背後には
「バシャッ」と、雨がアスファルトを打ち立てる音よりも大きく、そして鮮明な音が鳴り、青年は植物のようにただ静止していた。そして音が鳴ったことを数秒後に認識する。青年の目の前に2人のAIが居ることがそれを証明している。青年は彼らに見つかったのだ。
「・・・・・・・」AIが何かを話している。青年の耳には何も入らない。青年
の身体を蠢いていたのはただ一つの困惑であった。その刹那に青年の身に何かが起きた。
「あぁ......?」青年の世界が消滅した。
聴き慣れた音がする。悲鳴に似たような、いや悲鳴ではない。何かが破裂しているような、いや破裂していない。その音はどういったものかはわからないが、男を不快にする音であった。
何か柔らかな、そして固い無機質物が男を包み込んでいた。
「............?」瞳を開くと世界は見えない。男の脳には知覚で得た情報しか入ってこない。男は何かに拘束されていた。男にはまるで理性と言うものがない状態である。いやそれはまるで幼児に遡ったかのようでもあった。途端に男は拘束具をいとも容易く破壊し、自身が何か特定の場所に閉じ込められていることを瞬時に理解する。そして男は自身を閉じ込めている壁らしきものを破壊し、外に出た。男は瞬時に自身を取り巻く液体らしきものを感じた。そして取り巻くものに言葉に表しようもない不快感を覚え、必死にそこから立ち去ろうとその空間を歩く。その空間は暗闇であった。光というものが全く男には認識出来なかったが、男はそれすら意識せず両手で暗闇を振り払うように歩く。歩き続ける。男の体力が少しほど減少したころ、光が見えてきた。ほんの微かな光だ。そして男はその空間から脱出した。
男は冷たいものに打たれている。ただ打たれている。特に何も気にしないさまで男はまたもや歩き続けた。光のある場所へと。先刻の空間は男にとって耐え難い空間であったが、その空間を抜け出した男は更なる違和感を感じた。足が重い。歩けない程ではないが、確かに重いのだ。不快感は感じていない。その理由を男は考えることは出来ない。ただ歩き続ける。
すると、男は光と共に激しい音が聴こえた。男は自然に、初めからそうしなければならないかのように耳を両手で塞いだ。そして歩き続ける。光へと。
「...ュ............」男は自身の背後から音が聴こえ、半ば反射的に身を翻し、その場所へと目をやった。何かが転がっていた。紅黒いものがその何かの側に流れている。時間が刻々と経つ度に紅黒いものは流れていく。そしてその紅黒いものが流れ止んだ時に、男はまた光へと身を向けて、歩き続けた。男の背後にあるのは土と水だけである。
Perfect Emotion 久居 薙 @Qu1NAGi
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