第9話 魔法の使い道
ダンジョンに飛ばされて2か月くらいたったと思う。体感なので実際はもっと経っているかもしれない。
今更ながらステータスについて考えて見ようと思う。
ステータスの抵抗力の正体が魔法に対する防御力だと気づいてから、ステータスについてふと疑問が湧いた。――この数値はどこまで信用できるのだろう、と。
実験その1、自分の魔法をくらってみた。
結果、とても痛かった。
HP3割持ってかれるのは流石に想定外だった。俺はポケットからHPポーションを取り出し、飲む。
ちなみにこのポーションであるが第6階層辺りから出始めた。戦闘中に飲むには時間が掛かりすぎるため、こんな時くらいでないと落ち着いてポーションを飲めない。
回復アイテムなので本当は貯蓄しておきたいのだが、俺にある収納スペースは服のポケットくらいなので不可能だ。最近は戦闘に余裕が出てあまり使う機会もないので、アイテムとしては価値が低いと思っている。ちなみにMPポーションもある。
「アイテムボックスがあったらなぁ」
世のRPG主人公は、アイテムボックスの存在にもっと感謝した方が良いぞ。
実験その2、自分で自分を殴ってみた。
結果、まぁまぁ痛かった。
二回目にしてこの実験に意味がないことに気づく。だって比較対象がいないもの……。
抵抗力が低いと魔法が効くという当たり前のことを、身をもって体感しただけだった。
ステータスについては解き明かしようがないので、スキルや魔法について調べてみようと思う。
俺は、前々から考えていたことを実践できるか確認したかった。
「無詠唱ってできないかな」
スキルや魔法を発動する際は、口に出して言う。これは今までの検証で分かった事なのだが、その仕組みはどうなっているのだろう。
まさか、音声認識ではあるまい……となると、意思の強さか……?
よく口に出して覚えると言うが、あれは理にかなっている。口に出すために頭で考えるし、出した音は自分の耳に聞こえるからだ。
頭で強く意識すれば、無詠唱が可能になる……?
無理でした。
♢
第21階層からは敵も魔法を使いだすようになった。
今まで見てきた魔法は火、水、風、土、の4つだ。魔物の鑑定結果に火属性ならフレアやレッド、水属性ならアクアやブルーといったふうに名前がついているので、戦いやすかったと記憶している。
抵抗値が上がって嬉しい反面、戦闘に余裕がなくなった。
魔法は躱すか相殺しなくてはならず、下手に食らうとかなりのダメージを受ける。魔法を併用した戦いには大分慣れたつもりだが、以前のような余裕はなくなってきていた。
『レベルがアップしました』
『スキルを選択してください』
『獲得可能スキル』
・魔法耐性
・危機察知
レベルが45になり、選択画面が現れる。前回は消費MP減少をとったので、今回は魔法耐性を取ろうとしたのだが、危機察知か……
おそらく自分でも気づかない攻撃に対応するためのスキルだろう。想定より大きなダメージも危機として認識するのなら、かなり重要なスキルだ。
迷った末、魔法耐性を取った。やはり目下の戦闘に余裕を持っておきたい。一撃でもくらうと不安定になる戦闘は、精神的に辛いものがあったのだ。
「これで、少し余裕が持てるな」
新しく追加された魔法耐性に期待を寄せながら、俺はダンジョン攻略を再開するのだった。
牛の顔に人間の体を持つミノタウロスという魔物の死体が光の粒子となって消えていく。こいつが落とすミノタウロスの肉は牛肉に近く、比較的美味しい部類の食糧だ。
腹が減ったらその時手に入る食糧で満たしているため、この階層での食糧問題はミノタウロスに助けられている。
食に対してあまりこだわりはない方なのだが、不味いものはなるべく避けたい。大抵は肉類なのだが、たまに野菜も落ちるので意外と栄養バランスは保たれている。
「火魔法が使えれば大分ましなものになるんだが」
とりあえず熱を通せば案外なんでも美味しくなるものだ。土魔法のクリエイトを使って鍋やフライパンを作れば料理もできる。なんなら水魔法も欲しい所だ。
「生特有の臭みに慣れ始めている自分が怖い……」
戦闘はだいぶ安定してきているが、食料は全く安定していない。常に現地調達の極みのような生活を送っているので、たまには美味しい、せめて『料理』といえるものを食べたい。
今日も生でかぶりつくミノタウロスの肉は、淡白な味で噛みごたえがあり、これ一つで満足できるほどだったが、決して美味しいものではなかった。
決めた。料理を趣味にしよう。魔法があれば色々できるだろう。
テレビでみたことがある、あの酒を使って炎を燃え上がらせるアレ。火魔法ならもっと上を目指せると思うんだ。そのためには、
「火魔法のスキルオーブ、でないかなぁ」
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