第2話新世界『フィンリヤン・モンド』

神として世界を創り始めてから大体一ヶ月程経ったと思う。

ようやくこの世界全体の基礎が完成しそうだ………。長かった……。


神になった直後俺がゼウスによって転送させられた世界は、先ほど俺がいた空間より少し暗い空間だった。ただ辺り一面が真っ白なことに変わりは無いけど。


そして一緒に昔を思い出させるような分厚ーーい電話帳サイズの本が落ちてきた。表紙には、〈初心者創造神必読!全能神ゼウスの新世界創作マニュアル!〉と書かれていた。


怪しみつつもきちんと1ページ目から読んでいく。内容もかなり多かった。


書かれていたことを読んだ分だけ要約するとこうである。

①.一番最初に世界の地形、地域等の環境を創るべし!

なにもないところに建物や生物を創ってもすぐ壊れちゃうから意味が無い。生物が歩く為の地面、生きるには必要不可欠な水の母である海、太陽が青く照らし雲がかかり恵みとなる雨が降る空。なにもかも自分で創り出さなければこれらは生まれない。生物が生き残れる環境を創造し、長続きする世界を創り出そう!

②.細部にまでこだわるべし!

細かいところを雑に創ってしまうと変な穴が空いていたり何もない異空間に落ちてしまう創造生物殺しの落とし穴ができてしまう。隅から隅まで自分で創ったもので世界を埋め尽くそう!

③.調和を意識するべし!

魔王城があるように思える重々しい渓谷、溶岩が眼下を流れる火山。古の竜がどこかで生きていそうな極寒の大地。秘宝がどこかに眠っていそうな大きな砂漠。あなたが創る世界、全てあなたの思い通りの世界ができる。しかし、ここで無闇やたらと自分が好きな気候や地形を置いていってはいけない。

好きなように好きな地域を置いていってしまうとミスマッチな景観が生まれてしまう。

例えば、先程挙げた火山と極寒の大地。この2つを隣同士の大陸としよう。そうすると一歩越えれば最高に暑く、一歩越えれば最高に寒い混沌とした場所ができてしまう。

ここの気候からこちらの大陸に行くとしたらこれが合っているだろう!そのような調和を意識し創っていくのがベテラン創造神の第一歩である。


あのゼウスにしては意外にもそれっぽいことが書かれていた。正直時間は無限に近い。

気長に地道にこの通り始めるとしますか………。

そう思い地形、気候関係を整え始めて早一ヶ月。


やっとマニュアルでいう第一段階が終わりを告げようとしている……。やっと、である。


そうして最後の空白を海で埋めてしまえば………完成!

一応ちゃんと酸素が生成されるように植物も創ろうと思い並行して創っていたらその植物にかなり時間喰われた感が否めない。


ただ、これでようやく新世界のスタートラインに立てたわけだ!俺も初心者とはいえ創造神と名乗っても良いのでは!?


………ていうか肩書上は一応創造神か……。




その後も俺はマニュアルを読み漁っては慎重に創りつつ自分好みの要素を忘れずに様々なものを創っていった。


時には、創った生物達自身で自立し成長する自然成長モードというものもあることに気づき、自分でも自分の世界を楽しみたい俺は生物はベースは俺が創りあとの成長は全て生物自身に任せることにした。


また、神の力として自身の分体を生成できることを知り創造の力を持ちながら活動できる最大人数の、俺含む十人を創ることにも成功した。これによりそれぞれで見た記憶を共有でき且つ本体の俺と10%同じ能力を使える有能な分体ができた。

簡単に説明すると、例えば分体1号が見た一日の記憶として、例えば今日この国は大雨だったという記憶やあの店の野菜安かったという記憶等細かい記憶を本体含む十人全員が共有して知ることができる。

