第4話

 揺らし揺らし、ただ座るたけのせまくて暗い空間くうかんて悪夜はひじに何かをゆたね、自分の頬をつえとする。

 照らすために存在そんざいする黄色の光が一つ一つ経過して、ついに後ろへ先をした時に、


 シューっと、暗いから光亮こうりょうへ、白い視線におおう先に、青い一片いっぺんとなった。

 下には蕩然とうぜんとする水平線すいへいせん、上には晴天せいてんているあまはら


 決して夜景やけいおとずれない風景ふうけいだが、悪夜あくやが見飽きたのはたった十秒後のことた。

 これこそが動体視力どうたいしりょくがもたらすのれつであろう、周りすべてが遅く見えるのは。例えまどの外が時速六十じそくろくじゅうキロメートルの速度そくどて走っているたとしても。


 ふたたび正面を見ると二つにわかれたせきの後ろ姿がみえる、そしてさらなる先にはおおきな窓口まどくちと色んなボタンがある設備せつびがある。

 間違いなく悪夜は車内しゃないにいる。先週のお墓参はかまいりのお約束やくそくに行く途中とちゅうであれば、運転席うんてんせき助手席じょしゅせきにいる人達は、悪夜の父親と母親た。


 車の状況じょうきょうは説明した。さで質問しつもん、もし自分のひざの上に可愛いものがよこになっているとならどうする?ずは頭をなでなでするでしょう。

 ではもしその可愛いものは少し前て君と距離きょりく妹であれば、どうなる?


 そう、何の責務せきむのない後部座席こうぶざせきにいる彼らは無味むみて、やかで一人は先に寝ちゃった。

 さっきべた立場たちばにいるから、触りたいと嫌われたくないの両方責りょうほうせめるの状況に、悪夜は難儀なんぎでした。


 まっいいや、って最終的さいしゅうてき前者ぜんしゃの気持ちが多いことに、悪夜はその少々蒼白そうはくてのひらを母譲りの妹の赤い頭の上にせた。

 そんな適当てきとうな選べて引き換えたの結果は妹から気持ち良くの擦り付けに悪夜は無意識むいしき微笑ほほえみをほころぶ。


 カチャ。

 微小びしょうだけど、彼のお楽しみを邪魔に入れたのはシャッターの音で、彼は半眼はんがんとしてその音源おんげんに向けた。


 向かうのは先て、明白めいはくにさっき画像がぞうを取れたスマホと手は助手席からばした。ただそのスマホのカメラは明らかに彼らに向かってではなく、後ろの様子をうかがうのバックミラーに写真しゃしんを撮る。


「お母さん?」

「はい、何でしょう?」


 どう聞いてもとがめるつもりの疑問形ぎもんけいでも、そのお母さんはまるで平然へいぜんとした返しに悪夜の顔は少し険悪けんあくになって行く。


「何を取ったの?」

「それは勿論もちろんの子供たちが仲良くの日々ひびをしっかりきざむことだよ!」


 そう言った彼女は掌を頬にって泡湧あわわ幸福こうふくに見える。


「ならばせめて正々堂々せいせいどうどうに取らないか!」

「いやよ!こんなことはやっぱり盗撮とうさつした方が臨場感りんじょうかんがあるの!」

「正々堂々に盗撮をかかげてどうする?」


 悪夜のツッコミにかまえもなく、お母さんは写真しゃしんし続ける、ただ偶には正面て撮ることがざって、それたけが悪夜に安慰あんいをもたらす。


「あに、五月蠅うるさいぞう……」

「いや、すまない。お母さんの盗撮行為こういについてちょっと堪忍袋かんにんぶくろれそうでした」

「トウサツ?」


 何か聞き捨てならぬものがみみに入ったら、頭を兄の膝から離れて目をこする程ねむいとも、静琉しずるは母親に見て行く。


 カシャ!


 今度こんどは母親自身も入りの写真を取れた!

 その写真が映る静琉は大きく目をまる前置ぜんちカメラに向かっている。


「お母さん?何してるの?」

「それは勿論、我が子たちの仲良し日常を盗撮しているよ!」

「正々堂々に盗撮を掲げてどうするの?」


 スワっとお母さんの手からスマホを奪えようとしている静琉、シュっとその稲妻いなずました手からかわし、兄妹が息ぴったり、相同そうどうなセリフを言い出したことに、フフってくちびるを手で当たる撫子なでしこ


 初撃しょげきがかわされたとも、静琉は上半身じょうはんしんたけ前座ぜんざまたがり母親のスマホを強奪ごうだつしようとする。

 でもそれらをけしつつも、お母さんは自分を含めていくつの写真を撮り続けている。多分あの写真の名前は『娘が携帯けいたいを奪いしに来た☆』っと、くだろう。


「あっ、お父さんは見ちゃダメだよ、運転しているから」


 娘のプルプルの顔をおさいしながらも忘れずにお父さんの信義しんぎに声を掛ける。

 一見いっけん信義は運転手うんてんしゅ模範もはんとして真っ直ぐに前を見ている。流石さすがに運転手のお父さんは気をらして余所見よそみするのはないと思えば、悪夜から見た横顔よこかおかすかに気持ちが萎縮いしゅくしている。


 本当に無言むごんする程、家族は大騒だいさわぎで悪夜はただ笑って見ているたけだった。


 フっと、ようやく自分が携帯を取れないの見極みきわめた静琉は強く座に腰を下ろし、そして頭をもう一度悪夜の膝の上に横でめる。

 お気軽きかるくの様ですから、悪夜も忌憚きたんなく手を妹の頭に置く。結構けっこう鋭く伸びたつめ、今はよきくしとなり彼女の長髪ちょうはつ進入しんにゅうし流す。


「んで、アニは何をしたから、お母さんがそんなにたかぶっているの?」

「うん?こうして君の髪を櫛すること?」


 への口形くちかたちとなり、まるでまた何かを話たいたり、まっていたりの眼差まなざして悪夜をにらむ。

 ですがそれ以上のことはしない、ただ表情がかくす程顔を内側うちがわに埋めるたけ。


「変なことしないでよね」


 拒絶きょぜつの言葉が下さでも、手を振りはらわないの満更まんざらでもない様子に、悪夜の面差おもざしがゆるわせる。


「うん?」


 そして一転に張りめていたのは一瞬いっしゅんたけだった。


「本当に仲睦なかむつまじくでなによりですね」

「ちょっ、アニどうしたの?」


 また兄妹の出来ことを画像がぞうとして保存ほぞんしたい処に、背後はいごからの話しに阻止そしされた。

 後ろから伸ばすの手は長くて鋭い爪て持ちぬしは悪夜のこと知り、しくじった妹のかたきを討つための借りできた手と思えば、それの目途めどにスマホではなく――――


 ――――ハンドルだ!


