最後はかならず私が勝つ(どんでん返し) - ほんとに男子のえっちぃ視線って嫌になっちゃうよね?

橙ともん

最後はかならず私が勝つ(どんでん返し) - ほんとに男子のえっちぃ視線って嫌になっちゃうよね?


 俺の名は、シルバリだ。



 昨日の夜から降り続いた凄まじい突風による大雨は、今日の明け方には止んでくれた。


 俺が、この下宿中である万屋の2階――以前は商品の在庫置き場だという角部屋だが、昨日の夜の突風では、俺は徹夜でベッドに座りっぱなしの状態だった。


 下宿の大家のおばさんに直訴した、ドア近くの洗面台の真上の天井から滴る雨漏りの修繕だけれど、これを万屋の客引き10回を引き受けることを条件に、先日ようやく修繕屋が来て直してくれていたから助かった。


 けれど、窓の隙間から吹いてくる昨日の突風で、俺が下宿を始めた時から建て付けが悪いトイレのドアだけれど、バタンバタンと吹く度に揺れて揺れて……。

 幸い、この部屋には俺1人で寝泊まりしているから、ルームメートに覗かれることはないのだけれどな。



 まあ、それも今朝の天気に免じて許そうぞ!


 雲間から見える太陽の光が、清々しく部屋を温めてくれている。

 なんだか、飛空挺で暗雲の中から脱出して抜け出た時のような開放感! それが今朝の天気だ!!


 ――俺は飲みかけのドリプコーヒーをもう一口飲んだ。食べかけのストロベルパンに、更にスプーンでストロベルをたっぷりとかけてから、それを大口を開けて頬張った。


『……さ~て! 今日12位の星座は――』


 テーブルに置いてある小型のラジオ――下宿する前、中等部の工学授業で組み立てたトランスラジオ。俺が下宿する時に持参した備品の中で、上級な持ち物ベスト7位にランキングする代物だ。

 そのラジオから聞こえてくるのは……俺が毎日楽しく待ち望んでいる12星座ランキングである。


『今日12位の星座は……ごめんなさい。猫座のあなたです』



 俺は、猫座である……。



『猫座のあなた! 積極的な異性にご注意を! その人、とんだハプニングを起こす困ったちゃんですよ。そんなあなたのラッキーアイテムは……深緑の森に住む妖精の唾液から抽出した――ブラッディ・ジャム!!』


 ですって。


『じゃあ! 今日も元気に行ってらしゃい!!』




       *




 あたしの名前は、キネシースよ。



 大変だわ! こりゃ遅刻確定だね……。


 まいっちゃうな……。

 メイドって、あたし今日は高等部の魔法クラブ恒例の集中朝練で、魔石にマナを補充する当番だからって……。いつもより30分早く起こしてって言ったのにさ……。

 まあ、あたしが眠気眼で駄々言って、メイドが愛想尽かしたから……しょうがないのかな?


 でもさ! いくら愛想尽かしたからって、朝食抜きにすることないじゃん!

「えー! あたしの朝食を抜きにしたの?」

 って、聞いたらさ……メイドは真顔で、

「ええ、そうですよ。それが何か?」


 あたし、その言葉に唖然として、

「いくら何でも! 寝過ごしたからって朝食抜きにすることないじゃない! あたしって、育ち盛りの高等部女子高生なんだから……」

 そしたらメイドは、最後にテーブルに置いてあった、私の大好物“城主御用達”のパン屋さんのパン数枚。それが乗ってある皿をスッと持ち上げて――

「これも片付けますよ……。よろしくて? 御嬢?」

 と、こんちき忌々しく!

「ちょっと! パンくらい食べていくから……だからそれを」

 あたしは慌てて、皿に乗っているパンを手に持った……。



 あ~あ。遅刻はヤバいよね? しかも当番だし……。

 早く行かないと顧問の先生に怒られちゃう。多分、走っても大丈夫じゃないよね?

 でも、早く走って急がないと……ダメもとだけど。

 ところでさ……。昨日の夜からの大雨で、なんでこうも地面に水溜りが出来てるの?