また俺の10%分の能力というのは、創造神の創造能力とスキルを獲得できるという能力である。なぜか創造神には、デフォルトで多彩なスキルを覚えることができるらしい。

そういう世界にしないようにするときは一体どこで使うのやら……そのスキル。


「ハローハローこちら分体1号ー。火山地域特に異常なーし。どーぞー。」


「はいほーい。こちら本体~。了解1号了解ー。」


「もしもしこちら4号ー。グランヴィルより通達ー。ギルド意外にも統治組織が欲しいかもしれない。ギルドだけじゃ少し治安維持が厳しいかも。」


「4号了解ー。こちら本体すぐさま統治組織の創造に入りまーす。少し意見が欲しいので手の空いた分体は私の脳内に戻るようお願いするー。」


「こちら7号ー。脳内会議参加可能。」


「こちら3号、こちらも参加可能ー。」


分体を生成したことにより俺は一つの場所で創造や世界の修正に集中しながら世界を分体で見回って修正ポイントを発見することができるという超効率的な創造方法が確立された。


こうして俺は分体と協力しながら自分だけの自分好みの世界を順調に創り上げていった。


時にはこだわり、時にはサボって自然のままに成長するように創って放置したり……。


あるときは分体を通じて創った国や生物に干渉し、絆を深めあったりもした。そりゃあ創るだけじゃつまらないからね、自分もファンタジーを体験したいともさ。


こうして新世界生活を楽しんで楽しんで…………。












そして俺が新世界を創造し始めてから……約1000年が経とうとしていた。


……………え?0(ゼロ)が多くないかって?いやいや間違いなく0が3つです。そう1000年です。


今ではすっかり立派な世界となりました。世界には名前も付けている。

名前を『終わり無き世界フィンリヤン・モンド』と名付けた。


五つの大陸に囲まれた中心にもう一つ大陸がある世界となっている。世界が大きくなった分情報量も多くなったので、分体はそれぞれ各地に散らばせて固定させた。


そうすることで分体が動く監視カメラの役割となり俺に逐一報告が行くようになっている。うん、楽チンだ。


そして分体それぞれはその分体の住む場所の住人達とかなり親しくさせている。それなりの地位になっているやつもいれば、結構強くなってて本体でも油断していると痛い目に逢いそうな奴らばかりとなった。


そして、俺が自由にさせ過ぎたせいなのか分からないが……おかげで分体達にはそれぞれ自我が芽生え始めていた。


最初は少し個性が出ている感じはすれど根底の性格や人格は俺、神宮寺 創じんぐうじはじめのままだった。

しかしある日のことだった。俺たち十人は分体が世界に干渉するにあたってほぼ同じ顔立ち、背格好、性格の男が広い世界とはいえ本体合わせて十人いるのはまずいという考えに至った。万が一、億が一、それくらいの確率とはいえ自分が同時にばったり出くわす可能性もある。


そこで分体それぞれを担当している場所に合った姿や顔立ちに創り変えた。

天パの茶髪にそれなりにきれいな肌、約165cmとやや小さめな身長に黒を基調にしたグリーンラインのあるパーカーとジーパンで合わせた俺。

そんな冴えない男子をベースにしたとは思えない程分体達はほぼ完璧な見た目となった。


そんなこともあり分体は最早神宮寺 創じんぐうじはじめの分体ということを考えなければ全くの別人となってしまった。

………元は俺だから歯向かってきたりとかはしないだろうけどちょっと怖い。


ということで、俺はさらに分体達にある一つのシステムを付け加えてみた。


それは、分体の体を乗っ取ることができるシステムだ。ちなみにこれを〈分体憑依〉と名付けた。

分体憑依をすることで、いつでもどこでも憑依した分体のいる場所まで飛んでいってその分体の体に本体の意識を宿らせることができる。


その時一緒に直前の分体の記憶は引き継がれるのでその場を収めるのにも全く支障は無い。

もちろん憑依した分体から離れた際も分体自身は自分が自分の意思で動いていたように記憶が補完されるため憑依されたことには気付かない。


その為この分体憑依の技は分体達にも内緒、本体の俺だけの秘密である。


最近はこの分体憑依で各地を見回って、世界を旅しつつ世界に何か欠陥が生じていれば憑依を解いて俺が直しておくということの繰り返しをしている。


自分の創ったファンタジーから近未来の場所まであるこの世界は中々どうして全然退屈しないものだ。最近はずっと自動世界創造モードだからね。このモードは所謂俺自身が過度な干渉をせず世界が創られていくというもの。


