エピローグ過「クイーンズジャック」

 ――2018 両目 9/11 0時或いは24時


 女王がその子供に目を付けたのは。

 桁外れの輝きを秘めていたから。

 夏休みのパーク、かつて女王の間と呼ばれた立入禁止区域。

 そこに珍しく怪しいことにヒトが訪れた。

 職員の恰好をしていたが彼らはカタギではなかった。

 おそらく女王の力を求めにやって来た犯罪組織。

 力を蓄え潜んでいた女王はその中の子供が目に入った。

 場違いなけれど家族旅行ならパークに紛れる。

 マーキングのアイディアはそこから得た。

 子供の髪に緑に染めた、パークでは不思議ではないから。

 そして完全なるヒトのコピー計画。

 その副産物に子供の元へ行くよう仕向けた。

 ……そんな2000年前のことを女王は思い出していた。

 目の前にいるあの時の子供を呼びながら。


 『起きているか、観測者オブザーバー。』


 呼び掛けにポッドとバリアに守られた茗粥は目覚めて。

 驚愕に両の目を染める。

 目の前に女王がいたこと以上に。

 深海に沈んだ箱庭に広がる星色に発光する街並みに。


 「これは、パークのセントラル?」

 『ダイオウの真似事だがな、私とお前の世界が殺風景というのも寂しいだろう。』


 再現された風景に見惚れていたが。

 当然の疑問に帰結する。


 「貴女がハンナ達が言ってた女王? 完全なるヒトを再現した時点で消えるって聞いてたけど。」

 『あぁその私は確かに消滅したな、ただ私という胤はいくつか保存してあったまでだ。研究所のデータ、或いはむこうがわの映画に。お前達の働きは想像以上だった、【未来】という輝きのもと七体の共鳴によるバリアを再現してみせた。それは逆説的に私という存在を証明した、バリアがあるということはその中心には私がいるということだ。』


 ヒトの認識は世界に反映される。

 観測者がただ一人の隔絶した箱庭なら尚更。


 『世界の時間は修正された、ただ一ヶ所ここを除いて。過去9/11である箱庭は最早未来9/26である地上に脅かされない、永遠の9/11クイーンズジャックは今ここに成された。』


 かつて果たせなかった宣言を。

 唯一の立会人は戸惑う。


 「どうして、自分なの?」

 『お前の【テクスチャかがやき】は永遠に残すに値すると判断した、それだけのことだ。』

 「……そっか。」


 納得した、ように微笑む。


 「ハンナが言ってた、雄である自分のことをワタシわたしって言うのは女王に対する宛て付けだって。だから自分はタイムパラドックスのアイディアと物語をあげたけど、最初から貴女は見てくれていた。」

 『ただ都合がよかっただけだがな。』

 「それでいい、こんな自分の我が儘に永遠に付き合わせるのはそんな動機あいで。」


 聞かせたい物語があるんだと言った。

 家族に愛される理想の少年の肖像かお再現テクスチャし使っておいて。

 言う勇気もなく貴女の仕業と思い込ませてしまう悪い子の。

 ……貴女は気にしない、そう分かっているから。

 愛されたがるズルい自分がいてもいいって思えるんだよ。

 それで音読を始める。

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クイーンズジャック 図書記架 @tosyokika

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