。」

「…期間はどのくらい希望しているの。」

「ひと月くらいです。そうすれば、赤国の軍でノハサク叔父さまの部隊が黄国に接近します。その時を狙って彼を説得します。」

 リクは、口から出まかせで赤国軍が黄国に侵攻すると説明したが、本当に侵攻することを知った。そして、何よりエマリィが王になろうとしていることに驚いていた。

「説得が上手くいけば、貴女は樹海を避けた侵攻または侵攻自体を辞めてくれるということかしら。」

「そのつもりです。上手くいけばですが、まずは王都波打を落として王権を奪還します。その後、白国との戦いを終えるつもりです。」

「そうすればムーの平穏も保たれるけど、万が一にも説得が失敗した場合はどうするの。」

「このまま何もしなければ侵攻は免れません。それであれば、少しでも可能性がある方を選択されるのが賢明かと思います。失敗しても、私が死ぬだけですからこちらには何ら害はないはずです。」

「こちらは閉鎖的であるが故に、あなたたちの話が本当かどうかわからないわ。それを信じるに足りる証拠はあるのかしら。」

「俺からも少し言わせてもらうが、何を信じていないんだリティは。ここを制圧することが目的なら、俺なら既に部隊を送り込んでいる。それをせずに、しかも白国と敵対する赤国の姫さまを連れてきているんだ。メトスを連れてきていないのはメトスにもバレてはいけない事、つまり俺も命をかけてやっているってことだ。それでも納得出来ないなら、抵抗しないから今すぐパムセに攻撃するよう指示を出せ。」

 リティは困った顔をしてリクを見た。

「…わかったわ。班長たちとも相談してみないと即決はできないけど、エマリィ姫を受け入れる方向で話を進めてみるわ。」

「ありがとうございます。」

「さすが、リティ。」

「おだてなくていいから、あなたが約束した分の灰鉱石の剣とやらを持ってきなさい。」

「あ、…わかりました。」


 リティは、集落の区画単位をまとめている6名の班長たちとの話合いを終えて帰ってきた。班長たちへの説得にはパムセも参加してくれたとのことで、エマリィの滞在についてなんとか了承を得ることができた。

「あぁ、疲れたわ。リク、ご飯は。」

「もう作ってるよ。久しぶりにまともな食事にありつけられたな。エマリィも食べてくれ。」

「ん…、美味しい。リクは料理が得意なんですね。」

「口に合って良かった。そうだ、エマリィ。先ほど君がリティに説明していた話なんだけど…」

 エマリィは赤国の現状を説明した際に、環境変化に関する事で、砂漠化の他にも一部沿岸部の沈没についても例にあげていた。

「どのくらい沈んでいるんだ。」

「ひどい所では、年に手のひらくらい沈没しています。血龍湖が消滅し始めてから沈み始めたから、今では人一人分の高さが沈んだところもあります。」

「本当なのか。それは範囲は広いのか。」

「徐々に広がっています。」

「それは本当にまずいわね。あなた達が思っている以上に深刻なことかもしれないわ。」

「リティ、どういうことだ。」

「私たちは代々古くからの言い伝えを継承していて、その中で世界の創造についても語られているの。先祖の言い伝えでは、この大地は四体の龍神とそれを統一する神によって創造されもので、統一神を中心にそれぞれの龍神が大地を支えているというものよ。私は見たことないけど、あなたたちの国に龍神にまつわる大きな存在があるんじゃぁないの。さっき言ってたケツリュウコとか。」