まあ神だけが見れる世界創造率っていうものがあるのだけれど、もう95%は創造済となっていて創れるものもない。

今ある世界を少し壊せばまた新しく創れる場所が増えるけど、今の世界は満足しているので壊すつもりは今はない。〈今は〉。


初めの頃とは違って今は世界創造にそこまで干渉していないので、俺の好みとは合わないものも生まれている可能性は高い。

だから、そんなものがあればたぶん壊すシステムは使用するかもしれない。




そんな俺好みのフィンリヤン・モンド、この世界に初めてとも言えるであろう危機が迫っていた。それは………この世界のみならず、他の創造神達の世界にも同様に迫っている危機なのであった。










「さ~てと、今日はどの分体の場所に行こうかなーっと。」


本体のみがくつろげる異空間〈神の領域おれのへや〉で、俺は分体達の動きを見ていた。分体達の動きはこの異空間でリアルタイムでモニターで見れるように創ってある。

最近の朝はカリカリに焼いたトーストにトロトロのバターを塗ってアツアツのブラックコーヒーで朝食を食べながら、このモニターを見て今日訪れる場所を選ぶのが最近の日課だ。


この創造の能力、いつでも自分の好きな料理も創造できるんだから最高だよなぁ!カリッ!ジュワ!としたトーストを口に咥えながら俺は一人の分体のモニターに目を光らせた。


分体2号、〈ツヴァイ〉のモニターである。ツヴァイは現在フィンリヤン・モンドの中心の大陸でも一番大きい国〈グランツ・キングダム〉の王宮の、王族特別護衛兼王子専属執事である。

端正な顔立ちに少し長めの黒髪とキチッとした黒スーツ、アニメやマンガによくいるできる執事顔をしている……。

俺にしてはかなり大きい役職だしイケメンだし身長も高い。ここに行くのいつも躊躇うんだよな……自分で創ったとはいえ世界でも一番有名かもしれない王族の執事なんだから。


しかし、今回ばかりは俺の戦闘訓練にもなりそうなのですぐ分体憑依でツヴァイに憑依した。





「ツヴァイ!今日こそお前を倒してやるぞー!来い!」


最近溜まりに溜まっていた雑務がようやく終わり、中庭で休憩していたところに王国の第三王子であるディアン=オリバーが勝負を仕掛けていたところだった。

この王宮の中庭は少し特殊な構造で、高い場所に建てられている王宮はいつでも城下町を見下ろせるように設計されている。中庭は特に外の様子が見えやすいように造られていて、見張り塔の役割もこなせるようになっている。あくまで中庭なので見張りの兵はもちろん付けてはいないけれどね。


そんな中庭だが普段は人通りもそこまで多いというわけでもない。グランツ・キングダムではその国の位置と大きさからよく催し物が行われることが多い。催し物が近くなると王宮の人間はその準備に忙しくなる。なんせ主催は毎回オリバー王家が行うのだから、大国の行事準備の忙しさは並大抵の忙しさではない。


そのため王宮の人間がみんな缶詰になる日は度々ある。そんな中ツヴァイはいち早く業務をこなした後この誰も通らない静かな中庭でティータイムを過ごすのが大好きなのだ。


だが、そのツヴァイのティータイムのタイミングを知っている者がいる。それがディアンだ。ディアンはこの機を逃すまいとよくこの時期になると中庭に入り浸りツヴァイに勝負を挑む。中庭はそれなりに広いので軽い試合をするのにも丁度良いのだ。


