第8話 勝利と魔法とハイモード
決め手は、不意に訪れたロックベアの咆哮だった。
最初にくらってから一度も使ってこなかった咆哮は、俺があと一押しで首を捕らえる瞬間に鳴り響いた。
俺は咆哮の効果が反映されるコンマ数秒前にスキルを使った。
「縮地」
殺られる前に殺れ、というやつだ。咆哮スキルを防ぐ手段が無い以上、攻撃に全力を注ぐしかない。
俺の体が急加速し、剣はロックベアの首を貫通した。
「グォォォ……」
「ぐぉぉぉ……」
ロックベアは倒れた。ついでに岩に体当たりした俺も倒れた。
「はぁはぁ……なんとか……勝てた」
2時間を超える戦闘でくたくただ。体が動きたくないと主張している。横目で見ると、隣で消えかかっているロックベアの死体からは、綺麗なオーブが生まれていた。
「スキルオーブだ……ありがてぇ」
しんどい体に鞭を打ってオーブを拾いに行く。第1階層で見たものと少し色が違う。
『土魔法のオーブを使用しますか Y/N 』
……つちまほうのおーぶ……つちまほう……魔法だとっ!?
疲れが吹き飛んだ。
♢
第11階層からは環境が変わり、周囲は明るく道幅も広い構造になった。
出現する魔物は飛行していたり、宙に浮いていたりとなかなか厄介な敵が増えた。しかし、それに対抗する手段を俺は手に入れていた。
「ロックショット!」
俺の手のひらから射出された岩の塊が、蝙蝠のような魔物に向かって飛んでいく。打ち出された岩の塊は羽を貫通し、蝙蝠型の魔物は地上に落下していった。
落ちてきたところをサクッと殺すだけの簡単なお仕事。土魔法、超便利。
魔法は前世では存在しなかったため、初見だった。最初の頃は発動の感覚に慣れるのに苦労したし、狙いを定める練習も大変だった。
現在俺のいる階層は第15階層。出現するのは素早い魔物が多く攻撃力も高いのだが、その分非常に脆く、魔法の使い手となった俺の前では雑魚同然だった。
「ふはははっ! 弱い、弱すぎる!」
人生初めての魔法という事もあり、ハイモードは二週間ほど続いた。
「知力が上がっている……」
今まで何度かレベルアップしたが少しも成長しなかった知力の数値が上がったのだ。
MP残量は感覚で分かるし、レベルアップは通知が来るのでステータス確認はこのところ行っていなかった。心なしか魔法の威力が上がっている気がしたので久しぶりにステータスを呼び出してみて、知力の上昇に気づいた。
もしや知力とは魔法攻撃の強さを表しているのか? どうりで上がらないわけだ。何せ今まで魔法を使わずに戦っていたのだからな。よし、知力を上げよう、そうしよう。
魔法主体で戦うようにしてからおよそ二週間、俺は第20階層のボスである怪鳥が光の粒子となって消えていくのを見ながらふと我に返っていた。
魔法は凄い、何でもできる。だがそれで良いのか?魔法は楽しいし爽快だ。だが、戦闘が適当になってやしないか?いくら好きなことをして生きると決めたからって、それでは何か、こう、面白くないではないか。
「……よし」
ダンジョンはおそらく有限だ、いずれ終わりが来る。踏破すれば外に出れるかもしれないが、異世界がどんな所か分からない以上、その後が楽しいものとは限らない。今の俺の生きがいはダンジョン攻略なのだ、それを作業のように終わらせてどうする。
俺は、風情を大事にするタイプの人間なのだ。
「ダンジョン攻略を最大限楽しむには、やはり体を使った戦闘も取り入れるべきだ」
その後、怪鳥が落とした『風魔法』のオーブの誘惑に負け、結局魔法を使う無名であった。
小鳥遊 無名 Lv42
HP 4200/4200
MP 242/242
攻撃力 387
防御力 392
知力 250
抵抗力 22
素早さ 375
運 70
【スキル】
剛 Lv12 縮地 Lv12 物理耐性 Lv3 MP消費減少 Lv3
鑑定 Lv3 土魔法 Lv5 風魔法 Lv1
【称号】
なし
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