「あぁ、確かに白国には革龍湖と白龍山、黒国と赤国の境には血龍湖、黄国と赤国の境には蒼龍山がある。」

「それを統一しているのが、おそらく、東にある巨大な火山だと思う。ムーでは神の山デパムセと読んでいる。」

「ん、パムセの名前が入ってないか。」

「パムセというのは神聖なるものという意味で、デパムセは神聖な山ということよ。」

「名前に押し潰されそうだなパムセは。」

「…、話を続けるわよ。私たちの話では龍神がいてくれてこその大地なのよ。それが消滅したとなると…」

「大地自体が消滅する…ってことですか。」

「実際に沈み始めてるんでしょ。最悪赤国は海にしずむかもよ。」

「滅茶苦茶脅してくるじゃないか。」

「もちろん、本当にそうなる根拠はないんだけどね。でも、もしそうなった場合は…」

「多くの赤民が犠牲になる。」

「そう、あなた王になろうとするなら最悪な結果も考えておかないと。私が約300人の集落をまとめるのとは訳が違うんだから。」

「はい…」

「俺から話を振っといてなんだけど、とりあえず、ご飯済ませようぜ。」

「そうね。」

 重い空気になったが、リクが作ったスープがみんなの心を少し落ち着かせてくれた。

「この味が欲しかったのよ。リク、あんたムーに住んで私に一生ご飯を作ればいいのに。」

「リティの本性は暴君だな。」


 7


 翌日、リクはリティに対してエマリィの保護を依頼して黄国に向かう事にした。黄国でルーモアと合流するためだ。この事については、昨晩のうちエマリィに伝えていた。機密情報を伝えたのも、エマリィの目的とリクの目的に重なる部分があったからである。当然、エマリィが本当のことを言っている証拠はない。一般的に間違ったことをしていることも分かっている。しかし、心の中では結論が既に出てしまっていた。エマリィにも機密情報の漏洩を罵倒されたが、後悔はしていなかった。そして、今朝もそのことでエマリィに罵られた。

「リクは潜入者としては失格ですよ。」

「ははっ、分かっている。だけど俺は自分がよく考えた上で、正しいと判断したことをするだけだと思っているから。」

「変わった人ですね。」

「また戻ってくる。だけど、もし戻らなかったら何かあったと思って自分で何とかしてくれ。」

「なっ、無責任なことを…」

「大丈夫、何もなければ必ず帰ってくる。そして、ノハサク…将軍だっけ、その人のところまで責任もって連れて行ってやるよ。」

「はい、期待せずに待っておきます。」

「そうだ、エマリィ。これを預けておくよ。」

 そう言うと、リクはエマリィに特級灰鉱石の剣を渡した。

「これを持っていけないからお願いしたい。もし、俺が戻ってこなかったら好きにしてもらっていいから。」

「わかりました。お預かりします。」

「それじゃ。」

 そう言うと、リクは足早に国境へ向けて出発した。


 ルーモアと約束の期日、リクは黄国の魚池(うおち)の黄国軍駐屯地に到着した。すると、ルーモアは一足先に到着していた。

「遅れずに来れたみたいね。」

「いや、俺遅れたことなんかないけど。それより、これを…」

 リクはルーモアにお土産を渡した。

「…うん、よろしい。今回はまともな物を選んできたじゃない。」

「ありがとうございます…って何なんだよ、もう買ってこないからな。」

「そう言わず、またお願いね。」

「じゃぁ、現状報告するぞ。」

 リクは、赤国の軍事状況や黄国への侵攻準備について説明した。

「それはマズイわね。直ぐにでも黄国軍や白国軍を国境に配備しなくてはいけないじゃない。」

「だから、俺はそれを前から言っているのに、ソネラ議員が聞く耳を持ってくれなかったんだよ。」

「愚痴は後にしなさい。早速、私は黄国への伝達をするわ。」

「じゃぁ、俺は赤国に戻ってメトスと合流するよ。」

「リク、待って。貴方には別用務が指示されているわ。すぐに白国首都新兎(しんと)に戻ってちょうだい。」

「えっ、なんでよ。」

「詳しくは聞かされていないのよ。ただ、重要任務のため戻れと言われている。」

「戦争が起きそうなときに、これ以上重大なことがあるのかよ。」

「そう言っても仕方ないでしょ。メトスが戻って来ていたら、メトスがリクを迎えに行く羽目になっていたみたいだから、どちらにしても戻れという事だって。」

「メトスはどうすんだよ。俺と合流する予定なんだよ。」

「それはボルザムに行ってもらうわ。とにかく、貴方は新兎に戻って。」

「…わかった。」

 リクは、疑問に思っていた。何故このタイミングで自分が召集されたのか。オツカーと接触したことがバレることはあり得ないし、特に心当たりがなかった。しかし、嫌な胸騒ぎを感じていた。ムーの集落に待たせているエマリィも心配である。様々な思いを巡らせながら、リクは足早に帰還していった。

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ひび割れた大陸 @eiso

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