ディアンは正直天才と言える程強い。神として長生きした俺やその分体であるツヴァイ達がこの世界の生物に負けることはほぼあり得ないのだが、このディアン王子世界に数少ない俺らを倒し得る力を持つ者の一人である。


神とて無敵なわけじゃない。いやまあ神の権限で世界にある魔法やスキルは大抵使えるからほぼ無敵だけど……。

死ぬ時は普通に死ぬ。不死ではあるけどそれは肉体の上での不死。魂にまで攻撃が干渉されたら普通に死んでしまうのだ。神殺しである。洒落にならんよ、自分で創った相手に殺されるとか………。


強い者は自然とその魂に干渉できる攻撃を使ってくる。本人の自覚は無いけど、本人的に言ういつもより強い攻撃なんかした場合は魂にダメージが入るようになっている。

ただ、ここはちゃんと俺の世界俺がちょちょいとシステムを変えて、受けた傷は自然治癒するように仕組んである。だから、長年積もり積もった傷のせいであっさり死んだ!なんてことは無いのでご安心を。


長くなったがそう、このディアン王子も子供ながらその魂に干渉できるほどの強い攻撃、そうだな……魂撃とでも呼ぼうか?を使える数少ない人物だ。まあこの魂撃が無くても神以外は殺せるので俺以外相手するなら別にいらないものなんだけど。


なぜそんなディアン王子と遊びとはいえ戦うのか、それは……なんとなくだ!一応神になった以上全ての生物のトップに君臨するのはこの俺。そんな俺自身が弱くてあっさり神殺しーなんてした日にゃもう大変。だからこそこうして戦える機会さえあれば戦って己を鍛えているということさ。


「どうしたんだツヴァイ。まさかこの俺に怖じ気づいているのかー!?」


「いえ、少し考え事をしていたのです。私がディアン坊っちゃまに怖じ気づくなど………ありませんよ。」


煽るディアンに俺は余裕の笑みで返す。ディアンが少し震えたのはたぶん見間違いでは無いな。

このツヴァイ、自分が神である自覚があるからか王子達に対してもめちゃくちゃ強気で厳しい。本当に俺の分体かと思う程怖い。遠くで見てる俺でもちょっと怖くなるもん。


俺は空中に穴を空け、そこから木製の剣を取り出す。異空間には色々しまえるからとても便利である。ツヴァイが空間魔法を使えるというのはここの人物達も承知しているから目の前で使っても何も問題は無いのだ。


「それじゃあ始めましょうか、坊っちゃま。」


「くっ!坊っちゃま呼びはやめろって………いつも言ってるだろーーー!」


ディアンが剣を構えまっすぐ突っ込んできたかと思うと、素早く横に移動し斬りかかってくる。

正直俺も一瞬捉えられなかったからヒヤヒヤ。

スマートに剣で受け流し俺はカウンターを仕掛ける。しかし、当たらないことを察知したディアンはすぐさま下がってまた横に移動し斬りかかる。今度は連撃だ。


威力は落ちているものの、そのスピードはやはり常人を超越している。これで加速スキル使ってないんだから……やはり化け物だなコイツ。


「ハハハハ!どうしたツヴァイ、守ってばっかりじゃないか!受けるのに精一杯で攻撃できないんじゃないのか!?」


ふ……口減らないところはまだ……ガキだな!


