夢霊幻想曲

アキヅキ

第1話夢霊

 科学者は言った。

 この世界は所詮夢の連続だと。

 その定説が発表されたその時、俺は夕飯を実家で親と食べていた。

「何だこの学者は」

 明からさまに不機嫌になる父親と、

「ふぅまた根も葉もないことを」

 母親も当たらない占いでも見るかのように聞き流した。


 俺も信じてはいなかった。

 夢霊ゆめだまを見るまでは。


 今俺の目の前にふよふよと夢霊はいる。

 ゲームなんかでよくある精霊ってヤツを思い浮かべて欲しい。

「お前がナイトメアね?」

 可愛すぎてそうは見えなかった。


「ふーん。可愛いじゃん」

 俺の隣にいた彼女がつんつんしながら呟く。

 学者によるとコイツが沢山集まったものを〈ナイトメアリ〉というらしい。

 その姿は美しくも儚いとか。

_どっちでもいいよ。


 精霊に妖艶さとか求めてねーし。

 そういうのはもう間に合っていた。

 彼女とはもういくとこまでいってたから。


「ちょっと!それじゃ終わったみたいじゃん!」

 そうだな。と髪を撫でると急にじゃれ始める彼女とは実は長い付き合いで、ガキの頃からだった。

 その頃は何も考えてなかったけど、意識したのは俺の方が早かったかもしれない。


 幼稚園には俺から手を引いて一緒に歩いたし、小学校も途中まではそうしていた。

 周りの生徒に見つかるまでは。


「そんなこんなで今は幸せだもんね?」

 ちょ、もうちょい話させろよ?

 こっから良かったろ?

「武勇伝どうぞ?」

 俺が語りたがってるみたいに言うなよ?

 聞きたいんだろどうせ?

「なぜわかる?」

 お前のその表情見てたらわかるよ?

「ひひん」

 馬みたいな声だすなよ。

「ヒヒン?」

 もういいって!

 とにかく俺はよくあるやっかみから彼女を守った。


 と記憶している。

「でもそれちょっと違うんだよね。

アレは守ってもらったというよりも、私が守ったに近いかも」

 みんなも聞いて欲しい。

 周りの生徒に見つかって、やっかみは二人にかけられた。


 まず表情が曇ったのは彼女だ。

 だから俺は前に出て彼女を庇い、言い返したし、彼女へのフォローもした。

 しかし、

「どけよ」

 その時小学生の女子と思えない声が耳に届いて、

 俺が突き飛ばされた。

 それからは記憶がハッキリしていない。


「なぁんだ。覚えてくれてないんだ私の勇姿」


 頭打ってたからね。

 ちょうど良かったのかも。


 私に絡んだ男の子たちをぶっ飛ばすシーンなんて覚えて欲しくないし。


「何だって?」

 五人からいたぞ?

 気のせい気のせい、夢だよきっと。

 そうそうきっとこの子がやったんだよ。


 都合よく聞こえるかもしれないが、夢霊ゆめだまは過去を書き換えたり、記憶を書き換えたりすることができる。

 ただし、ナイトメアリになった時の能力で、夢霊では何もできない。


 俺達の住んでるこの世界では当たり前になりつつあった。


 しかし、そのせいで不都合なことも少なくない。

 犯罪の数は確実に増えていた。

 毎日のように誰かが誰かを傷つけている。


 それを夢霊で帳消しにして無罪判決を勝ち取るようなことをしているヤツがいるのは事実だ。


 沢山の人がそのために亡くなっている。

 それを思うと腹は立つが自分には何もできない。

 だから仕方なく見て見ぬフリをしてきた。


「なぁゆう。夢霊使って何かできないかな?」

「やめときなよ?どうせダメだからさ。

別にあきには無理だって言ってんじゃなくて、ダメだった後何があるか怖いじゃん?」


 そうだよな。

 夢霊はどこにでもいる。

 だから誰でも手に入るのだ。

 しかし、だからってアイデアまで浮かぶようにはできていない。


 そのため、できないヤツにはいつまでもできないのだった。

 努力の賜物はいつになっても変わらない。


 ところで、学者はこうも言っていた。

「夢は寝てから見るものだ」と。

 何を当たり前のことをと俺は思ったが、

 まさかとも思った。


 確認したヤツがいないだけで、実はそうなんじゃないかと思った。

「ゆう。愛してる」

「どうしたの?急に」

 赤い顔でたじろぐ彼女に迫り押し倒した。


 色々考えたら学者の言っていることは確認の取りようがない話だった。


「死ねばわかる」なんて誰が試す?

 試してそれが確認できても死ぬ前の世界に戻ることはもうできないワケだ。


 だからこっちの世界にそれを伝えることはできない。

 だから学者の言うことを誰も信用しなかった。


 ならなぜ?とも思う。

 公式発表にまでこぎ着けた?

 学者はどうやって確証を得た?

 謎は深まるばかりだった。

「んぅそれ、今じゃなきゃダメ?」

 柔らかいゆうの肌を撫でながら、

「この夢は幸せだね」

「やだぁもぅ」

 絶賛プレイ中だった。


 でもだからこそ、夢であってほしくない。

 この幸せを夢にしたくない。

 どうしても夢ならば、彼女の全てが欲しいと思った。


 俺がそうであるように今すぐ夢から覚めたい人も多いはずだ。

 理不尽、不幸、不運、難病、、、

 様々な案件で夢霊を求める本人、或いは親類がいることは想像に難くない。


 そうした案件を釣るためにブローカーのようなものができてしまっていた。

 いわゆる夢霊を横流しして金儲けを企む一部の悪徳業者の存在だ。


 不安はある。

 でも今はこの夢に溺れたいと思っていた。

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