 これじゃ、走り難いじゃん。




       *




「今日の猫座は12位か……厄日だな」

 シルバリは肩にカバンを掛けて、高等部へ向かっていた。

 厄日なだけに、いつもより30分早く登校。さっさと教室に入って自習でもしておこうと思っていた。


「あ~もう! 水溜り多すぎじゃん?」

 キネシースはカバンをリュックのように背に掛けて、口にはパンを銜えて腕を振りながら走っていた。


「今日のラッキーアイテムがブラッディ・ジャムか。一応、昼食用のパンに付ける用に持参したけれど……」

 シルバリはカバンを開いて、中に入れてあるブラッディ・ジャムを確認した。


「水溜り飛び越えながらって、これ……すでに朝練突入だよね?」

 なんとか朝練に間に合おうと猛ダッシュしながらの……キネシースの独り言。

 幾つもの水溜りを、彼女はヒョイヒョイと軽快に飛び越える。


「ブラッディ・ジャムって、俺の好みじゃないんだな……。甘さが半端無いから」

 シルバリは甘いものが苦手の様子。今日のラッキーアイテムという理由で、渋々と持参したのだ。


「改善するようにか……。そだね、明日からはちゃんと起きないと!」

 キネシースはピョンピョンと水溜りを軽快に飛び越えている。

 口に銜えていたパンを、少し齧って……。

 やっぱ、就寝前の友達との魔法ツイートを少し控えなきゃ……とか。

 あれこれ考えながら走っていた――


 そしたら、



「うわ!? おいっ! こっちに飛んでくるな!!」

「え? ち、ちょ!? どいてってば!!」


 ばちゃーん!!



 シルバリとキネシースは、こうして出会った。

 のだけれど……いきなりバッドエンディング突入モードみたいだぞ!


 ――シルバリは住宅街の路地をカバンの中を覗きながら。一方、キネシースは高等部正門前のメインストリートを猛ダッシュで水溜りを走って飛んでいた。

 シルバリがメインストリートに出る場所には、水溜りがあった。彼はカバンの中を覗きながらも、水溜りには気が付いて大股で跨ごうとしていた。

 丁度、その時!

 その水溜りを、キネシースが勢い付けて飛び越えるために、地面に右足を着いてジャンプしようとしたら――住宅街の路地からシルバリが姿を現した。


 このままじゃ、ぶつかっちゃう!!


