おまけ〈ユリ・オブ・ザ・ダークネス〉

 とある昼休み。

 今日は学食で鬼島さんとご飯。


 長机の向かいでチャーハンをつついているのが鬼島さん。

 すらりと背が高くて、ショートヘアと小麦色の肌からはスポーツ男子のようなボーイッシュな感じを受けるけれど、そのどれもが整っていて――

 笑うと花のようにかわいらしい。


 鬼島さんが「そうそう」と口を開いてつづける。

「ひとみさんさ、ユリ・オブ・ザ・ダークネスって知ってる?」


 ユリ・オブ・ザ・ダークネス。

 知っている。

 ヒロインの女の子が悪魔的な何かで、血反吐的な何かを吐きながらも、神聖な感じの敵的な何かと戦いながら、勉強と友情と恋愛――主に同性――にがむしゃらに向かい合ってぶつかっていくバトル漫画だ。

 ちょっぴりバイオレンスで、独特な雰囲気を持つ作風のため、堂々と好きだと言いづらい作品としても知られている。


「知ってるけど、どうしたの?」

「わたしね、自分が恐がられてるって知ってから、ホラーに耐性ありそうな人を探して触ってたんだ。それで、ユリ・オブ・ザ・ダークネスってちょっとホラーっぽいところがあるから、昨日ひとみさんが見たようにそれのファンらしい子に触ってみたんだけど、ご存じのようにダメだったんだよね」


 わたしは昨日、鬼島さんの秘密を知った。

 触ると相手に恐怖の感情を抱かせるらしい。

 ――「らしい」というのは、わたしがそれをわからないからだ。

 わたしがロボットのせいだと思う。


 でも、そのおかげで鬼島さんと仲良くなった。

 それから、鬼島さんをもっと知りたいと思うようになった。

 今度、鬼島さんの家に遊びにいくことになっている。

 鬼島さんの家の庭には、栗の木があるらしい。


 それからわたしは楽しみで、頭の中が栗でいっぱいになっている。

 甘くて、胸がいっぱいになって、

 トゥンク――漫画でヒロインが胸をおさえている絵に、そう描いてあったのだけど、それを読んでいるときの気持ちに似ている。

 わたしはロボットなのでそういう恋的なアレはよくわからないけれど、とりあえず楽しみなのである。


「それ、わたしも好きよ」

「え?」


 鬼島さんの長いまつ毛の下で、大きな瞳がわたしを見つめた。


「好きよ」


 わたしはそれをまっすぐ見つめ返して言った。

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ひとみとほっぺ 向日葵椎 @hima_see

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