名誉毀損AI

@HasumiChouji

名誉毀損AI

 切っ掛けは、ふと、自分が小説投稿サイトに投稿した小説のタイトルでググってみた事だった。

 それが、あの悪夢の始まりだとは思わずに。

 あるtwitterアカウントが俺の小説についてtwをしていた。

 だが、何故か、そのtwitterアカウントは「小説分析AI」を名乗っており……しかも、どうやらbotらしかった。

 そして、俺の小説に言及されたtwを見ると……。

「作者は二〇代後半〜三〇代前半のフリをしているが、実は四〇代後半の可能性が高い」

 おいっ‼

 もう、これ以上調べるな、と云う俺自身の心の奥底からの警告を無視して、俺の十八禁モノの小説についても、言及していないか調べてみると……。

「作者の女性経験は風俗のみである可能性大」

「作者は初体験で何か恥かしい失敗をやって、それがトラウマになっている可能性大」

 ふ……ふ……ふざけるなぁっ‼

 通報だぁっ‼


「申し訳有りませんでした。何年も前に実験で作ったAIが、まだ、動いていて、投稿を繰り返していたようでした」

 僕は、相手の小説のコメント欄に謝罪コメントを書き込んだ。

 僕が作ったAIは、文体や描写から、作者がどう云う人物かを推測する機能を持っていた。

 謝罪に対して返ってきたのは……罵詈讒謗だった。いや、そうなるもの当然だし……悪いのは、こっちだが……。

 やらなければ良かったし、その時にも、「やるべきではない」と云う自分の中の理性の声がしたのも確かだ。

 しかし、僕は、好奇心に負けて、相手が書いた小説と、相手から返ってきた罵詈讒謗を、今回、騒ぎを起こしたAIの「子孫」に当るAIに食わせてみると……。

「やるんじゃなかった……」

 その興味深い結果が正しいかを確かめたい、と云う誘惑に、僕は勝てなかった。


「な……なんですかっ⁉ 男が男にストーカーやってるんですかっ‼ そもそも、あんた、誰っ⁉」

 仕事が終って職場近くの内科の病院に行った帰りに、俺は、そいつの尻尾を掴んだ。

 見ず知らずの、三十前後の気の弱そうな男だった。

「あ……あの……古川リョウ先生ですか?」

「ま……待って……何で、俺のペンネームを知ってるの?」

「twitterもやられてますよね? そのtwから身元を推測しました」

「そんな事、出来る訳が……」

「いや、十年ぐらい前に、あっちこっちで誹謗中傷を繰り返してたネトウヨが被害者に身元を特定された事が有りましたよね。あの時のやり方を参考にして……」

「そ……そんな馬鹿な……」

「まぁ、あの頃に何人もの人間で地道にやってた分析なんかは、最近だと、AIに解析させれば何とか成りますので」

 おいおい、もう、そんな時代になってたのかよ……。

「あ……あの……まさか、俺のファン?」

「いえ、以前、御迷惑をかけたAIを作った者です」

「待って、何しに来たの?」

「ウチのAIに先生の十八禁小説を解析させたら、興味深い結果が出まして……」

「どう言う結果?」

「いや、さっき、先生が出て来られた病院って……EDの治療もやってましたよね?」

「おい、待て、何が言いたい?」

「いや、最新版のAIに先生の小説を解析させたら『この作者はEDによる欲求不満を小説で解消している可能性大』と云う結果……うわぁっ‼」

 ……理不尽な事に、現在のストーカー規制法では、「恋愛感情によるもの」のみしか「ストーカー」と見做されないらしい。

 結局、奴は警察で絞られたらしいが無罪放免。

 俺だけが暴行罪で収監される羽目になった。

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