 ゴオオオオオオオオオオォォォォォォ――


 交通事故こうつうじこ遭遇そうぐうしそうな車輪のきしむ音を立てでも、車輌しゃりょうは無事に平衡へいこうを保って真っ直ぐに車道て走り続ける。

 運転手として、父親として、どんな理由があっても、運転している車のハンドルを奪うことはゆるすまじきことた。


 だが息子に向かう父親のつらは疑問がちるでも、ちゃんと彼の信任しんにんが含めてるん。

 これによっていつも無口のお父さんが大声おおこえ𠮟しかられるに少々期待きたいを抱いたですが、今はそんなちっぽけなことに感傷かんしょうする場合ではない。


「後ろから誰かが便乗びんじょうしょうとしている」


 含蓄がんちくがあるの冗談じょうだんて聞かされでも、信義は鋭敏えいびんにドアミラーへ視線を向う。

 昆虫のれ、例えほか種族しゅぞくが混ざっているたとしても、かがみて映した第一印象だいいちいんしょうとしての説明がつくんた。


 そして中身なかみは一体のカマキリがちょうどタイヤあと先端せんたんに腕を地面じめんにハマっている。

 息子に助けられた、いや、彼が家族を救われた。もうここまで成長せいちょうするのは容易たやすく心がるがすの彼にとって、涙がこぼれそうな話だが、それどころじゃながった。


 人生じんせい数々かずかずを受けでいだが、このような場面に出くわしたのは初めてた、経験があさい彼が再び息子に向ける顔は硬いでも建議けんぎもとめている。


「お父さんはもう少し踏み込めでもいける?」

 うなずく。

「じゃこのまま走って、俺がやつらの相手にする」


 急速きゅうそくしゃべり方しながら、加速かそくて起こした重心じゅうしんに引っ張られたまま席に戻す。

 スイッチを押して、窓口がどんどん下ろしてゆく。


「迎えるでしよう?アニは大丈夫?あんな数……?」

「ああ、もっと危険きけんそうなものも出くわしたことがあったから」

「気を付けてね」


「うん、ちょいっと怪我しに行ってくる」

「行ってらし……、っで、ちょっと待って!無事しに行ったじゃないの?」


 母親心配声に聞く耳が持たない、開けた窓口に下半身から全身をくぐり抜けて、それからひるがええして最後に片膝かたひざ車上しゃじょうへつく。


 時速六十以上の風圧ふうあつ、例え足場あしばがあるとも、中学生には到底とうてい耐えらないもの、だが悪夜はないもののように立ち上がる。

 強がりではない、振り返ることも容易よういに成しげて足をしっかり付けている。


 さでとっと始めて、彼は腕を組み考えことし始めた。

 高速の車上て仁王じんおう立ち姿、傍目はためから見るとそれはきっと批判ひはんを授かる行為だが、悪夜の足下あししたには家族四人の命が掛かるんた、いつも通りに派手はでにやると影響えいきょうは必ずた。


「ちょうど確認したいことがあるだな……」


 風圧がなくともその音量おんりょうはただひとり言しか聞こえない。


「スワアアアアァァッ!」


 まるで悪夜の話し内容を聞き取りたいように眼前がんぜんまで近づいたカマキリがすぐに幾つの赤い結晶体けっしょうたいつらぬいて追い払った。

 どんどん後ろに下がる仲間の死体したい処理方法しょりほうほう軍勢ぐんぜいの穴を開けて、あっさりと捨てごまにする。


 益々ますます奴らがただ意図的いとてきに集まれて、群体意識ぐんたいいしきがないの不逞ふていしゅうなことが分かる。

 これも一つの大事な情報じょうほうだが、また一つ確認しなきゃいけないことがある。

 そう思った悪夜は、再び群れに背を見せて車から飛び降りる。


 その同時どうじに何の原理げんりもなく背中からえた、身体しんたいごとを覆うのでっかいつばさを広げる。飛膜ひまくが付く翼は風を捉え、彼をたこのように空中て停滞ていたいすることが出来た。


 だが、風に飛ばす方向は魔物の群れた、まさに敵陣てきじんの海へ身をげるの自殺行為じさつこういに魔物たちはこの機会きかいのがさずにいられない。

 自分の周りに集合しゅうごうしている、魔物に向けてばたく。爆風ばくふを起こした一振りが悪夜を上空じょうくへ連れて、魔物たちを吹き下げる。


 雲とほんのわずかな距離て、悪夜を連れるの風勢かぜいきはようやく止まった。そこて下に見下ろしたら、風には耐性たいせいがある長い躯体くたい持つの魔物たちが先に彼を追い、他のは風が止まるの待つ。

 最終的さいしゅうてきに魔物全般ぜんぱんが彼に向かってくることになった。家族を守るからには思惑通おもわくとおりであるが、その裏のある意味としては、悪夜の唇をひねることに造成ぞうせいした。


「よし、確認んた。悪が、早目はやめに終わりましょう」


 こう言った後、彼が背負せおう翼の飛膜が赤い水晶を生えて、まるではねのようにドンドン飛膜を占拠し、やかで赤い水晶の羽が持つ翼となった。

 その状態て悪夜は百八十度て体をまわす、結晶体の三分の一が墜落ついらく

 そしてそのままで、反対側はんたいがわに三百六十度で体を回したら、のこりの水晶全てが赤きあめのようにそそぐ。


 生物の阿鼻叫喚あびきょうかんだ、例え落ちた水晶でけむりを立ってでも、無数むすうのブラッティクリスタルにされ魔物たちが悲鳴ひめいを上げて、上空に至る悪夜さえも、自分の攻撃が有効的ゆうこうてきのことを伝わってくる。

 これは自分の飛膜を九十パーセントをブラッティクリスタルに変わって上空から振り下ろすの、空中能力を引き換えにした対軍勢たいぐんぜいの攻撃だ。


 そしてなせ九十パーセントにすれば、それは飛膜が無事に再生さいせい出来るように残すのものた。


「よし、被害者ひがいしゃなし!」


 ほこりが去った直後、悪夜が先に目を付けたのは魔物たちではなく、自分の攻撃て他人たにんを巻き込まれかどうかに確認するん。

 見ての通り、その技は軍勢に有効ですが悪夜自身も制御せいぎょ出来ないの範囲はんい攻撃た、もし間違まちがえにすれば無差別むさべつ一般人いっぱんじんさえも火花ひばなを付けることも可能になる。


 無辜むこを傷くことはないのなら、自分がたおした魔物の数々をかぞえるの時間た。

 ある魔物たちは大量の水晶に貫通かんつうされてその場で即死そくしした、ある群れはただ生物の反射神経はんしゃしんけいのおかげて死んでいないのふりをする、またある群れが死んでいないが水晶が地面まで串刺くしざしたことで苦鳴くめいしか上げれるんた。


 どっちにせよ最低は瀕死ひんしまでのことだから、悪夜は魔物たちからブラッティクリスタルをえぐりし始めた。

 前回のように掌を一振いちふりしたら、全ての赤い水晶は血流けつりゅうとなり悪夜の掌に戻り、そして一握りで集血しゅうけつが終わりとつげる。


「これで終わりっ――」


 パサー


 勝利の宣言せんげんするつもりだが、水面から何かが突き上げた声音こわねが悪夜の注意ちゅういを奪い取った。


「ホウウウエエエエエエー!」

「わう!」


 まるでホラー映画えいが衝撃しょうげきのラストシーンみたいに、全てが丸く収まったの思いしきに、また新たなる一匹が現れる。

 ただ強き反応力はんのうりょくが持つ悪夜は映画みたいに急転直下きゅうてんちょっかのバットエンドに突入とつにゅうしなずに、それの襲撃しゅうげきをギリギリまで躱した。

 避けてくずれたバランスを取りつくろい、悪夜はすぐにその襲撃を仕掛けた輩をうかがう。


「うっそう……ヘリコプリオンじゃん!」


 相手に敵意てきいを示すの先に、彼は驚嘆きょうたん顔色かおいろさらした。

 ヘリコプリオン、それはさめらしきものの一種。だが、なせ鮫と呼ばないと言ったら、この鮫の顎ときばを合わせて鋸盤のこぎりばんみたいの形が付いているから。


 ただそれはまた悪夜と認識しているあのもう絶滅ぜつめつした鮫とはまた違ってむらさきの硬いそうなかわとエネルギーました目玉めだまから見れば、さっき倒した群れとはグルの示し、もっと凶暴化きょうぼうかするために、尾鰭おびれまで改造かいぞうして鋸盤の形でした。


