第3話 真面 〔きちんとして正常なこと〕

困りましたね。

あのおじいちゃんが、まさかね。

だからもっと早くに…。

いやいや、もうね、すっごく頑固な人でね、私達の話なんて聞かないんですよ。

耳も聞こえてないし、目も見えてたんだか…

ホコリの積もった玄関に、もう何年も前の新聞紙が積み重ねてあって。

玄関から向こうは見えないほど石油ストーブだのダンボールだの鍋だのって重ねてあって、、、もう何年も人が出入りした気配が無いし。


でも、上がらせてもらえたんでしょ。


玄関入ってすぐ右側に台所があったんですよ。そこまででした。


匂いとか、しなかったの?


いやぁ、しましたよ。それはもう耐えられないほどの。台所だか、便所だか、タバコだか酒だか、焦げだか、腐敗だかわからない匂いが。


だったら…。


でもまさか。


本当に?


いや、、、もしかして、、。とは思いましたけど。

けど、あのおとうさん、他の部屋なんて見せてくれなかったし。汚いし、きみが悪いし。

それに、何を聞いても、まともな答えがかえって来ないんですもん。入れ歯も入ってないから、ふがふが何を言っているのかわからないし。


会話になって無かったの?


う〜ん、、何か答えてるようには思うんですけどね、、わかんなかったなぁ。

こっちが真剣に話しても、きゅうに笑ったりするし。どこ見てるのか、視線もこっちを見てないし。


メガネは?


なかったよなぁ。

入れ歯、補聴器、何も無かったです。

あ、テレビも、昔の、ガチャガチャ回すやつでした。エアコンもなかったな。

絨毯も敷いてないし。

そもそも、おとーさん、服がね…。

ボロボロのきったないの着てましたよ。


何年も着換えもしてない感じ?


そ……じゃないですかねぇ。

だから、匂いも。


保護すべきだったんじゃないの?


いやぁ、わかんないっす。

だって本人からの訴えがないんですもん。

認知症だとは思いますけど、診断されているわけじゃないし。


食べ物とか、どうしてたのかしら。


あ、それはね、、、。


はい。私が、片手鍋になんだか真っ黒なドロドロがあったので、「これはなんですか?こんなの食べてるの?」って聞いたら、なんだかきゅうに怒って、、それ以上は聞けませんでした。

でも、、小さい虫も入っていたし、、。

見えて無いのか、認知症でわけがわからなくなっているのか。

とにかく、話しにならなかったから、出直しましょうか。

って、ね。

私達、帰って来たんですよ。


まさか、こんな事になるなんて…。

あの隣の部屋に、、ミイラがいたなんて…。

きみが悪くてぞっとします。

眠れなくなりそうで…。

明日は有給とらせてもらっていいですか?


………。

今となっては、仕方ないけど、、。

困ったわねぇ。これからマスコミなんかが、行政はどう対応してたんだって突っついて来るわよ。


あのぉ、私も明日からちょっと、有給を…。


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