第5話

――――時間は少しさかのぼ


コッと、碁盤ごばんらしき光る平板の上に三枚のこまを置いたのは人間の手とは思えない程の極太ごくふとき石のようなざらざらしているの指た。

指が離れたあと、駒の上にえ付けている彫像ちょうぞうも見えることができた、その三枚全部同じくかつての地球上海洋かいように生きている超巨大肉食の恐竜、モササウルスの模様もようが映ている。


それを置いたのは、悪夜たちの目の前に立ったの人間形の魔物た。が、人間形の魔物と彼をしょうするのなら、多分彼は相手の知識ちしき不足と人間自身の自惚うぬぼれに鼻を鳴らすだろう。

見下みくだす種族の基準きじゅんに括り付けられたことにブチ切れであらず、相手に訂正するの要求もなさず、それこそが彼だ。将軍であり、王者であり彼の為人ひととなりそれを与えるべきだったの敬称けいしょうである。


そんな彼は色んな光る水晶すいしょうが生えた黒い空間にただ黒い石造の王座おうざに腰を下ろして、肘に自分の首をあずけて、その碁盤に視線を付けている。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ――――


彼らにも時間の概念がいねんがあると誤認する、こんな静謐せいひつな空間に一秒一秒て動いているの歯車の声音こわねが立っている。

その音源おんげんに追跡して、そこに立っているのは時計台とけいだいではなく、碁盤の光に照らされて黄金おうごんて滑々の表面に反射をもたらすの歯車はぐるまの人体がいた。


「君は何時まで遊んでいるつもりだ?」


こう聞かれて、彼は何の返事もない、ただ長く碁盤に置いた目線めせんを新しい目標にうつすたけた。


「君がただがの基準点きじゅんてんの世界を破壊するの引き受けたと聞いたら、私は時間を空いて見物みものしようかと思えば、これはとんだ茶番ちゃばんた。配達した兵がことごとく敗北されて、なおも動けずにいるのはただ時間の無駄た。いい加減にそちらの世界にも我々と対抗する手段しゅだんを認めて、自分自身を投入したらどうだ、案外あんがい間もなくに滅びるかもしれんぞ」

「これさえ通用つうようしないなら………、自然に参る……」


そっ、っと相槌あいづちして、彼の多言に対して、寡言かげんの向こうは会話を気まずくに導く。


「しっかし、君も随分ぬるくになったもんだな………、もう上への影響が確定したのに、またまたそんな時間の無駄むだ使いの方法取るのは。私なら一瞬てあの世界の時間を停止させるなのにな」

「………彼女は、そう望んでいないた」


そっか、っと肩らしき部分をすくめる歯車人体。

本当に冗舌じょうずつなものではないなって、その歯車は改めて実感じっかんした。このままではただ自分の気まずく様で終わりへげるでしょう。

そんな時にまるで彼のフォローを入るように、植え付けた三枚のモササウルスの駒がひび割れが入る。徐々に全面に広がる割目はやかで駒を粉砕する。

見て、精密て出来た下まぶたに似たような部分が少々引いた。


「これは………時刻じこくだよね………」

「フフ――」


フフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!


仰々ぎょうぎょうしい笑い声はこの沈静の空間に震撼しんかんを下し、木霊をもたらす。

目の光を半分までさえぎる下まぶたが上げた理由は、決して目の前の同族が笑うことに喜びではない、それは思惑おもわく通りの目つきである。


「いいだろ、ご期待に添えよ」


碁盤の上にまた一つさめ彫像の駒を置いて、彼は席から外す。

その前に、っともう少しで出発するの彼に声を掛けて、彼は横顔て注意しているの申す。


「よもやと思えないだが、もし君さえも敗れ去ったの時は………」

「好きにするがいい………」


にべもないの返事を伝えたあと、彼は床を踏み壊し、万有引力ばんゆういんりょくのままに自分が開けた穴に落ちでゆく。


「フッ、間抜まぬけが」


コッっと、次の歯車が動いた時に、残された彼は一瞬て消え去り、この空間は再び静かが訪れる。


*


「ほう…………我々の眷族けんぞくを次々と退しものは何のやらと思えば、よもや人間の子供たと?」


目の前に現れた新手の実力は未知数みちすう、そして今まで戦って来たものから判断はんだんするともしかしたら悪夜より弱いかもしれない。なのに彼は警戒している、直感ちょっかんが警報を鳴らしている。

これは只者ただものではない、こう思った悪夜は隣の福ちゃんに声掛ける。


「ねぇ、福ちゃん………」

「なんだ?」

「良ければ恵琳を安全な場所へ連れて行って貰えるかな?」

「えっ?」


いきなりの避難ひなん通告に恵琳は思い切り眉間みけんに皺を寄せた。

それは無理でもない、今までもし彼女がワガママして、その場に残りたいのなら悪夜は別に彼女を退避たいひするの強要きょうようはしないた、そこまで彼は余裕持っているだろう。

だが今回はそうさせてくれないた、おまけに神様の手まで借りるなんで、こんな気をめたのは初めてた。


「いいのか?ワシが盾になるのならせめて君は傷くことはないかもしれんぞ?」

「いいから、早く!」

「分かった、ではせめて巨牙キバをここに残り、ワシが君に加護かごを」


言って福ちゃん手に持っているの末端まったんがグルっと丸く形の杖を一振りしてたら、悪夜の頭の上から星の雨が降り注ぐ。

それはどこまで有効的なのか分からないけど、とにかく悪夜は礼を言う。


「お主よ手をワシの肩につくがよい」


それから福ちゃんは横て恵琳に向けて、杖の先端せんたんを地面につく。

両手を子供の肩に付けるのは、凄く変な絵面えずらになりそうですが今はそんなことを気にする時ではなさそうた。


「しっかり捕まえじゃ。それでは、ご武運ぶうんを」


健闘けんとうの祈りを下したあと、彼の足元が白い波瀾はらんを起こし、動かないまま前に移動し始めた。

そんな仕組しくみと思えもしなかった恵琳が頓狂とんきょうするのは仮はじめのことた。


「気を付けてね」


このまま恵琳はウェイクサーフィンの感じて連れて去った。そしてもう戦うの気掛かりない以上悪夜は再びその敵に目を付ける、そこてあれが仁王じんおうの立ち姿て彼らを観察かんさつしているらしい。


「話は終わった?」

「へえ?わざと逃がしてくれたのか?破壊者としじゃ随分ずいぶん優しいことしてくれるじゃないか?」

「フッ、凡人ぼんじん一人と守護しゅごしか出来るの守護者を逃がしておいてなんの支障ししょうもない、それより貴様らの方がよっぽどましになるだろう」


そうかい、表面上は不敵ふてきな笑いを作っているだが、内心は相手のことつくつく気がゆるめること出来ない敵と評判ひょうばんしている。


「んで、貴様………、いや貴様らは一体何なんた?なんで俺たちの世界をおそうた?この何にもない、何の罪もない世界に!!」

「何の罪もない?」


フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!


こんな場面でもいきなりけたたましい笑い声にらった悪夜は、相手のこと間抜けだと思い、首を傾げる。

数十年間ただいたずらに無感情て暴力ぼうりょくを振る舞い、星を蹂躙じゅうりんする彼はよもや同じ相手に二回連続の笑い声を出してしまった。

実に気に入った!この彼のオレンジ色の目に映る今でも状況理解りかいしなずに、憤慨ふんがいと疑問の顔色混ざっているの少年。


実に無知むちである。


「データ通信つうしんが共有と称するこの時代にも、こんな世界大事なことに知らないまま怨恨えんこん一人で全部買わせた、綺麗ことしか言えるのも程がある!!」


実に幼稚ようち、実に滑稽こっけいであった。


だが――――


「知らないのも罪とは言え、無実むじつのもあった。だから今一度たけしか聞こお、このまま引いてくれぬか?そしたら以前の通りしょっじょう偵察ていさつの兵力を送りして済む」


は?講和こうわでもなっていないの折衝せっしょうに悪夜は素っ頓狂になった。

以前の通り偵察の兵力を送る?と言うことは以前からずっと誰かがそんなように、初めて魔物を見たのあの夜のように無様ぶざまに殺された。

そして自分がそのまま引くことを考えた悪夜は、歯を食いしばる様に、


「ふっさけるなぁ!!!!!!!!」


突如とつじょ、悪夜の身回りが闘気とうきの旋風を起こし、周囲に振動しんどうをもたす。

ほう……?その様子を見たあの人間形のものが興味きょうみ湧いた声を立って、細目ほそめしながら戦闘の構えをする。


「それが答えか?」

「当たり前だ、この破壊者野郎かッ!!!!」


あれこれ構わず、地面をデッカイくぼみを作るの足取りて、一瞬アレのふところに近づく。

子供にしじゃ到底とうてい思えないのバカけた速度そくどで、下す拳の一振りが隕石いんせきのように明るくの波紋はもんに取り囲む。だがさっきの闘気に状況を把握はあくしたアレも右腕を絞り――――


ドン!爆音ばくおんを起こし交わす両拳が地面を炸裂さくれつ、周囲への被害も甚大じんだいでした。

硝子ガラスが星のように落ちり、道端に駐車ちゅうしゃする車がうるさく警報けいほうを鳴らす。

そんな環境の中に二人は相手が打ち出す攻撃を吟味ぎんみする。


(これでも精一杯力を絞り込んたなのに、なんで硬いだッ!)

(よもやこんな小さき人間が俺と互角ごかくの力持つとは!)


キッ――


だがその一見優劣ゆうれつのない力比べは一方がけたことに気づいたの、ほかでもない悪夜自身だった。何せよ彼の拳をつつまれた福ちゃんの加護が小さき亀裂きれつしたの感じ取った。

拳を収まった二人は攻撃ならず、両方が後ろへ跳ねて、距離きょりを取る。


でも例え力が同じレベルだとしでも、さっきで踏み出したステップは間違まちがいなく悪夜が出せる最大の速度である。肉眼にくがんじゃ取れない、自分さえもコントロールできないのスピード、なのに彼は受け止めた、しかも右腕を構えるび余裕よゆうも持っている。


――それは信じ難い。


自分のスピードに自信を持つ悪夜は再び踏み出し、またたく間に彼はまたアレの手元てもとまで到着する、だが今度の彼は下半身を上げてアレに蹴り出す。


シュ――


それはアレが聞き取った音速おんそくを越えたうなり声た。


ガララララララっとブレイクのために道路を長い割目わりめが作る、そんな超人の力で繰り出した出鱈目でたらめな速度はあっけなくアレにかわされた。

それから何かを感じ取ったあれは小さく首を傾げる。


本当にとらえられた、彼が人間ではなくなって自慢じまんの超速がアレに破られた。これでもない、力でもないならば彼が対抗たいこうする手段はまたないかが残した?