 絶滅した生物を別の形て伺うことは、異世界いせかいて魔物やりゅうやそういうたぐいのを初めて見た興奮感こうふんかんくらべるものになる。

 でもそんなことに感動かんどうしている場合ではないと、その鮫の反応がそう言った。


「ホウウエエエエー!」

「B級映画でも程があるんだろう!」


 まるで深海しんかいおもさを感じる叫び声を放つ、鮫の顎に付いているの鋸盤はてつさえもかるく切れそうに高速回転こうそくかいてんし始め、悪夜に突っ込む。

 最初の一手いっては避けただが、あの鮫はまるで水を得た魚のようにまた踵返きびすかえ次々つぎつぎと攻撃しに掛かってくる。


 飛膜が失えたから、空中戦くうちゅうせんて攻撃を避けるのも少々冷汗ひやあせをかいた。


 何回でも攻撃を果たせなかったの鮫最初の動きは自我じが回転、そして自分を鋸盤となり、再び悪夜に仕掛けてくる。


「こんなことまで出来るのか……ッ!」


 顔にはおどろきがいているが、飛膜が徐々じょじょ回復かいふくしたおかけで空中での悪夜は移動はもっと機敏きびんになって行く。


 悪夜とすれちがった鮫は回転のまま、ブーメランのように水平すいへいて彼へに戻す。

 そこへ勝機しょうきを捕まえた悪夜は自分を翻して、円盤えんばんのように廻旋かいせんしている鮫の中心ちゅうしん一撃いちげきくだす。


 白いおなか波瀾はらんを起こす拳に、鮫は上空から水面の近くへ連れて下がる。

 これしきて終わりはせぬことが分かって、下した右拳を回収し、掌て当たる。

 それは指の関節かんせつらすではない、掌から抜けた拳は紫に近い黒色の光に包まれ、残光ざんこうを長く伸びさせた拳を弓矢ゆみやのように打ち放す。


「ダークバスター!!」


 拳からほとばしる光は光束こうそくとなり大気たいきを払い、再び鋸盤と化しで背中が打たれた鮫は海に連れて帰った。その衝撃は水花みずはなを高く咲き誇り、海水かいすいの雨を降り注ぐ。


 何処でもいいとにかく、水に当たらない高いはしに悪夜は足をつき、下へ見下みおろす。


 海に打ち込まれた鮫が再び姿を現した時、もう白いお腹を空に向けてあわごとく消えてゆく。


「うむー、これで終了しゅうりょうっと」


 手を空へ向いて大きく背を伸ばす、とし相応ふさわしいくない仕事しごとをこなすぶりを晒し、悪夜はやっとあることを整理することができる。


「あいつら、明らかに俺に向かってくる……」


 襲撃がまた到来とうらいする前に、周りはちゃんと車がある、なのに最初の攻撃は明瞭めいりょうに彼の家族に、彼に仕掛けでくるんた。


 それたけじゃない、恵琳とお出かけしたあの夜以来いらい、彼はもう七回の襲撃を遭遇そうぐした。

 しかもあれらの現れる場所はちょうど彼の近くにいる。


 迎えた尖兵せんぺいの種類がどんどん広がり、出現しゅつげんの時間も少しずつ夜からずれていたり。

 例えおさなくで、またその意味がはっきり説明できないとも、その裏が悪い方向にすすんでいることくらい、悪夜は感じ取る。


 ここまでに情報を整理した悪夜は、高い場所の風に放恣ほうしのままで自分の髪を散らかし、明けても暮れてもいつも通り必ずそこに立つの水平線に遠い目をする。


「行こうっか」


 かわいた声て自分をうながし、小躍こおどりて柱から落ちる。それから風の流通りゅうつを乱す程の旋風せんぷうを巻き上げるの羽ばたき、悪夜は昼間ひるまでも赤い星となり、自分の家族の元へ飛び出す。


 *


 はなっから線香せんこうの匂いがする。またまた入れ口前の階段かいだん登りなのに、抜けた拱門きょうもんはここの品格ひんかくを漂う。


 あれからたった一分が経過したどころで、悪夜は家族と目的地もくてきち合流ごうりゅうした。そして息子の無事を確認した直後、悪夜は離れた時にみずかえたおどけの餞別せんべつ説教せっきょうタイムに入り込む。


 階段を登ったあと、悪夜一家の目に映るのはやや息苦いきくるしいの人混ひとごみと荘厳そうごんのある場所だ。

 これでも祭日さいじつをずれて、早目に来られたのに、もしも当日とうじつであったらどれ程の狭いを起こすか悪夜が想像たけで秋もあつくなりそうだ。


 そなえ物を置いたり、焼香しょうこうしたり、合掌がっしょうしたり、色んな作法さくほうをこなした一家はとうとうここに来るの主題しゅだい開始かいしします。


「それじゃ祖父たちに会いに行くね、二人共ちゃんと挨拶あいさつしてね」

「「はい」」


 子供ふたりの了承りょうしょうを得た撫子は信義と肩ならびて歩き出す。そして両親の後を追う子供たちの距離が少しずつ縮む。いえ、妹の方から兄を接近する。


「ねぇ、アニ、アニは大丈夫なの?」

「うん、なにか?」

「ほら、アニは吸血鬼だろう。そして今入るのは神仏しんぶつ領域りょういきだろう?」

「ああ……」


 妹の指し示すのおかげで彼はあることさとり、神様に対して不敬ふけい嫌悪けんおを顔に構える。

 静琉が伝えたいものは理解している、もし大衆的たいしゅうてきな思考てめぐれば、神仏は白、吸血鬼は黒の立場に行われる。

 もし本当に神様が見ているのなら、彼のことをどうあつがいするのかそれは未知数みちすうでした。


 そんな彼が納骨堂のうこつどうに入った瞬間、視野しやを覆う程の仏像ぶつぞう厳威げんいとして座禅しているの姿。

 直々阻みしに来たと誤認して、悪夜がそれは彫像を知る時、心安く胸を触る。


「まあ……大丈夫らしい?実際俺をこうして入れた」

「ふむ、さすか仏様だね、アニのような方も門前払もんぜんばらいもしないなんで」

「おい、妹よ、その言い方にすれば俺は凄くよこしまなものと言っているの同然だよね」

「ではもしアニが門前払いしたらどうする?」

「それは力尽くで入り込むしかないでしょう、爺さんや婆さんの見舞みまいに拒まれて怒るの当然だろう」


 だろうね、と相槌あいづちする静琉。

 その後少々遅れた息子たちを気付いて、撫子が呼びかけたら、二人は大闊歩おおかっぽて自分の母親へ駆けて行く。

 これからの作法は順調じゅんちょう的なので、悪夜の一家はすぐに帰り道へ歩み始める。


 ただ悪夜は何もかも話ししていないた、彼が建物に入った時にあったその仏像はほとんどひとみが見えない程の細い目ですが、なんとなくそれが彼を見ているの気がした。

 それだけではない、彼がその建物の中にいると、彼はずっと視線しせんを感じている、まるで誰かに値踏ねぶみされているように。


 *


「どいうことがあってさ」

「へえー、やっぱり君は仏様ににらんでいるじゃない、さでは何か悪いことをしたのかな?あっ、してしまたと言うべきか、裸を見た罪状ざいじょう


 翌日、鳥たちも歌声うたこえを上げる爽やかな朝で、悪夜と恵琳は学校にかよう途中で昨日の出来事を彼女に報告ほうこくしている。

 別に義務ぎむがいるじゃないが、なんだか彼女が嬉しいそうに聞くから教えてたけた。

 その結果は例え一生に残るの辱しめのことを想起そうきしても、水に流すようにおどけにした。


「さあな、でももし君の裸を見たところてただ睨まれで済む話しじゃもうけたと思うだが」


 むうっと、自分が開いた話題でも、別人から言うとやはりむやむやして、紅潮こうちょうが浮かべたまま唇を引きずらす。

 それから堪えられなくて、悪夜の肩に掌て打ち込む。


如来にょらいしょう!」

「なんだその掌法しょうほうは?」

「学びたいかい、私が教えよ」

「いらねぇよ」


 なんで映画のネタで笑いて飛ばした恵琳はやっと冷静れいせいとなった。

 ふっと、ある会話が彼らの耳に流れくる。


「ねぇねぇ、聞いたのか」「なに?」「最近はこの市内しないの何処でまた怪獣におそっられたらしいよ」「えっ、噓⁈」「そう、しかも最近の話しによると、襲われた場所は必ずあの赤い姿がいるらしいよ!」「あのっで………最近うわさのあの赤いコウモリ者のこと?」「そうそう、しかもあの正体はうちの学校の生徒せいとらしいよ、ほらあそこにいる、あの赤い髪形の人」


