松長良樹


 あれはまだ私が小学生の頃だ。



 ある夜、家の窓から流れ星を見た。



 それは近くに落ちたように見えたから、行ってみると庭の片隅に鍵が落ちていた。



 とても小さな、とても精巧な花の模様のある美しい鍵だった。


 

 いったい何の鍵だろうか? なぜか何処かに合うような気がした。



 だけど家中を探しても、学校を探しても鍵はどこにも合わなかった。


 

 両親に話したが空から降ってきた鍵の話など真剣に聞いてはくれなかった。



 やがて月日が流れ、小さな鍵はいつしか忘却のかなたに消え去ってしまった。


 


    ☆   ☆




 成人した私はあるとき重い病に犯された。




 四肢は萎え、五体は重く、凄まじい眩暈と頭痛に襲われた。私はたまらず病院に行った。


 医師は丁寧に私を診察して、実に不思議そうな顔をした。


 精密検査をしたが原因がよくわからないというのだ。


 私はとても不安になった。



 ――未知のウイルスにでも犯されてしまったのだろうか?




 医師はとても怪訝な顔をして検査の結果をこう付け加えた。


「実は、あなたの後頭部に小さな穴が見つかったのですよ」


「あな? ですか」


 私は嘘のような医師の言葉を無意識に繰り返していた。


「ええ、その穴はまるで鍵穴のようなのですよ。いったい何なのでしょうね」


 その声は密やかで、好奇心に溢れていた。


「もしかしたらあなたは鍵をお持ちじゃありませんか? 穴に合う鍵を」


「……」


 私が絶句していると医師は胸のポケットから小さな鍵を取り出して見せた。




 そしてニヤリと笑うとその鍵を自分の後頭部に持っていき、カチャリと音をさせた。


 するとどうだろう。医師の頭が割れて中から白いハトが飛び出してきた。




 驚きを通り過ぎた私。それでも笑っている奇妙な医師。


 


    ☆   ☆ 


 


 今の私は重い病から解放されて、とても幸福である。




 なぜなら私はあの小さな鍵を探し当て頭をカチャリとやったのだから……。








                 了



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松長良樹 @yoshiki2020

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