あなたは平均以下の、死ぬべき人間で合ってますか?

ちびまるフォイ

やはりボスの見立てはまちがってなかった!

「やべぇよ……やべぇよ……」


国のボスは非常に悩んでいた。


「ボス。なにをそんなになやまれているんですか」


「うちの国の人口見たか? もう増え過ぎちゃって、国からはみ出してるぞ!」


あまりに人間が増えに増えすぎた結果、もう足の踏み場もないほど人間で埋め尽くされていた。

毎日、おしくらまんじゅうで押し出された人間が海へと落ちている。


「ボス。人が増えすぎて食料が行き届いていません」

「わかってる……」


「ボス。人が増えすぎて仕事にあぶれる人もいます」

「わかってる」


「ボス。人が増えすぎて今にも水が尽きそうです」


「わかってるって!!」


ボスは心を鬼にしてこの状況を打破するための作戦を打ち出した。


「このままじゃいつかうちの国は滅んでしまう。

 全員が餓死する前に、少数の人間を間引いていくしかない」


ボスはまず国の死刑囚や犯罪者などをガンガン消していった。

ちょっとでも悪いことをした人は殺される恐怖ということもあり、みんなルールを守るようになった。


「はぁ……はぁ。どうだ。これでだいぶ間引かれただろう」


「それがボス……」

「なんだ?」


「犯罪者なんて我が国のせいぜい数%です。

 これを削ったところで我が国の人口過密状態にはなんの影響もありません」


「うそぉ!?」


「それどころか、犯罪者が減ったことで出生率も上がっています」


「プラスマイナスでゼロじゃん!!」


せっかく心を鬼にして削ったのに徒労に終わってしまった。

ボスは次なる作戦に打って出た。


「この世界からポンコツ削っていくぞ!!」


ボスは一定の学力に満たない人や、運動能力がほかより劣る人を消していった。

その恐るべき恐怖製作に誰もが震え上がったが、逆に自分が生き残ると「俺エリートなんじゃね」と感じるようになり批判の声も減っていった。


「ボス! ボス! やりましたよ! 人口過密が改善されました!」


「もう、おしくらまんじゅうに悩まなくていいんだな!!」


人口の大部分を占める人間にメスを入れたことで、人口過密は大きく改善された。

あれほど行き届かなった新作ゲーム機の本体も抽選ナシで手に入るようになった。


「ボス。それだけじゃありませんよ」


「それだけじゃない?」


「国の民は、少しでも自分が能力的に平均以下だと死ぬと思っています。

 今や誰もが必死に勉学に励み、毎日切磋琢磨を続けております!」


「いい傾向じゃないか!」


平均点以下の人間を切り落せば、残ったのは平均以上の人間。

でも、その平均以上の中でも平均はやっぱりある。


生き残った人間のうちの平均以下になるのが怖くなり、みんな必死に頑張るようになる。


結果として、かつて人口過密だった国は各々が自分の有益性を証明するために

まだ誰も見たことのない新しい技術を開発し、素晴らしい作品の数々を生み出していった。


「やはり私の選択は間違っていなかった!

 うちの国が滅ぶ危機を回避したうえ、さらに発展させるなんて!」


「さすがですボス! では国の民にもう大丈夫だと伝えましょう」


部下の提言にボスはしぶい顔をした。


「……いや、人口がいい具合になっているのは秘密にしよう」


「ボス。どうしてですか? 国の民は不安になっていますよ」


「今の我が国の発展を見ろ。みな、誰もが不安にかられて必死に努力している。

 真実を明かして死の恐怖から解放したらもうだれも努力しないぞ」


「そ、それは……」


「このまま黙っておこう。そうすればこの国はもっと発展するぞ。

 他の国なんか目にならないくらいのぶっとんだ成長をするんだ!」


いまだにこの国は人口過密で平均以下の人間をまびくと脅し続けた。

そうしないとこの国の人達はみな滅んでしまうと不安にからせた。


みな自分が他の人より優れていると見せるためにアピールを続けた。

友人関係は蹴落とし合いのライバルと化し、ピリついた緊張感のもと国は大成長を遂げた。


もはや成長しすぎて他の国の追随を許さないほどの国になった。


「ボス、やりましたね! もはやこの国に勝てる国はいませんよ!!」


「間引くと脅し続けたかいがあった。これだけ発展すれば大丈夫だろう」


「大丈夫というと?」


「そろそろ真実を明かしてやるんだよ。もう死の恐怖はないと。

 いつまでも続けていては疲れてしまうからな」


「さすがボス! 人心掌握のプロ!!」


「はっはっは。そうだろうそうだろう!!」


ボスは国の民に人口はちょうどいい水準までになり、

もう滅ぶ危機は去ったので間引く計画を終えると伝えようとした。


そのとき、ボスの側近があわててやってきた。


「た、大変ですボス!! うちの国の発展をねたんだ他の国が潰しにきています!!」





かくして、ボスの宣言通りこの国は見事に滅んだ。

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