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ――


緊張に回せない頭て代わりに時間をくれたのは、最早奇襲きしゅうを隠すつもりがないの守護神ガーディアン巨牙キバだ。


「ウオオオオンンンンンン――――」


咆哮ほうこうしつつ、さっきいにしえの海洋王者を真っ二つにした山河を飲み込むの口てアレに接近する巨牙キバ


「ぬるいッ!!」


フッ、と鼻を鳴らし、巨牙キバが後ろから跳ねてその山大やまだいの躯体て重力加速度じゅうりょくかそくどを用いて自分に攻撃仕掛けてくるまで計算して受け止めるのはアレの万ドン以上なアッパーだった。


「イエシャー!!このッ!!」


岩石がんせきて出来ているの顎の半分がくだけ散たイエシャーを見て、悪夜はまたしてもその爆音を起こす足取あしとりに頼って、瞬時しゅんじてアレの背中に隕石とかす拳を振り出す。

それを受け流すのは後ろへアレの躯体くたいに不相応な腕た。拳が払えされてでも彼はまた高速こうそく移動の最中て、一瞬を見せられたすきを彼に風の波紋が容易く見えるの拳を下す。


ギリギリて両腕を交差こうさして防御したが、悪夜はその攻撃てとおくへ連れてかれた。

攻撃を受け取った両腕の交差点は悪夜がさががるの止めても、依然いぜんにあの一撃て起こしたエネルギーて湯煙ゆけが立っている。


おもい、両腕の防げ、服の防御があって、神様の加護も加えてでも、その一撃が下した重さはしっかり悪夜の脳に焼き付けた。


(拳がダメなら剣で!)


腕を広げたら、彼の両手は一瞬て膨大ぼうだいするブラッティクリスタルて作り上げた愛用の剣銃けんじゅうを握る。

足に力を入れてまた突き込む、ただ今回はちゃんと自分が反応出来るの範囲はんいて加速したたけ。接近した同時に悪夜は鋼鉄こうてつを泥のように切り刻む攻撃を振り落とす。


その一撃てもたらす風圧は地面と後ろの建物を切目きりめを作る、だが真っ正面に腕でそれを防げたアレはまた健在けんざいしている。

こうやって周囲に被害を及ぶ攻防が十回続けて、最後に仕上げた上からの同時斬撃を振り出す。


「なッ………⁈」


だがそれもしっかり受け止められた。

赤い剣が石のようにキメが粗い太い手の中にギギギギギギってきしみ、また力比べにハマった両方の手がプルプルするのは双方が力尽くしているのあかした。


ギッ、と硬直する二人の間て流すのは赤い剣が亀裂きれつする音だ。そしてそのまま握り潰す。

手に持つ剣身の残片ざんぺんを投げ捨てて、後ろへ絞る腕は鉄鎚てっついしてしゃがむの悪夜へ振り落とす。


大地を崩壊ほうかいする一撃を悪夜は後ろへ跳ねて避ける。そしてその一撃て立ったけむりの中にアレが突き出し、空中て停滞ていたいする悪夜を追撃する。


「させるかッ!」


パサーっと、何の原理げんりもなく彼の背中から全身をおおう程のデッカイコウモリの翼が生えて、素早く横に空中移動する彼はまたアレの攻撃を避け切った。

飛べないのアレはこのまま地面に着地する。


高速の上に、慣性かんせいのない動作て一度アレの目をたぶらかし、順調じゅんちょうにまた彼の背中に潜き込み、そこへ渾身こんしんの蹴りを振り出す。


――しかしまた防げられた。


背中を見せるまま無造作むぞうさに腕を挙げて、悪夜の奇襲きしゅうはまた止められた。

それたけじゃない、攻撃て硬直する悪夜の足を掴め、アレが彼を建物へ投げ込む。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンガン!


壁にぶつかってから、悪夜はやっと自分を制御せいぎょができた。

この投げられて一体どれたけの壁を突き壊しただろう、悪夜は知らない、ただ福ちゃんの加護は全面的な亀裂が開いたこと、それは彼の体に落ちてゆくの白い星が教えた。

そしてもう一つは目の前の敵は実にヤバいと言うことだ。


そう思う悪夜は、少し自分を壁からけ出して、真面目の真面目に自分が突き壊した壁の向こうへの歩いてくる巨躯きょくの影を形相て向かう。


*


「やっはり世界一つを子供にたのむべきではなかった」


一方恵琳は福ちゃんと言う名の船てウェイクサーフィンした後、今は一つ屋上おくじょうて福ちゃんが床に作り上げた円環の画面がめんで悪夜の戦況を見守みまもっている。

初めて悪夜がそんな完膚かんぷなきまでやられるの見てから、恵琳はずっと自分の口を当たるのまま心配しんぱいの顔て見ている。


だが悪夜が必死に戦っているのに、そこまで言わられたらさすか恵琳にも神様を許すつもりはないた。


「なんでそこまで言うの?悪夜だって必死に戦っているのに!」

「いや、すまない。ワシは客観きゃくかん的に物をいうつもりじゃが、そんな意味ではないじゃ。ただ彼にはもっと優しい未来が待っているはずじゃ」


そんな福ちゃんからけっそりの話しを聞いたら、恵琳もとがめる気はなくなった。その代わりに彼女は悔しく自分のすそを握締ている。


「ねぇ、福ちゃん何か私に出来ることはない?ほら、さっき言ってたあの修仙しゅうせんのこととか」

「……ふ、いいの、気持ちたけで十分じゃ、ここからはお主のような花添はなそえな少女の関係領域りょういきではない。それに修仙の道は長い、終わったら全ては既に収まったかもしれん、良くも悪くもじゃ」


恵琳の言葉にビックリして、それから福ちゃんは子供の姿には思わないの優しいみをほころぶ。


「だがまあ……、もしこのことが無事ぶじに終わりとげじゃて、また気持ちが変わぬのなら天界のとびらはいつもお主を待っておるじゃ」


ワインクして恵琳の緊張をほぐすためにおどけ話一つを言う、そして話しを終わった彼は、恵琳に背を向けて矮小わいしょうの足て歩み始める。


「どうしたの、何処へいくの?」

「ワシにも神様らしいことをしにゆくのじゃ」


横顔を見せて答えたら、福ちゃんは屋根のはしに歩き、そしてそのまま小躍りて飛び降りる。

その様子はまるで死に行くつもりの後ろ姿でしたが、確かにその場で悪夜を助けるのは彼たけなので恵琳は何も言えないた。


また床にいる映像えいぞうを見下ろす、映っている自分の幼馴染は依然に劣勢れっせいでした。

自分はどうする?何かをしてあげたい。それは床の映像が始めたあと、ずっと思いに浮かべることた。

なのに彼女はたった一人の平凡へいぼんな女子中学生たけだ、ちょっとばかし頭が人並ひとなみに回るものたけでなにも出来ないた。


無意識むいしきに自分の爪を嚙みついているの見て、恵琳は小さく嘆息たんそくをこぼした。

そもそも福ちゃんの言う通り、これは最早彼女の領域に外すしたものた。

ただ………


「何かして欲しがったな………」


恵琳がそう思った時に、何か白いものが映像の大半を覆う。


*


パッと全身を十字架じゅうじかの形となって、腕を折らないのままで前方に拍手はくしゅする。そしたら前回彼がそうやったと同じ、合わせた掌底しょうていから二つの赤いコウモリが飛び出す。


直角ちょっかくの曲がりで、曲がって、曲がって、曲がって、その動きと末端まったんから伸ばした残光ざんこうは向かっているの敵の眼内にたた繚乱りょうらんしか見える。

当然その悪夜を圧倒あっとうするの相手でもそうだった。


パサッと、手元まで接近せっきんした赤いコウモリたちはまたしても一瞬て両方へ散開さんかいする。

何かをたくらんでいるの気づいたのアレがただその場でただずむ、そしたら両手で両方はさみ撃ちする赤いコウモリたちを防ぐ。


当然術者じゅつしゃの悪夜は自然とそれがアレに大したダメージをあたえて出来るの思えませんでした。

だがその代わりにあれらにたくした、足止めの仕事はきちんとたせてくれた。


右腕を絞る様で、握る右拳が日盛ひざかりの時期でもあかるくの赤い光につつまれている。

大地を踏み壊すの足取あしとりて一瞬てアレに近づく。


(そのままデビルブラストを打ち込めば――)

小賢こざかしい!!」


バギャーっと、彼が放った二つのコウモリたちが単純な蛮力ばんりょくて硝子細工さいくのように壊された。その景色を見た悪夜は一瞬驚愕きょうがくの顔色が浮かべた。


だがもう遅い!


彼の煉獄れんごくと化した拳は最早打ち出した、このままアレの胴体を打撲だぼくさえすれば、ここまでの優劣が逆転ぎゃくてん出来る。

と思った時――


プシーと、手が捕まえられたら、デビルブラストの光が残り燭光しょっこうのように消え去り、その代わりにアレが空いたもう一つの剛腕ごうわんが無数の閃光を放って悪夜の目をりゃくし、彼に爆撃ばくげきを下す。


「カハッ!!」


何キロメートルの向こうの建物をの壁にぶつかり、大字の様でハマった同時にデッカイ円形のくぼみを作る。

どうやらその衝撃は最後のわらとなり、神様が悪夜に授かった加護を砕け、残った大半の反動は彼の背中から肺部の空気を押し吐き出す。


一瞬て目がくらみ、耳鳴みみなりがする。例え神様の加護があっても普通の人間はとっくに死んでいたと思われるの攻撃をらった悪夜は不幸中の幸いに自分が半分吸血鬼だからただ左手が折れて死らずに済む。

だがその不幸は彼がまた軽くにこの一撃を下した化け物と戦わなきゃいけないことだ。


落下した破片粉塵と共に悪夜も墜落ついらくする。多分二、三階から落ちたかもしれない、彼が地面じめんと接触する前になんか空気としばしの触れ合いがあったの感覚がした。

そして地面に到着する時、悪夜は四つん這いの姿勢しせいとなる、やっと最後に残った面子めんつを保ってた。


動かないた。

吸血鬼だから、その高さから落ちたでも何の支障ししょうもないた、折れた左腕もちゃんと治った、なのに悪夜はずっと四つんいの姿勢て動けないままた。


奴つが歩いて来る、それは吸血鬼となった彼の感知能力で感じ取ったもの。

このまま立ち直らないとただ一方的殴られしまえたけだった、奴つが歩いているから充分じゅうぶん休んたった、体はまた戦えると言っているはずだった。

なのになんで!なんで自分の体は上げてくれないた!!


その時、悪夜はプルプルと振れているの自分の手を見て分かった、体のせいではないた、無理なのは心た。


嗚呼ああ、そっか。これが挫折ざせつた。


初めてだった、自分が出来ること全部を破る存在と会ったのは初めてだった。

手は尽くした、出来るたけやった、驚天動地きょうてんどうちのように砕ける剛力ごうりきさえも、瞬間移動しゅんかんいどうと変わらない高速度さえも、変化多端へんかたたんを遂げた魔法さえも、何もかも効き目がなかった。

その圧倒あっとう的な経験差の前には全てが無駄むだだった。もう戦えたくないと心が訴えているた。


「………もう戦えぬなのか?」


いつの間にか奴はもう剣幕けんまくが立つの距離まで近づいた。さすかに敵が前にしても、悪夜が四つばいのままにいられないから、折れた心を負うでも体を起きる。

だがその少年にはもう戦意喪失せんいそうしつしたこと、素人しろうとでも簡単に見える。

その行為の前て、戦士として奴つはすきを乗って攻撃していない、勝利をかかげることもない、ただ悪夜を見て顎を払い、首を傾げる。


パッと、何かを想起そうきしたアレは首を上げた。

執拗しつように自分の良さをアピールする、攻撃も単純て青臭あおくさい、おまけに心がこうも容易たやすく折れること、それらは奴つが知っているの遠い昔まで使っていない単語たんごに指しっている。


「そうか、貴様はか?」


は?


