猟犬継承

本日は二話更新(2/2)









 落とした大楯の表面で弾んだ弾丸が右肩に突き刺さった。


「……」


 痛みよりも先に驚きが来た。

 ハルトと子号が驚いた様子で僕を見てくるが、僕の方が驚いていると言う自覚がある。

 直接狙わずに跳弾での一撃だった為、気付くのが遅れた。随分と久しぶりに身体の中に弾丸を入れたな、そんなことを思いつつ、痛みに軽く顔をしかめる。地味に痛い。

 足元……と言うには少し遠い場所で気絶をしている我が子を見る。

 同じ様に左肩を撃ち抜いたのに全力疾走をしてみせたワンパクさんだ。我が子ながら少し、どこかおかしい。この状況で走り寄ってくるとか、あたまおかしい。きっとE.Bに似たのだ。

 そんな我が子の身体が呼吸に合わせる様に上下しているのを確認して、さて、と一息。


「……子号、これをやってくれた子と通信を繋ぎたい」


 出来るか? の問い掛けに、再起動。ルド直伝の紫電掌で中型モノズのボディを焼き切ったハルトに周囲を警戒させたまま、ぴぴ、と瞬く。数瞬。コードが送られてくる。


「……撃てるようになったんですか?」

『どうかしら?』


 少女の声。予想はしていた。いや、いなかった。出来る可能性があるのが彼女だけであり、それでも彼女には出来ないことのはずだった。だから意識から彼女は外していたのだが……その結果がこれである。

 こんな時代でも、人を撃てないと言う人は一定数いる。

 環境が人を造るとは言っても、限度があるのだろう。

 僕も何人か知っている。それは例えばツリークリスタルの研磨を生業とする古い友人だったり、このハウンドモデルを造ってくれた友人だったりする。

 彼女もそのはずだ。

 どうしようも無く成ったら撃てる。

 その程度なら、撃てると僕は判断する。

 どうしようも無くなっても、撃てない。そう言う種類の人だと思っていたのだが……まぁ、所詮は僕の主観。元より撃てたのか、撃てるようになったのか、撃てるようになってしまったのか、その辺りは分からないが、取り敢えず、今。僕の利き腕は彼女によって穴が空けられていると言うことだ。


『わたし、その人のこと好きなの』

「そうですか。それはそれは――」


 趣味が良ろしいことで。

 我が子ながら、中々の眼付ですよ、これは。


「愛のパワー、と言う奴ですか?」

『……お義父さんのこと、初めておじさんっぽいと思ったわ』

「……」


 おっと、二発目ですね?

 銃声も聞こえてこないのに胸が痛いです。


『それに、撃ったのは盾よ?』

「……中々の屁理屈ですね」


 狙って、撃った。マグレではなく、確信をもって当てている以上、それは無理だろう。


「……一応、聞きますが、何故盾を?」

『……こうしないと当たらない気がしたからかしら?』

「そうですか」


 良い勘だ。当たらない気がした、当たる気がした。この感覚は狙撃手にとっては大切な物だ。「……」。多分。余り賛同は得られたことは無いが。


「撃てないと言うのなら、続きを――」

やるの・・・?』

「……」


 どこか挑発する様な声音。それに合わせて、とす、と砂を蹴る音が聞こえた。「……」。何時の間にここまで近づいていたのだろう? 素直な感嘆と共に、苦笑いが浮かぶ。

 身体能力が落ちた。だから彼は引退した。それでも培った技術はまだ錆びて居ない。ハルトでは、ここまで見事に気配を消しての隠形は未だ無理だ。

 右目に傷。

 纏うは紫電。

 倒れたナナシを庇う様にルドがお座りをしていた。

 舌を仕舞ってのきりっ、とした表情。真っ直ぐにこちらを射抜く黒い瞳は“止めとけ。お前は間違ってるから”と言っている様だった。それを見て、ヴ、とハルトが喉を鳴らす。それは戦場に居ないはずのモノに対する糾弾の様なモノだったのだろうが――

 ヴ、とルドが応じて、空気をヂッ、と焦がしてみせれば耳が、へたん、となってしまった。


「ハルト、良い」


 言って、僕も手に持って居た自動拳銃を放り投げて「降参です」。戦闘状態にある他のモノズ達にも引く様に指示を出した。


「僕の負けだ」

『ありがとうございます。……でも、言い方、変えて下さい』


 言い方? あぁ――


「君の勝ちだ」

『まだ』

「……君達の勝ちだ」


 これで良いですか?


『えぇ、それで』

「……これは完全に善意なのだが、人を撃てないなら傭兵は本当に止めた方が良い。そこを突かれる。突かれて、終わる」

『武器を撃つようにするわ』


 丸腰で戦い続けようとする人なんていないでしょ? とお嬢さん。「……」。何となく。銃を吹き飛ばした後も変わらずに突撃してきた我が子を見る。


「腕が無いとキツイですよ、ソレ」


 まぁ、少数派だろう。こういうあたまおかしいのは。


『? それなら大丈夫じゃないかしら?』


 だって――


『わたしの才能、男を狂わせる程よ?』

「……そうですね」


 負けました、と本日二度目の降参を一つ。

 少なくとも、僕は負けた。猟犬、英雄。そう呼ばれた僕は既に彼女に負けた。

 不意打ちだった。意識から外していた。結局は生きている。統合すれば負けとは言い難い。それにこの状況でも、僕は彼女を殺せる。殺すだけなら出来る。

 それでも負けで良いだろう。


「治療はしてお――あぁ、いや。一度家に戻ってくれ。その方が治しやすいので」

『えぇ』


 わかったわ、の言葉を終えて通信終了アウト


「子号、未号を呼んでくれ」


 言って、ナナシに近づき、漁る。携帯端末を抜き出し、ロックを解除。自分の誕生日をパスワードにする防犯意識の低さが伺えてとても良いことだ。音声メモを立ち上げる。「あー」と発声練習を一回。


「ナナシ。僕の負けだ。あぁ、いや。君達の勝ちだ」


 そして――


「彼女は人を撃った・・・よナナシ」

「君の宣言通りに君が彼女を英雄にした」

「良いか?」

「君が撃たせた。忘れるな。絶対にだ」

「君が彼女の人生を歪めた」

「だからこれは親として、傭兵の先達として、英雄と呼ばれた者としての命令だ」

「嘘を吐きとおせ。世界を騙し続けろ。君が彼女を英雄とし続けろ」


 一息。


「以上だ。勝った君達に祝福を。猟犬の名は、君達のモノだ」







あとがき

取り敢えず書籍の発売に合わせて開始した末若様のお話はお終いです(一部)。

開始の理由が理由なので、ここで続刊の話とか出来れば良かったんですが、未だね! 何も言えねぇ!

出ないとも、出るとも言えない!!


そんな訳で一旦、完結。

脳内に書籍用の終わりプロットと、コレ用の終わりプロット用意したけど、書籍の方がどうなるか分かんないですからね。

続刊できたら素直にコレ用をコレに使います。

打ち切られたらちょっと迷って、多分混ぜます。


どっちにしろ、何時になるか分かんないから完結表示にさせて貰いました。

立てねぇーってなるかもしんないし。


コメント、ブクマ、評価、そして誤字報告、本当にありがとうございます。

励みになったり、大変助かりました。


そして一応、宣伝。

おとんが猟犬を継承した時の話がオーバーラップ様から発売中です。

宜しければお手に取ってみて下さいませー。

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Doggy House Hound(s) ポチ吉 @pochi

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