 瞬間! キネシースは朝練で鍛えた運動神経を活かして足首を右へと傾かせた。

 体重移動を利用して、シルバリとの接触を回避しようと空中で身体を彼とは反対側に捩じって避ける。


 ――咄嗟の判断は良かった。出会い頭の衝突回避に成功する。


 けれど、体重移動してピョンと飛び越えた……、その隣の地面にも……運悪く水溜りがあった。

 これを避ける術は無かった。


 案の定。キネシースは身体のバランスを崩して、おもいっきり尻餅をついた。

 水溜りに“ばちゃーん!!!”と……尻餅をついたのである。




       *




「あいたたた……」

 両手で腰を摩るキネシース。

「……あ。……ああ? ち、ちょい……これ??」

 その手を腰からお尻に向けた時――キネシースは自分がとんでもないハプニングに遭遇してしまったことに気が付く。

「ち……ちょっとさ! あたしのスカート、濡れちゃったじゃないの!!」

 水溜りに尻餅をついてしまったのだから、当然キネシースの下半身は水溜りの中である。


「あ……。これ……って、占い当たったんじゃね?」

 シルバリは水溜りに尻餅をついているキネシースを見下げて呟いた。


「もー!! あたし、これから朝練に行くってのに……スカートが! ……どうしよう?」

 制服のスカートがずぶ濡れになっている後ろを気にしながら、キネシースが立ち上がった。

「あんた! ちゃんと左右を確認しなさいよ!」

 上目でシルバリを睨み付けながら、……濡れているスカートの中に手を入れて摩った。

 女子なのに端ないのだけれど、キネシースは尻餅をついたお尻が痛かった。

「……お前が1人で水溜りにズッコケて、スカートが濡れただけだろ?」

 そんなキネシースの苦痛も知らずか――彼女のスカート濡れちゃったを冷静に分析したシルバリだった。


「だろうが? 何言ってんの? あんたが路地からヒョイと飛び出して」

「いやいや! 君がヒョイっと水溜りを飛び越えようとしたから」

「そ……そうだけど。ちょ、ちょい! 左右を確認せずに飛び出してくる方が悪いってば!!」

 キネシースはシルバリの顔に右手の人差し指を向けた。

「ちょいと! これ見なさいよー!」

 左手でスカートの裾を指で摘んで、びしょ濡れになったスカートの箇所を彼に見せつける。

「あのさ、俺はズボンが水溜りで濡れても平気だぞ……」

 水溜りで尻餅ついてスカートが濡れたくらいなんなんだ……と、キネシースが怒っている気持ちを全く理解出来ない鈍い男――シルバリ。

「そりゃズボン……だからでしょ? それに男子だし……って、その制服? あたしと同じ高等部?」

 スコープを覗き見るスナイパーの如く睨み付けていた目から、殺気が消えた。

「同じ高等部? お前の制服は……同じ高等部みたいだな」

 鈍い男のシルバリでも、キネシースが自分と同じ高等部だということは、すぐに気が付いた。

「……で、いいじゃないか? スカート濡れたくらい」

 

「だから、よくない!」

 キネシースは濡れたスカートの裾を、両手でギュっと握り絞って水滴を垂らしながら、またもシルバリを上目で睨み付ける。

 ……まったく! 男子って、どうしてこうなのかしら?

 魔法科の授業中に突然雨が降ってきて、女子達は慌てて防水魔法“エイピーズ”で雨を凌いでいた時に、男子は大はしゃぎしてたっけ。

「あのさ、女子は濡れたらさ。その透けて見えちゃう……んだよ。分かった?」

「見えちゃう? ……ああ、パンツか??」

「ちゃう! ブラウス濡れたらブラ透けするってこと! パンツは透けなーい!!」

 絞り終えたスカートから手を離して、ササっとシワにならないように生地を伸ばしながら、目を細めて軽蔑の眼差しをキネシースに向ける。

 ちなみに、高等部の制服のスカートは厚手の黒色である。


「そうなんだ。……でもさ、別に見えてもいいんじゃね? 減るもんじゃないしさ」

「よくなーい! だ、だからさ……スカート濡れてもパンツは見えないってば!!」

「って言うか……お前のパンツを見る奴いるのか? 俺は見たくないけど……」



「いっ、いるわさーー!! あんたも少しくらいは、あ、あたしのパンツを見たがりなさいって!!」



 ……はあ、はあ。

 息切れしているキネシースである。


「……お前さ、落ち着けって」

 シルバリの無神経な返し――いやいや、彼なりの冷静さ?

