第4話 そんな顔でみないでって



「鈴音、さん・・・?」


「ふぁ・・・?」




声を掛けられたから、眠りから覚めた。



あぁ…、素敵な声…。

こんな声で耳元で囁かれたら、私もう昇天しちゃうわ…。

それに何この寝心地…。

んもう、すっごく心地の良いベッド…。

枕の高さも、マットレスの固さも、全て完璧!



流石、お偉い様がお泊まりになる部屋だけあるってものよ~…。



あれ、お偉い様…?って、・・・何の話だっけ…?

私、昨日なんの映画見て寝ちゃったんだっけ…?

あ~、最近、寝る前映画見すぎて内容がごちゃ混ぜだわ…。



ぽわぽわと、まだ夢見心地な頭が、徐々に覚醒し始める。

そんな私は、未だ掛け布団の下。



「す、すずねさん…、あの、」

「・・・・・・え?」



ちょっと待て。

そうだ。


ここ異世界・・・!



そしてイケボな目覚まし時計の正体は…!



「ざ、ざざざ、ざーーーっく…!?」



「は、はい・・・!」

「な、ななな、何でアンタ勝手に入ってんのよ・・・! 乙女の寝込みを襲う気・・・!!?」

「ち、違いますよ・・・! 重要な話が漏れないように、この部屋は防音設計になってるんです…!いつも王族の方々は使用人を連れているので…!鈴音さんを起こす方が居ないのでっ・・・!!」



ふーーん。

だからザックがわざわざ起こしに来てくれたと・・・?



────ピピピピッ、ピピピピッ!



「何だこの音ッ…! 鈴音さん、気を付けてください…!」

「・・・・・・・・・」

「救世主様を狙う、魔物かもしれません・・・ッ!」



アラームが鳴った。


私は昨日、起きるべき時間を聞きました。

そう、ザックに。



「何処だ…!? 何処から聴こえてくる…!?」



ザックは物騒にも、剣の鞘に手を掛けております。

そしてベッドから起き上がろうとした私を、守ろうとしてくれてるのか、ぐいっと、自身の胸の中に引き寄せました…。


あぁ…、これが、イケメンの、温もりと、香り・・・!




「・・・って、っちっがーーーーう!!」



「すずねさんっ…?」



これは私自身も色々ヤバい…!と感じて、思い切り飛び起きて、ザックの絡まる腕からすり抜けた。



「違うんですけど!林檎時計アップルウォッチの音なんですけど!アラーム設定してたんですけど…!! 自分で…!起きれたんですけど・・・!!?」



ばばーん!と林檎時計アップルウォッチを見せると、「そ、そうだったのですか…!?」なんて、よく知らないクセに直ぐ目を背ける。


もうちょっとよく見たらどう…!?

こちらの世界の技術ですよ!?

ほらほら…!?



「あ、あ、あのっ・・・!! 先走ってしまった事に関しては申し訳無いのですがっ…! ふ、ふくをッ・・・!鈴音さん、早く服を着てくださいッ…!」

「はいーーーー!???」



何であたかも私が、すっぽんぽんみたいにッ…!

昨日のお風呂上がりと違って、ちゃあーーんと服着てますっ!

まるでユニクロブラトップ膝丈ワンピース…!!


ま、まぁ、ここでは下着かもしんないけど…!



「私達の世界じゃ普通ですからっ…! ふ・つ・う…!!」



『それがなにか?』と構えていれば、ザックはそれを悟ってか、一呼吸して真剣な瞳で見つめられ、口を開いた。



「鈴音さん…、私も男なので、それなりに欲情します。 それでも宜しいのですか?」



そう、真剣で、色気のある感じで・・・・。


イケメンって、罪じゃね・・・?



