077_一二歳の御前会議(二)

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 077_一二歳の御前会議(二)

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 ファイマンの反乱の次はマカリア紛争のことが報告される。これも軍部の管轄であり、軍務大臣が答弁を行う。


 マカリアとは帝国本土の西側の地域のことで、チェクトとギアルドーガという二つの属州に接している。

 属州というのは植民地のことだ。このフォンケルメ帝国本土に併呑されていない、自治州のようなものである。

 ハマネスクのように国王は居ないが、属州になる前に貴族だった者や、属州になる時に協力した者が貴族として分割統治している。

 ハマネスクのように国王が居るのはかなり特殊な扱いなのだ。ハマネスクは長い歴史があるため国民がそれを誇りに思っていることから、その誇りを奪うよりは上手いこと操ろうという思惑があったのだ。


 マカリアも古くは他の国だった。二〇〇年程前の帝国暦三五九年に帝国に併呑されて以降、数度に渡って反乱が起こっている。

 今回の反乱は八年前(帝国暦五五六年)に勃発して今でも続いている。

 ハマネスクやファイマンよりも反乱が長く続いているのは、マカリアが重要な場所ではないからだ。


 マカリアも昔は重要な地域だった。鉄、銅、銀、金、その他数多な鉱物が産出していたが、今では掘り尽くされてしまっている。鉱物の採掘以外の産業がなく農作物を育てるのに適していないことから、帝国としてはあってもなくてもいい土地になってしまった。

 ある意味独立されても困らないが、独立を許すと収拾がつかなくなる。だから反乱は許さないというスタンスで適度に反乱軍を締め上げているのだ。


「現在、マカリアに新兵を送り込み、実戦を経験させております。彼奴等きゃつらは新兵の訓練相手として丁度良く、このまま適度に生かしておきたいと存じます」


 反乱を利用して新兵の練度上昇を考えた軍務大臣は性格が悪いな。

 だがハマネスクと違って交通の要所でも重要な産業があるわけでもないのだから、早期に鎮圧する必要はない。帝国のために有効活用できるなら、そうしてもいい。それに……。


「チェクト属州とギアルドーガ属州のほうはどうなっておりますかな」

「残念ながら、共に動きはありませんな」


 財務大臣のレンドル・カマネスク子爵の問いに、軍務大臣は簡潔に応えた。

 この二人はあまり仲が良くない。金食い虫の軍部とその金をやりくりする財務省のトップ同士だからだと思うが、目を合わそうとしない。

 反目し合っていて連携できるのかなと思うのだが、こいつらは意外と連携がしっかりしている。面倒くさいやつらだ(笑)


 チェクト属州とギアルドーガ属州の貴族たちが、マカリアの反乱軍に援助していたら併呑する口実ができる。この二つの属州には、色々な使い道がある。


 チェクト属州は穀物の生産だけでなく、牛や羊といった畜産業も盛んな土地だ。帝国西部の胃袋を支えている地域なのだ。

 それに羊毛製品もかなり多く輸入されているため、帝国としては併呑したほうが旨みのある土地だ。


 ギアルドーガ属州については海がある。西側に多くの海岸線を有する土地で、そこからガルラドーラ大陸と貿易ができる。貿易というものは、莫大な富をもたらす。これを帝国の直轄領にすることは、財政を潤すことになる。


 この二つの属州を併呑するには、それなりの理由が要る。欲しいから併呑したというのでは、そこに住む民が反発する。併呑した後に反乱が何度も起こるようでは困るのだ。


「次はバルガット事件の報告を。法務大臣」


 バルガット事件というのは、皇帝暗殺未遂事件だ。首謀者と思われる者がバルガット侯爵だから、この名がついた。

 バルガット侯爵は捕縛したが、どうもおかしいのだ。首謀者はバルガットなのだ。それは本人も認めている。しかしバルガットの供述に曖昧なところがある。法務大臣がそのことに気づき、俺に相談をしてきた。


