第4話 現実

 私は通学路にいた、夜だった。……戻ったの? 私の中に疑いと期待があった。わずかに期待が勝っていた。

 たぶん戻ったと思う。電気のついている家とついていない家がある。これはきっと現実だ。それにここは「あの道」が現れた場所だ。「あの道」はもう見えない。

 私は嬉しくなった。早く帰ろう、帰ってお姉ちゃんとたくさん話をしたい。お母さんとお父さんに元気な顔を見せたい。そして友達にメールを送って学校に行ってたくさん話をしよう。

 私は希望に満ち溢れていた。

 ところで今は何時だろう? スマホで時間を確認する。


「お嬢さん」


 後ろから声がした。私はびくっとしたが瞬時に振り向くなと自分に言い聞かせた。また死んだ世界に行ったら嫌だから。その手には引っかからないぞと思った。

 けれど……なんだろう、なんだかに落ちない。

 そうだ、ここは現実。夜、男の声……。ぞわっとした。危険の文字が頭に浮かぶ。

 男が動く気配がした。私は走って逃げた。全力で、死ぬ気で走った。男が追ってくる気がしたので走りながら叫んだ。

「助けて! わー!」

 大声を出せば誰かが気づくかもしれない。しかし寒い季節だからみんな窓を閉めているだろう。テレビを見ているだろう。私の声に誰も気づかないかもしれない。そう思ったら恐怖と絶望の気配が一気に近づいた。

 足が痛い。普段走らないので限界はすぐに来た。けれど捕まったら殺されるかもしれない。殺されるのは嫌だ、怖い。そして私が死んだら哀しむ人がいる。そんなの嫌だ。だから走る。

 ふくらはぎが痛い。脇腹も痛い。口の中が渇いてしまい声が出ない。スピードが落ちるのが解る。涙が出てきた。どうしてこの水分が口の中に行かないのだろうか。余計なことは考えるな、ただ走れ。逃げるんだ。


 光りが見えた。人だ。

「助けて!」

「どうしたの?」

 私は呼吸が激しく乱れてそれ以上言葉が出なかった。

「麻里!」

 名前を呼ばれた。誰……?

「お姉ちゃん……」

「遅いから捜しに来たよ、お母さんもいるよ」

 これは現実? それとも夢? ……はっ、男は? お姉ちゃんも襲われると思い、私は振り返って後ろを見た。

「いない……」

 周りを見てみたが、誰もいなかった。いつからいなかったのか。

「うわああああ」

 安心したのか、私は泣いてしまった。


 次の日学校と警察に不審者情報を伝えた。

 それからの私は積極的に都市伝説の話をした。同じ目にう人が減るように。

 都市伝説を実行するととても辛くて哀しい思いをする。今周りにいる人たちの笑顔を思い出して、その人たちの存在の有難ありがたさに気づいてほしいと。

 そして現実世界に戻った時の恐怖、本当に死んでしまうかもしれないのだと。


 それでも好奇心が勝つ人もいた。私の言葉では止めることが出来なかった。三年生の男子生徒が都市伝説を実行してしまった。


 男子生徒は哀しみと後悔を痛感していた。そして凶器を持った男に追いかけられている。

「うわああああ……」

 男子生徒は恐怖で顔を引きつらせ、全速力で逃げる。追いかける男。

 助けなきゃ……。そう思った瞬間、光りが見えた。パトカーだ。不審者情報を届けておいたので付近のパトロールをしていたのだろう。

 男子生徒は助かった。警官にすがって泣いていた。もう一人の警官は不審者を追いかけた。


 良かった……。私は安心して力が抜けた。男子生徒はパトカーに乗せられてどこかへ行ってしまった。辺りは暗く、静かになった。


 けれどもどうして私、ここにいるの? あれから夜道を歩くのはやめたのに。

 ああ私、死んでたんだ。いつ死んだのだろう。

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小さい道 青山えむ @seenaemu

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