Perfect Emotion

久居 薙

特異点

 『糸杉と星の見える道』

この絵画を初めて見たのはいつの頃だったろうか。途方もない昔の頃だった気がする。この絵画を見て唯一感じたものは「」であった。それ以外には何も思い出せない。


 技術的特異点シンギュラリティ。それは人工知能AIが人間の想像力が及ばない程に優秀な知性を得て、AIが人間社会の中心となる事である。僕は父親からそれを教えられた気がする。実際に歴史の授業でも技術的特異点シンギュラリティは2045年に起きたとAIに教えられた。現在は西暦2200年。しかし、その年月から150年以上もの時が経った後、AIは人間社会の中心になるどころか、感情を持ち、人間を支配下に置いたのだ。


 そうして僕たちはAIの支配下に置かれ、労働力としてAIの生活の質を上げるように命令されている。この命令に反したヒトはこの世のものとは思えない程の、技術的特異点を迎える前のヒトのどんな死に方よりも残酷な死に方をする。それは歴史の教科書にも載っており、僕はそれを見て吐いた事もある。その時の担任のAIからは耐える事はおろか、身体中から血が沢山出る程の罰を与えられた。そして今、僕はその学校を退学しており、生きていくための日銭を稼いでいる。


 「あーぁ、今月もこれっぽっちかぁ...。」給料は1万円。これでは今月も先月と同様の生活となりそうだ。

「取り敢えず、もう日も暮れそうだし早く家に帰ろう。雨も降ってきている。」

僕は濡れている荒れたアスファルトをぴちゃぴちゃと音を立てながら、足早に帰ろうとした。


 少し経った後、雨が強まり始め、雷も鳴ってきた。

「酷い天候だ。家が壊れていないか心配だなぁ。」僕はもう走り始めていた。

雷は鳴っている。死という光を降り注ぎに。

雨は降り注いでくる。全てを水に流す勢いで。

その世界に僕は居た。そしてその世界で走っていた。それから逃げるために。

その時微かな声を2つ聞いた。

「こんな酷い天候の中で一体何を話しているんだ?」

僕は4割の恐怖心と6割の好奇心でその声のもとへゆっくりと音を立てずに歩いて行った。すると其処にはAIが2人いた。AIは特殊な格好をしているので分かりやすく、そして僕は2人の話に耳を傾けた。

「おい、早く上に戻るぞ。こんな汚れたの町来たくもねぇ。」

それが全ての終わりだった。



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