076_一二歳の御前会議(一)
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076_一二歳の御前会議(一)
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俺ことゼノキア・アーデン・フォンステルトは、フォンケルメ帝国第一一皇子であり、皇太子だ。
皇太子とは皇位継承権第一位であり、何もなければ次の皇帝の位には俺が就く。
だが、他に三人の皇位継承権を持った者が存在する。それらの者たちは親王という地位に就いている。
俺が皇太子になった後、親王は増えていない。定員五人のところに、俺を含めた四人の親王が在籍しているのが現状だ。
ちなみに、今の俺は皇太子という地位の他に、大将軍と内務大臣を兼任している。
本気で役職なんて要らないが、戦いは嫌いじゃないから大将軍は構わない。だけど、内務大臣はないわー。
建築土木、衛生管理、宗教団体の管理など国内のことを所管するのが内務大臣だが、宗教団体なんて相手にするのも面倒だ。
あいつらは神がどうこうと言って、話をはぐらかす。腹芸が得意ではない俺のような奴とは根本的に合わない。などと愚痴っても仕方がないのは分かっている。
今年、俺は一二歳になる。俺が一二歳になるのと時期を同じくして、ミューレと結婚することになっている。
ミューレは俺より一歳年上のもうすぐ一三歳なんだが、どんどん女らしくなっている。彼女の唇は色っぽく瑞々しい。貪りたくなるくらいだ。
今日は御前会議が開催される。皇太子である俺も、当然だが御前会議に参加する。
大臣と親王が揃う会議室に、俺が最後に入った。玉座から見て、左側の一番手前が俺の場所だ。
大臣とその後ろに控える政務官たちが立ち上がって俺に一礼し、親王たちは座ったまま顎をわずかに引いた。
俺が席につくと、すぐに左右丞相を引き連れた皇帝が入って来た。
皇帝は今年で七〇になる。以前は年齢を感じさせない若さがあったが、さすがに最近はくたびれてきた。顔の皺もかなり深くなり、年齢なりの顔になってきている。
今年で在位三四年。これだけ長く皇帝をしていると、思い通りにならずに嫌になることもあっただろう。反乱も数知れず。気苦労が多いことは間違いない。
それでも帝国は揺るがない。問題を上手く処理している大臣たちが居るからだ。そういった大臣たちを束ねる左右丞相、そしてその頂点に君臨する皇帝が居るからだ。
帝国を巨大な樹木にたとえるなら、大臣たちは太陽の光を集めて栄養を作り出す枝葉、そして左右丞相が太い幹、皇帝は大地に張る根と言ったところか。
親王たちもそれぞれの想いがあるだろう。
俺のようなガキが皇太子で、自分たちはその後塵を拝している。
腹が立つこともあるだろう。特にアジャミナスは苦々しく思っているんじゃないか。
アジャミナスの父親は法務省の官房長だ。法務省は大臣派と官房長派が激しく鬩ぎ合っている。
大臣派は言い換えれば、俺の派閥だ。対して官房長派はアジャミナス派になる。
俺が皇太子になる以前は、官房長派が勢力を伸ばしていた。俺が皇太子になった後は、大臣派が勢力を盛り返した。
大臣は自分を裏切った官僚を放逐し、新しい者を職につけたりと色々やっている。俺はあまり派手にやるなと言っているんだが、裏切り者を許すのは今後のためにならないと言っていた。
まあ、法務省のことは大臣に任せているので、有能な者を切ったりしなければ俺も見て見ぬふりをしている。
軍部のほうでは、軍務大臣が俺の麾下に入った。
大将軍の権限は皇帝のそれなので、軍部は完全に掌握していると言ってもいいだろう。
ミューレの祖父であるガルアミス侯爵は、昨年上級大将に昇進して本部に戻ってきている。
その息子でミューレの父親のマークも中将に昇進し、ファイマンの反乱鎮圧のために軍を率いて出征している。
ファイマンの反乱もそろそろ鎮圧が完了すると聞いているので、結婚式の前には帰還するのではないだろうか。
あと、編成本部のフリアム・アビスは大将に昇進させた。
俺のコネもあるが、アビスはハマネスクやファイマン、その他の反乱の鎮圧軍に対する適切な補給を行った。前線で戦うだけが仕事ではない。アビスを昇進させることで他の軍人に、そう知らしめている。
アビスは見た目は冴えないが、良い人材だ。このような裏方が居ないと前線は安定しない。俺はいい人材を拾ったと、自分の運に感謝している。
海軍では、ピサロ提督がファイマン鎮圧でも活躍している。ファイマンの反乱が鎮圧された暁には、上級大将へ昇進させてやろう。
平民上がりのピサロ提督を上級大将に昇進させたら、また貴族たちが騒ぐかな。その時は数人の首を切ってやろう。強い帝国を維持させるための人事を邪魔する無能は要らない。
その部下のクラメルも上手く行けば中将に昇進できるはずだ。クラメルの奴、表舞台は嫌だと抜かして裏方に徹している。困ったものだ。
その甲斐あってピサロ提督もかなり助かっているようだが、そろそろ表舞台に出さないとな。
海軍はピサロ提督とクラメルにまとめてもらおうと思っているんだからさ。
アインファッツ子爵は総督としてよくハマネスクを治めていたから、三カ月ほど前に植民地を統治・管理する附庸局の局長に昇進させて帝都に戻した。
後任のハマネスク総督は、ベルバッファ男爵だ。ベルバッファ男爵も総督として数年の実績を積めば、中央に戻すつもりでいる。
さて、皇帝が席についた。左右丞相もいつもの席についた。
俺たちは礼を持って皇帝を出迎え、右丞相が御前会議の開催を宣言する。
今回の御前会議で話し合う主だった議題は、4つある。
・ファイマンの反乱
・マカリア紛争
・バルガット事件
・サルディン半島の洪水対策
右丞相がファイマンの反乱について報告を求めると、大きな体の軍務大臣が報告のために立ち上がった。
「現在、三軍団がファイマンの反乱軍を包囲しております。皇帝陛下に良い報告ができるのも、それほど時間はかからないことでしょう」
ファイマンの反乱軍と帝国軍では、装備が違う。魔法使いの質が違う。兵数が違う。これだけ違うと、相当なバカが総司令官でないかぎり負けることはない。
反乱軍に戦の天才が現れたら分からないが、一般的には安心して報告を待てる状況だ。
ファイマンがハマネスクのように島国だったら、海軍力次第で厳しい戦いになったかもしれない。実際にハマネスクの海軍には悩まされた。
しかしファイマンは島国ではない。ハマネスクよりも広大な大陸だ。上陸できるポイントは数知れず。大軍を上陸させられるポイントも多い。
「陛下は速やかな決着を望まれております」
「ご心配をおかけいたし、面目次第もございません。陛下のお心にそえますよう、不退転の覚悟で臨んでおります」
軍務大臣はファイマンの反乱を鎮圧したら勇退することになる。
その後は、ミューレの祖父であるガルアミス上級大将が、軍務大臣になる道筋だ。
俺を大将軍にしたままなのも、ガルアミスを軍務大臣にするのも、法務大臣などの俺の麾下の者たちが重職に就くのも、全て俺が戴冠する準備だ。
次の皇帝は俺に決まっていると、皇帝が意志表示しているのだ。
特に大将軍のままなのは大きい。皇帝の代理としていつでも軍を動かせる権限を、俺は持っているのだ。帝国の全軍をだ。
軍権を掌握しているのは誰か。それを知らない貴族や官僚は居ない。
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