金ライオンの檻に閉じ込められた三兄弟

ちびまるフォイ

恥ずかしくて生還した理由は言えない

3兄弟が気づくと、目の前には『100万つかみ取り!』と書かれた看板があった。


「まじかよ! すげぇ!」


透明な箱から中にお札がたくさん入っているのが見える。

箱にはそれぞれ「長男用」「次男用」「三男用」と書かれている。

どうやら長男が次男用のつかみ取りの箱に手を突っ込むことはできないらしい。


欲深い長男は、箱に入っている100万円すべてを引き抜いた。

次男もできるだけ拾おうとして90万を掴み取った。

三男は手が小さいので頑張っても60万しか手に入らなかった。


1度お金を抜くとつかみ取りの箱は自動でフタがしまってしまった。

もう一度手を差し込む気まんまんだった三男はがっくり。


「さて、兄さん。ここからどうすれば出られるのかな」

「おい見ろ。ドアの開閉ボタンがあるぞ」


長男は壁に埋め込まれている赤いボタンを見つけた。

『開く』と書かれたボタンを押すと、壁がせり上がった。


壁の向こうにいたのは、おそろしき猛獣だった。


「か、かねライオンだ!!!」


お金を主食とする金ライオンは、100万を持っている長男の匂いを嗅ぎつけあっという間に八つ裂きにしてしまった。

血溜まりに倒れる長男を見て次男は叫んだ。


「はやく! もう一度ボタンを押せ!!」


次男の声に三男は開閉ボタンを押した。

金ライオンはふたたび壁に阻まれて見えなくなった。


「……見たか?」


「うん。長男が金ライオンに……」


「そうじゃない。金ライオンが入っていた部屋の向こう側だよ」

「え?」


「外に出るドアがあったんだ」


「それじゃ金ライオンを解放してからじゃないと、外に出れないってこと?」


「……ああ」


絶望的な顔をする次男と三男。

そうこうしている間に、どこからかブブーとブザーが鳴った。



《10秒経過しました。ボタン押せる人は次男から三男へ移ります!》



「な、なんだ!? どういうことだ!?」


次男はわけがわからないと、開閉ボタンを何度も押した。

しかし壁は動かない。


「次男兄さん、どうやらボタンを押せる人は長男から次男、そして三男の順になるみたい」


「制限時間あるなんて知らなかったぞ!」


「今はボクしかこの扉を開けられないみたい」


「ようし、それじゃ合図をしたらボタンを押してくれ。

 壁が上がったら俺が猛ダッシュして外へ出る。俺が脱出できたらすぐに壁を下ろすんだ」


「うん。わかった」


次男と三男は綿密にタイミングを合わせ、ボタンを押して金ライオンの壁を上げた。


「いまだ!!」


次男は閉じ込められていた金ライオンの横を猛ダッシュ。

金ライオンは残された2人の匂いをかぐ。


そして、90万を持っている次男を狙って鋭い爪で斬り裂いた。


「ぎゃあーーー!」

「次男兄さーーん!!」


三男は慌ててボタンを押して金ライオンを閉じ込めた。

部屋には自分ひとりだけとなった。


「もうダメだ……」


どうせボタンを押して金ライオンを突っ切って外に出なくてはいけない。

でも自分ひとりしか残っていないから金ライオンは三男をすぐ狙う。逃げられるわけがない。


三男はその場で舌を噛み切って自殺した。



 ・

 ・

 ・


「こ、ここは……?」


3兄弟がふたたび目を覚ましたのはさっきと同じつかみ取りの部屋だった。

100万円が入った透明な箱と、金ライオンを解放するボタンが壁に見える。


3兄弟は真っ先に金のつかみ取りに走った。

脱出できるかどうかは別として、とりあえずお金はほしい。


長男は欲深いのでやっぱり100万円全部を手に入れた。

次男は遠慮して50万にした。

三男は手が小さいので60万円しか手に入らない。


「みんな、今度は一気に行こう。金ライオンの扉を開けたら3人で突っ切るんだ」


と長男らしい勇敢な提案がされる。


「……そうだね。一度、外に出るためのドアまで向かおうとしたけど

 距離があって1人を囮にしても間に合いそうもない。囮は2人必要だ」


「それじゃ、この3兄弟の中で助かるのは1人ってこと?」


「そうなるな……」


3人は覚悟を決めた。

最初のように長男が開閉ボタンを押した。



