友人とカフェ

「さて、待ち合わせ場所は」


待ち合わせ場所に着いた。が…………


「ここは、確かに一人だとちょっとな」


待ち合わせ場所は駅から近い広場の噴水の前だが、そこを通り過ぎる人は皆しっかりとした服装で、俺のようなみすぼらしい服装の人間など見当たらない。

あいつがわざわざ誘ってきたのもうなずけるという訳だ。

にしても、今日俺はあいつの実際の姿を初めてみるのだが、一体どんなやつなんだろうか。


「あの」


ふと、背後から声がかかった。

振り返ってみると、そこにいたのは白いパーカーを着た黒髪の、前髪を目元まで伸ばした少女だった。


「えっと、何かな?」


「いや、私、その…………リク、だけど」


途切れ途切れの言葉で、ギリギリ聞き取れる声量で、少女は静かにそう言葉を発した。


「え?」


「あの、藻屑さん…………だよね?」


なるほど、その自虐的という印象を受けなくもないネーミングを口にするということはどうもそういうことらしい。

事実は小説よりも奇なり、とはちょっと違うかもしれないが、何しろ奇妙なこともあったものだ。


「てことはお前がリク。ってことか?随分イメージと違うけど」


「そう、というか藻屑も、イメージと違う」


安心したのか、少し流暢な喋り方になった少女、リクはそう言って俺の体を軽く叩いた。


「時間がもったいない、早く行こう」


「そうだな」


リクに手を引かれてその場を後にする。

カフェは思ったよりも近い。だが確かに、俺たちのような人間には入りづらい場所だろう。


「ここではなんか美味しいケーキが食べれれるらしい」


そういって右手でグッドサインするリク。


「いや、美味しいケーキってなんだよ」


一応、出かけるということで割と常にカツカツの金を財布に入れてきている。

できるならば二千円以内で済ませたいものだが…………


「好きなものを頼むといい」


そんなことを言ってメニュー表を渡してきたが、この発言はそう受け取っていいものか。


「それは、そういうことか?」


「うん、一回言ってみたかった。まあ奢るというより経費で、だけど」


「なるほど、ところでお前何歳だ?」


「十九、高校中退して漫画家を目指してる。今はフリーランスのイラストレーター、知ってるでしょ?」


「なるほどな、俺は二十一だ。知っての通りフリーター崩れのWEBライター。志望は小説家だが」


そう言ってレアチーズケーキとコーヒーを注文し、冷たい水を一口、口に含んだ。


「わかってる、よかった。私がいつもチャットしてる藻屑だ」


「そうだな、にしてもびっくりした。お前が女だったなんて」


「でしょ?男の方が話しやすいと思って今まで隠してたんだ」


隠してた、なら今日こうして明かすことに、リクの中で何か意図があるようにも感じられる。


「ならなんで急に」


すると、リクは一瞬迷うような表情を見せ、だが覚悟を決めたように息を飲んだ。


「恥ずかしい話だけどさ、私は思ったんだよね。藻屑と、本当の友人?ってやつになりたいって、引くだろ?」


「引かないよ、それより続きを聞かせてくれ」


すると注文していたものが届いた。


「わかった、というかこれ美味いな」


レアチーズケーキを一口口にしたリクがそう目を見開いて言った。


「理由は至って簡単。本当の友人になるには嘘はあってはならない。そう思ったんだ、なんか子供っぽいけど」


なるほど、確かに子供っぽい理由だ。

だが、案外そういうのも悪くない、と少し阿呆らしくなって苦笑する。


「なるほど」


「笑うなよ」


「悪い、だけどいいな。そういうの、なんかまだ学生だった時に戻ったみたいだ」


「その言い方はなんか私の心にも刺さるんだけど、まあいいや。嬉しいな」


「そんで、最近調子はどう?」


いきなり踏み込んだ話題だ。


「すこぶる悪い、いや。いつも通りだ」


「私も」


「なんで聞いた」


「たまに思うんだ。今ならまだ間に合う。引き返して就職して、安定した給料をもらって…………って」


なるほど、それなら俺だって毎日のように考えていることだ。

当たり前の悩み、いつか「手遅れ」がやってくるんじゃないかという不安。


「そうだな、俺だって考える。今俺の同級生も社会に出ようとしてる。父も母も親戚も、全員が認めてくれるような人間に、今ならまだ間に合うかもしれないってな」


「でも、私は夢を諦めたくない」


「そうだな、俺だってそうだ」


コーヒーを飲み干して、その続きを。


「確かに俺たちのを物語にしたら幼稚なバッドエンドの物語かもしれない。だが現実には物語と違って死ぬまでエンドなんてない。俺たちみたいなやつは、この世界に腐るほどいるかもしれない。だが、諦めてない俺たちは勝手に終わって絶望してるやつの前に背中を向けて立っている。そう思うと、少しだけ胸を張って歩ける気がするんだ」


そんなことを、声を張って言った。

恥ずかしい、まるで中学生のポエムのようだ。


「何それ、恥ずかし」


「言うな、また恥ずかしくなる」


ただ、頬を赤らめてそう言った。


「でも、嫌いじゃないかも」


「そうかよ」


その言葉で、少しだけ楽になった気がした。

認められるということがこんなにも嬉しいのか。

果たして、俺はいつか皆に認められる人間に、自分の間違いを思い出に過去を笑い話にできるような人間になることができるだろうか。

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バッドエンドのその先で @Say-

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