「センパイ、大好きです」
「センパイ、今日はありがとうございました」
私はそう言って隣を歩くセンパイの横顔を見る。センパイはこちらを向いてはいないがやっぱりカッコいい。横顔でわかる。うん。
「いえ。今日でどんな絵にするのか決められたのは結城さんの才能でしょうね」
「センパイが手伝ってくれたからですよ」
そう言って笑う。センパイは「いえいえ」なんて謙遜したけれど、センパイの助言がなかったらきっとどんな絵にするかなんてまだ決まっていなかっただろう。
そんな事を思っているとセンパイが口を開いた。
「結城さん」
「はい」
「明日は遅刻しないでくださいね」
そうだ。明日は部活で足りないものをセンパイと買いに行く日だ。いつもいつも私が時間ギリギリに来ているからだろうか。センパイは意地悪くそう言って笑った。だけどそれすらも好きなのだからしょうがない。
「遅刻はしてませんっ」
「そうですね。それでは時間ギリギリはやめてくださいね。それに連絡を忘れるのも」
笑顔のままセンパイはそう言って私の一歩先を歩く。センパイが私の横を通り過ぎた時、小さくだが「心配なので」と聞こえた気がした。
私は立ち止まる。それに気づいたセンパイも二、三歩先で立ち止まった。
センパイがそんな事、言うはずがないのに。
本当に都合のいい耳だな、なんて思いながら自分自身に笑う。
それからチラッ、とセンパイを見て私は不意に気になった事を質問する。
「………センパイって、嫌じゃないんですか?」
「嫌、とは?」
「私に付きまとわれる事ですよ」
「…自覚あったんですね」
センパイは少し苦笑いを浮かべたあと、考えるように視線を斜め上に上げる。それから一回だけ瞬きをしてこう答えた。
「嫌じゃないですよ」
驚いた。てっきり物凄い迷惑そうな顔で「心底迷惑していますよ」なんて言われるかと思っていたからだ。嫌ではなかったのか、と内心ホッ、としつつ私は質問を続ける。
「それじゃ…っ」
「はい」
「それじゃ…」
───センパイ
私がセンパイと付き合える可能性は。
「私が…センパイと…」
「はい」
「付き合える可能性は…」
そこまで言って先が言えなかった。
分かっていたからだ。分かっていて聞いた。センパイが私と付き合ってくれる可能性なんてない。どうせまたいつものようにかわされるのがオチだ、と。
視線を下に向ける。センパイの顔を見るのが怖かったからだ。一時の感情で今までのセンパイとの関係を壊そうとした。否、壊れてしまったかもしれない。
「………可能性、ですか」
今はセンパイの声が聞きたくない。逃げ出してしまいたい。
「可能性はそうですね…」
考えるようなセンパイの声が聞こえる。
センパイ。センパイ、答えなくて大丈夫です。そう言いたいが喉が枯れてしまったかのように口がパクパクするだけで声が出ない。
「0です」
「……え?」
「0です」
センパイはもう一度そう言った。
ほら、やっぱりダメだった。聞かなければよかった。ずっと、聞かずにいれば良かった。
どんどん視界が歪んできた。ダメだ。ここで泣いちゃ面倒な女だって思われる。
「ただ…」
「………?」
センパイはそう言って私の元へ歩み寄り、両手で両頬を包んで目を合わせ、こう言った。
「結城さん、好きです」
思わず目を見開いてしまった。
目から涙がこぼれ落ちる。
「なので、僕とお付き合いしてくれませんか?」
「なん…で…。0%なんじゃ…っ」
「えぇ。0%です。当たり前じゃないですか。どちらからも告白していなかったのですから」
センパイはニコッ、と笑う。
そんなセンパイの手に自分自身の手を重ねる。心臓が今までにないくらいにドクドクと主張している。
「それで?お返事を頂けますか?」
「……センパイ」
「はい」
私は今までで一番可愛い笑顔を浮かべてこう答えた。
「センパイ、大好きです」
【続編あり】「センパイ、振り向いてください!!」 ひよこ🐣 @hiyokokoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます