第4話 真正 〔本物で正しいこと〕
幸せでしたよ。
あの時代に恋愛結婚ですもの。
お互いに戦後の何もない時を経験してますからね。
貧乏も平気でした。
私は身体が弱くてね、あの人の子供を産んであげられなかった。
申し訳ないんです。
あの人に、申し訳なくてね。
産めよ増やせよの時代に、周りの夫婦にはどんどん子供が生まれて
賑やかになっていくのに、私達は取り残されたように二人っきりで。
悪いことしたなぁと思うんですよ。
私なんかと所帯持ったばっかりに…。
あの人も辛い思いをしてたんじゃないかなぁと思うんです。
きっと、おまえのところには子ができないのか?とか、作り方知らないのか
なんてね、言われてたんじゃないかなぁと思うんですよ。
あの人は何も言いませんでしたけどね。
ほんとうに、悪かったなぁと思ってね。
でも、あの人、優しい人でね。
私がこうやって身体が悪いから、いつでも一緒にいられるようにって
家で自転車修理の仕事をはじめてね…。
あの人、ああ見えても、学校出てるんです。
難しい読み書き、計算、学問が好きでね。本だってボロボロになるまで読んでましたから。ほんとだったら、ちゃんとしたところに勤める事だってできたでしょうけど。私が、そうさせなかったんでしょうね。
申し訳ないんです。
あの人に、申し訳ないんです。
わたし、死んだらね。私の事はもう忘れて良い人に巡り合ってほしいと思っていたんですよ。
いつもそう伝えてました。
あの人は忘れるはずがねぇだろう。お前は死なないよ。大丈夫だ。心配するな。
ってね。私が寝込んでもいつでもそばにいて、私の世話をしてくれたんです。
ずっとずっと、いつもあの人に守られて私は幸せでした。
申し訳ないなぁ、、悪いなぁ、、、と思いながら。
あの人の優しさに甘えていたんです。
私は、あの人の自由を奪っておきながら、自分は幸せだなんて思って。
ひどい女でしょう。
自分でも勝手な女だなぁと思うんですけどね。
本当の気持ちを言えば…、もし生まれ変わってもあの人の側で生きていたいと思っているんですよ。
そのぐらい、私はあの人を愛しているんです。
申し訳ないなぁと思いながら。離れられなかったんですよ。
誰にも言った事ないんですけどね。これが私のほんとうの気持ちなんです。
〔完〕
真実 モリナガ チヨコ @furari-b
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