「よ、よく・・・!?」


「ここには飢えた男ばかりです。 私だってそうだ。 寝起きの下着姿なんか見たら、そりゃあ襲いたくなりますよ。 それでも、良いと?」



右手首はザックに掴まれ、大きな手が私の腰へと回される。



「ふぁっ…!? な、な…!」



そりゃあ焦りますよ。

そんな真剣な表情とね、そんなイケボで、そんな事言われたら。

こっちだって、ちょっと流れに身を任せたい気分になっちゃうよね。

私だって大人だもんね。

きっとザックは丁寧に、優しくしてくれるんだろうなぁ・・・。

元カレは、とっても雑だったし・・・。


あ、あとイケメンだからって言うのもあるけどね。



「う"わ"っふ…!」


「な…!?」


「熊五郎っ…!」



タイミング良すぎな熊五郎は、後ろからザックにアタック。


『私を守ろうと…!? さすが、私の熊五郎…!』と褒めて遣わそうとしたが、ばいん、ばいんと熊五郎はザックにお尻を押し付けている。



「わ"うっ! へっへっへっ…!」



え…?

何してんの、熊五郎?


犬がお尻を押し付けるだなんて、安心してる相手にする行為だよ?

ねぇねぇ、熊五郎。

私こっちだよ?

主人間違えてない?



「う"…、流石、救世主様の魔物だけありますね…。 すっかり邪魔されてしまいました…」

「うぅ…、熊五郎…!」



『男に甘ったれるような犬じゃなかったじゃない…!』と嫉妬と悲しみに暮れる私に、ザックは爽やかイケメンスマイルで、少し名残惜しそうに言う。



「貴女様は隙が多すぎるので、脅してやろうと思いましたが・・・、本当は少し残念です。」



そして腰に回した手は、撫でるように…、そこから離れていった。



え…?

何ですか今の。

その巧妙なテクニックは…。

腰が愛撫されたみたいなんですけど。

ぞくぞくしちゃうんですけど。

何なんですか。

罪なんですか。

イケメンは罪なんですか…!?



「さ、朝食を食べましょう。 此方の勝手な事情で無理をさせてしまうのですが、今日は鈴音さんを、王族の元へと連れていかねばなりません。」

「え、王…族?」

「はい。 謁見が済めば、鈴音さんの世界と、此方の世界を自由に行き来出来る代物を渡されるらしいのです。」

「えっ…!?帰れるのっ…!? 」

「私も詳しくは存じ上げないのですがね…。 何せ初めて、別の世界の方を見ましたから・・・」

「まぁ、私だってそうだけど…」



「さぁ、行きましょう」と手を伸ばされる。

でもちょっと待ってよ。

乙女は朝の支度が忙しいんだから。



「急ぐからちょっと待ってて…! シャワーだけ、サッと浴びてくる…!」

「え、あぁあ…、はい…!」




慌ただしく動き出す私を見てザックは、シャキン!と姿勢を正した。

いやいや…、姿勢はいいから…、出てってよ・・・。



「え? なに?覗きたいの…?」



さっきの、腰撫で謎テクニックに仕返し。


ほんの少し胸を寄せて、首を傾げ、上目遣いでそう言ってやった。


は?

あざといとか関係ないしっ!

男女の駆け引きってそう言うもんだしっ…!(たぶん…!)



「いえッ…! 部屋の外で待ってますのでッ…!」



ザックが扉を閉めるのを確認して、『ぐへへへ。 仕返してやったぜ…!』と悪い顔をしていると、視線を感じる・・・。


ザックか…!?と思いきや、熊五郎だった。


熊五郎はきちんとお座りしながら、私のことをジーーーーッと見つめる。



・・・え。


なにさ。


どんな感情なのさ。

『ご主人、そういうとこだぞ』とでも言いたいのか。え?


いいんですーー。

そういうとこが可愛いんですーー。


私はべーって、舌出しながら、熊五郎のもちもちの頬っぺを引っ張った。

相変わらず、ここの皮めっちゃ伸びるなお前は。



「あ"! いけないいけない…! 待たせてるんだった…!」



急いで服を脱いで、シャワーを浴びる。

水圧も水量も丁度良い~。


お湯で身体を濡らし、肩や首の筋肉を動かす。

ふと─、ザックに抱き締められたことを思い出した。



「あいつ・・・・、私のEカップの胸に、絶対腕が当たってただろ・・・」




『鈴音さんの、胸の感触が・・・、』

ザックは部屋の外でシャワーを待ちながら、己の本能と理性が戦っているのでした。



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