 気まずくないため、なるべくに頭を動かないまま、横目よこめて悪夜を一瞥、そして悪夜は少々唇を引きずれている。


(これはもう……バレる日に近いだよね………)


 恵琳のことではないのに、彼女は隣て静かに求めるの幼馴染に小さい息をつく。

 だが後て考えたら、彼女は何のことに顎を引いて空目そらめをする。


「でも魔物たなんで、また神様たなんで、この世界は一体どうなっただろう」


 これこそが幻想げんそう物理ぶつりを越えてそれ以外の式に導いて無限むげんの可能性をつむき出す。

 様々な想定外そうていがいな出来事が現れるに楽しみ、だがそれもつまり多種多様たしゅたような問題が人類に向かってくると言うことた。

 だからこの話題わだいに大歓迎の恵琳さえもうれいの顔色が抱えている。


 さあなっと、肩をすくめる悪夜も明日あすの方向へ見てゆく。


「うん?」


 再び視線を道へ帰った時、そこに物凄ものすごく不自然の子供が前方に真っ正面てたたずんで、悪夜は思わず足を止めた。

 何処か不自然と言うと、その子供は長い白髪が付いている、生命を感じるのツヤ付いているの白髪であらず、生命の洗礼せんれいを受けた色褪いろあせのような白い髪た。

 おまけに知性ちせいかもし出すの全身を包むの長いローブを着いて、そして頭が丸形にする木製のつえを横身の彼を支えるの彼は実に変な子供た。


 なのに誰にも彼のこと見ていない。


 確かにこの道を歩んでいるみんなはちゃんと彼をけた――と言うよりに近いた。


 なりより、


「ねぇ、恵琳……」

「ふえ?」


 悪夜が止まること知らずに先越さきこええた恵琳は変な声を上げて振り返す。


「君は……あれか見えないのか?」

「あれで……なに?」


 悪夜の人差し指の指示しじのままに見てゆくと、何も注意するところがないて判断はんだんする恵琳は疑問を抱いて戻る。


「見えないのか?あのコスプレ会場かいじょうを間違えた子供」

「えっ?どちかと言うと、君はこの場で唯一ゆいつのコスプレ会場が間違えた人ですよ?」

「おかしいな、そっちの方が俺より完成度が高いに見えるだが……」


 反復はんぷくに前後を見る恵琳と顎を引く悪夜を見て、例え会話内容がわかなくとも、予想はつく。あの小児しょうにはため息をこぼして、姿勢を正したあと、悪夜へ歩いてくる。


「おぬし、悪夜なのか?」


 子供の疑問に悪夜は片眉かたまゆをびぐっと上げる、それは当然になる疑問た、何せこの子は――


「変な喋り方してるな、この子」

「さらりと失礼しつれいなこと言うな、お主は!!」

「だってさ………」


 ウギ――――って、明らかて見くびる様に、小児は奇声きせいを上げながら地団駄踏じたんだふする。


「ねぇ、悪夜………」


 呼び掛けて、悪夜の注意はらした。彼が話し相手している以上、持ち出されたら、小児が恵琳に向ける顔色かおいろは不機嫌て当然た。

 だが一転いってん、彼が恵琳を見た時、驚愕きょうがくな顔は隠すすらも出来ないた。


 だって悪夜を呼びながらも、


(ワシはちゃんと認識妨害ぼうがいを施したはず、何故この小娘はワシを見ておる。まさか只者ただものではないのか………?)


 黄色の目が恵琳をにらんみ、その目から放った視線はするどき、子供には到底思えないの智慧ちえが宿っている。

 それに見つめている恵琳は――


「この子があのコスプレ会場を間違いた子なの?」

「お主も相当な礼儀れいぎなしじゃな!!しかもなにかコスプレじゃ、さっきので一体ワシを何処どこまで見下ろしたかッ?!!!」

「だってさ………」

「やかましい!!!!さではお主らはそういう関係だったのかァ!!!!」


 ウガ――――っと、今度は手の内の杖も胡乱うろんに振り回しつつ、彼の声は空へととどく。ただそれでも彼の存在はまるで空気のように誰にも注意ちゅういしていなかった。


 コホンっとき込みして、さっきの出来ことをなかったにします。

 さすかにもう少して学校へつくあの場所で透明人間(?)と話すのは恥目はじめにされるから、彼らは付近ふきんのカフェへ移動した。

 ちなみに二人さっきまで通学つうがくするの途中から、今は帰世子女異世界召回者一人、優秀人間優等生一人と言う変な組み合わせて絶賛授業ぜっさんじゅぎょうサボる中。


「改めて自己紹介じこしょうかいしよ、ワシはこの土地の土地公鎮守神じゃ」

「土地の土地公………ってもしかして、福得フト――」

「そう!!」


 シュっと恵琳の声音こわねを遮て人差し指て彼女を指す。意気揚々いきようようの様子だが、一転彼の意気は収まる食指と共にちぢむ。


「と言いたい所じゃが、最近は信仰しんこうの不足の原因てのう、こうしてお主ら……、いや、お主と合うためにわざわざ神格しんかく一個を分離して、現世の存在を保ってたのじゃ」


 言い返して、悪夜の方へ移る。


ゆえにワシはあの方ではおるが、そうでもないじゃ、名前はそうじゃなあ――」

ちゃん」

「そう、福ちゃん………っで、おいいい!!!!」


 ドンっと、福ちゃんは強くテーブルをたたく。さいわい彼の存在は悪夜たち以外には誰にも彼のこと観測かんそくが出来ないた、さむないとさっきので多いな視線しせんが彼らに送ってくる。


「コホン、取り乱して済まぬなあ、後でかえりみしたら、悪くないじゃなあ」

((満更まんざらでもないた))