 まあまあ……と両手を前に出して、興奮しっぱなしのキネシースを宥める。

「ついてないな……。スカートどうしよう。乾かす時間もないし――遅刻確定だし。あたし、泣きそうだよ……」

 その通りに、キネシースの目に大粒の涙が浮かんできた……。

 振り向いて濡れたスカートの箇所を見ているから、瞬きする度に涙が地面の水溜りへと落ちて……。


 大きな波紋を作ってしまう――


「泣くなってば……」

 宥めていた両手を止めるシルバリ。メソメソするキネシースを見て呟いた。

「泣いてないもん……」

 泣いているんだけどね……。

「心配しなくていいって……。俺の風力魔法“ホワックス”で乾かしてやる。それでいいか?」

 メインストリートに出る時に、ちゃんと周囲を確認しなかった自分も悪かったのだろう。

 泣き続けるキネシースに対して、助けの手を差し伸べるべく提案した。

「あんた魔法使えるの? それ早く言ってよ」

 その提案に、素早く反応するキネシース。

「俺は高等部魔法科の2年だ。必須科目で一通りの魔法は習得している」

「……あたしは1年。そ、そうなんだ……。じゃあ、お願いしよっかな」

 泣き顔が徐々に晴れてくる。キネシースの心中は、彼の魔法に藁にも縋る思いである。


「分かった。じゃ、やるぞ!」

 シルバリは小声で呪文を呟く。同時に両手をスカートの濡れた箇所にかざした。


 〜 ~


 かざした両手から淡い緑色の光が発生して、スカート全体をほんわりと包み込んでいく。


 〜 ~ ~


「……ほらっ! 乾いたぞ。これで安心か?」

「……あっ乾いてる!」

 後ろを振り向き、スカートを触り触りして確認する。

「凄い。2年の魔法って……」

 キネシースの表情が一気に明るくなった。

「あ、ありがとうね……。ほんと……」

 少し頬を赤らめている――


 〜 〜


 〜 〜 ~


「……ちょ! あんた! どさくさに紛れて魔法でスカートヒラヒラさせて、あたしのパンツを凝視してんじゃないわよ!!」

 両手で慌ててスカートの裾を抑えたキネシース。

「別に見たくなかったんだけどな……。『あたしのパンツを見たがりなさいって!!』って言ってたから」

「い、言ったけど……。そういう意味じゃ! ……バカ! ……アホ!! もう見るなーー!!」

 頬をいっそう赤らめたキネシースが、上目を向いて彼に言い放つ!

「……まあ、そう……やんやキレるなって」

 シルバリは両手を下す。すると、魔法の光も収まった。

「キレてないよ……。あっ!?」


 キネシースは大事な事を思い出した――


「……ちょい? あたしのパンはどこ??」

「パンツ?」

「じゃなーい!! あたしの朝食のパンだよ!」

 キョロキョロと周囲を見渡すキネシース。しばらくして、

「……あった」

 自分がずぶ濡れになった水溜りに、一切れの物体が沈んでいるのを発見した。

 今日の朝練を乗り切るために、必須のエネルギー源であったであろう――パン。


 濡れていた……。


「あたしの朝食が終わっちゃった……」

「パンなんて買えばいいだろ? 高等部の売店で朝から売ってんだしさ……」

 シルバリも彼女の視線の先にあるパンを見る。

「そうだけど……。売店のパンってふんわりしてないし。甘味も薄いし……」

 スカートは乾いたけれど、朝食のパンはビチョビチョ。メイドの言いつけ通り、ちゃんと起きて朝食を食べていたら……。


 そう思うと、キネシースはまた目に大粒の涙を――


「……だからさ。泣くなってば」

 またも悲痛な表情になり掛けていたキネシースに、シルバリは横目で見つめ一息ついてから、

「だったら、これ! 俺が持参したブラッディ・ジャムだ。これを売店のパンにつけて食べろよ」

 今日のラッキーアイテムをカバンの中から取り出して、彼女の目の前へと差し出した。



「ブラッディ・ジャム!!」



 それを見るなり、キネシースの表情が一瞬で明るくなった。

「高級食材じゃん! しかも、瓶の蓋の紋章を見たら分かる!! これ“城主御用達”のお店でしょ?」

「俺は分からん。今朝、下宿の大家の台所からかっぱらって……まあいい」

 何かを思い出しそうになったシルバリ、慌てて頭をかく。

「これ、お前にあげるから。元気出せって!」


「うわっ! うわっ! ほんとに? ありがとう!!」


 大はしゃぎのキネシース。しかも――おもむろに両手で抱えるように、シルバリの腕を掴んだ。


「……なに?」

「あたし、今から売店でパンを買いに行くからさ! あんたも一緒に来てよ!!」

「……ついていくの? 俺??」

「うん! だって、高級食材ブラッディ・ジャムを持参する男子――あたし気になるもん♡」


 ぎゅー。


 あの、当たってるって。お前の豊満なバストが――


「早く、行こ!」

「あ……ああ」





 ん? あれ?


 もしかして……


 これって、占いハズレてんじゃね?





 終

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