「………全反撃フルパリィ。」


威力をほぼ100%で返すカウンター技全反撃フルパリィ、連撃や特大威力の技なんかが来たときが使い時である。


スピードに乗せて多くの連撃を稼いでいたディアンの元に、自身が振った数だけ連撃が返ってきた。幸い一撃一つ一つはそこまで威力の高いものでは無かった為気絶するには至らなかった。


「ぎゃあああああ!」


全反撃フルパリィを喰らったディアンは後方に吹っ飛びそのまま中庭の地面に倒れ込んだ。

正直端から見ても王子に対してやりすぎだと思うけど、これはツヴァイだから許される。特大の信頼を得ているこの執事だからこその日常の風景である。


「クッソー!また負けたぁ!」


地に背中を着けながら両手で顔を覆い悔しがるディアン。するとそこにガシャンガシャンという音を立てながら威風漂う鎧を身につけた大男が歩いてきた。


「やはりここにいたかディアン。何度言えば分かるんだ。ツヴァイがここでお茶をしているのは休憩の時間なのだ。お前の訓練の時間ではない。」


現れたのは、第一王子ディーノ=オリバー。この国の次期国王最有力候補と言われている人だ。

グランツ・キングダムを治めるオリバー王家の長男であり、この国では1、2を争う強さである。

その強さと国民の声を聞き実行に移す行動力、小さい頃から勉強も人一倍行い知識も豊富でリーダーシップも強い。齢21歳にしてすでに国王でも構わないという声が聞こえるほどに国民から大きな信頼を得ている、まさに完璧という言葉を絵に描いた男である。


そんなディーノをディアンは尊敬している為にこの人のお説教は一番効く。今も注意を受けたディアンはさっきとはうって変わってびくびくして立っている。


「それよりディアン、そろそろお前は勉学の時間だろう?早く行かないとまたセバスに叱られるぞ。」


「ハッ!そうでした。このディアン、急ぎ図書室へと向かい勉学に励んできます!」


ディーノの忠告を受けたディアンはまた新たに自分を叱る相手が増えると思い慌てて走っていってしまった。


そんなディアンを見送る俺とディーノ。ディアンも行ってしまったのであとは面白いこと無さそうかな?


そう思い分体憑依を解こうと思ったその時、ディーノが俺に話しかけてきた。


「ふぅ……弟に言った手前あまり強くはお願いできないが、私もお前に用があったのだツヴァイ。少し二人で話がしたい。良いか?」


ふむ……?ディーノがいつになく神妙な顔つきだな。これは少し気になる気になる……。

もう少しここにいようかな。


「他ならぬディーノ王子の頼みであれば、私の休憩時間等気にするに値いたしません。私でよろしければお話を伺いましょう。」


俺はそうディーノに告げ、俺が先ほどまでティータイムを過ごしていたテーブルへとディーノを案内する。


小さくディーノは頷き促されるままテーブルまで歩く。椅子の前にディーノが来ると俺は椅子を引きディーノを座らせる。

ディーノは生まれた時からツヴァイに付きっきりで育てられいわば育ての親のような関係でもあるがさすがに従者と主の関係上、先にディーノを座らせないといけない。


「ああ、すまないなツヴァイ。だが今は私とお前二人きりなのだ、今は従者と主という関係は忘れ自然体のままに話そう。」


そう言われても、今自然体になったらツヴァイのキャラ崩壊が始まるから無理な話なんだよなぁ。一応ここは分かりましたと軽ーく頷いておいて俺も椅子に座る。


「それでディーノ王子、私に話とはなんでしょうか?」


私が質問するとディーノは少しまた顔が厳しい表情となり話し始める。


「話というのはだな、執事であり私達王家一番近い場所で一番長く見てきたお前に問いたい。私は………弟達よりも王に相応しくはないのではないか?」


おっと?これはつまり、自分よりも弟の第二、第三王子の二人の内どちらかの方が次期国王に相応しいんじゃないかってこと?

