第10話 日本の現状と『ミリタリー』
ダンジョンが発生して早3か月、人々は最初こそ戸惑ったが、徐々にダンジョンとそれに伴った謎のステータスシステムに適応しつつあった。
ダンジョン協会。ダンジョンの全てを管轄する組織の名称だ。
ダンジョンにおける様々な制度や仕組みを維持するのが主な役割であり、ドロップアイテムの買い取りや販売も協会が行っている。
国営なので安心安全。人々はダンジョンで得られるアイテムを売り、金を受け取ることができるようになった、
ダンジョン資源の価値は基本的に世界共通とされている。ただし、物価の違いもあるので結局のところ国ごとにまちまちだ。
その他にも税金や法律云々も取り決められ、ダンジョン制度は次々に確立していった。世界が足並みを揃えるためとはいえ、あまりにも早い決定に批判の声が挙がったが、首相の「首脳会議での決定に合わせる」という断固たる発言に、とうとう押し切られてしまった。
ダンジョンは自己責任。死んでも保証はしない。
これはダンジョン協会が示した基本方針だ。
安全国家日本にとっては珍しいそのやり方に、いち早く動き出したのは保険会社だ。『ダンジョン保険』なるものを売り出し、当初はとてつもない利益を上げたが、次第に赤字となっていった。
理由は元が取れないため。ダンジョンでの人的被害は保険会社の予想以上だった。
この件を境に、安易にダンジョン挑むのは良くないとされるようになった。
ポーションが楽に手に入る環境になれば被害は減るだろうが、現段階では一つ手に入れるのも大変だ。ダンジョン探索者全員に加え、医療関係者も欲しいという需要と、5層から手に入れられるポーションの供給は、とてつもないアンバランスを生んでいた。
そんなわけで、ダンジョン公開や合わせて確立された制度は批判を生みつつも、徐々に人々に受け入れられていくのだった。
結局のところ、皆理解していたのだ。この世界は既に普通ではないということを。
そして各国首脳陣も理解していたのだ。ポーションの発見から、ダンジョン資源の可能性はとてつもないものとなった。
今後の競争を勝ち抜くためには、多少無理をしてでも、高いステータスを持つ人材――ランキングの高い人材を確保しなければならないことに。
♢
「失礼します、募集者名簿を届けに参りました」
「そこに置いておいてくれ」
ダンジョン庁大臣、中村はリストアップされた名簿に目を通す。そこには、個人のレベル、スキル、ステータスの数値等が記されていた。
「やはりめぼしい人材はいない、か……」
国としてはダンジョン攻略を奨励し、ランキングの高い人材を自国で確保したいところだ。だが、人道的にそれは許されない。人海戦術で強者を生み出せば、その過程でいったいどれだけの死人がでるだろう。
中村はなるべく強制しないようにしていた。それは日本人特有の平和を重んじるやり方で、ステータス主義になりつつある競争において、日本はとても非効率な方法を取っていた。
彼自身も焦っていた。
アメリカは既に半強制的にダンジョン攻略をさせ、素質のある者には軍の一員として迎え入れる代わりに多額の報酬を払うという方式をとっている。
中国は、その膨大な人口を武器に、素質のある者を次々と集めているようだ。
他、4国は協力体制を取り、ダンジョン攻略メンバーを各国合同で結成することにより、一国のみよりも質の高い構成を可能としていた。
日本が有するランキング上位、所謂『ランカー』と呼ばれる人達は、そのほとんどが自衛隊や警察等の国家機関から集め、新しく設立されたダンジョン特別対策チーム『ミリタリー』のメンバーだった。
ダンジョン攻略は戦闘ができる者でないと話にならない。『ミリタリー』のメンバーはダンジョン調査の時から実戦を積んでいるエリート達だ。
この名簿も『ミリタリー』入隊のために出願されたものであり、この中から素質があるもの、願わくばランカーを選んで採用するつもりだ。
「こんな事態なんて、誰が予想できただろう」
終戦から半世紀と少し。一人一人の戦争に対する意識は薄れ、いつしか命を懸けた戦いなんて創作の世界でしか見なくなっていた。
その中でも日本は武力を捨て、不戦の誓いを立てた国。その国民性はダンジョン攻略には向いていなかった。
ネットでは大盛り上がり。誰もが夢見る勇者や冒険者の存在も、所詮は願望。実際はそんなヒーローなんて存在は現れず、ただただ日本だけがこのダンジョン攻略時代の競争に遅れだしていた。
そんな中、一人の人物の詳細に目が留まる。
「
ダンジョンランキング第9位、如月真奈のステータスは他の応募者とは一線を画していた。
思わぬ収穫に中村は驚きを隠せないでいた。
(現日本一位であるミリタリーの総隊長がランキング7位。それに続く実力者だぞ!? まさか、一般人からこれ程の逸材が出てくるとは……神は我々を見捨ててはいなかった)
苦境を強いられる日本に一筋の可能性が差し込んだ瞬間だった。中村はすぐに動いた。
「なんとしても!なんとしても彼女には入って頂かなければっ!」
すぐに首相に連絡を入れ、アポイントメントをとり、彼女の入隊を確実なものにした中村の努力は、それはそれは凄まじいものだったといいう。
ダンジョンが発生した現実世界で、俺は自由(?)に生きていく 新手の革命家 @urbanscience
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