第3話 そんな目で見ないでくださいな
「うひゃ~~~、なんか色々あってお腹すいちゃった…」
「お口に合うかどうか分かりませんが、沢山食べてくださいね」
・・・・・
さっきから目を合わせないんです。
ザックさん、ザックさん・・・
「・・・お見苦しかったですか」
「はぇっ…!? み、見苦しだなんて…!そんな…!!」
「じゃあなにさ!何で目を見て話さないのよっ!」
「い、いや・・・、それは、その・・・、思い出してしまうので・・・」
「なっ・・・!」
ものすごく顔を赤らめてそう言うから、私も急に恥ずかしくなって、その先の言葉を失ってしまった。
そうこうしている間に食堂に着いたようで、男達の騒ぎ声が聞こえる。
うーーわーーー。
流石に食堂のおばちゃんとか、女性騎士的なのは居そうだけど、ちょっと身構えちゃう。
そんな私の不安に気が付いてくれたのか (意外と優しいな…!) ザックは、
「うちの隊は男性しか居ないので、むさ苦しいかもしれません。それに野獣ばかりですから、私の隣で食事を取りましょう」と気遣ってくれた。
え、男性しか居ないので??
ん?野獣ばかり??それはどのような野獣かな…??
「い、一応お言葉には甘えるけどっ…、でもでも、私には熊五郎居るしっ…!熊五郎が守ってくれるしっ…! ねっ…!?」
そう言って熊五郎を見下ろせば、「へっ、へっ、へっ!」と優しい瞳で耳を倒し、更には尻尾まで振って、あろうことかザックを見上げているじゃないですか・・・!
「く、熊五郎・・・!? わたしこっちだよっ!?ねぇ、ねぇ!??」
うそだ!そんなの・・・!
だって熊五郎オスだよ…!?
きれいなおねーさんが好きなんだよ…!?
男の人になつかないんだよ…!?
「ははは…」
と何だか申し訳なく笑うザックに何だか、むかっとして、
「うん。でもザックも野獣かもしれない。 だって私の裸見たしっ」
と、食堂の扉が開いた瞬間、そう言ってやった。
そうですとも、嫉妬ですとも。
だって私の熊五郎っ・・・・!
わたしの熊五郎ぅ~~・・・!!
「隊長・・・!??」
「どういう意味っすか・・・!」
「やっぱ戴いちゃってんじゃないっすか・・・!!」
「いやっ…!!違っ…!!」
「何が違うんですか…!!」
「自分ばっかりずるいっす…!」
「ついに隊長も誰かを戴いちゃったんすねぇ・・・」
「すずねさん…!?」
「しかも名前で呼んでる…!!」
「あんな厳しかった隊長が・・・!」
「俺、そんな隊長見たくなかったっす…」
「えぇえい・・・!!お前ら煩い!! 何か誤解してるみたいだが、私は鈴音様のお側にお仕えすると誓ったのだ!! お前らにどうこう言われる筋合いはない!!黙って食事をしろ!!!」
「ひえぇ~~~!」と男達は自分の席に戻って黙々と食事をし始める。
いや、ちょっと待って。
イケメンって罪なの!?
不覚にもドキッとしちゃったのはイケメンだからでしょ…!?
イケメンこわっ・・・!!
「うわ"んっ!!」
そして何故か熊五郎は嬉しそうだし・・・。
くやしい…。
色々くやしい…。
この男侮れぬ・・・。
わたしの熊五郎をこんな甘ったれにしてぇっ!
ぷんぷんしながら席に着いたと同時に食事も運ばれてきた。
まんま食堂のおばちゃんみたいな感じの人で、ちょっと安心。
やっぱ職場に女一人ぐらい居なきゃねぇ…。
前のバイト先も私が入る前は男だけだったみたいで、相当、んもう相当、事務所が汚かった…。
辞めるときは・・・、大変だったナァ・・・。
「あ、ありがとうございます」
ぺこっとおばちゃんに挨拶すると、嬉しそうに微笑み返してくれて、更に安心。
「んまぁ、可愛い子でぇ~。 こんな子が来たら私のアイドルポジションも終わりやねぇ!」
「いや、そんなぁ!」
めっちゃ訛ってるし、田舎のおばちゃん感半端無さすぎて、めっちゃ親近感湧く~!