「とにかく、ワシがここに来ることはほかでもない、悪夜、お主じゃ」

「って何の及びでしょうか?」


 吐息と共に、福ちゃんは目を閉ざす。そして再び目を開けて、彼はこうげる。


異界いかいなるものよ、立ち去れ」

「「はあ?」」


 いきなりの払い宣言せんげんらった悪夜と恵琳は頓狂とんきょうの声を上げた。

 異界なるもの、それは言うまでもない悪夜のことにめでいる、そして立ち去れと言うことは、


「ちょっと待ってください!」


 ドンっと、今度は恵琳がテーブルを叩えた。ですが誰にも見える彼女はこの行動によって周囲しゅういの視線を集まった。

 それを収めるために、恵琳は大人しく腰をろす、周囲の人々も無事のようなので自分のことに専念せんねんし戻った。

 だが恵琳はこれでんだと思っていないた、再度に福ちゃんに向かう顔色はさっきテーブルを叩いたのいきおいで形相ぎょうそうに映る。


「なんで悪夜を離開りかいさせるの?彼は決して異能いのう悪用あくようしないの人、むしろ彼の力で助けた人だって………」

「それは分かっておる」

「なら………」

「でもそれはもう決定けってい事項じゃ、勘弁かんべんしろう。あっ、いいお茶じゃのう、やっはり干戈かんかがおらんと、民は美しいもののために専心せんしんするのう」


 雰囲気を余所よそにして、福ちゃんは彼の前におそなえ(?)た紅茶をすする。

 そんな理不尽りふじん、と言い出す前に悪夜が彼女を止めた。さすかに幼馴染がこうも自分のために助けふねを出したから、彼も他人ことみたいに黙っていられないた。


「さっき異界なるものと言ったな、言っとおこなんだが、俺は――」

「それも分かっておる」


 コンっと、カップをセットの皿に置く。


「お主はこの国てこの地区て生まれた、父親はここの出身、母親は日の丸の民、下にはお主と同じ血が繋がているの妹、お主は正真正銘しょうしんしょうめいじゃ」


 そこまでの情報じょうほうが持ち出されたから、悪夜も歯を食いしばっていながら福ちゃんは本当に彼の事情が把握はあくしているのこと飲み込む。

 でもそれたけではない、どうやら後のことは難事なんじたことようで彼は肩をすくめて片目て悪夜たちに見てゆく。


「じゃがそれも一年前てお主の体が起こしたことによって全てが変わったのじゃ。ある日から始め、一人の少年はつくつくと呼び覚ませぬ夢に落ち込んたらしい、そしてまたある日あの少年は本当に覚めなくなった、何の前触まえぶれもなくっでのう」


 ここまでに聞き、まるで福ちゃんが常に彼らそばにいるように、自己のことじゃない恵琳も固唾かたずを吞む。


「おかけて日の丸出身の母親さえもよくワシらが管理かんりするところへたずねたじゃ。少々一興いっきょうに乗って調べていたじゃが、それはまた奇怪きかいなものを見つけ出したのう。そして半年前お主は目覚めた、それはよいことじゃが、その後お主は……」


 あの世界で手に入れた力が再び悪夜に宿った。おかけて見舞みまいしに来た家族みんなは大パニックと言っても過言でもないた。

 確かに目の前のこの小児は見た目と相反そうはんした情報が持っているのは間違いないた。


「だからその後、お主は本名を預けて、悪夜と言う名を使え始めたのじゃ。そうであろう、悪夜・ブラッティよ」


 はあ………っと、自分が出したカードが無用むようたとあきめる共に、ため息を吐いた。


「まあ、君は見た目のよりも俺の情報を取集したみたいが、一体なんで俺を追い払らわなきゃいけないた?」

「それはお主がよく分かっておるはずじゃろう、最近この街に出現しゅつげんする襲撃者どものう」


 福ちゃんの真剣な眼差しに射抜いぬかれた悪夜は逃げるように視線をおよいた。

 そう、理由ならば彼自身にも枚挙まいきょ出来る、ただ考えたくないたけた。今考えれば神がいるのにまた彼の存在を今まで放置ほうちするのは大目に見たかもしれないた。


「襲撃者……、あの魔物たちね?二人共黙って納得なっとくしないて、私にも教えて。ね、悪夜どうして?」

「おや、お主はまた彼女に言っておらんなのかい?」

「隠した訳ではない、単に気にしていないたけた。それに少し確信かくしんしたのも昨日て出来たものた………、奴らは俺に対して執着しゅうちゃく過ぎる……」


 それは昨日て悪夜が魔物たち退治たいじしたあと、彼が思った結論た。彼が奴らと戦闘の回数は九回、毎回彼の近くに出現する上に、執拗しつように彼を攻撃する。

 こうなっちゃ、彼はただ歩くたけで被害が出てくるの疫病神やくびょうかみじゃないか、だからえて目を逸らした、受け入れたくないた。

 そんな悪夜を見て恵琳は諦めずに弁解べんかいし続ける。


「で、でも、悪夜はちゃんと奴らを退しりぞけたはず………」

「ええ、それに関してまことに感謝しておる、彼の事績についてワシも褒美ほうびをくれたいところのう、じゃがそれとこれの話は別、彼のことは依然いぜんなのじゃ」


 そんな……っと、恵琳はこうべれる。


「でも帰れと言おとも、そもそも俺には帰る手段しゅだんはないぞ」

「とぼけるな、お主今でも持っておるじゃろう、胸にいるあのペンダント」


 チッ、まさかそこまで情報通のは思わなかったの悪夜は舌打したうちした。


「いや、これは俺の彼女から授かった愛のプレゼントた!(チラ」

「そうよ、それは私からの愛がたっぷりのプレゼントよ!(チラ」

「ええい、強情ごうじょうなやつらめ、そもそもそれは異界から来訪らいほうした娘が預かったものじゃろう!」


 事実がべられた二人は一瞬気後きおくれた。


「ねぇ、どういうことなの、それは他の女から貰えたプレゼントなの?」

「いや、聞いで、これには深い事情が…………」

たわむれな芝居しばいはやめんかい!」

「聞きたくない!!」


 パッと、悪夜の頬を叩いた。


「しかも割と本気にやっているじゃのう………」


 そしてその演技えんぎにショックを受けた福ちゃん。


 この後店員さんの注意を招いたことに二人は謝った。


 お供えた紅茶をあおり、皿に置く福ちゃんの顔はまるでお茶に冷えたようにゆるくなった。


「お主らがそこまで拒否きょひしているの理由は分かっておる、じゃがこの一件にはちゃんと考えてくれ、さむないとこの世界の破滅はめつは加速するんじゃ」


 それを聞き取った恵琳と悪夜は一転、眉間みけんにしわを寄せる。


「ちょっと待ってください、世界の破滅が加速する……それでつまり………」

「近々世界が破滅でこと?」


 おう?っとその疑問に福ちゃんは目を丸くなった。後は困惑こんわくの顔色が浮かべて、自分の頬を搔き始めた。


「いや、ちょっとくらいの事実を言うようじゃが、そこまで気付かれたら困るじゃ、今の若いものは小聡こさといのう………、はあ………、そうじゃ、お主がいるこの世界は破滅に近いじゃ」


 いきなりの世界が終わりの告げに悪夜と恵琳は大息を飲む。


「ど、どうしでた?、まさか本当に俺のせいなのか?」

「いや、違うじゃ、ただ君がそれを加速するの言ったのじゃ」

「では一体どうして世界が破滅するの?またどうして悪夜がそれを加速したの?」

「………そうじゃのう、何処から話せばいいでしょう………、先ずは世界の破滅はお主のせいではないん、それたけははっきり言う、じゃがお主がまたここに残ると、奴らはドンドン来る、いいかいお主が今まで戦ってきたのはただの偵察ていさつし過ぎぬのじゃ」

「偵察………たと?」


 そうじゃ、っと福ちゃんは頷く。

 確かに悪夜が今まで戦って来たのはそこまでの強敵きょうてきではないだが、もし奴らの極限きょくげんは彼以上だとしたら、


 守り切れない、っと悪夜は思う。


「では俺が引けば奴らはもう攻めて来ないのか?」

「悪夜………」


 もう弱音よわねを吐いたくらい、悪夜が攻められたこと恵琳もこの会話のすえに心配してた。

 だが悪夜の弱い質問しつもんに福ちゃんは首を横に振った。


「なッ………⁈」

「奴らはと共に出現した訳ではない、それはもっと前のことじゃ」

「だったら尚更なおさら俺が残るべき――――」

「奴らの最大戦力は星一つを破壊する強者たぞ!!!」

「「星一つ⁈」」


 これを聞いた悪夜と恵琳は思わずに上擦うわずる声を放った。さすかにこれはもう彼らが受けるべきのスペックではないた。


「それでも残って戦う気かい、お主よ………」


 問おられ、鋼鉄こうてつさえもあっけなく切断せつだんする自分の爪を噛み切ってようとする悪夜の返事が長々ながなが来ないた。


「ねぇ、福ちゃん………さっきから聞いていると君はあの魔物たち詳しいそうですね。もし他の情報があれば教えてくれますか?」


 またしても福ちゃんは首を左右振る、だがそれは拒絶きょぜつではないた。


「すまぬ、期待にえないじゃが、ワシが知っているの情報はさっきので最後じゃ」

「じゃなんで福ちゃんはそこまで知っているの?」

「小娘よ、かりに別れものだとしてもワシもこの土地の土地公鎮守神の神格じゃぞう、主神のささやきくらい聞き取るのも当然じゃい」

「そんな………福ちゃんの役立やくたたず」

「おいいいい、さすかにそれは不敬ふけいじゃぞ!!!」


 本気で落胆らくたんする恵琳に福ちゃんは両手を上げて暴れている。

 ついに爪を離した口が最初に吐くのは諦めたの吐息た。到底とうていには敵わない、例え悪夜が如何いかなる力持ちでも、星を壊す相手とやりやうの本領ほんりょう、自分が持つの思っていないた。


