閑話 城下町の花売り

私は生まれた時から病気で、ずっと入院していた。

だから窓の外の景色に強い憧れを持っていた。

そんな私だから、病院を抜け出したのはしょうがないと思う。

そして運悪く交通事故に遭ってしまったのも、私が良い子じゃなかったから。


でも神様は私を見捨てなかった。

もう一度生きる機会をくれた。

別の世界で、健康な体を持って生まれた私は孤児院に預けられた。

そのことを可哀想だと言う人もいるけれど私はそうは思わない。

だって優しい院長先生に可愛い弟や妹たちに囲まれて、前世では叶わなかった親孝行ができる。

こんな幸せな事って無いと思う。


だから私は今日も孤児院で育てた花を売りに街の大通りへ出かける。


「お花はいりませんか?」

そう声かけをすれば道行く人は一度は私の方を向いてくれた。

大体の人は通り過ぎてしまうけれどおじいさんやおばあさんは立ち止まって花を買ってくれる。

若いのに偉いねとか頑張ってねと声を掛けられることもしばしばあった。


「おいおい、誰の許可を得てここで商売してるんだ?」

そんな風に声を掛けられることもある。

たいていは売上のお金目当てのゴロツキの人だが私に叶うはずなく、痛い目もみたくないので素直にお金を渡すしかない。

今日もそうなるんだと思っていた。

あの人が現れるまでは。


「ちょっと待ちなよ」


そう言ってその人はゴロツキと私の間に割って入る。

女性だった。

私と同じくらいの年頃の女性が私をかばってくれていた。

「なんだ?こいつの仲間か?」

「仲間?違うけど?」

「じゃあ口出しするんじゃねぇよ!」

女性の肩を掴んで押しのけようとしたゴロツキの体が次の瞬間には浮いていた。

何が起こったのか分からず唖然とする。

「口は出してないけど足は出しちゃった」

女性はちょっとおどけた感じに言う。

そう、ゴロツキは女性に蹴り飛ばされたのだった。

「大丈夫ですか?」

そう言ってきたのは女性と一緒にいた男性で、とても綺麗な人だ。

「だ、大丈夫です」

「良かった」

私の答えに男性がホッと息を漏らす。

「ここは公共の場で、誰でも商売をしていい場所です。これからは気にしなくて大丈夫ですよ」

そのことを知らなかったので驚いた。

「そうなんですか?」

「はい、それとお花を一ついただけますか?」

男性は私の持つ籠から花を一つ抜き取る。

そして金貨を十枚も握らせてきた。

「え、こんなに?!」

普段から金貨一枚で売っている花だ。

どう考えても多すぎる。

「えぇ、この騒ぎに対する迷惑料ということで」

「そ、そんな」

私はゴロツキから守ってもらっただけで、迷惑料を貰うほどの騒ぎになっていない。

「ちょっとユウト、花なんか買ってどうするの?」

ゴロツキを警備兵に突き出してきた女性がにやにやとしながら戻ってくる。

「今も執務で頑張っているヒイロ様へのお土産です」

「花なんかもらって喜ぶの?」

「いえ?ただ窓際に飾る花が無かったなぁと」

「あんたもたいがい良い性格してるね」

二人の会話のヒイロ様は聞いた事があった。

この国の王子様だ。

確か面倒な事が起きないようにヒイロ様と兄のシルヴァ様の名前は被る事がないようにと御達しが出たとか。

だからこの二人が言っているヒイロ様は間違いなく王子様の事だ。

この二人は王子様に近い方々に違いない。

「お嬢さん、大丈夫だった?変なのに絡まれて大変だったね」

「い、いえ大丈夫です。あの、助けていただきありがとうございます」

「私はさくらでこっちはユウト。一応お城の関係者だから安心していいよ」

「桜さんとユウトさんですね。私はリスチェです。本当にありがとうございました」

私がお礼を言うと桜さんの表情が変わった。

「ちょっとリスチェと軽くお話したいな。どこか良い所は知らない?」

「え?良い所ですか?……あの、すぐそこに私のお世話になっている孤児院がありますがそこでも大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、ね?ユウト?」

「え、えぇ問題ないですよ」

そうしてなぜかお二人を孤児院へ案内することになった。

案内といっても本当にすぐの場所にあるのでたいした事は言えなかった。

「あの、ここがお世話になっている孤児院です」

「へー、すっごい綺麗な所だね!」

「たしかに、庭も手入れが行き届いていて素敵です」

そう言われて我が事のように嬉しくなる。

「じゃあ私はリスチェと二人っきりで女の子の話をしたいからユウトは院長さんところにでも行ってて」

「え?はい、分かりました」

桜さんに言われてユウトさんは近くの人を捕まえて院長先生の所へ行ってしまった。

何がなんだかわからないけれど私は客室に桜さんを通す。

お茶をいれて彼女に出すとそれには手を付けず


「リスチェさんは日本人でしょ?」


と言った。

「え?!あの、桜さん?」

私は驚いて桜さんを見る。

彼女は真剣な表情で私の事を見ていた。

「私の名前はさくら、桜じゃないんだなぁ」

「え、あ、すみません!」

つい桜だと思っていた間違いに気づかされて謝る。

「あぁいいの謝ってほしかったんじゃなくて確認のためだったから」

「確認。というとさくらさんも日本人なんですか?」

私が言うと彼女は頷いた。

まさか私以外にもこちらの世界へ来ている人がいるとは思わず驚く。

「まさか私以外にも日本人がいるとはねー」

「あの、このことは院長先生には……」

「言わない言わない。私だって別世界から来た事秘密にしてるんだもん。言うわけないよ」

「じゃあなんで……」

何の目的があって日本人かどうか確認してきたんだろう?

「なんでって、同郷の子がいたら嬉しいじゃん?話しかけたくなるじゃん?それだけだよ」

そういってさくらさんは笑った。

本当に裏は無いといった感じだ。

「でも何かの縁だし、困った事があったら言ってね。全力で力になるから」

「えぇ?いいんですか?」

「いいのいいの。これでもそれなりの権力は持ってるからね」

「あ、ありがとうございます?」

その後成り行きでさくらさんにお友達認定されたりした。


「もう用事は終わったの?」

「うん!友達出来たよ!」

ユウトさんの言葉にさくらさんは嬉しそうに報告をする。

「友達って強制的になるものじゃないからね?」

「失礼な!ちゃんとお願いしたもん!」

「本当に?嫌なら嫌って言ってもいいんですよ?」

そうユウトさんに言われて私は首を横に振った。

秘密だけど同郷の友達が出来たのは素直に嬉しいからだ。

「さくらさん、ユウトさん。今日は本当にありがとうございました」

「じゃあまた来るね!」

「ではまた」

そう言って二人は帰って行った。


後日、さくらさんから山のようにお菓子が届けられたのはまた別の話。


******


これにて乙女ゲーの世界は萌えだらけだと思った??は終了となります。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

予定のない続編や新作など機会があればまたお会いしましょう!


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