共生兄弟の未来志向(カタルシス)

朝凪 凜

第1話

「ねぇねぇ、にぃちゃん。暇ぁー。何してるの?」

 目立つ金色の短髪に黒い瞳、背も高くがっしりとした体格なのだが、猫背になりながら机に突っ伏しているせいで、――いや、言動も相まってまだ成長中の若者に見える男が目だけでもう一人の男を追っている。

「……調べ物だ。もう少ししたらおまえにも手伝ってもらうからもう少し待っていなさい」

 机の反対側にいるにぃちゃんと呼ばれた男は対照的だ。赤い髪が肩までまっすぐ伸びており、眼鏡を掛けた顔つきも凛然としていてやり手の営業マン風である。

「えー、それって面白い? それより遊ぼうよー。今目の端に浮いてるニョロニョロを数えてるんだー」

 突っ伏して目を向けていたのはまるで飛蚊症のようなことをしていたようだった。

 見た目は成人しているようなのだがまるでそうは見えない。兄と呼ばれた男はそれを見ても微動だにせず手に持った資料を一つ一つ確認している。

「面白いかどうかはおまえ次第だ。俺は面白い」

 視線を外さずに淡々と答える。まるでいつもそうしているかのように。

「へー、だったらやってもいいよ。それ手伝ったらにぃちゃんも一緒に遊んでくれる?」

「そうだな。これが終わったらどこか遊びにでも――」

 そう提案すると資料を整理しておもむろに資料に手書きで文字を書いて弟に向かって紙をすぅーっと放る。

「おまえにはこれだな。これを片付けたら遊びに行くとしようか」

 放った後に弟の方を見やり、手伝うか確認する。

「わかった。じゃあ早く終わらせてにぃちゃんと遊びに行く! 遊ぶのは外がいいなー。海の外!」

 瞳をキラキラさせて受け取った資料もよく見ずに二つ返事をする。遊ぶことしかもう頭にないようだった。

「よし、じゃあ頼んだぞ。お前が戻ってくるまでにこの整理を終わらせておくから」

 弟に向かってしっかり頷くと、弟は何度も頭を縦に振ってそのまま出かけてしまった。

 受け取った資料をその場所に置いたまま。その資料には人物の顔写真と詳細なプロフィールが延々と書かれていた。


「にーぃちゃんとあっそぶー。にーぃちゃんとあっそぶー」

 手ぶらでスキップをするように駆けていく。資料は部屋に置いてきていた。

「はーやく終わってあーそびーにいーくー」

 端から見れば上機嫌で走っている成人男性だ。

 しばらくそのまま街中を駆けているとようやく立ち止まった。

「あーっ! いたー! さっすがにぃちゃんだ」

 そう言ってその人物に駆け寄って行った。


   *   *   *


「……さて、残りはどうしたものか。今すぐにという訳でもないからしばらくは様子見するか」

 資料を机に広げて視線を落とす。他にも何人もいた。

「あいつにも仕事をさせないとすぐ遊ぶし、無理に仕事させると失敗するし、なかなか難しい」

 ようやく一人になってため息を吐く。兄らしい彼は気を遣って仕事をさせていたようだった。


 30分程度経っただろうか。扉が勢いよく開いた。

「ただいまー! 終わったよー! 遊びに行こう!」

 ニコニコと満面の笑みでドタドタと部屋に入ってきた。

「随分気が早いな。まずは落ち着いて。――今回は失敗していないか?」

 嗜めて椅子に座らせると、仕事の結果を確認する。

「大丈夫、サクッと終わらせてきたし、誰にも気づかれなかった。人を消すのに失敗したり隠すとにぃちゃんが怒られるからねー」

 この話が終わらないと遊びに行けないことを判っているのか、ちゃんと結果を報告した。

「よし、それじゃあここは完了だ。次に行く前に遊びに行くか」

 やれやれと肩をすくめながらも兄の方は満足げだ。

「やったー! それじゃあ海の外、木星の人と遊びたいー!」

「おいおい、この時代はまだ木星人がいないんだから、遊べないぞ」

「えー。じゃあ火星行ってー、観光してー、元の時代に戻って木星に行くー!」

「自由だな、お前は」

 こうして、過去・現在・未来を行き来して間違った未来に進まないようにその時代のキーマンを消して回る兄弟二人の仕事はまだまだ続く。

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共生兄弟の未来志向(カタルシス) 朝凪 凜 @rin7n

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