ダンテのParty Night

 地獄とは、魂が砕かれし亡者と化け物が獲物を求め跋扈ばっこする混沌の国。歪んだ空間は一分の時の流れを一年にも変え、常に死と恐怖を与え続ける。

 そこは生前に形は違えども罪に溺れた者たちが、解放されることのない永遠の罰を受け続けている世界。 

 ダンテは死せる者の魂を喰らう空間を、どれだけの年月が過ぎたかはわからないが彷徨い続けていた。

 そんな永遠とも呼べる時間が突如、終焉を遂げようとしていた。

 暗闇が支配していたはずの大地に、星のように輝く光が彼の眼を照らしたのである。

 ダンテは安堵した。その光が現世に繋がる道しるべと信じ、彼は走り出した。

 しかし、一年以上走り続けても光に追いつくどころか近づいているかさえも分からなかった。

 彼はそれでも諦めようとしなかった。どれほどの年月が経とうとも現世に戻れる可能性を信じて、走り続けた。

 走り出してから、おそらく十年ぐらいだろうか。ようやく彼が光に追いついたのである。

 この先に足を踏み入れれば、地獄という世界から脱出できるかもしれない。

 彼が元居た平和な大地に戻れるかもしれない。

 ダンテは迷わず、光の先へ走り抜けた――



 走り抜けた先は、暗室な赤色の光が小さな空間を支配していた。

 ここが地獄のような死と恐怖が織りなす世界でないことは容易に想像できるが、 彼はこの世界を知らない。ダンテは現世に戻ることができなかったのである。

 しかし、ダンテは未知の世界に好奇心を抱いていた。

 地獄の世界では見たこともない、黒く光った堅い石のような床に、ギラギラと我々を照らす妙な光。

 この世界は大勢の民で溢れかえっていた。

 そして、大勢の民の奥には三人程の統率者らしき者達が壇上のような場所で讃美歌とは似ても似つかない、轟音な喧歌を次々と流しており、みな喧歌に合わせて声を挙げ、体を揺らしているのである。

「何なのだ、この世界は」

 全くの謎である。意味が分からない。

 何故、このような小さな世界に大勢の民がいるのかが理解できなかった。ダンテは困惑していた。

すると、一人の女性が話かけてきたので耳を傾ける。

女性の声は周りの喧騒で聞き取ることができない。

聞こえなかったため、もう一度耳を傾けた。

「なんなん、その服装?よく入れたなー」

何だ?今の変わった口調は。

「どういうことなのだ?」

「だって、ここはスウェットみたいなダボっとした服装はあかんねんで」

 スウェット?あかん?彼は女性の話す言葉に理解することができない。

「先程から、貴様のその意味のわからない特徴的な言語は何なのだ」

「貴様って言い方なんやねん(笑)言語って日本語に決まってるやん。あんたも普通に喋ってるやんか」

「そうなのか」

まあとりあえず良しとしよう。それよりこの女性に話しかけてもらえたのは好都合だ。この世界について聞くことができる。

「娘よ、この世界は一体どこなのだ?」

女性は不思議そうに答える。

「何言ってるん?ここはクラブやで。自分から入ってきといて変なこと聞くな(笑)お酒の飲みすぎちゃう?」

ダンテはますます理解できなくなった――





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有象無象の傑作 白川 燈ル @Shiratomo

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