「森羅万象SF化」とはずいぶん大きく出たタイトルではあるが、本作は決してそのタイトルに名前負けしていない内容となっている。
まず扱っている題材が幅広い。「陰謀論」「超監視社会」といった現代的なものから、「転生」や「VRMMO」といったWEB小説向きの題材、さらには「お料理」や「耳かき」といった生活に根差したものまで、様々な題材をしっかりSFと結び付けており、この手つきが実に巧みなのだ。
「耳を持たないのに突然耳かきをしたくなったサイボーグ」や「読んだものを絶対に惚れさせる究極の恋文」など、どの話もシンプルながら大変興味を引く内容となっている。
そして本作の優れているところとして、どの短編もアイデアが現代的なものとして洗練されているのである。たとえば、「UFOSF」では「突如飛来した空飛ぶ円盤によって、新宿が街ごと宇宙に持ち去られる」という昔のSFにもありそうな出だしなのだが、ラストに待ち受けるオチはまさに現代ならではという感じでつい笑ってしまう。それでいて決してSFとして複雑すぎるということもなく、SFファンにはもちろん、そうでない人にも自信を持って勧められる短編集だ。
順番に一から読んでいくもよし、気になったタイトルの作品から読んでいくのもよし。多彩な作品に読み進める中で、あなたのお気に入りの一作を見つけてほしい。
(「サクッと読める! ショートショートの世界!」4選/文=柿崎憲)
こちらのショートショートを二段構えで楽しませてもらいました。
①1話ずつチビチビと味見 ②フルコース再読
再読したので、お気に入りエピソードを3つ挙げつつレビューを記します。
【異世界転生SF】
そうそう『異世界転生』に関するこの部分を書きたいんだよなあ!ということで大注目。
このテーマだけでSF短編集やショートショート集も作れそう。
SF好きには勿論、『異世界転生』を書いている作家さんにも注目して欲しい。
私にとっては下書き放置したままの短編を思い出す良いきっかけとなりました。
【お料理SF】
このエピソードの『動的平衡』のくだりが好きです。
思いたがらないかも知れないけれど、実際そうじゃない? と思えてしまう。
これはSF好きの人たちに、どう思う? って聞いてみたい。
人間の進化論の話でもあって、オチは落ちて欲しいトコロにたどり着く心地よさ。
【殺人SF】
無限性を帯びたミステリー小説が生まれそう。
輪廻から外れた転生パターンによって、増殖を繰り返す近未来の人間像。
『殺人』が『一期一会』に見える不思議な没入感。
そして『殺人』の定義は? と考えずには居られなくなるはず。
どのエピソードもストンと着地して、次の一歩へ颯爽と踏み出せる軽快さです。
出口は入口。次の発想は? を求めてしまう自然なサイクル。
それもまた、作者様が作品を通して伝えたかったSFの魅力ではないでしょうか。
是非、貴方のお気に入り第n話を見つけて下さい。