二服目 【新潟県の遊び】宝取り

 新潟県の遊びを紹介しましょう。

 といっても、新潟県全体ではなく、私が育った街限定での遊びだろうと推測します。

 しかも、小学生男子による相当危険な遊びなので今は行われていないと思われます。


 遊びの名前は「宝取り」です。私たちは通称「たから」と呼んでいました。

 体育館ならバドミントンコート一面を使います。グラウンドなら、バドミントンコート相当の線を小枝で引いてやります。ただし、グラウンドだと、すり傷や服の汚れを覚悟しなければいけません。体育館でも、激しく床に叩きつけられることによる打味、酷い場合は捻挫や骨折をも覚悟しなければならない危険な遊びです。私の記憶では、私の身の回りで酷いケガをしたりさせたりした覚えも、それによって宝取りの遊び自体が禁止になることもなかったのですけどね。


 ルールです。

 偶数人数が集まって(大体20人前後でした)、同じ力量同士でグーパーじゃんけんをして二つのチームに分けます。バドミントンコートの真ん中の線を境界にして二つの陣地に分かれて敵味方が対峙します。コート内は両足を付いて立っていて構いませんが、線を踏むと死にます。また、相撲と同じで、足の裏側以外の体の部位が床に触れると死にます。死ぬとそれ以上戦いには参加できずコート外で戦況を見守るしかありません。


 二つの陣地の対角線上の角にある四角いスペースが宝になります(バドミントンのシングルス用のラインとダブルス用のラインがつくる□です)。相手の陣地に入って行って、相手の足が誰も踏まれていない状態で□を踏むと“宝を取った”ことになります。

 ということは、コート内では敵味方入り乱れて相撲のバトルロイヤルみたいなことが行われるわけです。相手につかみ掛り、押し出す、投げるの応酬が繰り広げられます。そして、必死に□に足を踏み続ける敵の足を持ち上げたり、外に押し出したりしながら宝を取るわけです。


 しかし、コート内での戦い(通称「突っ込み」)は、この宝取りのゲームの最終盤でのことであって、序盤~中盤は別の戦いを繰り広げます。

 相手コート内に侵入するためには、バドミントンコートラインの任意の“入口”一ヶ所から、と決められており、その入り口にたどり着くには、バドミントンコートラインの外側を“片足ケンケン”で移動しなければいけないルールになっています。そのコートラインの外側での片足ケンケンのエリアで序盤~中盤の戦いが行われるのです。つまり、コート内で宝を守る兵数を少なくするために敵味方お互いがコート外で片足ケンケンの状態でつかみ合い、倒したり、両足を床に付かせて殺し合います。基本、コート外での戦い方はタイマン勝負の1対1と決まっています。

 

 敵味方お互いにエース級の兵士がいます。その兵士をコート内で守らせるのか、コート外で相手兵士の多くを殺すのか、両軍の作戦がモノを言います。コート外に相手のエース級が出てきた場合には、自軍の弱小級の兵士を向かわせて抱き着いて自爆させる等々も作戦として存在します。


 というように、たかが男の子の遊びなのですが、そこには体力勝負があり、作戦があり、弱い者が強い者に立ち向かっていく勇気があり、弱い者が強い者と共に自爆もしくは時として逆転して勝つことによって得られる称賛等々があるステイタスゲームでした。


 宝取りの一番の醍醐味は、コート外でのタイマン勝負でしたが、私もオリジナルの技を編み出して数々の武勲をあげました(笑)それは、相手の上半身を左にねじると同時に相手の床に付いている方の足を右に払う技で、相手を床に激しく横倒しにすることができました。

 しかし、その技を遥かに超える必殺の技がある男子によって編み出されました。それは、相手の上半身を両手でつかんで固定した状態で相手の床に付いている方の軸足の膝を上から足で押すという技でした。この痛みに耐えられる人は誰も居ません。誰もが痛みに耐えかねて両足を床に付いて死んでいきました。


 この必殺の技を繰り出すことによってコート外で次々に敵兵士を殺すことができましたが、可笑しいかな、この技の出現によって宝取り自体の面白みも失われていって、ついには、この遊び自体を誰もやらなくなったのです。


 小学生の頃は、なんとも思いませんでしたが、その後、成長していく過程で世の中のいろいろな風に当たることで、万能なアイテムは、その実、面白みに欠けることでもあることをこの宝取りの必殺技と相まって知っていった訳であります。



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雁金雑記 焙じ茶 @houjichaaa

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