しかもちゃんと熊五郎の分まで用意してくれて…!
しっかり犬用に調理されてる…!
「うわぁ! 本気の女神様…!」
思わず声に出しちゃったけど逆に良かったかも。
「んまぁ~~~!!おばちゃんそんな事言われたら照れちゃうわぁ~!」
なんかめっちゃ喜んでるし。
「ザックも…!こんな良い子、ちゃあんと守ってやんなさいよっ…!」
「い、言われなくても…!」
そーだそーだぁ!と横で思いながらも、美味しそうな食事の匂いに我慢できず、「いただきますっ…!」と一口ぱくり。
口に広がるのは懐かしい味・・・
「死んだばーちゃんの煮物の味だ・・・」
食べれば食べるほど懐かしい記憶が蘇ってくる。
あぁこんなこと言われたなぁ、とか、こんな知恵を教えてくれたなぁ、とか、一緒に料理も、作った。
でも、全部教えてもらう前に、死んじゃったんだ。
母親の料理とは違う、この懐かしい味・・・
「わたし、ばーちゃんの料理大好きだったんだぁ・・・、懐かしいなぁ…、美味しいなぁ…」
まさかこんな所でこの味をもう一度食べられるなんて。
そう感じたらいつの間にか泣いていた。
「あら、あらあら、まぁまぁ・・・、何だか私まで泣けてくるよ・・・!嬉しいねぇ」
「んふふ…!美味しいです…!」
すごいほっこりした気持ちだったんだ。
どっかの誰かがアホな発言するまでは・・・。
「女が飯食ってんの久し振りに見たわ。 なんかエロいな」
「それ俺もちょっと思った」
「そもそも女が久し振りだからじゃね」
「髪を耳にかけるのは、いつ見てもエロい」
「お前等!!救世主様に向かって何て事・・・!」
「え~、隊長だってエロい目で見てたじゃないっすかぁ~」
「そっすよ! 何か熱っぽぉーーい感じで見てたっす…!!」
「めっちゃ口元見てたの、ちゃんと見てました!そして俺も口元見てました!!」
「いや、もしかしたら隊長の位置からだと胸元が見えてたかも・・・!」
「なぁ…!?」
「あーーあーー、いーよなぁーー!隊長は裸見たんだもんなぁーーー!!」
「俺なんか半年位見てねぇよ!」
「そんな事言ったら俺なんか女でさえ半年見てないわ!」
「バッ!馬鹿かお前らはッ・・・!」
「止めんか…!」と言う隊長が恐がってたのは、
「あ~~ん~~た達ねぇ~~~・・・・」と謎の威圧で空気ごと固まらせた食堂のおばちゃんだった。
「女でさえ半年見てないぃ…!!?あたしゃどーなんだい!男か!?あたしゃ男なのかい…!!?えぇ!!?」
「ひゃいっ、す、すみません…!」
「あんたもなんだい…!!そんなに裸が見たいならあたしが脱いでやるよ…!!」
「ひぇっ…!け、結構ですっ…!」
「えぇ!!?どいつもこいつも玉なんて無駄に付いてるヒヨッ子共のクセして生意気だねぇ!さっさと飯を食わないかい・・・!!!」
お玉を振り回す食堂のおばちゃん・・・、なかなかやるな・・・。
てゆーか私が感慨深くご飯を戴いてたのに、そんな目で見るな…!
もう!と周りはおばちゃんに任せてもう一口運ぼうかなって時、人の性と言うのか・・・
何だか気になってザックの方をチラッと見上げてみると、ぶんっ…!とそっぽを向いた。
・・・・やはりこの男、侮れぬ…!
熊五郎は・・・
いつの間にか完食して眠ってやがる・・・。
全く。
誰に似たんだか。
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