それを聞いた悪夜は思わず声を上げて、ようやく奴つに顔を向けた。

確かに中学生で最後の一年として、彼はもう少して大人になるの準備段階かいだんに足をつく処だった、それでも彼はまた子供の時期じきにいることはまぎれもない事実である。


でもなんで今更?


「フハハハハハハハハハハハハハハハ!!そうか、子供か!一時でもまさかこの俺が人間の子供に互角と思ったのかッ!フハハハハハハハハハハハハハハハ!!つくつくと面白かる奴つた!こうべれぬな、賛美さんびと思え、この状態の俺を全力を出してしまったことを!!」


仰々しい笑い声の中でも、奴つは彼のことをたたえてきた。

戦うのか、励ましてくれるのか、本当に気が狂ちゃう程の人と、悪夜の顔に書いていた。


だが――


突然、アレににらんまれたことて悪夜は再び気を引き締める。


「貴様はまた子供た、それはすなわち貴様が厄介やっかいに成長することはただ時間の問題た。ゆえに、残念だが俺はここで貴様を始末しまつする………」


そう言った奴つは掌をひるがえして、そこから紫色のエネルギーが螺旋らせんの形て集い、球体となってドンドン膨大ぼうだいし続ける。

確かに人間と相違そういった考え方するものだが、さっきの鋭き眼差まなざしとその球体から放った禍々まがまがしい気配は決して口たけのこと、悪夜はたた感じてしっかし分かる。

もう限界までエネルギーをまった球体を悪夜に照準しょうじゅんして、そこから爆音と共に球体は一直線の光束こうそくとなり彼へ射出する。


「………ッ!」


光束の先端が衝突しょうとつした時、国全土を揺るがし、そこの当たりが一瞬て溶がすの爆発ばくはつが起こす。

そして災害のともしびがついに収まる時に、浮かべたその一帯の景色はもうこの世の終末しゅうまつしか感じる。


災害の中心に奴つが依然いぜんに真っ直ぐて佇んでいる。そこに左右見回したら、あらしが去ったの静かに始めの声が迎える。


「………逃げられだか」


そう、建物がなき平地へいちになったここは何処にも少年、悪夜の姿がいないた。

仮に彼が真っ正面からその技を受けただとしても、その衝撃て灰になるまで焼き尽くされるのは考えなくでもいい。それは拳て混じり合えた奴つが太鼓判たいこばんを押す。

そう考えると彼はもうその瞬間移動とすスピードで逃げるの自然た。


「まあ、どうせすぐで追いつけるから………」

「そう子供といちいち張り合うな、破壊をもたらすものよ」

「………?」


この時、老人の喋り方にそれと不相応な子供らしき音調おんちょうな音が立て、奴つは音源おんげんの方へ向かう。

そこに予想通り、矮躯わいくの福ちゃんが両手を前にする杖の先端に載せる姿がいる。


同時に何の前触まえぶれもなくアレの広い周囲に神聖を感じる白皙はくせき色のバリアが立て始める。

ドンドン築く白い障壁しょうへきはやかで奴つの存在を静かに奪い、そして巨大な半円の形となった。


外側より静謐せいひつの空間にいて、不意打ふいうちに閉じ込めたとですが、またしても自然に立っているのアレは狼狽うろたえるなと一つも感じられないた。

アレが自在じざいのままゆっくり空間の果てまで歩いて、そこに強めにした拳をぶち込む。だが岩石を水のように砕ける剛腕さえも、その白皙の壁に円環の波紋はもんいくつしか立たせるしかないた。


「ワシが作るの壁はそう簡単に壊すものではないじゃ、破壊をもたらすものよ」

「この土地の守護者しゅごしゃか?」


アレの剛腕さえ傷一つにも入らないのに、福ちゃんのような小さい体て何の力も入れせずに、波紋を立てで進入しんにゅうすることが出来た。

そんな自己価値観を落す場面だがアレは顔を向けずに、ただその白い壁を見ている。


「して、なんのつもりた?」

「お主かそこまで暴れたからのう、止めるの当然じゃろう?お互いの立場がそんなに難しいから見逃してくれ」


福ちゃんが苦笑いして、肩を竦める。


「そうかい、俺には奴つを守っているようにしか見えるだが?」

「………はあ、お主のような慧眼けいがん持ちのは嫌いではないじゃが、いざ自分に当てるとどうにも好きにならないじゃのう。そうじゃ、ワシはその心が優しい少年を助けあげたいじゃ。

もしよければワシはあの少年をこの世界から離れるの口説くどい、そしたらお主もここにいる理由もないじゃろう」

「それはならぬ、俺はもうここまでの傷害を起こした、これからはもう力でこの世界に破滅をもたらすしかない、それに我々の目的が続ける限り奴つはまた阻むしに来るだろう」


ふっと奴つは浮かべた、最初に悪夜と会った時に、奴つの条件じょうけんを力て拒むのその光景。奴つがこの土地で、いや、多分この世界で活動するつもり以上、彼とまた戦えるのだろう。

そこまで二人の関係は水と火のように相容あいいれない存在だった。


「はあ、そっか………、ならばこうなるしかないようじゃな。お主が負ける……とな」


一つ意味深きみに刺されたアレはようやく福ちゃんに目を向けた。


「ほう……?願いではなく、なるなのか……?それはどういった自信そのような暴言を吐き出した?」

「吐くさ、何せ奴つは奇跡きせきの子じゃ」


ふうーっと、鼻をらしてアレが興味湧いたの示し、同時に真っ正面て福ちゃんと向き合う。

手を開いて、そしてその人の頭より何倍巨大な掌の中に何かを握り潰す様に強く握る。


「いいだろ、ならば俺がこの星の奇跡を潰すのみだ!」


まるで勢いの激動てこのバリアを破壊する口ぶりして――

その前に――、っとアレは大人しく彼らを閉じ込む、いや、奴つたけを閉じ込んているこの白い鳥籠に一瞥いちべつ、どうやらこの奴つの深い紫色と似合にあわないの白皙な障壁からぬけるの先にらしい。

そしたら当然なことてこの術者の福ちゃんに目を付ける。


「この牢獄から抜け出すは先だ」

「む、ワシを狙う気が?それは無駄と言うこと、お主は間もなくわかると思うぞ」

「ならば一番簡単な方法取るしかないだな」


そう言いつつ、アレは諦めたようにまた白い壁に立ち上がう。


「言っておこう、例えお主の怪力かいりきさえも、丸一日くらい掛かるかもしれんぞ、それまでワシの賭けも立ち直るじゃろう」


フンっと、鼻を鳴らして、そして腕を福ちゃんが見えやすいの位置に上げて、指鳴らすの準備をする。


「我々は軍隊がいること忘れんな」


パン――


最初は何にも起こらないことに眉間に皺をせただが、パッと雲行くもゆきがおかしいと感じた福ちゃんは左右を見渡みわたす。

空気が軍勢のうごめきに騒いでいる、大地はれの出現に揺るがす、それも四面楚歌しめんそか

最後に丸くした目を円頂えんちょう状の天井に見て、そこの外側から環視かんしすると、紫色の魔物の群れて出来た四つの柱が高くそびえ立ち、噴水ふんすいのように円弧えんこの形てドームに降り注ぐ。

そして地面の四方八方しほうはっぽうから震動をもたらす無数むすうの足が踏み付けて、下から上まで包囲ほういされ、やかで魔物の軍勢ぐんぜいは半球体状の白いバリアを覆う。


「これで時間は大分消されたな」


口の形をへとなり、目の前にいる負けず嫌いをにらんでいる福ちゃん、そしてまるで意趣返いしゅがえしたのように、フンっと嘲笑ちょうしょうの鼻を鳴らす奴つは、再び白皙の壁に向かう。


両手を腰に構えて、両足をしっかり地面につく、壁に一気呵成いっきかせい乱打らんだする。

マシンガンのように打ち込む拳一つ一つはミサイルと化した威力がにじむ。

内部は奴つがいる、外部はバリアの白いを遮る程の魔物の集がいる、それらを感じつつ福ちゃんは静かに目を閉じて、再度さいどに開いた目は心配を吐露とろし、明日の方向へ付ける。


「悪夜よ、ワシが出来るのもせいせい半日しかおらんようじゃのう、それまではしっかり英気えいきやしなうよ」


*


時間は黄昏たそがれの時に流れ、秋の夕陽ゆうひはすべてを黄金色にみることではなく、周りになつかしい浅い紫色の紗幕しゃまくをもたらし、傍側にいる川敷地は自然のままに流している。

一見では静かて、平和な日々がまた続いての思われる程、景色けしきは美しいがった。


ですがこの場所の向こうて不安ふあんの種をばらえている、その何よりの証拠しょうこは空て飛んでいるの鳥たちが陣形じんけいを崩しさえも、必死に特定な位置から逃げようとする。


そんな生機せいきなぞない状況て、一人たけ、恵琳は何か大事なものを探す様て走りながら、左右見渡す。

整えだったの髪型が乱れに、頬に垂れて光るの汗に、あえぐて上下て起伏きふくする胸、それらは彼女がここに来るまではどれ程の疲弊ひへいを溜まっているの示している。


ここは恵琳と悪夜が初めてあの魔物と出会であえた場所た。その夜で腕が鈍くなったの悪夜と激闘げきとうした痕跡こんせきは今だに道端に立っている。

しかしもの探しの恵琳はそんな殺風景さっぷうけいな理由てここへかようことではないた、それは朝日、昼間、黄昏、暮夜てここから見る景色は悩みことをパッと解決する程絶景ぜっけいでした。


そう、もしこのタイミングてここに探すと言えば、必ず人探しに決まっている、そして今苦悩くのうを抱いて人と言えば――


「あっ、あった……!」


目標を発見はっけんした、恵琳は疲労て石に掛けたの誤認ごにんするの足を引っ張ってそこへ駆けつける。

そこに悪夜がベンチて座っている。ベンチの上で首元に付けているの琥珀こはく色のペンダントを持って遊んでいるの見ていると、彼は相当にそれを使えるかどうかに悩んでいるみたいた。


「………恵琳か」

「う………うん」


悪夜の身辺しんぺんにかける途中で、ちょうど話しを聞く距離まで到着とうちゃくしたさいに、悩み事を抱えている悪夜は先に声掛けてきた。

完全に目のうちがペンダントのかざりしか映っている彼は、その角度から彼女を認識にんしきすることが出来ないはず、なのに彼は真っ先に彼女の名前を呼んだ。

それから見れば、眼前がんぜんにいるこの難しいことに挫折する同級生の少年は、まぎれもなく優れな能力を持っている人だ、それとも半鬼ハンキと呼びでしょうか。


「こんなところで何しているの?」

「………未来のこと考えている、と言うべきかな」


この言葉を出した時、自嘲じちょうしていること彼自身さえも感じ取れた。

そんな行為に、まるで彼の感受かんじゅの潮が一瞬て彼女におそい掛かるように、恵琳は戦う前に先にれた心を服て代わって強く握締る。


(ダメだ、彼はきっともっと辛いはずた)


