第20話 冷和大噴火②
「でね、役人に私の姿を描き写し絵姿を人々に早々に見せよって言ったわけよ。ところがまさかあれほど絵心がないとは思わなかったわ」
アマビエが世間に流布しているアマビエ像をホソデやナガテに愚痴っていた。
本当のアマビエの姿は神々しいほどの美貌で光り輝いていた。
ここはイドが作った仮想空間。
基本的には〈わさび菜〉を模したインスタ映えするカフェバーといったおもむきだ。
ホソデやナガテ以外にも近隣の守り神や遠方から門客神、さらにはどこから来たのかわからないような異邦の神々までたむろしていた。
「それでアマビエ様を見ることができる知恵殿にあらためて描いてもらった似顔絵がこれかポン」
ナガテが凶悪顔のアマビエ像を披露した。知恵画伯の才能はしょう子お姉さんもびっくりなほどだ。
「orz」
三つの膝をついて崩れ落ちるアマビエにバカ受けする神々。
「アマエビー!」
仮想空間に知恵が飛び込んできた。
魔法少女のようなコスチュームだ。
「甘海老ではありません。アマビエですよ知恵殿」
知恵の侍従をもって自任しているちょい悪オヤジ風のイドが訂正する。
仮想空間とはいえ霊的存在の中に人間入ってきたことに新顔の神々が驚嘆する。
「アマビーまた遊びに来てくれたの?」
「いいえ本日は
「ねぇねぇアマビーはなぜ三本足なの?」
「神の使いは三本足と決まっているのですよ」
そんなやりとりをハラハラした様子で見守る神々。天原と聞いただけでひれ伏している神さえいる。
「ではあらためて
アマビエの足元の床板が跳ね上がった。
中から童女コガネと箱をくわえた大蛇カガチが現れる。
「邪魔するかギンナン娘」
鼻をぶつけたアマビエが立ち上がる。
「ギンナンではない、コガネじゃ」
「大神霊には霊格が足りておらんわ」
「き、気にしている事をよくも!」
二柱の間でカガチがおろおろしている。
「その箱はなに?」
知恵がカガチを突っつく。
「龍脈の流れが滞っておりましたのでコガネ様と調べたところ龍穴にこれが詰まっていたのです」
「なにが入っているのかな? 開けていい?」
「あっ、ちょっ……」
返答を待たずさっさと蓋を開けてしまう知恵だった。
爆炎とともに8匹の鬼が飛び出してきた。
「千年ぶりの外だ!」
「お、うまそうな小娘がいるぞ!」
「暴れる前に腹ごしらえといくか!」
「俺は尻の肉がいい!」
知恵を見つけた鬼たちがよだれを垂らすが周囲の雰囲気がおかしいことに気づく。
鬼よりも恐ろしい形相の神々に囲繞されていた。
「ひえええー」
「タヌ? 誰を食うって?」
「ひっ!」
ナガテの刃風が鬼の髪をごっそり刈りとった。
「皆さんお目汚し失礼しましたわ。すぐにお掃除しますのでしばし」
コガネが弓を引きしぼった。
「コガネ様お待ちを」
カガチが制止する。
「こ奴ら見覚えがあります。知恵殿の母君が前世、梓巫女として外法箱に封じていた呪物かと」
「お、誰かと思えば俺たちがタコ殴りにしてやった蛇神カガチじゃねえか」
「お前たちにやられたつもりはない」
「なんならあん時の続きをやるか」
「やってやろうじゃないか」
カガチの首が八つに分かれて鬼たちと格闘しはじめた。
「知恵殿の店で暴れるな。わきまえよ!」
イドが神威を叩きつける。
「このまま消し去ってもよいがどうする?」
ぺしゃんこになった鬼たちを前にコガネが知恵に尋ねる。
「欲しい!」
「ということで鬼ども、たった今から知恵がお前たちの主だ」
「へへーっ!」
「知恵殿、本当にいいのですか?」
イドが心配する。
「だって可愛いんだもん」
やはり知恵の美的センスは一般とは違うようだ。
「どうせどうせわたしは役立たずですよ」
隅でアマビエがいじけていた。
ホソデが知恵にアイコンタクトした。
「アマビーの話が聞きたいな」
アマビエはぱっと顔をあげて嬉しそうに告げた。
「うふふふ、富士山が噴火しまーす!」
「それじゃ歓迎会はじめましょう!」
知恵が宣言する。
「うおーっ!」
「え? 富士山が……」
「ささ、アマビーも飲んで飲んで」
大宴会が始まった。
宴会は富士山噴火のその日まで連日連夜続いた。
参加者は増え続け、通りの良くなった龍穴からどんどん霊気が補充されていった。
日本終了(オワタ) 伊勢志摩 @ionesco
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