現代社会に蔓延るブラック企業と、今流行りの異世界転生を掛け合わせた、ウィットに富む短編ファンタジー。
退職代行業というお仕事は、辞めたいのに辞めさせてもらえない人が駆け込める最後の砦のようなもので、ブラック企業に搾取され疲れ果てた依頼者の代わりに悪の企業と戦ってくれる存在です。
この物語は、退職代行業を営む弁護士・丸沢弘樹氏の元へ、女神を名乗る女性から依頼の電話来たところから始まります。最初は妄想かイタ電かと聞いていた丸沢氏ですが、彼女が引き合いに出した話を聞いて放っておくことができなくなり――。
暴虐な神相手だろうと筋を通す丸沢氏の人物像が、とても魅力的です。
オチまで綺麗にまとまっていて面白く、ためになる情報も得られる短編、ぜひご一読ください。
退職代行の会社に女神が「辞めたい」と電話を掛けてくる。
まずこのぶっ飛んだ設定だけで物凄く面白い。
そして女神ソフィが話す神界の話は、まるで人間の世界にも似ていて。
現代社会に対する風刺も、昨今の異世界転生に対する風刺も効いていて、読んでいてうんうんと何度も頷きました。
私が『退職代行』の話を聞いたときの感想は「そんなの自分でやればいいじゃん」だったのですが、この作品に出てくるブラック企業(?)があまりに酷くて、「こりゃあ退職代行もいるわ」と考えが改まりました。
そうなるほどに、この物語はとてもリアルなんです。女神が「辞めたい」と言って来て、一般人が神を相手取って交渉するだなんて荒唐無稽にもほどがある発想と構成なのに、軸は退職代行会社のリアルを描いたいわゆる『お仕事もの』というやつなのです。
だからこそ、主人公:丸沢の発言や行動が胸を打つ。刺さる。神とのバトルに胸が熱くなる!
退職代行ってこんなに胸が熱くなる仕事だったんだ……と感動しました。
『異世界転生もの×お仕事もの』と言う異色の組み合わせ、どうぞご覧ください。