最早血が出ること心配するくらい、強く嚙んた唇を解放かいほうして、深呼吸した後の顔は、いつも通りのように作るの顔た。

そこから悪夜の隣に腰を下ろす。


「へえー、どんな内容なの、聞かせて」


むっと、悪夜は半眼はんがんして愛嬌あいきょうたっぷりの仕草しぐさて求めるの恵琳を見ている。友たちて幼馴染でも恋人ではない彼らには相手に言いたくないことくらいあるのに、こうものこのこと直接聞いて来たら、正直のところ、悪夜は少々うるさいと思っていた。

それに関して、悪夜も十分その感情を顔に書いているはずだが、笑っているの目が完全かんぜんに閉ざしているが、それとも完璧かんぺきに無視されたのか悪夜は分からないた。

ただ何時いつまで経っても、ずっと彼に向かっている彼女を見て、このままじゃらちが明かないから、悪夜は諦めたように吐息といきして、彼女に返事をする。


「別に、ただもし俺がこのまま、お姉様とリアみたいにこのペンダントを握り潰せばきっと……、楽になるだな……と思っていた。俺がいなくなれば奴つもこれ以上ここに残すことはないたろう、地球を滅亡めつぼうする針はまた正常にゆっくり動く。そしたら俺……、いや、俺たちも念願ねんがんの異世界へ帰る、結果的に俺たち二人のハッピーエンドた」

「では………このまま潰す予定なの?役者の私はもう着いたのよ」

「………分からない」


しばらく沈黙して、こう言った悪夜はペンダントの飾りを掌におさめて、目をつぶる。

これは彼の本心ほんしんだ。あの戦えから逃げ出したあと、彼はずっと同じことを自分に問おい繰り返し、繰り返して今でも自分をおい続ける。


「どうして分からないの、ほら、もう少し冷静に考えば――」

「分からないで言っただろうかッ!」


パタパタパタパタ、樹の影から逃げ出した鳥たちがばたく。


鳥たちが去ったあと、二人の間はさっきと比べてまるで彼らの存在を淡くなるの静寂せいじゃくが流して、あるのはただ近くにいる恵琳しか聞こえない歯をググググと嚙み殺すの声音こわねしかいないた。

肩が揺れる程に強く力に入れる。


「分からない………、分かるはずがない。俺は………俺はただのガキだった……、ただの子供だった………、なのに世界一つの存亡そんぼうを俺の掌に任せなんで、どうかしている……、どうかしていた」

「じゃこのまま離れる?」

「でもそんなじゃお母さんやお父さんや静琉しずる、奴らそして君の家族みんな何時でも通り魔の魔物たちに殺されるかもしれない、そうでなくとももうすぐの未来て彼らは世界の破滅が待っている……、俺に見てみない振りしてなんで……、出来るはずないた……」


ここまで問題を明らかにすると、悪夜も凄く痛苦つうくの顔色て悩みに自分の髪を搔き上げる。


「だったら奴つを焼付けれいいじゃない!!」

「そう簡単に行かないから今はこうして苦悩しだんた!!」


良くない表情て向けている恵琳に、悪夜も形相ぎょうそうて返す。

睨んで睨んで、二人はすぐに火蓋ひぶたを切るそうに見つめ合え、誰にもゆずる気はないた。

そんな睨み合いの勝負て悪夜は先に気後きおくれて顔を悔しく下に向けた。別に恵琳に怖かりでも、彼の立場たちばが揺れちゃったではなく、彼がくじけついたの原因は、その彼を圧倒するの力た。


「全てが上回った、ありったけの手を尽くした、なのに、なのに……奴つに傷一つでも付けることが出来なかったッ!」


出来なかった……、言いつつもドンドンこうべを垂れるの悪夜を見て、恵琳もその感傷かんしょうな気持ちに感染されたように自分の手を強く握った。

正直こんな悪夜を見て恵琳もさっき自分の言葉に後悔したこともあった、でも一つたけはしっかり成し遂げなきゃいけないた。

例えそれが自己のためのみにくい願望たとしでも、例えそれが悪い女とたたえられでも彼女も言い続ける。


「でも君ならきっと出来るよ!ほら、君のスピードをもっと運用すればきっと――」

「お前は何か分かる!!」


まるで怒声どせいの勢いに吹きられた恵琳は少したけ、後ろに下がった。

ああ、これはダメた、さすかにそこまで自分が異世界に行ったこと強要するのも程があるでしょう。


「そうよ!!分からないよ!!!」


地団駄踏じたんだふんのように、強く足て地面につきその勢いのままで、腰を上げる。

下を向いて彼女は更に一枚の憤慨ふんがいがついている、これからは強く言付けするつもりのように彼女の胸は大きく膨らむ。


「分からないよ!!でももし君がまたあの大昔て私が知っているのあの君なら、きっと今みたいに泣きわめだりはしない、あのヒーロー大好きな君なら!!」


またあの色褪いろあせた記憶た。ヒーローが好きだから、そのヒーローの真似まねをして、馬鹿みたいに無感情な少女に助けて、愛を告げる、の無責任むせきにんに愛を与える少年のこと。

その記憶は恵琳にとって、大事な思い出のことくらい、あの日て改変かいへんした恵琳を見て悪夜はちゃんと感じ取った。子供の考えたままじゃいけないことくら分かっていても。

あの時の自分とくらべべて本当に情けない程の対比たいひてした。そう感じた悪夜は思わず視線を恵琳から逃げ出そうとしている。


「そんな子供の意地いじを張ってでも、成功することはないこと、君のあのすぐれた頭さえ考え出来ないのか……?」

「そうよ、考えないよ!!」


だったら――を反論はんろん続く前に、顔上げた悪夜はちょうど視線を下に向ける恵琳と合わせた。それは一瞬て悪夜を気が揺らぎるの泣きそうな面でした。

シクシクと嗚咽おえつする彼女は痙攣けいれんのように肩を上下揺らがし、目尻めしりの光る涙も何時でも溜まった事でその柔らかい頬から流しようとする。

それでもずっと引きずるの小さい唇は強くてゆっくり開いた。


「考え………たくないよ………。私は人並みに頭が回るのことくらい知っていた、でもそんなファンタジーなこと前にして私はただの平凡でか弱い女の子たけだ、なにも………してあげることはできないだ!」

「それは………」


「だがこんな頭しか使える私もあの人がいなければ、まだ他の人が出来るの思わないから!福ちゃんでもなく、他の神様でもなく、今回のことを解決する人、私の頭は一人しか映っていないよ………。君にしか信じていないよ………」

「………」

「誰よりも強く、誰よりも速く、誰よりも優しく、こんなの君が出来ること信じるしかないじゃないか!!

君にしか知っている、君にしか信じる!


だって君は――――」



――――私の主人公なんだから!



悪夜は思わず面喰めんくらってしまった。

こんなドストレートな告白初めて聞いた、こんなつたない言い方初めて受けた、言われたらただ困惑こんわくしかない言葉しかないた。

だけどこんな千言万語せんげんばんごついやすより一言で彼女がたくされた期待を丸ごと感受かんじゅする事が出来た。


世界のあれこれのことを解決かいけつする、手を届くところ全てを救える、そして何より自分の道を貫げる者の肩書かたがきた。

正直その肩書悪夜にとってはが重いた。


そこまで信じられて、悪夜は一時どう恵琳の期待きたいを受けるべきか、どう返事を返すべきか煩悩ぼんのうしたですが、これたけは先に喉から突き出した。


「プッ!」


それが笑い声た。

それを見た恵琳は自分の真剣の吐露とろが馬鹿にされたことに、目尻がまた光る涙がついてでも、その真剣さと比例ひれいするのあからみが浮かべて、頬はフグのように膨らむ。


「私はいたって本気に言っているのに、笑いかけたのはどうかと思うよ!」

「いや、すまんすまん。でも私のって……、何様だよ君は?」


フンっと、顔をそっぽへ向けて彼女は黙秘もくひ権を使い尽くす。

でもまあって、今度は悪夜がベンチから腰を上げて、再び恵琳に向く面は何の迷いもなく、スッキリでした。


「ありがとうな、おかけでもう少し頑張れそうになったよ」

「それは重畳ちょうじょうですね」


顔をほかの場所へ向けて、ねているに見えるが、片方の目を悪夜の反応している。

プッっと、今度は二人一緒に笑い声を立てた。

肩を上下に揺らしながら嚙み殺して笑う二人がまともに話すのは間もなくた。


「今度本当に出来そうになるの?」

「さあ、どうかな、でももし今度さえ駄目だめのなら、本当に撤退てったいするかもしれないな」

「うん、そうだね」


目てお互い状況を確認した後、悪夜はもうすぐで落陽らくようするの夕日に目を付ける。


「もうすぐ夜になるのか……、いいね、賭けて見ようか」

「夜?夜って……、あっ、そう言えば君は………」


状況を理解した恵琳にニヤリって、容易く並外なみはずれたデッカイ犬歯けんしを見せる様て口元を上げる。


「それじゃ、俺も長くデートの相手に待たせないからね」

「うん、行ってやれ!」


恵琳の別れを受け取った悪夜は後ろへ向けた。その時に彼の背中からぬくもりを感じた、感知しなずも分かるとも、恵琳が身を貼って来た。

でも今回こそ、彼女は何のつもりでこうしてたのか分からない悪夜はじっとたたずんでいる。


「恵琳?」

「ごめん、たださっきああやって重い口をたたえてワガママの女の子と思うたけど、けど、お願いたから、もし本当に手がまった時に、必ず逃げよう、無様でも逃げよう。そしたら私が謝る分を一緒に背負せおうから、そのまま世界から逃げよう」


それは彼のペールに近い肌と違いの暖かくて優しいささやきた。例えその言葉の中には幾つかの隠すつもりて小さくなった声音こわねがついていただが、悪夜の超人なる五感ごかんはしっかり聞き取れた。

後ろから服が強く握締めたことを感じた悪夜も事情じじょうがわかった、どうやら不安の側は彼女にうつったらしい。

凄く不安でした、まるでさっきの彼女は別人と誤認ごにんされそうだった。


「ほんっと、ワガママな人だな」


そんな恵琳に対して悪夜が取った行動は、さっき苦悩くのうしている自分に作り笑いてはげましてくれた彼女の真似でした。


「励ましたり、引き下がれて言ったり……、でもまあ……心配すんな、今度こそうまくやれるさ」


悪夜をもたれて温もりを感じながら恵琳は静かにそれを耳に入れたら、彼女は小さく笑みをほこばせる。

それから悪夜を押し出す、もう自分の背中に隠さないこと判断はんだんした悪夜は振り返って、そこに恵琳が拳を乗り出す。


「今度こそあの君を子供呼ばわりのでっかぶつ野郎に思い知らせやろう!」


それを見た悪夜は一頻ひとしきり目を丸くなる。「ああ、これはもう完全に見られたな……」っと苦笑くしょうしつつ、そしてなんのことに理解した悪夜は信念しんねんを包まれた笑みて拳を乗り出し、彼女のと突き合う。

