第53話 秘密道具
一通り室内の確認をしていると、全員分のティーカップを出し、給湯器の前に立った由香里から声をかけられる。
「皆、ほうじ茶でいいかな?」
そう言ってティーパックのほうじ茶を由香里が掲げて聞いてきたので、どこからか取り出したクッキーをつまんでいた桜が、口をモゴモゴさせながら返事した。
「いふぃなしっすー」
「あっ、お前クッキーのカスが飛んだぞ!」
「相変わらず浅野っちは、細かい男っすねー」
そんな風に真司と桜のじゃれあう様子を眺めていると、詩音が部屋の一角に置いてある段ボールの中を覗き込んでいた。
「詩音さん、どうかした?」
そう言いながら、俺も一緒に段ボールの中を覗いてみると、そこにはコンセントを繋ぐための延長ケーブルだの、小型のUSBだのが雑多に詰め込まれていた。
「特にどう……と言うわけでは無いのですが、USBはあっちの棚の引き出しに、延長ケーブルはそこの棚の下に纏められてるのに、何故ここにある物だけ分けられてるのか気になってしまって」
顎の下に手を当てながら詩音が首をひねっていたが、俺にはただ単に分別が終わってないだけにしか見えなかった。
「なら、この段ボールの中身をそれぞれの場所にしまっていこうか」
俺がそう詩音に提案したところで、脇から待ったの声がかかる。
「待つっすよ岩崎っち。その段ボールに入ってる機械は、ちょーっと普通の奴とは違うんす」
そう言って桜が立ち上がると、段ボールの底の方から一本のボールペンを取り出し、俺の方に向けてくる。
「えっと……どうかしたのか? 桜さん」
桜の行動の意図が分からずそう問いかけると……桜はおもむろに懐からイヤホンを取り出し、ジャックをボールペンに刺すと、俺の方へとイヤホンの片耳を向けて来たので受け取る。
「えっと、これをどうしろと?」
そう桜に問いかけると、無言で耳につけるようにジェスチャーして来たので、耳へと入れてみれば――俺の声が流れてきた。
「これは……?」
「ペン型のICレコーダーっす! パッと見分からなくないっすか!?」
興奮気味に桜が解説しだすのを聞きながら、改めて桜が持っているペンを見てみるが……どこからどう見ても普通のものにしか見えない。
「因みにこっちは、モバイルバッテリー型の小型カメラで、こっちは据え置き型の電波ジャマーっすね!」
「……えっと、それらの機械って個人で持ってても大丈夫なのかな?」
お茶を入れ終わった由香里が、少し困った様な顔で桜に質問すると、胸を逸らしながら桜がうなずいた。
「これらの機械は単純所持なら、法律とかには触れないっす。……まぁ、使い方によってはもちろんお縄っすけどね」
テヘッと舌を出しながら桜が笑うと、真司がお茶を啜りながら口を差し込んで来る。
「ソイツ、怪しいものばっか持ってるし、ロクな事はしないけど、一応悪事には使わないからそこは信用してもいいと思うぞ」
念のためと言った風に真司がそう言ってきたが、一応そこら辺については俺達もここ数週間桜と付き合っていて、信頼はしている。
だが、俺達が返事をしないことで勘違いしたのか、途端に桜が不安そうな顔になる。
「……ウチの事、気持ち悪いって思ったっすか?」
掠れる様な、寂しげな声で、怪しげなグッズを手にもった桜が聞いてきて、そんな事はない……と応えようとした所ですぐに、由香里が桜を抱きついた。
「ちょっと驚きはしたけど、気持ち悪いなんて思ったりしてないよ。大丈夫だよ」
由香里がそう言いながらポンポンと桜の背中を叩くと、桜が目を見開いた。
「由香里っち……」
「……私はあまりそう言った機械に明るくないので、むしろ知ってらっしゃる方がいてくれて頼もしいです」
「詩音っち……2人とも、大好きっす!」
詩音が優しげな表情で桜へ近づいていくと……由香里と詩音に挟まれた桜が感極まった顔をして2人に抱きついていた。
そんな様子を少し離れたところから眺めて居ると、真司が耳打ちしてくる。
「……桜の奴は、昔ちょっとこの手の趣味の関係でトラブった事があってな。この話題に関しては、結構ナイーブなんだよ」
そう真司が言って来たので、今も仲良さげに抱き合ってる3人を見ながら、俺は肩をすくめる。
「あの様子を見る限り、2人は桜の事受け入れてるみたいだけどな。もちろん、俺も」
そう言いながら俺は、今更ながらに一つのことを再認識させられた。
桜や真司は、一般的にはお金の有る――資産家の家に産まれ、何不自由なく生きている様に見えるかもしれないが、それでも色々と抱えている物はあるのだということを。
……また同時に、まるでそんな悩んでいる姿を人には見せない詩音もまた、何か悩みがあるのであれば、力になってあげたいと強く思った。
早起きは人生のトク! ~爺さんを助けたら、資産4兆円の男の養子になって嫁候補まで出来ました~ 猫又ノ猫助 @Toy0012
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。早起きは人生のトク! ~爺さんを助けたら、資産4兆円の男の養子になって嫁候補まで出来ました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます