第5話 過去のトラウマ



「ね、ねぇ・・・ザックさん・・・?」

「はい、何でしょう?」



ここは、王族が御住まいになる城。

夢か幻かと疑うほどの迫力だ。

いや本当に、シンデレラ住んでます?って位。


○ズニーランドでも流石に、ここまで本物の(鬼高そう…)ディティールとか無いでしょう…。

煌びやか過ぎて、思わず感心。



お城までは馬車に乗せてもらったけど、初めて乗るもんだから私は少し恐かった。


だって動物だし?

車や電車じゃなくて、引っ張るのは生き物だから。

(動物を舐めてたら、痛い目に遭うもんね)


熊五郎も、初めて見る馬にはちょっとビビってた。

普段見てる、猿や鹿とか、猪なんかより何倍も大きいからねぇ。


そもそも、馬と言っても私達の想像している『馬』とは違って、脚が鳥の脚なんだもん。

主人の私がビビっちゃうんだから、熊五郎も恐がっちゃうのは当たり前。

ザックが「恐くないですよ。ほら…」って、優しく、一緒に手を添えてくれたから、元々動物が好きな私は、大人しいその『馬』にすぐ慣れた。


って言うか、なんでそんな優しく手を・・・、手を・・・!!

触れられた手が、いまだにカッカしちゃって熱い…。

こんなだけど、私だって一応ちょっとは女の子だし、照れるんだから・・・!




そして今、お城のこれまた煌びやかな廊下を、ザックの隣で歩くこのわたし(と、熊五郎もね)。

中庭なんかも本当に美しくて「ほぅ…」って、思わずうっとり。


ザックも、『あぁ、早く救世主様をお見せしたい…!』と言う声が、その表情から聞こえてくる。


・・・聞こえてくるんですけど、ねーぇ!?




 「きゃぁ、ザック様だわ…!」

 「あぁ、何て麗しいのかしら…!」

 「はぁ…、いつ見ても素敵よねぇ…」




なんですか。

この女子の甘い吐息達は・・・。


そして皆様ものすんごいドレスですけど…?

え?

うけるんだけど?

私、だいじょーぶ…??



「あのさ…、えっと・・・。 す、すごい人気だね…?」



自分の服装について聞こうと思ったが、心的ダメージが大きそうなので、ワンクッション置いてみた。



「あぁ…、まぁ…、正直なところ…、面倒なだけですよ。業務の邪魔です」



置いてはみたけど、なんかうぜぇ事言ってるな。

それマジのモテ過ぎる奴のセリフだし。


「まぁ…、仕事中はねぇ~・・・」とそれとなくスルー。

・・・しようと思ったが、何か勘違いしたらしく、「そうなんですよねぇ~…」と食い気味に返事が返ってきた。



「鈴音さんなら分かっていただけると思うのですが、業務の最中に色々話し掛けられたり、色々渡されたりしても・・・、本当に邪魔なだけです。」

「・・・・・・・・・うん。そだね」



は?

私なら分かるって何さ・・・?

全然分かんないんですけど・・・??


どこをどう見て、そんなおモテになると勘違いされたのかしら・・・!??


貴方と出逢ってから私、ずーーーーっとスッピンなんですけど!?

髪も全ッ然セットしてないんですけど!?

これでも20歳の専門学生なんですよ!

そりゃそうだよね!?

散歩中だったんだもん!


それでいてそのセリフを私に投げ掛けるとか…!?

え?

煽ってるの…!?



うがうがとザックを睨み付けていると、ようやく私の存在に気が付いたらしく、甘い吐息を吐いていた彼女達は、ヒンヤリと視線を刺す。




 「あら? ・・・あの女誰かしら」

 「女…? 本当…。女だわ。 ザック様のお隣を歩いて生意気ですわね」

 「あの程度でね。 御召し物も…、ね。しかも何かしらあの足元の毛玉…」




毛玉じゃないんですけど熊五郎なんですけど!!

てゆーか女なんですけど!!

この胸見りゃ分かんでしょーが!

貴女達より大きいでしょ!?



クスクスと、繊細なレースの扇子がはためいている彼女達。



くそう…。

虫も触ったこと無さそうな、いかにも金持ちそうな女共め…。

全く。固まって噂話とマウンティングは、どの世界でも同じか。



あぁ言うの見ると思い出しちゃう。

私が好きになった男は、みんな『女の子』が好きな男だった。

あのゲジゲジ無理男も、今はネイルコースの都会育ちの可愛い女の子と付き合っているらしい。

『女の子』で固まって、噂話して、その中で優越感を得ようとして、さりげなくマウンティングして・・・。

結局みんな、そんな『女の子』にとられていく・・・。




 『もっと女の子らしくすれば?』

 『え"!? 女のクセにそれやっちゃう…!?』

 『お前って黙ってれば可愛いのになー。 彩加ちゃん見習えよ。』

 『彩加ちゃんはそんな事しないだろ』

 『えー、彩加ちゃん来ないの?』

 『彩加ちゃんって、ほんっと可愛いよな!お前とは大違い…!』


 『・・・・ごめん鈴音。 俺、と付き合うことになった。 だから───』



いやだ。

これじゃトラウマじゃん。



高校の友達だった彩加。

可愛らしい・・・、『女の子』だった。

確かに、彩加の好きそうな他校のイケメンと付き合ってたよ?

いつから・・・? いつから、二人は・・・。


ううん…。別にもう良いのに…。

仕方がないもん。彩加は『女の子』だし。

友情より、自慢出来る彼氏が良いんだ。

一緒の大学に行った友達が言うには、彩加は大学でよりイケメンの彼氏に乗り替えたらしい。

・・・まぁ…、男女の出逢いと別れは目まぐるしいからね。

特に『女の子』って、気持ちの切り替え早いから。


別に、もう良い事なのに・・・、それでも、思い出しちゃうのは、もしかしたら本当に、トラウマなのかも。




「さ…、鈴音さん。着きましたよ。 この扉を開ければ、そこに王が居ます。」

「え!? あ、は、はい」



まじか。

くだらない事考えてたら着いちゃったじゃん。



大きな扉の前には、騎士と見られる男二人。

嫌な感じはしないが、珍しい異世界の人間をまじまじと見ている。

ザックとは服装が違うその男二人は、ザックと、私に、それぞれ礼をした。



「宜しいですか」と騎士の二人は扉に手をかけた。

思わず唾を飲み込むわたし。



分厚そうなその扉の向こうに・・・。

この国の、王が・・・。


どんな人かな・・・。

怖い人だったら嫌だな~。

王様の家族とかも居るのかな~・・・。


うわ。

お腹痛くなってきた。




え?

ちょっと待って。

今気付いた。

ガチで私スッピンじゃん。

え?

それでなんか偉いお方に会うの?

え?

しかも服装のことザックに聞くの忘れてたし。

洗ってはいるけど…!こんな長靴にもんぺとか。



最悪じゃーーん・・・!!


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魔物を従えた救世主ではありません。ただの愛犬です! ぱっつんぱつお @patsu0

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