ああっとうなずけたあと、今度の悪夜は足を止めずにきびすを返した、残りの恵琳は静かに彼の背中姿を見送みおくる。


静かに、ゆっくり目を閉じて、ドンドン閉じる目に彼女の顔も益々紅潮こうちょうする、そして目が閉じて完全にリンゴ顔になった同時に彼女は顔を隠しながらしゃがむ。

ウイイイイイイイイイイっと、水を沸騰ふっとうするポットのように上擦うわずるの音を立てで、頭から湯煙ゆけが放った。


「私、本当に私のって言ったなの………?」


そんな恥目はじめの状態でも我慢して恥ずかしいの原因を口にする。

ウイイイイイイイイイイっと、改めて口にすると余計よけいに恥ずかしくなった恵琳はもう再起不能さいきふのうとなった。


*


『みんなさんごらんください、それがこの町にいる怪獣の真相しんそうです!!』


ダダダダダダダダダダダダっと、ヘリコプターのプロペラが高速回転かいてんするの音と共に、ヘリコプターの狭い空間て端麗たんれいなるアナウンサーがカメラに向かいその品性ひんせいと不釣り合いの慌てらしさて報道している。

そしてアナウンサーの指示しじに従って、カメラが映る先に禍々まがまがしく黒い発光しているまゆらしきものがいた。

それだけではない、カメラがその繭に焦点しょうてんを結ばせると、それは無数むすうの巨大昆虫みたいなものが光るドームを囲まれて出来たものたと分かって、多分この新聞を見ているの民衆の胃袋が攪乱かくらんされるだろう。


当然、悪夜の母親の撫子なでしこもそう思っていた。いつものように苦い緑茶を喉に通るとあの甘いが返すの味が楽しみしたが、それを見たあとただ不気味ぶきみしが感じた。

テレビの新聞を見ながらお湯呑ゆのみて緑茶をすすり、ここはまたこんな長閑のどかなことが出来るだが、画面を越してこの世の中はもう安全ではなくなったこと脳に染み付いた。


「うわ………、気持ち悪いな………」


こんな時に声を掛けてきたのは撫子が生んだ娘の静琉しずるた。冷淡れいたんの口ぶりしてでも、その口調くちょうとその明らかな面構えから見れば娘は以後クールビュティになるさだめに母親として彼女は一喜一憂いっきいちゆうの笑みを綻ばせた。


キィヤ――


突如とつじょ、テレビから飛禽類ひきんるい特有の甲高かんだかい叫び声が現れた。ヘリコプターの中てのスタッフ達がまた反応していない内に、一陣の乱流らんりゅうがヘリコプターの機体を揺るがす。

画面を取るために一つの扉を開けたままたから、スタッフ達はその乱流てあやういたところ落ちそうになった。

しかもこれは現場生放送なのでいざ事故じこがあったら、それはカット不可能てそのまま別の事件になる。


さいわいのことに、今回の揺れで誰にも傷くことはなくきもを冷やすの事件だった。ですかその後もっと誇張こちょうなことは彼らの傍側そばがわからヘリコプターより何倍デッカイの物影が彼らをりゃくした。

それは巨大なつばさが持っているものだ。もしかしたらそれがこの新聞のタイトルにお呼びの怪獣かもしれない、その巨大さてしょうするのは不足ふそくはない。

だがそうは思えないことに、あれの行き先はその繭て、ドームの上に取り付く害虫がいちゅうたちを除いている。


それたけではない、その巨大な翼に続いて、また他の巨大物影が次々つぎつぎと現れた、一つは巨大なてのひらに見える、一つは巨大なかめに見える、そしてもう一体は巨大なあごに見える。


その巨大影の目的は全部同じく、そのドーム形のものから害虫を取り除いている。

しかし変なのは画面が取るその巨躯きょく姿達ではもっと暴れば、もっと効率こうりつ的にその害虫の群れを処理できるはず、なのにそしていないた、ただまみのように一回一回何個しか取り上げる。

そのせいで抜けだ穴はすぐに新手に埋戻うめもどし、また繰り返す。

それに一番こんなこまかい作業に向いていないの巨大顎はただ近くの処に見ている。見ていてあの姿は欠落けつらくて、何か悔しそうでした。


多分この報道を見ているの民達は今て怪獣映画を観賞かんしょうしているの勘違かんちがいするろう、身辺しんぺんに異様な人物がいるの悪夜の家族さえそうであった。


「こんな時にアニは何処に行っちゃっただろう?」


そう、画面に映る奇天烈きてれつの状況を除いて、撫子は他の気掛きがかりのことがある、それが悪夜がいないことだ。

確かに、悪夜は撫子が知る異様なる力の持ち主て、この状況をおさめるそうの人物だったが、彼があの場所にいないことを安心あんしんするのは親としてのワガママた。

でもその同時に彼がいないことにまた心配する。撫子が知っている正義感せいぎかんが持つ彼女の息子はこの状況を放ってわけにはいかない。


処理しょりする能力がある、しかも場所は学生としての活動かつどう範囲の内、ここまで条件付きのに、悪夜がいないのなら理由をまとめるのも容易くなる。


それは彼女の息子、悪夜も何かあったに指している。

彼がいて欲しくない、同時に彼がいること望んでいる、のような両立背反りょうりつはいはんの気持ちて撫子は憂鬱ゆううつな顔色が浮かんでいる。


『あっ、あそこ誰かが向かっているよ!』


まるでタイミングをはかったように、複雑ふくざつな心境している撫子のために現場スタッフ達は新たの動向をもたらした。


そしてカメラマンがたった小さく動いて、カメラはその注目ちゅうもくする所に移した時――――


「「えっ⁈」」

コンッ!


女性の二人が間抜まぬけた声を上げて、いつも寡言かげん信義しんぎはお湯呑みて机を叩くことで、彼の声と代わる。

彼らがいきなりこんな激動げきどうするのは無理もないだ。


だって画面が映っているのは彼らの家族の一員、悪夜だった。


*


スポットライトに打たれている、黒い所でもやすくものを見ると引き換えに、目がこんな光亮こうりょうと接触すると、目にかがる負担の反動はんどうは人より強くなる。

だから、えて言いよ。片手でスポットライトを遮るこの状況、悪夜は実にきらいだ。


しかも悪夜さっきが見間違えなければ、そのヘリコプターがせたのはカメラとマイクを持つ人達だから、新聞のスタッフ達のこと予想よそう出来た彼は無力に嘆息たんそくを付けた。


「こりゃもう………秘密にしじゃおけないな」


あらめて口にしたら、自分が大衆の目にさらすことが余計よけいにキツイからまた嘆息する。

天敵の光をさえぎる手を下ろしたら、悪夜は劇場げきじょうてスポットライトに打たれるの恥ずかしさを忍耐にんたいしつつ、自分の目的地へ向かった。


「その少年は一体何をするつもりでしょう?」「このままじゃ危ないぞう」「早く止めないと」「そこの少年、その先は危ないぞう、早く止めろ!」


っと最初の機内の報道やばなしから最後の彼に向かうの放送ほうそうまで悪夜は全部聞き取れただが、耳に流すようにただ前に歩き続ける。

そして本来夜でも車が多いのこの国せえも、今は気にせず車道しゃどうて歩いたら、すぐにその黒い巨大ドームが視界しかいに入れた。


「うわ………、気持ち悪いな………」


流石に静琉の兄さんと言うものの、同じ反応をした。

と言っても、もし変った景色けしきが好きやとことん昆虫このみの人じゃなければこんなものに対してキツとそう思うでしょう。


でも気持ち悪いのところを一旦預けて、この黒いドームを見ていると、悪夜は不安て冷汗ひやせをかいた。

棺桶かんおけのように自分を閉ざして、なおも生きるようにうごめくのようなそんな感じ、正しく昆虫のまゆでどころだ。

そしていざ中身が閉じ込めているものは一度自分をやぶれた相手たと思うと、悪夜は歯がゆいがする。


「ウオオンン………」


こんな時に、何処かでなぐさめと言うか、自身さえも欠落けつらくと言うかの気のない鳴き声が悪夜に向かい、彼もそっちに注意ちゅういする。

そしたら今朝とはまるで元気げんきがないの巨牙キバのイエシャーを見かけた。


それを見た悪夜は自然しぜんと為せ彼はその繭の周囲しゅういて取りのぞく作業をこなしている巨大な仲間たちと一緒に戦えないを思えば、事情じじょうを理解した彼は苦笑にがわらいをこぼした。

目標はたまには垣間見かいまみえるの光る白皙はくせきの壁を守ると言うなら、彼のような唯一ゆいつにしても、最大て強力な顎ずはぼちだろう、しかもそんな顎今朝て名誉めいよな傷を負えたから、今は半分しか残されている。


役に立たなくて、力がおれれたのところはまるでさっきの自分みたいから、悪夜はやさしく残りの半分の顎をばらう。


「そっか、君もそうなのか?まあ気にすんな、適材適所てきざいてきしょと言うものがあるからな、なっ、イエシャー」

「ウオオオンンンン」


何となくイエシャーの機嫌きげんは取り戻したの感じて、悪夜も気持ちが整頓せいとんしたところで、再び状況を整理し始める。


「にっしても、守護神ガーディアンか………もしかしたら、あいつらも君と同じ何処かの名物めいぶつとかそういうものなのか?」

「ウオン」


まだしでも何となくイエシャーが「はい」と答えている、悪夜は頷けて、その守護神ガーディアン一つ一つ指しながらこう言う。


「えっと………、もしかして天辺テンペン鶯歌インゴー石、五指ショウは多分五指ゴシ山、そしてタテのその亀の模様、さでは亀山カメヤマ島か、なんだこれ、この国の有名な地名のコースか?」


そう、これらは悪夜がいた台湾で動物に似ているとして有名な地名であり、この国で成長する悪夜にとってツッコミべきのことた。


「ウオン?」

「いや、こっちの話た」


まさか自分のひとことに反応するに思っていない悪夜は軽くイエシャーの顎を叩く。


キン――――


一瞬悪夜の全身が雷に走らせた。通知つうちするのはとても小さいな亀裂きれつ音。

普通ならそんなくらいの音が何処に発生はっせいしでも、悪夜は要注意するのしないた。ただその亀裂は繭の中に立てたものの上に、そのすきから放った半端はんぱではない波動はどうが悪夜に気を張り詰める。