贔屓目で見ても絶対ディーノの方が良いと思うけどなぁ………素人の目から見ても。


「ふむ……なぜそう思うのですか?どの観点から見ても、ディーノ王子の方が次期国王に相応しいということは間違いないと思うのですが。」


「………私には、あまり突出した才能が無い。」


………おいおい?そりゃ謙虚が過ぎませんかね第一王子?王子という身分でさえすでに才能だというのに……戦闘敵無し聞いてすぐ動くなんてこともできる王の鑑みたいなあんたが才能無いとか言い出したら、この世の人間才能あるやつ数%にも満たないぞ……。


「私はよく周りから言われるのだ。すでに王子に敵はいませんねと。王子程心強い人はいませんよと。それはとても嬉しいことだ。だが、思い返してみればその信頼は私一人の力ではなく私以外がくれた信頼なのだと。戦闘も最近ようやく芽が出て来てようやく今S級の冒険者とも張り合えるほどの強さを得ることができた。私が解決したことだって国民の皆々から聞かなければ解決には至らなかったものがほとんどだ。私一人で問題を探してもそれらを解決できなかったと思うと自分が情けなくなる。今私が得ている信頼だってそんな積み重ねから出た結果であって私自身の力というのは微力に過ぎず、私は戦闘でも政治の面でも大抵平凡だ。そんなすごい才能の無い私には本当に国王は務まらないと思うんだ。」


な……長いしネガティブ過ぎんか……?自分で言っててすごいと思わないのかこの人。


「ふう……ディーノ王子………あなた自分で言ってて気づいていらっしゃらないのですか?普通の人間ではそこまでの強さを持つことはできませんし、王族といえどここまで国民の悩みを解決し大きな信頼を得ている人間はオリバー家の名を抜きにしてもディーノ王子が持つ才能だと私は思いますよ?」


自分で少し自分に自信が無いように創ったとはいえ、これは少々ネガティブが過ぎるかもしれないな。

たしかにディーノの言うことも間違ってはいない。戦闘面の才能だけで言えば第二、第三王子の方が優れているというのは事実だからだ。


代を重ねるごとに戦闘の才能はどんどん伸びるように俺が設定したんだよなぁ。結果、第二王子は現在王国最強ながら王宮を抜け出し放浪する完全自由人。

第三王子、先ほどのディアンは第二王子程ではないにしろそのやんちゃな部分からしてまだまだディーノとは比べることはできない。


「………そうか……先ほど父上とも相談したのだ。そして同じようなことを言われたよ。」


にしては浮かない顔をするディーノ。そこまで自分の力は信頼できないものなのかねぇ?


「でしたら、何をそこまで強く悩んでいるのですか?現国王であるダイン王がそう言うのであればそこまで気に病むことではないのでは?」


ドンッ!

ディーノは強く机を叩き叫ぶ。


「それではいけないんだ!」


そして顔を下げながらまるで悪いことをしてそれを自白でもするのかという雰囲気で話す。


「先代は……父上は同じ齢で同じように信頼を得ていた。それだけじゃない、この歳で父上は、伝説に語り継がれる彼の暴獣ギガルに重傷を負わせ封印に強く貢献している。そんなこと……とてもじゃないが私にはできない。父上の息子として、強き弟達の兄として俺はもっと強くならなければならないのだ!」


ははぁ~ん、要はこのディーノは同じ歳で伝説にも語り継がれるような父親であるダイン王の息子なら、もっと大きな功績を得なくちゃいけない!みたいなめんどくさい衝動に駆られている感じか?


全く……なんでそんな思考に陥ったのやら。


「……はぁ……。一つ聞きますがディーノ王子、あなたはただ強ければ、ただすごいことをしたから王に相応しいとでも考えているのですか?あなたにとって王というのは、すごく信頼できる人という勲章のようなものなのですか?」


するとディーノはハッ!と顔を上げ何かに気づいた様子で訂正してきた。


「そ……それは違う!王というのは勲章なんかではない。王というのは、信頼だけではない、実際に一つの国をより良くするために民を導くという大きな責任を背負った役目だ!国の内部で起こる問題はどんどん解決し、国を守るため戦う、そんな他人のために命を懸けられるのが王なのだ!」