「でも俺がいないなら誰かが奴らと戦う、もしかして福ちゃんか?」

「むずいこと言うでない、神様でもワシは土地公鎮守神だぞ、守るの得意とくいじゃが、とっでも戦闘のがらではおらん」

「マジかよ、福ちゃん役立たずだな」

「じゃがらそれは神への不敬たと言っているじゃぞ!!!」


 ウガ――、って口がギザギザについている福ちゃん。


「はあ………、じゃがあんずるな、他の国はともかく、この国の守護神ガーディアンすでに分配しておる、お主のやり残すことは奴らが引取るのじゃ」

「ガーディアン?」

「そうなのじゃ、お主らも会ったはずじゃろう、ワシらの天辺テッぺン!」

「テッぺン?」

「おい、知らぬと言わんぞ、ほらあの夜お主ら前でりたあの美しい姿を」


 そう言われて、悪夜と恵琳の頭から疑問符ぎもんふが浮いた。

 あっ、っとあの夜、お主ら、舞い降りた、の断片だんぺんの言葉を集めて恵琳は何かを想起そうきするように自分の掌をつちった。


「思い出した、ほら、夜市よいちのデートで会ったそのデッカイ鳥さん」

「そうじゃ………っで!鳥さんで言うな!!」

「あれか………」


 軽い雰囲気ふんいきの中でも、悪夜はただ思慮しりょしているように顎をばらいながら囁く。


「ね、そういうのいくつがあるのか?」

「うむ………もしあの度合どあいて比べるものというのなら、四つかおるじゃ、天辺テッぺン巨牙キバタテ五指ショウじゃ」

「あれが四つかあるか………うん、十分かもね………」


 答えられでも、囁いている悪夜を見て恵琳はが最も心配することは実現じつげんした。


 彼はもう納得なっとくした。


「分かった、引くよ、俺はこの世界から出るよ。そこまで用意したのなら、どうやら俺の出番はもうないみたいたな………」


 まるで全てが結論けつろんしたように悪夜は背伸せのびする。


「だからワガママ一つでも聞いてもいいのか?」

「………ああ、ゆってみ」


 さっきまではしゃいでいる彼がいきなり真面目まじめすることで少々面食したが、その後に子供の姿じゃ思えないのゆるめた微笑ほほえみを掛けた。

 許可が受けられた悪夜は目をれていながら自分の胸に着けているのペンダント触る。


「俺に少しの時間をくれ、せめて………家族と友たちのわかれる時間を………」

「うむ、それくらいは許せるじゃろう」


 頷けて、これて悪夜がこの世界へ離開りかいする道は定められた。ふっと、感傷かんしょうて目を垂れている恵琳は何かを思い出したように顔を上げた。


「あっ、そういえば悪夜、この世界てなすべきことはどうする?あの君を転移したあの綺麗な神様」

「ああ、そいえばそんなことか――」

「なんじゃと?!!!」


 いきなり福ちゃんが彼らの声を上回うわまってさえぎった。


「おい、その話しもっと詳しく………ッ!」

「…………………………………………ッ!」


 悪夜と福ちゃんが一斉いっせいに同じ方向へ見てゆく、その同時に空から硝子ガラス亀裂きれつ音が立った。

 ガリガリガリガリガリガリっと、天空て二次元にじげんのような三次元のような亀裂がドンドン広がって最早ここまで、ようやく止まったの割目わりめから不吉な空気がにじみ出る。そして――


 ガン――


 爆発ばくはつを誤認する程の膨大ぼうだいな割れ音が起こし、天空は太陽を遮るの巨大なうろが開かれた。

 その爆音ばくおんが聞き取った民衆は自分の仕事を置いて、車から降りて、自家の窓を開けて、その絶大ぜつだいに不可解な景色けしきを目に通するために。


「本当に時と場所が分からぬ奴らめ」


 人々がその奇天烈きてれつなことに驚嘆を上げるだが、一人たけが彼を感受出来るの世界唯二の人に聞こえる程な舌打したうちの声を立てで、そこへ雑言ぞうごんを付ける。

 それに呼び掛けたのように、巨大影がその天空の洞から姿を現した。


 あのもののために開けた穴、と言っても過言かごんでもない、その陰がそんな巨躯きょく持ちであった。

 ヒュラリっと、水をくぐりのように揺れ動く、巨大な姿はようやく全貌ぜんぼうが見えてきた。


「空に泳ぐモササウルス……………………?」


 そう、鰐を連想れんそうする長い顎、躯体から尻尾、だがその四肢は指なしの鰭と変わる姿、正にそのかつて地球の蒼海そうかいを統治した最大級の海洋肉食生物、モササウルスた。

 ただ天中の穴から現れた以上、あれも以前戦ったあの魔物たちと同じから、表面ひょうめんは紫色の鎧が着けている。


「ホオオオオオオオオオンンンンンンンンンン――!!!!!」


 深海を彷彿ほうふつさせるの雄叫おたけびは重くて質量しつりょうがあった、それを聞いた一般民衆は自分の喉を惜しくもなきに泣きわめいてしつつ逃走とうそうし始めた。

 たった三人、もとい、二人と一神が元の位置てずっと残っている。


「B級映画でも程があるでしょう!」

「それ、昨日俺も同じこと言った。んで、どうするのよ、福ちゃん、あれをなんどかにしないか?」

「無理じゃ、ワシは戦闘の柄でおらんと言ったじゃろうか、あとで守護神ガーディアンが来るから、しばらくすればよい」

「ではこの間に街とあそこの住民じゅうみんはどうする、もしかしてこのまま見捨みすててのつもりなのか、それでも神様なのか?」


 人間の脅威きょういがすぐそこにあるのに、まったく動かないの福ちゃんを見て、悪夜の言葉使ことばつかいは少々急き立てるに聞こえる。

 だがとがめられた当神様は動けずにまた優雅ゆうがに紅茶を口に運ぶ。


「口につつしめ小僧、街や建物はともかくじゃが奴つが民にキバを向く時防御ぼうぎょな恩恵くらいはくから、もう離れるの決めた以上これはもうお主が決めるではおらん」


 チッ、って舌打ちして、悪夜は席から外し、モササウルスへ向かてゆく。

 そんな時男性のがくランがヒュラリっと恵琳の前に落とされた。どうやら悪夜がずっと愛着あいちゃくするの赤い執事服を制服の下に着いていたらしい。


「制服の下に着いていたんた」

「ああ、制服を鞄の中に収まってくれ。離れと言ったそばから、こんなのないな………。空か……久々ひさびさに全力てぶち込むかッ!」


 わざと横顔を見せる様て。再び恐竜に向かう時、翼を生えて爆音ばくおんと共に地上をデッカイくぼみを作ったの跳躍ちょうやくて彼は瞬時しゅんじに恐竜のふところに近き、そこへ一蹴りて、更にその巨躯を上空へ連れ去る。