「ウオ……………………!」

「………?ふ……。もう傷付いたのに無茶むちゃことくらいはしないでよ。奴つは俺が何とかするから、君とお友達はあの軍勢ぐんぜいと対抗すればいいんた」

「ウオン……」


隣にも緊張の気配けはいが立つの気付き、悪夜は優しく彼を止めて、自分を前に出る。それを見たイエシャーは心配しんぱいそうな声を放った。

それでも悪夜は一番乗りして、イエシャーと繭の真ん中に立つ。


キンギギギギギギギギギギギギ――――


ドミノ効果こうかにより、たった小さく最初の割目わりめが徐々に拡大する。それを感じた他の守護神ガーディアンたちも城をあきらめたように、距離を取る。


彼らには内部と外部の攻勢こうせいを阻止出来ず、ただバリアが破壊されるの待つのみ。やかで亀裂は最後の音を立った。


バギャー!硝子ガラスが割れた音と共に、支点してんがなき魔物たちはそこの辺て液体えきたいのように降り注ぐ。

高い位置から落ちたから大半の魔物、特に中心ちゅうしんにいる奴つは衝撃しょうげきて地面に一時となる横姿た。

その中で同じ色て見た目からは同格どうかくに見えるけど、そいつたけは只者ただものではないオーラを出し抜いている。


間違いなく奴つは一時悪夜を退しりぞけたの大敵だ。奴つを目視した悪夜は固唾かたずを吞んで、改めて奴つの存在をおびえ、ここに来ることちょっぴり後悔する。


「ほう?」


繭を破れた第一目で脱兎だっとの如く逃げ出した悪夜を見かけたことに奴つは驚嘆きょうたんの声を立て、片目を上げた。

その時、倒れた魔物の一角いっかくに一つの場所たけ特別にとつして、そこからドンドン膨張ぼうちょうして、爆発のように魔物たちが散らかす。

そこにいってはいけなさそうな矮躯わいく持ちの福ちゃんがいる、ただ悪夜を勝つのものに魔物の軍勢と相手して、一生懸命いっしょうけんめい足を止めた彼は疲弊ひへいは隠せない。


「お主……、もう大丈夫なのか?」

「ああ、おかけ様ですよ福ちゃん」

「そっか………」


自分がかろうじて偉いことを成し遂げたように、汗を垂れ流している福ちゃんは魔物にかこまれてでもある周囲は空いたまま倒れる。

ほう……っと、彼らの対話を聞き取れて、また驚嘆の声を上げて、自分の顎を払う。


「もう……立ち直ったと……言うのか?どうやら俺はまたまたと言う訳か」

「いや、そう言わないでよ破壊者さん、こっちは君に人生を疑う程にボコボコされたですよ。もしあの彼女の面している奴つが痛い目にののしなければ、今だにとっくに別の世界へ逃げ込ちゃったかもしれないぞ」

「ふむ……、それは大変そうだな………、してその彼女面している奴つはもしや俺が逃がした小娘なのか?」

「ああ、そうなんですが」

「なんじゃと⁈」


彼らの会話を傍聴ぼうちょうしている福ちゃんはある聞き流せないのことが耳に入ったから、彼はバウンドと違いない動作どうさて上半身を起きる。

その面持おももちはまるで世界の終末しゅうまつ青天せいてん霹靂へきれきを打たれたに見える。


「お主はまたあの子と付き合っていないと言うのか⁈今朝彼女とかそうゆったじゃないか⁈」

「いや、それは嘘、神様を騙すのようなマネしてごめん。本当に付き合っていないた」

「バカなお主らのような天に埋め合わせのために作られた一対いったいがまた付き合っていないなんで」

「神々の意思をそむきか、これはこれは」

「いやちょっとした過去の業ですから、そこまで言うのはないだろう?」


神々の定めたことわりが乱れたのように福ちゃんは頭を抱えて、アレは悪夜の意思に敬服けいふくする。

まさか守護者と破壊者まで一緒に彼らをくっ付けるなんで思えもしなかった悪夜は肩を落ちる。


「まあ、立ち話はここまでにして、貴様はあれ程の敗れを味わうでも、なおまた俺と向き合うのか?」

「ああ、今度こそお前を倒すからな!」


ただ掌を当てることたけで、この一帯の空気を震動しんどうをもたらす。それは悪夜と拳合いたアレが想定内そうていないの実力である、だがその細いした目はまた悪夜を値踏ねぶみしている。


(また奴つの感情を刺激しげきしていないのに、そこまでの闘気とうきを放つ……、やはり立ち直ったのか……いや、それ以上に何だかの自信が付いている)


そう、例え疲労ひろうや折れた心が回復したところで、戦って敗北した記憶きおくはまた残っている、それをただがの意志いして上回るものではないと、アレはこう判断はんだんしている。

では、原因は何なのか?新しい能力か?それどもわなか?どっちにしろう――


――つぶすまでだ!


奴つもおとれず、ただ姿勢を戦闘の構えに変えたたけで、周りの空気が一瞬でみだされでしまう。

やはりおそるべしの相手だ、その乱流らんりゅうを感受しつつ、悪夜はグググって歯を磨く。

それでも立ち向かうしかない、彼女の約束を果たすために。


前に足を踏み入れて、その乱流を踏み壊すように、足が地面についた時、、周りにさわがす風は消え去る。


「さあ、第二ラウンドに行くぞ」

「こい!」


轟音ごうおんを生み出す一踏みで悪夜はまたたく間にアレの前について、後ろにしぼる右腕を振り出す。

前回反応出来たアレは今回も必ず出来る、同じく右腕を絞る様しているアレも一撃をくだし、やかで両拳はわす。


ドンガン!共に鋼鉄こうてつを水のように砕け散るの一撃がじり合い、それが作った衝撃は万ドン以上な爆弾ばくだんと変わらぬ、壊れかけた周囲を壊滅かいめつのダメージを与えた。

同時に空て浮いている新聞のヘリコプターもその衝撃を喰らって後ろへ下がる。


これは彼ら本日ての三度目の力比べた、二回目までのの勝負はいつもアレが取れたから、なんの準備もなしの悪夜は自然にまたおとれた一方――


「なッ⁈」


一見は勝負が付けない試合しあいだが、お互いの拳を受け取った自分しか知っている、この勝負のすえはアレが劣勢れっせいとなったこと。


「コラッ!」


振り出す拳のいきおいでアレを後ろへぶっ飛ばせる。

何回の転がりを遂げて、アレはやっと下がるの止めた、だがその姿は戦士である彼は許すまじの無様ぶざまて片膝を地面に付ける姿勢しせいた。

だがそんなことより、なせ悪夜は彼を押し返すの力が持っているのか一番気にめた。


何かを仕掛しかけて来る訳でもない、場所や状況は前回と同じた、なのになせ彼が負けだ?よもや思念しねんの話か?いや、ただかの思念はそこまで成長することはない。

ならば悪夜が最初の交戦こうせんて手を抜けたのか?いな、彼が戦闘中て逃げ出したことでそれも有り得ない話しとなる。

ではたった半日の時間をかけて成長したのか、いやそれも有り得ない、どう考えても生物としてただ昼から夜までの時間てここまで進化しんかすることはないた。


(……………………夜?)


何かを感づいていたアレは、戦うにしては破綻はたんが多すぎるの単純たんじゅんな立ち上がるたけだった。

悪夜を一回退けた人としては、随分ずいぶん早く大人しくなったと思えば、


「そう言えばまた貴様の最初の質問しつもんを答えていながったのようだな」

「うん?」


突然とつぜん会話かいわにより、悪夜は片目をビックっと上げる。そしたらアレが自分の力を示すの拳を上げる。


「我が名前はエシドノゥ、世界に破滅をもたらすもの、壊滅体かいめつたいである!!!」

「壊滅体…………?」

「そうだ、さあこれからの死闘しとうに良きまくを仕上げろう、貴様……いや、君の名を名乗るがいい」


正直、自己の名を名乗なのるのは一種の情報のらす、しかもその作法てならうなら彼も自分の不完全なる種族しゅぞくの名前を上げるから、悪夜はあんまりそれを従うするつもりはないた。

だがなせだか、ここで名乗らないとまるで気が負けそうですから、彼も簡単に自己紹介する。


「悪夜、悪夜・ブラッティ。ただの半鬼ハンキだ」

「……………半鬼ハンキ?」


さすかに聞いたことがないものに一生が豊富ほうふのエシドノゥと名のものはただ首を傾げる。

だからあんまり名乗るのが嫌だった、っと言っているのように、悪夜は溜息ためいきをこぼす。


「俺が知る一人の智者ちしゃさずかった名前た、半鬼ハンキ、半分は吸血鬼、半分は人間で出来ているの存在だ」

「半分は吸血鬼………半分は人間の存在………半鬼ハンキ。そうか!そうだったのか!そうであったのか!」


フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!


それは空気を震動する程の仰々ぎょうぎょうしい笑い声だ。今更に言うけど、悪夜はあんまり奴つの笑い声が好きではない、だってあれは嘲笑ちょうしょうでも、作り笑いでもない、真っ直ぐて心のそこから本気の笑い声は悪夜とのかくが違うこと分からせる。


「そうか、半鬼ハンキかッ!だから吸血鬼であっても日の当たる所に居られるかッ!死してなおまた生きているように成長せいちょうする、生きているでも死の代償だいしょうを払うしか手に入れる力を持つ、これぞ正に奇跡きせきだな!!なぁ、ちゃん!!!」

「お主がこう呼ばれるとなんか釈然しゃくぜんとしないわ」


でもエシドノゥがこうまで興奮こうふんするのも無理もない、だって福ちゃんが悪夜の存在を知っていた時、奴つが興奮する程福ちゃんが混乱こんらんとなる。


半鬼ハンキ、それは日の国の半妖ハンヨウとか、西洋のハーフとかそういったレベルの話しでおらん、しかももしそれがただの鬼種化きしゅかや己の不足て吸血鬼の格を下がるでなければ、その半鬼ハンキの称号は正に我ら神々が定められた生と死の概念をくつがえす、陰と陽の両儀りょうぎて只中に立つ存在じゃ)


そんなの有り得ない。


確かに悪夜についてのことはまたまた明らかにしなきゃいけないだが、その前にこの戦いのすえを見守るしかないた。

こう思った福ちゃんは再び剣幕けんまくを付いている二人に見てゆく。


「それじゃ月がある所は貴様の持ち場と言う事なのか?ならば――」


ホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!


仰天ぎょうてん恫喝どうかつと共に腕を腰に構えているエシドノゥは、さっきと比べものにはならないの最早目にものになる紫色の覇気を生み出し、周囲に途轍とてつもない旋風を開ける。

慌てて腕で粉塵ふんじんや石から顔を守り、大気がやっと静かになってから腕を下ろした時、目に映るエシドノゥの外見がいけんが変った。

本来でさえとげとげしいの姿なのに、変わると何個の場所からもとげが生えて、色んな処がまるで無理矢理むりやりに成長したように、脆弱ぜいじゃくらしき部分が現れて、その代わり奴つ自身がまた一段階巨大になる。


ふっと悪夜は思い出した、逃走とうそうする前にエシドノゥが言ってた『この状態の俺を全力を出してしまったことを!!』。

あれは身を張りとかそんなものではないか、クソ!っとこのが中学生である彼に対して理不尽過ぎることののしり、大きく舌打ちした悪夜は極限きょくげんまで気を引き締めて、奴つにおとれなき闘気を放つ。


「では、君の言葉に借りて、第三ラウンドに行こうじゃないか」

「望む処だッ!」


簡単の会話が終わった後、二人は同時に地面をくずす足取りて一瞬両方の距離はお互いの手元までちぢんめて、共に岩山がんさんを破壊する拳を振り出す。

四度目の拳合い、周辺の建物はやっと衝撃しょうげきを耐えず、崩して直接この辺を廃墟はいきょと変えてしまう。


今度こそ正真正銘しょうしんしょうめいの互角た、どっちでも優劣ゆうれつもない勝負に二人は一旦距離を置く。

お互い自慢じまんの力量が勝負にられないのなら、


(速度で勝負!)

(経験で勝負!)


そう思った悪夜は原理げんりもなく、自分の身体をおおう程の翼を背中に生えて、一瞬て赤い彗星となり、エシドノゥの目前から消える。

それを受けた奴つはただ元の場所で佇んでその練磨れんまの動体視力て悪夜の赤い光を追跡ついせきする。


背中から来る攻撃をかわし、悪夜がまた攻撃に硬直こうちょく状態の時に、鉄槌となる拳を下す。

だが直撃される前に彗星の如くの超速ちょうそくで避けて、また次の攻撃を仕掛けて今度は防げられて、再び爆弾ばくだんとなる衝撃を生み出す攻撃し合う。


避けるか、防げるか、エシドノゥはずっと防御の立場て十回までしのげる。

こんな攻防戦が続いでもただの有利ゆうりな時間を無駄にするの判断した悪夜は一時動作止めて滞空たいくうする。


「このまま防御するのはしょうに合わないから、こっちも先攻せんこうさせて貰お」


そう言ったエシドノゥは自分の腕を上げる。それは何のつもりと警戒けいかいしている時、まるで針が地面を叩くの音が快速に近づき、それを反応したら、あれ、以前出会った自走砲じそうほうのクモが奴つの極大ごくだいの腕に取り付き、大筒おおづつを悪夜に向かう。


ドン!


質量しつりょうがあるの重い声音こわねを立てたほぼ同時に、オレンジ色の光が彼の頬からりゃくして、寸伸すんのびる赤い髪からげた匂いがする。


ドンドンドン!


それからまた何度も砲弾ほうだんを打ち続ける。接近戦するの一つの腕を犠牲ぎせいにする遠距離攻撃、そう判断する時、悪夜は再度して奴つに近づく。

そして手元まで追い込み、これでまた一本取れると思う時――


スワっと、今度はかま状のものがエシドノゥのもう一つの腕について乗って来るの悪夜に切り掛かる。その斬撃の余波よはは傍側の瓦礫がれきを通して、泥のように切断せつだんする。

ギリギリで両腕を前に交差こうさして、斬撃の余波は刀や槍に通らないとしょうする服装を切って腕の骨までに切目きりめを入った。

致命傷に至らないが、骨までに入る痛みは中学生の悪夜にとって見てみない振りするものではない。

さいわい、吸血鬼の血が流れている彼は傷口きずくちがすぐに治し、切り裂かれた服もまるで命があるように勝手に連結れんけつする。


どうやら今度はカマキリの種とロッキングしたらしい、まさか相手にも相手なりの変化多端へんかたたんの攻撃があるの思えないた。

距離がまたたもたれている状況て、エシドノゥはまた大筒を悪夜に向けて連続砲撃しつつ、たまに余波さえ致命的な斬撃を広げる。

そして悪夜はブラッティクリスタルで愛用あいよう剣銃けんじゅうを作って、銃モードで空中移動しながらマシンガンとす赤い水晶を打ちまくる。


かわしつつ攻撃する、気付けばエシドノゥが強く振り回しているカマキリが折れて、過度かどに発射するクモは無力に垂れる、もう使え切った道具のように奴つはそれらを振り払う。


それが勝機しょうきと思い、悪夜は武器を剣モードに変わり、音速おんそくと化す速度てエシドノゥへ接近し斬撃を下す。

エシドノゥにおとれず、くだした斬撃の余波は奴つをよぎり、後ろの廃墟に綺麗の切目きりめを付ける。

だがそれを両腕で防ぐのもエシドノゥでした。前回のようにその斬撃をちゃんと防げたと思っていたら、


ビキッ――

「なッ⁈」


エシドノゥの金剛石こんごうせきまさるざらざらの皮膚がひびをはいった。

奴つの体中たいちゅうのあちこちにいる古い割目わりめ、それはあらゆる世界の猛者もうしゃたちが死に掛けてやっと付けた名誉めいよの証が、こうも一人の子供にあっさりと怪我された。

不思議に踏み越えたそのしかばねたちがあわれと思う時、悪夜はまるでさっきが骨までの攻撃を返すように奴つに洪水こうすいと化す怒涛どとうの十連斬撃。


最後の一撃て双剣てエシドノゥの両腕を上に打ち上げて、これで奴つの胴体どうたいに攻撃を仕掛けることが出来る、っとそうなった前に悪夜は自分が間違まちがいたこと気付いた。

高く上げた天空をさえぎる拳は瞬時に絶命ぜつめい鈍器どんきとなり、悪夜に振り落とす。

その致命ちめいの一撃からうまく後ろ空へ逃げたが、山さえ崩す剛腕ごうわんは地面にデッカイくぼみを作らせ、石の破片はへんはショットガンのように悪夜へ襲い掛かる。


「う………やはり厄介だな………」


それでも空に逃げた悪夜にとってただ紙に掠されたようにすぐで治したところを見て、エシドノゥは何かを考えて顎を払う。

そして奴つが顔たけ振り返えた同時に、


キィヤ――


飛禽類ひきんるい特有のするどい声音が立った。最初はまた天辺テンペンと思っていたが、天空から舞い降りたのは巨躯きょくでも十尺たけの紫色のたかた。

駆けつけた鷹は悪夜を攻撃するのではなく、逆にその巨大なわしてエシドノゥの肩を掴めて、体こと奴つの背中に貼り付く。


まずい。


それは決して主人に反抗はんこうするそんな悪夜にとって素晴らしい状況てはない、むしろさっきのことて考えたらそれは最悪の状態へすすんでいる。

奴つも翼が出来てた。正しくとらつばさをこの目て見て、この身に体験たいけんすることを思いもしなかった。


またその言葉がもたらす震撼しんかんを嚙み締めている間に、エシドノゥは時間を与えず、爆音を起こす跳躍ちょうやくし、瞬間悪夜の手元につき、絶大ぜつだいな拳を振り出す。

大傷害を付けそうな拳からのがれて、後ろへエシドノゥの状況を確認かくにんすると、奴つはもうまた眼前がんぜんにいた。


今度は逃げ出来ずに、防げた両腕が重く打ち込まれた。もう少して地面と衝突しょうとつする前にやっと翼て防げた悪夜は彼らの立場たちばが変ったことで罵声ばせいを羽て上空に停滞ていたいしているエシドノゥに上げる。


「クソ、テメエ飛べれるのかよ!」

「これしきて驚くとは、やはりまたまた子供だな」

「ああ、そうかよ。ちょうど俺を罵った奴つが任務にんむがあってさ、俺を子ども扱いなでっかぶつ野郎をぶっ倒せでなあ!」


それを聞いたエシドノゥは細目ほそめしながら自分の顎を払う。


「ほう。前々まえまえから思うだが、貴様に信念しんねんを与えたのはあの俺の目の前に逃げ出したあの小娘でまことか?」

「ああ、さっきもそう言ったけど」

「そうかい、不利ふりな状況だとしても貴様にこの俺と対抗たいこうする信念を与えるとは………是非ぜひ眷属にしたいものだ」

「眷………ッ⁈」


一瞬て顔が引きずるのところを見て、エシドノゥは疑問で首をひねる。


「何か不具合ふぐあいでも?」

「いや、あいつは確かに会話の大きさに分別ぶんべつが出来ない奴つけど、一応俺と同い年だが」

「それは素晴らしいな(こんな年でそこまで出来た)!」

「それがロリコンだと言っだんだ!!」

「それが何か悪いだ(どう言う意味だ)⁈」


なせだかエシドノゥが防げたこの突き出すの一撃は今まで一番手強てごわいの一振りであった。


攻撃を防げたエシドノゥを足で高く蹴り上げて、また突っ込んて、奴つを後ろの建物へ打ち込み、建物のもう一端ひとはしへ連れ出す。

また何処かへ連れてゆくつもりの悪夜を振り払い、今度はエシドノゥから悪夜を別の端までぶっ飛ばし、彼がまたエシドノゥの位置を特定とくていする内に、ビルから突き出し不意打ちて、また悪夜を後ろの建物に打ち込む。

こうやってお互いが空中戦が出来たら、ずっと住人の迷惑を掛けるかどうかにも気にせず、付近ふきんの建物まで巻き込みながら戦う。



そんな彼らをしっかりカメラ取るためにヘリコプターもずっと移動し続けて、途中とちゅうは何度もあやういたどころに戦いに巻き込みしそうでした。


そのカメラが映す画面を越して、撫子、信義、静琉、恵琳、悪夜の友達や彼と無関係な人々ても感受かんじゅ出来る、普通の人なら一撃て喰らったらとっくに命が落ちる攻撃をあの子供の姿は何度も何度も悪夜はそれを耐えて戦い続ける。

見ず知らずとも、報いを求めてはなく、痛いのも全部飲み込む、


その姿は正に英雄でした。



ドン!


相手を建物の中へ打ち込み、そして追跡、相手の攻撃を防げて、また反撃はんげき。こんな一見らちが明かないの勝負に、実は人間側の悪夜が劣れている、為せなら翼さえ力の出力しゅつりょくの内の彼はもう疲弊ひへいし始めた。

スピードが落ちているたけではなく、翼と一体な有利条件が付いていでも拳の打ち合いは段々だんだん劣れている。


そんな悪夜が打たれて少し遠い所に連られた時、悪夜の拳から赤い光につつんみ、デビルブラストてこの空中戦の終止符しゅうしふを付けるつもりた。

それを読み取ったのエシドノゥはまるで真っ正面から受けるつもりで、拳から無数むすうのネガフィルムの閃光が生み出す。


お互い自分のこの一撃が確実に相手を焼付やつけるために強く強く力をしぼり取って――


「デビルブラスト!!!」

「デス・トロイ!!!」


旋風せんぷうを巻き上げるばたき、二人は一瞬て眼前まで縮んて、そして二人が共に下した相手に爆撃ばくげきをもたらす一撃はじる。

驚天動地きょうてんどうち、その交じるはこの国の全域ぜんいきまでに地響じひびきを掛けて、周囲の瓦礫がれきを吹っ飛んでこの一帯を正真正銘の平地へいちと変った。


ひょっとして交差する両方の攻撃がホワイトホールを生えるように真ん中から純白の光が黒い紗幕しゃまくに掛ける夜さえ照らす。

まさかのまた互角と思えば、悪夜が打つデビルブラストの悪魔あくまがまた出ていないだ、それどころか彼の拳からいてくる赤い光は徐々に陰画いんがの光に飲み込まれる。


技の補佐ほさなき悪夜はやかで力がおくれて、強くいっぱいのクレーターが作られた地面に叩き込まれる。

地面に何回のころんがりて悪夜はようやく止めていたが、傷害しょうがいのせいて一時彼はただ片膝を地面に付けるしかできないた。


さっきの羽ばたきで限界げんかいに付いた翼はおさめるしかない、そして彼は空中戦の手段しゅだんが大きく削られた。

これで自分は本当に劣勢れっせいの立場になった、っと思った時、エシドノゥも地上に舞い降りて、翼を外した。


まさか戦闘狂の奴つも武士道精神とかそういうものがいたと思えば、外した鷹はそのまま地面に仰臥ぎょうがしびっくもしないて、多分もう使い切ったんた。

そしてまた余裕よゆうに歩いて来るエシドノゥを見て、一時の休憩きゅうけいを取った悪夜はまたこんな化け物と戦うことを思うと前回と同じく何だかの力が彼の体を引っ張っている。

