三章 「一歩、踏み出して」

 いつもの別れ道まで来た。

 空を見上げると、もう太陽は沈もうとしている。

 太陽が沈むのも、夏に比べれば随分と早くなったなと思う。こんなにもわかりやすく移り変わっていたのに、私は今まで気になどしたことなかった。

 ここから慧の家まで5分。

 何度ここから慧の後ろ姿を見つめていただろう。

 そこから、やっと私は足を進めた。

 私はこの好きと言う気持ちを、今すぐ慧に伝えたいから。

 もう迷ったりしない。

 そんな時間すらもったいないとわかったから。

 今までの時間を取り戻すことはできない。それでも私は慧を好きになることで、大切なことに気づけた。それにこれからの時間なら大切にすることはできるから。

 

 

 慧の家のインターホンを押すと、すぐに慧が出てきてくれた。

 

「れな、どうかした?」

 

 私のことを真っ先に心配してくれるいつもの優しい慧に、胸がドキッとする。

 私はゆっくりと息を吐いた。


「あのね、私の気持ち、聞いてくれる?」

 

 私はずっと言えなかったその言葉を口にした。

 ずっとずっと言いたかった言葉なだけに胸はドキドキしている。


「れなの気持ち?」


「そう、私の気持ち。私、慧のことが好き。出会ったその日からずっと慧が好き。慧、私と付き合ってください」


 あんなに最初の言葉が言えなかったのに、口に出すと不思議なことにその後の言葉はすらすらと出てきた。


「はい。恋人として、これからはよろしくね」

 

 慧は、迷わずすぐに応えてくれた。


「えっ、いいの?あっ、もしかして今日私死ぬの?」


「うん。いいよ。あはは、死なれたらせっかく恋人になったのに悲しいな」


「あっ、うん、それは例えというか、えっ、あれ、今悲しいって言った?」


「うん、言ったよ。おかしなこと言った?」

 

 慧はそれが当たり前のようにニコッと笑う。


 私は言葉にならず、その場で顔を真っ赤にした。

 でも、もう一言言いたい。いつもドキドキされてばかりだとなんだか悔しいから。私だって、慧をドキドキさせることができるのだから。

 

「ううん、ありがとう。これからは幼馴染じゃなくて、彼女だからね」

 

 私は慧に向かって、満面の笑みを浮かべて言ったのだった。

 

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この道を追いかけられたら 桃口 優/ハッピーエンドを超える作家 @momoguti

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