岩石がんせきを水の如くくだけ散る、大空おおそら驚天きょうてんをもたらす力持ち、それでも民や民の財産ざいさんのために身を乗り出す、つくつくしがる小僧じゃのう……」


 はあ……っと一人の勇者行為こうい嘆息たんそくをこぼす福ちゃんは苦い紅茶て心の苦情くじょうあわらすの神様。


「彼はそんな人たからね」

「そっか……、してお主は避難ひなんしなくでもよいのか?ここまで戦場せんじょうになるかもしれんぞ」

「うん、悪夜がいればきっと大丈夫だろう」

随分ずいぶん信頼しておるのう」


 一喜一憂いっきいちゆうの神様にみて返す恵琳は、一転真剣な面構つらかまえする。


「それで福ちゃん、これから私は君が隠した事を言うつもりです、もし天機てんきらしじゃいけないのなら、私のひとごとしてくれないかな?」

「ほう?ゆってみ」

「世界の破滅を、奴らを招いたのはやっはり人間だよね?」

「なんじゃと⁈」


 それは人類に対する不信ふしん感しか言える言葉で、それを言い放ったのはただ一人の女子供であるとさすかに神も目が細くなる。

 例え彼自身が戦うの神ではないと言っでも、その形相に向かれた凡人ぼんじんの恵琳はただ慌てて両手を左右に振って、自分の存在そんざい権を保つ。


「これはただの推論すいろんです。今は最も脅威の悪夜に専念せんねんしているけど、あの魔物たちは悪夜が存在する前にいたもの、さっき君がそう言った。だとしたら彼らは確実かくじつにこの人間の処に何かを探している、何か悪夜の存在を見失みうしなう程の目標。そして彼らを発見はっけんした人間を証拠隠蔽しょうこいんぺの形て殺す。ここまでは一般的て、むしろ王道おうど的な感じて予想よそうつくのは簡単です。

 ただそれもおかしいです、人々がそんな異様いようなものに殺された時、神々は今までの通り、人間不干渉ふかんしょう態度たいどを取る……………、あっ、君たちをののしるのつもりはないです、災害さいがいの映画見てきたから別に気にしていません……、でもそれも私と悪夜があの魔物のこと気付いたまてでしょう?私と悪夜が夜市よいちてデ……、討論会とうろんかいしている時天辺テンペンさん、ちゃん?が現れた、私たちがあの魔物たちと出会えたのはたった二回目て同時に悪夜を目を付けられた時たろう、それ程神様たちの情報取集しゅしゅう並外なみはずれたものですね。」


 言いだり、変わだりの恵琳に対し、福ちゃんは咎めることはない、むしろ専念して聞いているのはさぞかし恵琳の言葉が響くだろう。


「だがそれでも死傷ししょうが出た、神々の囁きは本当にしっかり聞き取れるのならなんで最初から人間を守り、守護神ガーディアン発動はつどうしないた?つまりそれ以前いぜんのこと神様たちは彼らを黙認もくにんしたじゃないかと、私はそう思う。

 なのにさっき君はこう言った、『街や建物はともかく、奴つが民にキバを向く時、防御な恩恵くらいは撒く』っと、それをさっき集まった情報によると、って、かと、以上は私の推論でした……、福ちゃん?」


 呼ばれて、福ちゃんは首を垂れて、両手に預けた。まるで何かを熟考じゅっこうな様て恵琳は思わずつばを飲み込む。


「お主………………」

「ごめんなさい、私ももうすぐでこの世界から離れの予定よていですから、ここでパッと世界のなぞ一つでも解っちゃたらカッコイイかな……と思って。絶対に軽率けいそつおかすや他言無用たごんむようにするから、私を神隠かみかくしとか証拠隠滅いんめつどかしないて、あと調子ちょうしに乗ちゃってすみません!」


 剣幕けんまくを張ったかわいと声に呼ばれて、恵琳は目を強くつぶって両手を前に乗り出して、何の役にも立たない玉肌たまはだの手に防御を頼る。

 しかし――


「お主は修仙しゅうせんの道はどうじゃろうか?」

「へえ?」

「人界のこと見放題ほうだいことに終身しゅうしん死に恐れず、住み場所、食べ物、着く服や遊び事なと思いわずらうことおらんぞう、どうじゃ、興味があるかい?こんな年で並大抵なみたいていではないその智慧ちえならきっと受けるでしょう!何ならワシが推薦すいせんを申し上げましょうかい?」

「い、いえ、ご気持ちたけで嬉しいですが、私にはもう一生永生えいせいの約束がわしたなので……」

「永生?ああ、そっか、それは残念じゃなあ。修仙よりあやつの眷族けんぞくとなり、隣て補佐ほさしたいか?参った、そんな美しい花話はなばなしを聞いたらワシも誘い難いじゃ」


 まさかのスカウトて、ドンドン前傾ぜんけいする福ちゃんをその繊細せんさいな両手てこばみ続ける。そして理由を聞いたら彼も、苦笑にがわらいして退しりぞけた。


 ホオンンンン――


 天空から甲高かんだかき男の歌声がする、続いて来たのは地面の三回連続の驚天地響じひびきた。


「どうやらあやつも終わったしのう、ちょういっと見てみようか」


 そう言った福ちゃんは杖を持ってさっき悪夜が向かった場所に足を運んむ。恵琳はその後にう。

 少々歩けば、彼らはすぐあの三つの地響きの原因げんいんを突き止めた。三匹の巨躯は死んだ魚のように重力加速度かそくどて潰された建物の上に白腹を空へ仰天ぎょうてんする。

 そこに悪夜が明白めいはくにひょんって目の前の状況に肩を垂れている。


「よう、小僧、建物を含めて助けるじゃなかったのう?」

「うっせい、一体一個の建物、これでも精一杯せいいっぱいた」

「にしでも、なんで三体まで増やしたの?」

「それは…………、そう言えば――――」


 巨大の空洞くうどうがまだ壊していないこと思浮おもいうかべる悪夜はしかめ面て天空に見上げる。

 またしてもそこから一つのデカブツが頭を突き出した。今度はモササウルスのような長い首持ちではなく、先端がとがすの頭た。


 ホオオオオオオオンンンンンンンン――――


 深海とした重い雄叫びを放ったのはミサイルの影を映す両方が三つの三日月みかつき形の割目を持つ生物。


「これもまたB級映画なのね、メガロドン」

「うむ、太古な蒼海の覇者はしゃたちを眷族にするか」


 はあ………己の不覚ふかくに溜息を吐いた悪夜は、急にそっぽを向けた。地震た、しかも悪夜の超人ちょうじんなる感知能力が正しくなれば、その震源しんげんがドンドン彼らに迫ってくる。


「おい、ちょっと離れて、こっちは一発であれをぶちのめす」

「もうよいじゃ、お主はもう戦わなくでもよいじゃ」

「は?」

「奴は味方じゃ」


 大敵たいてきが前にして、動かないの命令を下すの神様はどうかと思えば、彼もさっき悪夜と同じ方向へ視線を移し、増援ぞうえんの宣言を告げる。

 ビクッと、片眉を上げてた。役に立たずとも、情報収集に悪くない神様、短い付き合いの悪夜これくらいの評価ひょうかしか付けるた。

 たから信じるかどうか実に迷いた、それでも最後に彼を拳を収まると決めたのは、彼が家族や友たちに別れ時間をくれた福ちゃんた。


 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ――


 天が揺れる地が動く、それしきの感覚かんかくが悪夜たちに襲うのに、天空を海水のように泳いでいるメガロドンは何の奇怪きかいさとらずに彼らに向けて急降下きゅうこうかする。