 法務大臣の相談を受けた俺は、バルガットを観察した。そして分かったのだ。バルガットが操られていることに。細かいことを言うと、精神操作されていたのだ。


 となれば、バルガットの精神を支配した者がいる。その者は相当な魔法の手練れである。そんな奴は決して多くない。

 法務大臣に魔法で名を成している者を調べろと指示していたのだ。


「残念ながら真犯人の特定にまでは至っておりませんこと、陛下にお詫び申しあげまする」


 法務大臣は慇懃に頭を下げる。そう簡単に真犯人が分かったら苦労はしないだろう。

 法務大臣が違和感を持ったからこそ、真犯人がいると分かった。そうでなければ、バルガット一族を処刑して終わりだったのだ。


 真犯人もバカではないはずだ。自分の存在の痕跡は残してないはず。あっても極わずかで拾い上げられるか分からないだろう。


「手がかりはあるのですかな、法務大臣」


 右大臣の質問に、法務大臣は首を左右に振った。


「残念ながら、真犯人の手がかりはまったくありません」

「それでは話にならないではないか。法務大臣の能力に問題があると言わざるを得ないぞ」


 経済大臣が法務大臣を槍玉に挙げる。皇帝暗殺事件だからということもあるだろうが、こうやって厳しいことを言うのは経済大臣がアジャミナス派だからだろう。

 法務省の官房長であるゲルバルド・オットーがアジャミナスの父親だから、法務大臣はアジャミナス派にとって一番の邪魔者だ。アムレッツァ・ドルフォンが法務大臣の椅子に座り続ける限り、ゲルバルドは大臣になれない。

 それどころか俺が皇帝になったら排除されるかもと危機感を募らせていることだろう。優秀なら排除などしないんだがな。


 今回の皇帝暗殺未遂事件であるバルガット事件は、年を取った皇帝が夏季の休養のために避暑地にある離宮を訪れた時に起こった。その間は皇太子である俺が政務を司っていたのだ。


 離宮の近くに領地を持つバルガットは、ご機嫌伺いと称して皇帝へ謁見を申し入れた。数日後に謁見できることになり、バルガットは隠し持っていたナイフで皇帝を刺殺しようとした。当然だが、騎士たちに取り押さえられ未遂に終わった。


 話を聞く限り、あり得ないと思った。バルガットは皇帝を自分の手で殺したいほど恨んでいたわけではないはずだ。そもそもバルガット家はこの数十年現状維持だ。役職に就くことはなかったが、経済的にひっ迫していることもなかった。


 無役だからプライドを傷つけられたと思っていたかもしれないが、そもそも領地持ちの貴族が役職に就くのは珍しいことだ。基本は法衣貴族、俗に言う門閥貴族が国の役職に就くのだ。

 それなのに皇帝を殺しても自分どころか一族郎党全てが皆殺しになる謀反を企むだろうか。やるなら分からないように暗殺するだろう。そこまでバカではないはずだ。


 そんなことを思っているところに、法務大臣からバルガットの供述に矛盾するところがあると報告(相談)を受けた俺が、直々に聴取を行った。

 その時に魔法で精神を操られているのだと発見した。絶対的な支配ではなく、皇帝を憎むように方向性を与えるような精神操作だった。


「法務大臣は引き続き捜査を続けるように」


 経済大臣が吠えまくっているのを、右丞相が遮って皇帝の言葉を伝えて静かになる。


「最後にサルディン半島の洪水について、内務大臣であるゼノキア殿下、お願いします」


 右丞相に促され、俺は立ち上がった。

 皇太子であり大将軍である俺は、内務大臣も兼務している。サルディン半島の洪水対策については、内務大臣の管轄になるのだ。


「サルディン半島の洪水では死者二〇〇名、家屋を失ったのは五〇〇世帯、畑に大きな被害が発生しました。周辺諸侯に救援物資の手配を命じ、某も現地に赴き状況をこの目で確認する予定です」

「何もゼノキア殿下自ら赴かずともよろしいのではないでしょうか」


 軍務大臣だ。俺には正体不明の敵が存在するから、暗殺を気にしているのだろう。


「大臣である余が陣頭指揮を執ることで、速やかに復興させる意図がある」

「たしかに殿下が陣頭指揮をされれば、復興は早まりましょう」


 財務大臣としては速やかに復興させ、できる限り復興経費を抑えてほしいのだろう。現地の役人や貴族に任せていると復興が遅々として進まず、経費だけが嵩んでいくからな。


「ゼノキアよ。速やかに彼の地を復興させよ」


 皇帝が直々に声をかけて来た。


「御意」


 御前会議の後、右丞相から皇帝の執務室に来るようにと声がかかった。


 

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皇子に転生して魔法研究者してたらみんながリスペクトしてくるんだが? なんじゃもんじゃ/大野半兵衛 @nanjamonja

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