それでも、悪夜は膝に体重をあずけて、かろうじて身体を上げる。それを見たエシドノゥは興味に目が少々光る。


「また戦うのか?こうまでして、貴様は何か得る?」

「当たり前のこと聞くんじゃねぇよ、俺はこの世界の人、君がこの世界の破壊者。そして当たり前のように君が壊すの先に、俺の明日がある、この世界がくれたえのない明日でな。だからそれが得るどか儲けるどかそんな話しじゃねぇ、奪われたくないからこうして立ち上げたんだから!!」


「………そうか、確かに野暮やぼなこと聞いたな」


相手を哀れたと思うなせだわざかもしれない、変なことをたずねたことにエシドノゥは静かに目を閉じて、再び開けたとき、片目をびくっと上げる。

だって悪夜が全身をロザリアの姿勢しせいとなった、それがとんな姿勢なのか奴つにも一度伺うことがある。


(と言ってももう自棄やけになるのか?)


悪夜があきらめたの判断した、エシドノゥは地面に踏み入れる足をドンドン加速かそくして、悪夜にすさまじい勢いて接近する。

パッと腕を曲がらない姿勢て前方に拍手はくしゅ、そしたら前回と同じ掌底しょうていから光っている二つの赤いコウモリが生えて、エシドノゥに向かってゆく。


ただ前回と違って、コウモリたちが曲がることなく、赤い残光ざんこうを長く引いて、直接奴つに突っ込む。

ただでさえ不意打ちの左右はさみ撃ちが通用つうようしないのに、真っ正面からの攻撃は当然防げられて、その二つのコウモリよりデッカイ掌て覆い、そして握り潰す。

風の残りの燭光しょっこうのように消え去る二つのコウモリの真ん中に悪夜は悪魔を象徴しょうちょうする赤い光を拳て引き連れてエシドノゥに打ち出す。


「デビル――」


だがまた捕まえられた。

普通の中学生と変わらない細い腕が全般ぜんぱんまで固く捕まえてエシドノゥに向かう光は徐々じょじょに弱くなる。

その代わりにエシドノゥの空いた手からこの場所を最初の壊滅かいめつをもたらす光が集い球体となる。


これで終わった。


バス――

なッ⁈



「ター!!!」


消え去る光が再びともしび、再起さいきする光がさっきより強くさっきより黒く、そして光はただ拳に留めてはなく、拳から離脱りだつ光はやかでエシドノゥの胴体どうたいへ打ち込む。


「うッ⁈」


剛力ごうりょくの化身のエシドノゥさえも真っ正面から技を受けたら、一時の悶絶もんぜつの中に悪夜の手放てばなしその軌道きどうのまま後ろへ連れ去り、遠くの壊されていない建物の中に打ち込み、その中から赤い悪魔の顔と甲高かんだかき男性音が共に現れる。


敵が目前になき今、放心ほうしんて肩を垂れる悪夜は疲弊が隠されない。

その疲労感は例え衆人しゅうじんの前に出しゃばりが嫌いな悪夜さえも新聞のスタッフが乗せるヘリコプターがスポットライトを彼に打たれでも構えたくないた。

喉にまっている血を咳出せきだし、悪夜は立つのまま休憩きゅうけいに入る。

なんか時間が長く感じる、体感たいかん上まるで一か月程に体を休ませないの変な心境しんきょうが染み付いている。


これで今までの意趣いしゅく………ッ⁈


一瞬て何かを感じた悪夜は猛然もうぜんと顔を上げる。

エシドノゥが入り込んたその建物の中で悪夜と同じ大きさの紫色の光線こうせんが真っ直ぐ彼に向かってくる。

慌てて自分の前にコウモリと十字架じゅうじか紋様もんようしるされている血色のバリアを張って防ぐ。

それは悪夜が今まで受けた攻撃さえも分かる、彼のバリアは絶対破れる。


そう言えばこれは光線技だったはず………


受苦じゅくしながら悪夜は何かこの状況を打破だはする術を想起そうきした。


徐々に細くなる光線は消えてゆく定め、それから光線を出したその建物からエシドノゥが歩き出した。

またまた、足をしっかり立たせているが、胸の紫色の装甲そうこうみたいな皮膚の半壊はんかいの損傷状態とその中かれ垂れ流すにぶい色の液体を見ると、奴つも無傷むきずではないこと示している。


そしてけむりが去って、エシドノゥ自分が下した光線技の成果せいかを見たら、奴つは目を細くする。


「やはりつくつくと気が抜けない小僧こぞうだな………」


これは勝利の感想かんそうではなく、煙から徐々に姿たを現す悪夜は翼を前にしている。

ただがの翼でどうやって破滅はめつの紫色の光から凌げたと思えば、その翼の飛膜ひまくが赤い水晶の羽に変った。

ブラッティクリスタルのツルツルした表面ひょうめんて光線を受け流し、より威力いりょくを下がるの方法て悪夜はその壊滅の一撃から耐えた。


だからこそ敬服けいふくするだ、まさか最初は一撃さえも打ち込めない子供が、たった半日て彼をここまでのダメージを与えて、自慢じまんなる一撃を凌げた。

だからこそ消滅しょうめつすべした、目の前にいる子供は彼らと対抗たいこうすること出来るものだ。


そう思ったエシドノゥは両手を高く上げる。


「それで………君らの降伏こうふくのシグナルではないよね?」

「フッ、バカをいえ、これは貴様を倒す我が絶大ぜつだいな力た。こいッ!」


こう叫んだエシドノゥの上空から、亀裂が発生はっせいして、硝子細工ガラスざいくのように割れて、その中からエシドノゥのような巨躯さえ全身を覆う程の絶大な掌だ。


舞い降りて、そしてあの魔物たちのようにエシドノゥの手と合体がったいする。エシドノゥはこれで更なる力が使える、それは悪夜のような初心者さえも見えることた。

それから両手を横してそこを合わせて、その真ん中から紫色のエネルギーを集う。

多分その絶大な両手でさっきの光線技を強化きょうかするつもりた、そう予想した悪夜は気を引き締めながらも笑みを浮かべる。


「どうやらお互い次て勝負を決めたいらしいね」


こう言った悪夜は前に防げている翼を展開てんかいして、そこから彼の拳は今までのない赤い光が放って彼の全身を覆う。


「ならば勝負だッ、小僧ッ!」


エシドノゥの両手前に螺旋状らせんじょうのエネルギーの激流げきりゅうの流れがドンドン加速し、その集い球体も益々ますますデッカくなる、それに対し、悪夜は右腕を絞る様で後ろへ下げて、その赤い光が高く漲ってこの静謐せいひつて深海色の夜空を照らす元気なあかりとなる。


エシドノゥのエネルギー球体と、悪夜の光が限界に到着とうちゃくしたさいに――


「リアオブザッブレイド!!!」

「デストロイヤーバスター!!!」


ドカンっと、爆音ばくおんと共に悪夜が打ち出す拳から自分の上半身を覆う程の赤い光線を放つ。

ボガンっと、エシドノゥの全身を覆うの絶命ぜつめいな紫色の光線が悪夜に襲ってゆく。


両方の攻撃が交差、地面のクレーターが更に広がり、息が苦しい程大気が吹き飛ばされた。

一見両方の攻撃の決定けってい的な大きさが決まっている、だがまるで質量こそが勝負しょうぶの決まりように、悪夜の比べて細い光線はやりと化し、その何倍デッカイの光線の中心を突き刺いしながらエシドノゥへ向かってゆく、やかで――――


悪夜の光線がエシドノゥを打ち込む。


「うわあああああああああ!!!!!」


それは今までの戦いて悪夜が初めて聞いたエシドノゥの悲鳴ひめいた、だがそれしきて悪夜は手を抜くことはない。

光束こうそくが段々と打ち上げて、最後に悪夜の真っ上に到着した時、それがようやく消えてゆく。

そして途中て光線から離れたエシドノゥはまるでタイミングの合わせのように、同時に上空じょうくから地面に墜落した。


地面にハマって、動いもせずに目やエネルギー集う場所の光が消えた所を見て、悪夜は一瞬の目暗めくらみに受けて、そのまま地ペタに尻を付く。

仰天の溜息ためいきを吐いて、悪夜は静かに夜空を見上げてまぶたを閉じる。

そしてゆっくりと目を開けて――


「何でこれでも倒せないた?」


そう、また夜空よぞら向いている悪夜の前に、エシドノゥは立っている。

その質問しつもんに奴つは何も答えず、ただ静かにこう言う。


「貴様は悪夜と言ったな?なに、君はちゃんと倒したさ、この状態の俺を」

「なッ⁈」


それを聞いた悪夜は、狼狽うろたえが隠せなく、そのまま顔に書いている、なにせその言い方からすれば――


「それでは悪夜よ、貴様は確実にこの俺を倒した、それはまぎれもない事実だ!だが、君の勝利に俺が賛美さんび出来ないことに先にお詫びを付けよ、なにせこれから俺はこの星を潰すしかないだ!!」

「テメエ!!」


嫌な予感よかんに任せたまま無様に体を起きて、そして地面を踏み壊すの足取りて音速おんそくに奴つへ近づいたが、


ホホホホホホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!


ただの恫喝どうかつて、接近する悪夜はまるで蚊帳かやの外のようにずっと紫色のオーラに外から拒絶きょぜつされた。

時間が流れるほどそのオーラが徐々に拡大かくだいし、最後て一気に増大ぞうだいしたオーラは悪夜を遠くへ押し返した。


やっと押えられているの止めて、乱流らんりゅうの中て小さく目を開ければ、パッと悪夜の赤い宝石の目が一瞬て丸くなった。粉塵ふんじんが目に付けた痛みを忘れるくらい、エシドノゥの姿は見過みすごせ出来ないた。


何せ悪夜の前に立ち防げているのは身のたけて五十メートルを超えた絶命な長身ちょうしんでした。


「悪夜早く逃げるッ!!どこの世界でもいいから、奴つが……………奴つこそが――」


ここまでずっと黙っているの福ちゃんはいきなり叫んた。例え悪夜が聞いていないとも、例え悪夜がもう状況を把握したとしても、彼もこの状況をしっかり口にするべきだ。


なにせそれは――



――――星を破壊した強者つわものだ!!!!



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異世旅者 @BunAku

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