 彼らから世界ごと奪われる程の血塗ちまみれた大口を開いて、一気に全員を飲み込むの爽快感をむさぼるメガロドンが建築物と同高どうこうに到着する時――


 ドカン――


 傍側はたがわの建物を突き壊して現れたのは、それ以上の絶大な口た。


 建物の大半の破片はへんを飲み込まれて砂色の絶大口はなおもたすの求めて、メガロドンの片方を嚙みつき、そのまま対面たいめんの建物へぶち込む。


「ホオオオオオンンンンン――――」


 武器として最大て唯一の口が封殺ふうさつされたいにしえの海洋王者のメガロドンでもただ絶大な口の中に足搔きながら悲鳴ひめいを上げ続ける。

 口に入った獲物がまた命はえずの知り、山のような顎は更に広がり、咬合力こうごうりょく萬ドンオーバーの嚙みつきをくだす。


 魔物たちが流れる命の灰色の奔流ほんりゅうを絞り出し、噴水ふんすいのようにあちこちに綺麗な円弧えんこを描く。足りない、まるで過去の恨みを払うようにまた数回凶悪きょうあくの咬合を遂げて、それが止まった時メガロドンは二つとなった。


「ウオオオオオオンンンンンンンン――――」


 生物連鎖せいぶつれんさ、それは悪夜たちの目の前に起こる現象げんしょうた。


 縮尺しゅくしゃくて見れば砂色の岩石がんせきこけのような葉っぱが表面に貼付くと、絶大な口こそが本体とうったえているたった口の二分の一しか持つの躯体、まるで都市の中に入り込んた山た。


 でも、何処がで見たことある――

 そう思っているの悪夜と恵琳は脳みその走りに少々眉間みけんを寄せる。


 目標がなき今、その山生物の視線は自然に悪夜たちへめて、その信じがたく巨躯を支えるの矮小わいしょうの四肢て彼らに近づく。

 ただ三回の跨ぐて山は悪夜の手元てもとまで到着する。例え対象たいしょうが味方のこと分かっているでも、山大のものに睨むと悪夜は思わず気を張り付いて、冷汗ひやせをかく。

 そして――


 ス――――――――――――――――――――――――リュ。


 悪夜はでっかいのしたに一回て正面がめられた。

 海水の匂いた、彼の体に付けている液体えきたい

 それを見た恵琳はただ意味不明いみふめいみを掛けるしかない。

 でも、前方に何か動きがあって、向いた時に――


「へえ?」


 ス――――――――――――――――――――――――リュ。


 恵琳ものがせられなかった。


「おや?これはめずらしいのう、巨牙キバがこんなに人にしたしくするのは………」

「この子が巨牙キバの?と言うより、その鉄塔てっとうってやっぱり…………」


 ドンドンよみがえる記憶に、恵琳はその印象的いんしょうてきな鉄塔を指す。


「ああ、これは野柳イエリョ地質公園ちしつこうえんじゃないか!!」


 そう、鰐に近い生物の形に山の鼻先みたいな所が一つの鉄塔が立っている、この国の有名な地名ちめい、それがこの野柳イエリョ地質公園のみさきた。

 だがその岬今は市内しないて歩き回っている、その状況はこの国て成長せいちょうした二人にとってツッコミべきなことた。

 しかも彼らは卒業旅行そつぎょうりょこうのおかけで、最近て拝見はいけんしたばかりた。


 だがこのこと知っているの当神は子供の胸を張る。


「そうじゃ、これはお主たちが呼ばれている野柳イエリョ地質公園の所に住む我々の守護神ガーディアンじゃ!どうじゃ、その全てを飲み込むの凶悪きょうあくの顎、正に巨牙キバでしょ――」

「ねぇねぇ、悪夜この子可愛い!!舌出している、ってもいい?名前は何にしょう?」

「うん?ま、いいけど。名前はそうだな………野柳イエリョ出身のシャーだから、イエシャーでいいじゃない?」

「イエシャー――」

「オオイイイイイイ!!守護神ガーディアン勝手かってに飼うな!!名前を付けるな!!そこもよろこぶな!!!」


 手を振っている恵琳と名前を付けた悪夜を咎めたあと、嬉しそうに口を開いたり、閉したりのイエシャー(?)に罵声ばせいを上げて、イエシャーはそれによって落ち込む。


落胆らくたんするな!!」


 っと、水差みずさしたりはげましたりに忙しいの福ちゃん。


「コホン、お主もそろそろ最後の仕上しあげを成し遂げろ、さむないとまた新手あらてが来れば面倒じゃろう?やってやれ、巨牙キバじゃ少々キツイじゃがら」

「うん、そうだな」

「それと、お主よ――」


 踏み出したすぐにまた呼び掛けられて、悪夜は振り返る、そこにめずらしく神様のつらしている福ちゃんがいる。


「――さっきお主が言ってたなすべきこと、もしお主が本当なこと言ったのなら、多分お主はこの世界に離れなくでも済むかもしれん。じゃがらあとてもう少し話そう」


 悪夜はもう少しこの世界に残りたいから、願ったり叶ったりのことに彼は頷ける。

 だが再び天空に目を向けたら、彼はすぐに足を止めた。


 その空洞くうどうがドンドンちぢんでいる。


 自分が手をわずらせずに済むのは自然にいいことだが、これは八回の戦いに初めて起こった事情た、そんな未知みちなることに悪夜は目を細くなる、同じく異常いじょうを思う福ちゃんも目を丸く広がる。


 ドンドン小さくなる洞に対して、最早消える定めと悪夜に付けた途端とたんに、一つの矢の形の紫閃光が地面に降臨こうりんする。

 天空の穴は確実に閉ざした、だがその代わりに地面と衝撃しょうげきて立てたけむりから何かが歩いて来た。


 その陰の形が確かめられた時、事態じたいの厳重性が気付く悪夜と福ちゃんは思わず大息を吞む。


前言撤回ぜんげんてっかいじゃお主、さっさと帰るがいい!」

「とっ言っても相手はそう易々やすやすに俺に帰らせてくれるのならねえ………」

「えっ?でもそれで人間かたの………魔物だよね?」


 一人、凡人ぼんじんしか言えないの恵琳はただ疑問を抱いしつつ、そのなぞの正体に形容けいようを付く。


 そう、両足て地上にたたずんで、しかも背中を真っ直ぐに立てているの霊長類れいちょうるいさるやゴリラを思う先に、人が浮かべる。

 だが煙から出てきたの姿はまた人間とうといた。


 あの魔物集と定義ていぎする一際ひときわ目立つ紫色にとげとげしい外見はともかく、かぶとを被ったのような頭に、十尺越えた身のたけと最早凶器きょうきと思われるデタラメ大の拳、そしてとこでもキメがあらい 、脆弱ぜいじゃくの部分なとない様た。


 でも他のはともかく、悪夜はあっけなく三体それよりも馬鹿でかいの生物を倒したところたから、あれと比べて目の前のはまるでかく無力むりょくた。

 それも恵琳のあさ経験けいけんの甘っちょろいの考えだった。

 彼女は感じ取れない、あれの身の傷一つ一つに宿やど百戦錬磨ひゃくせんれんまのオーラと、その大胆不敵だいたんふてきの立ち姿は正に、歴戦れきせん強者つわものであった。


 左右見回り、自分と同種にしか思えるの巨大生物があわに飲み込れる模様もようを目に通し、最後にこの景色けしきを作った悪夜たちに目線を落ちる。


「ほう…………我々の眷族を次々と退しりぞけたものは何のやらと思えば、よもや人間の子供こどもたと?」


 …………ッ?!!!


 これで素人しろうとの恵琳さえもあれの価値かちが分かれるだろう。だがそれ以前に、悪夜と福ちゃんが更に悪寒おかんが走るの感じた。


 何せよ、それは魔物が初めて言葉ことばを伝わって来たから。



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