第11話 科学部の天才

 今日は土曜日だけど、登校日だ。

 月の何回かは土曜日に午前中授業がある。

 中学生の時は週休二日制で、土日は授業は休みで。その頃僕は部活も土日が休みな理科部だった。

 高校に入って授業日数は増えた。それでも、苦にはならない。

 だって今は、楽しい。

 学校に行くことが楽しいから。


 僕はお弁当をしっかり握りしめ、部室に向かった。杏奈ちゃんは後からやって来る手はずになっている。

 陰キャな僕は目立ちたくない!

 陽キャな杏奈ちゃんといると注目を浴びてしまうのだ。

 それにもしかしたら根暗な僕といることで、杏奈ちゃんがイヤな思いをするかもしれない。

 万が一、また学校で僕が中学生の時みたいになったら、彼女を不快にさせ迷惑をかけることだろう。


 昨日はそういや、あの後訊ねたら、彼女の両親が本物じゃない件については、はぐらかされてしまった。


「その話は、また今度ね」


 授業が終わったら、科学部のメンバーで集まる。土曜日の活動はまれだ。

 それぞれマニアックな趣味がある我々は土日は思う存分、推し活動をする。

 今日はあらかじめ、僕が先輩たちに携帯電話のメールで招集をかけておいた。


 普段なら僕は、空いた時間はゲーム三昧かゲームキャラのニ次元アイドルイベントに参加したり、日頃節約したお小遣いでゲームキャラヒロインのサクラ様グッズを買いに出掛ける。



 杏奈ちゃんが科学部の部室にやって来た。勢いよく部室の扉が開かれる。


「良かった、居た居た〜。哲平くん、今日はありがとね」

「うん、大丈夫だよ。先輩たちも来てくれるから」


 僕ら二人は先にお弁当を食べることにした。事前に先輩たちが食堂でランチ定食を食べると聞いてたから。

 今日のランチメニューは学食名物カツカレー、大吉先輩の大好物なんだ。


 先輩たちが来るまで僕は部室でお弁当を食べながら、杏奈ちゃんに部員の説明をした。

 今日も杏奈ちゃんのお昼御飯は菓子パン二つだったので、僕はお母さん特製のハンバーグを分けてあげた。

 

「――二年生の先輩は、名前が西園寺涼馬さいおんじりょうま

 科学部の天才。理数系は常にトップの成績で、一人だけでロボットを作ってる。僕と大吉先輩は完成まで触らせてもらえない。

 彼は鉄道マニアで撮り鉄にして乗り鉄だ。好きな電車に乗ったり撮影したりするのを生き甲斐としている。暇さえあれば、目当ての列車に会いに行き、鉄道博物館にもよく入り浸っているんだ。

 後は、漫画とアニメとロボット系やSF系が好き。

 SFは、王道のSFサイエンスフィクションももちろんだけど、藤子不二雄のSFすこしふしぎな話も好きなんだって。

 少女漫画も少年漫画も、新作名作問わず大好きなんだ。

 涼馬先輩は珍しい本をよく貸してくれるから、僕は楽しみにしている。

 補足しておくと、男の僕から見ても涼馬先輩はめっちゃイケメンだ。アイドル顔で街を歩けば芸能プロダクションからスカウトもされる。スタイル抜群で頭も賢い。

 部長の大吉先輩に言わせるとかなりモテるらしいが、趣味に忙しく女の子に全く興味なしなので相手にしないそう。

 自分で自分を「オレは変人だ」と言う人なんだ。ちょっと笑いのセンスが周りよりズレているので、時々部室で一人で大笑いしている。


 部長の唐沢大吉先輩については、省略するよ――」


 僕が話す間、横に座る杏奈ちゃんの視線がずっと僕だけを見ていた。

 たったそれだけが、なんだか自分が存在していて良いよって気にさせてくれる。

 杏奈ちゃんは変わってる。有馬ウザいとか言ったりしないで、僕のそばにいる。


「杏奈ちゃんはもう会って話をしているからね」

「哲平くん、すっごく分かりやすかった」


 僕は自分の熱弁が恥ずかしかったけど、杏奈ちゃんはニコニコ顔で「うんうん」と相槌を打ってくれるから嬉しかった。




          つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

陰キャな僕の理想の彼女 天野桃那花 @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