《ブブー。今度は次男からボタンが押せます》



ブザーが鳴るばかりで金ライオンの扉は開かない。


「兄さんは死んでたから知らないかもだけど、

 どうやらこのボタンは年上から順に押すルールみたいなんだ」


「だったら長男のオレが最初なんじゃないか?」


「さっきは長男スタートだったから、次は次男スタートなのかもしれない」


「どうでもいいから早く押してよ」


三男は壁が開くなり猛ダッシュするための準備運動をはじめている。

次男はボタンに指を向けた。


けれど、その指先がボタンに辿り着く前に気づいてしまう。



(これ……俺も死ぬんじゃないか)



もし、次男がボタンを押して金ライオンの壁が解放されたとする。

壁の前に控えている長男と三男は最高のスタートダッシュを切るだろう。


そして、100万持っている長男はやっぱり殺される。


そのあと金ライオンの標的はどうなるのか。


ボタンの近くにいる次男のが金を持っているが、

金ライオンに近いのは脱出しようとしている三男。


きっと脱出ドアに辿り着く前に食べられてしまうだろう。



長男と三男が死んでしまったら金ライオンの時間稼ぎはできない。

2人分の生贄がなければ脱出することなどできない。


でも、最後に残されたのは次男の自分だけ。


長男と三男を失った状態で取り残されても脱出などできやしない。

いったいどうすれば……。



《10秒経過しました。ボタン押せる人は次男から三男へ移ります!》



「もう兄さん! いったい何をやっているんだよ!」


ごちゃごちゃ悩んでいたため次男はタイムアップ。

ボタンの権利は三男へと変わってしまった。


三男はボタンを押そうとしたが、やっぱり手が止まる。


仮にボタンを押して金ライオンを解放して狙われるのは、

100万を持つ長男、60万を持つ三男、そして50万を持つ次男。


生きて金ライオンを突っ切るには2人の生贄が必要なのに。



《10秒経過しました。ボタン押せる人は三男から長男へ移ります!》



「お前だって押せてないじゃないか!」

「うるさいな! 考え事をしていたんだよ!」


今度は長男がボタンに近寄るが同じように手が止まった。


「もう、このままボタンを押す必要なんて無いんじゃないか。

 きっと外でオレ達を探している人もいるはずだろ?」


「そう言われれば……」

「どうして自分たちの力で脱出しようと思ってたんだろ……」


「ルールに誘導されて相手の思うつぼになるのはやめよう。

 金ライオンを解放せずに、ここで大人しく救助をまとう!」


「そうだね長男兄さん!」

「助けが来れば100万が3つも手に入りそう!」


三兄弟は固い絆を結んだ。



《10秒経過しました。誰もボタンを押さなかったので、毒ガスが出ます!》



「「「 え゛っ 」」」


 ・

 ・

 ・


次に目を覚ますと、また同じ部屋からの再スタートだった。

ついさっきまで毒ガスで皮膚がドロドロと溶け出した地獄絵図の痕跡もない。


「もうこんなの辞めてくれ! 待っていても助からないし、

 外に出ようとしても金ライオンに食われるじゃないか!!」


長男は繰り返される死のループに精神は限界へと達していた。


「自殺をしてもこの部屋から出ることはできない!

 ひと思いに殺される方がマシだ!」


次男も限界だった。

何度も臨死体験を繰り返して人間がまともでいられるわけがない。


そんな中、三男はいきなりボタンを押した。


「お前なにやってるんだよ!?」

「合図をしてからボタンを押せといっただろう!?」


壁がせり上がり、獰猛な金ライオンのグルルという唸り声が聞こえてくる。

もはや三男は精神が破壊されて正常な判断ができなくなったのだろう。


「グアアアアアーー!!!」


ついに解き放たれた金ライオンが襲いかかった!!

大きく口を開けて鋭い牙が突き立てられる。

刃のような爪で何度も、何度も切り裂かれた。





そうして、100万円の入っている箱がズタズタにされている間。

無一文の3人はあっけなく金ライオンのドアから外へ脱出したのだった。

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