「フフフ……ディーノ王子、それが分かっているなら大丈夫です。今あなたがいった理想の王に、あなたはしっかり当てはまっています。そこまで王の責任について悩めるあなたこそ、一番次期国王に相応しいですよ。」


そう、ディーノ自身が一番よく分かっている。国民に豊かな生活を送らせるために日々命を懸けて動く、それが王様。

そんな毎回命張らないだろ、とか言うやつもいるかもしれないけれどそうじゃない。毎回自分の命を懸けてでも民のために事を成し遂げる、そんな王こそ理想の王だと思うのだ。


「…………そう……か。お前がそこまで言うのならきっと、正しいことなのだな。分かった、もう一度父上としっかり話してくる。ありがとうツヴァイ、おかげで勇気が出た。」


「いえ、私はただ事実を述べていたまでですよ。」


ディーノは席を立つと中庭を出て王室に戻っていった。きっとこれから次期国王の件についての話に決断を下しに行くのだろう。


まあ、ディーノが国王になるならもう数十年は安泰だな、グランツ・キングダムは。


そして自分以外誰もいなくなり中庭には、小鳥の囀りと頬を撫でるそよ風の音、そして遠くから聞こえる城下町の賑わいしか聞こえなくなった。

しばらくはこの場ではもうなにも起こらないだろう、俺はそう判断し分体憑依を解き〈神の領域おれのへや〉に戻ろうとしたその時だった。


「…………音が……止んだ?」


先ほどまで聞こえていたかすかな音も聞こえなくなった。小鳥の囀りやそよ風の音はまだ分かる。鳥がいなくなったのだろうし、風も止んだということなのだろう。

だが、城下町の賑わいが聞こえなくなったのはおかしい。そんなの、城下町で何か起こったとしか思えない。様子を確かめようとしたところで俺は異変に気づく。


中庭に生えている一本の木、名前は覚えていないが青々とした葉を立派に生やした木である。

その木から一枚の木葉が落ちてきていた。しかし、その木葉は地に落ちることなく空中に静止していたのだ。


そこから辺りを見回すと同じような異変が起きていた。空を見れば鳥の集団は羽を広げたまま静止していて、城下を見下ろせば遠目から見ても明らかに城下を歩く人々が誰一人動いていないことが分かった。



そう、時が止まったのだ。



ここでさすがに焦る俺。こんなの一千年間神をやってきて初めての経験である。

とりあえず他の分体の方も確認しておこうと思い俺は憑依を解いて神の領域おれのへやに戻った。



神の領域おれのへやに戻った俺は急いでモニターの方へ近づく。



そこで気づいた。何かいる。何か………知らない奴がモニターの前の椅子に座っている。


俺が緊張して固まっていると、その何者かはモニターを見つつ話しかけてきた。


『やはり……あなたに神を任せたのは正解でしたね。私が見てきた世界の中でも中々面白い世界ですよこの世界は。』


そう言って、ソイツは立ち上がりこちらに振り替える。


見た目は青くて長い髪に透き通った白い肌、全てを見通すかのような金色の瞳の少女。そしてソイツの体の周辺には絶えず淡い光が漂っている。


この雰囲気………ほんの少しだが覚えている。まさかこいつは……。


「お前………ゼウスか……?」


俺がそう尋ねるとその少女は右腕を軽く上げてからその腕を大きく振り下ろした。

すると、俺の体が急に重くなり立っていられなくなった。その重さのせいで土下座のような体勢になった俺を上から見下ろしながらその少女は俺に話しかけてきた。


『久々の再会で相手にお前呼ばわりとは良い度胸ですねハジメさん。そうですよ、私こそみんなの神様ゼウスですよ。』


青髪の少女ことゼウスが、ニッコリと微笑み何故か1000年の時を越えてまた俺の前に現れた。


俺は知る由も無かった。このゼウスによって俺はこれから始まる壮絶な戦いに巻き込まれることになるなんて。










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New World Wars~創造神大戦紀 @HinokiKonnbu0707

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