淫行条例の真実
「嘘でしょ……」
TVのニュースを見てまどかは絶句した。
憧れの竹早先生が淫行条例違反で逮捕されていたのだ。
アナウンサーは淡々とした表情で語る。
「私立○△高校に勤務する竹早久信容疑者を淫行条例違反の疑いで逮捕しました。警察の調べによりますと……」
◇◇◇
河瀬まどかは恋をしていた。
その相手は同じ学校の男子生徒ではなく、担任教師の竹早久信だった。
竹早は真面目でお堅い数学教師だ。
普段は厳しく怜悧な雰囲気を纏っているが、時折見せる笑顔のギャップがまどかには堪らなかった。
恋をしたら一直線のまどかは何度も竹早にアプローチをした。
竹早はまどかの事を甘えたがりの子供のようなものだと捉えていたが、徐々にその情熱が本物である事に気づき戸惑った。
他の生徒の前で腕にしがみついてきたり、背中に寄り添ってきたりと、まどかの愛情表現はスキンシップの枠を超えていた。
次第に竹早とまどかが交際しているのではないかと噂が流れるようになる。
竹早は事実無根の噂話にストレスが蓄積されていった。
◇◇◇
まどかは竹早から屋上に呼び出されていた。
(もしかしたら連日のアタックが実り、わたしの思いが通じたのかも!)
まどかは内心、期待に満ち溢れていた。
遅れてやってきた竹早は表情が冴えなかった。
まどかに対してどう話を切り出そうか悩んでいたのだ。
竹早はまどかの真意を図りきれていなかった。
ただ、担任教師をからかう小悪魔的な女子高生なだけなのかもしれない。
これから自分に向けられる過度な愛情表現についての理由を問いただすつもりだ。
そんな竹早の疑問に、まどかは堂々と答えた。
「わたし、竹早先生のことが好きなんです!」
「そ、そうか。それはどうもありがとう」
「もうこの思い止められそうにありません! わたしと付き合ってください」
「……河瀬。残念だけどそれは出来ない。僕は担任教師だし、君は教え子だ。教師たるものすべての生徒たちと公平に接しなければならない」
「わたし、先生の特別になりたいんです。他の子と同じその他大勢だなんてもう我慢出来ないんです。竹早先生! どうかわたしのこの気持ち受け止めてください」
真剣な表情で訴えるまどかに、竹早はこの告白が本気であることを悟る。
気持ちはありがたいが、教師と生徒の関係だ。
初めから自分にその気はない。
しこりを残さぬよう毅然とした態度をとらなければならない。
「ありがとう河瀬。君の僕に対する好意が本物であることは分かったよ。けれど残念だがその気持には応えられない。僕は教師であると同時に一人の成人男性だ。そして君は生徒であり未成年の少女だ。そんな二人が交際したらどうなるか分かるかい?」
「えっと……たしか県の淫行条例に違反するんですよね。調べました」
「そのとおりだ。君はお咎めなしだが、僕は間違いなく懲戒免職、最悪の場合は逮捕されてしまうだろう。そうなれば社会復帰も容易ではない。僕だけではなく両親や兄弟、親戚や友人にまで多大な迷惑をかけてしまう事になる。分かるかい?」
「……はい」
竹早の言葉にまどかは意気消沈した。
たとえ自分の恋が実ったとしても、これでは大好きな竹早が破滅してしまうことになる。
まどかは下唇を強く噛んだ。
その辛そうな表情に、竹早は自分に対する強い気持ちを知ることが出来た。
「わたし……諦めたくないです。先生のこと本当に大好きだから」
「河瀬……」
「でも先生の事がなにより大切だから、先生の迷惑になるような事はしたくありません。今回は諦めます。……私が高校を卒業して、18歳になったらもう一度告白しに来ます。その時は生徒と教師ではなく、ひとりの「河瀬まどか」という女性として、交際相手にふさわしいか判断してくれませんか」
「ああ……分かったよ。その時が来たらもう一度考えてみるよ」
竹早が屋上を去ってから、まどかは滂沱の涙を流した。
生まれて初めての告白は玉砕で終わった。
だが、まどかは諦めない。
高校を卒業するまでに少しでもいい女になって、必ず竹早を振り向かせてみせる。
まどかは将来に対する希望を抱いて前向きに生きていく事に決めた。
◇◇◇
「私立○△高校に勤務する竹早久信容疑者を淫行条例違反の疑いで逮捕しました……」
TVからはニュースが流れ続けている。
まどかは大きなショックを受けていた。
竹早先生は自分の告白を断ったのにも関わらず淫行条例違反で逮捕されたのだ。
つまりわたしがフラれたのは未成年だからではなく、ただ単に魅力がなく、自分の好みではないからという事か。
わたしを傷つけないように、生徒と教師の関係だから交際は出来ないなんて嘘をついたのだろうか。
竹早の優しい嘘は、まどかを大いに傷つけた。
更にこのあと流れるニュースの続きを聞いて、まどかは開いた口が塞がらなかった。
なにこれ……。
こんなんじゃ初めから、わたしにチャンスなんて無かったじゃない!
「警察の調べによりますと、竹早容疑者は自身が勤務する高校の男子生徒にわいせつな行為をした疑いが持たれています。警察は余罪が複数あると見て取り調べを続けています……」
サクッと読める短編集 公血 @cotee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サクッと読める短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます