第52話 俺達だけの拠点
俺達が使う部屋を実験棟の一室に決め、会長へと申請を出した週の土曜日。
俺、由香里、詩音の部活有る組を他所に、桜や真司がコツコツと自分たちの拠点化を進めたと言うので、昼前から全員で見に行くこととなった。
「しっかし、拠点て言う表現はどうなんだ?」
まるで軍隊の陣地の様に表現する真司と桜にそう問いかけると、肩を竦められた。
「何時までも溜まり場とか、集合場所じゃ味気ないじゃないっすか」
「部活や正式な活動でも無いから、部室とも違うしなー」
そんなことを2人に言われて、確かに考えてみれば俺達が今活動している内容に名前が無い事を改めて認識する。
「生徒会の助っ人……って言っても、なんか違うしな」
「一応生徒会から頼まれた事ではあるけど、生徒会のお仕事をしてる訳じゃないしね」
歩きながら俺と由香里が俺達の活動について話していると、一緒に歩いている詩音も一緒に頭を悩ませていた。
「えーっと、生徒会の補佐なので……予備生徒会とかそんな所でしょうか?」
「えー詩音っち、それなら裏生徒会の方が良くないっすか?」
口を尖らせながら桜がそう言うと、すかさず真司が突っ込みを入れる。
「いやいや裏生徒会って、まるで俺達が悪い事してるみたいじゃねぇか」
「……元を正せば、真司がイベントで不正をした事から始まってるから、あながち間違ってもないけどな」
思わず俺がそう突っ込みを入れると、真司が肩を叩いて来ようとしたので、体の軸をずらして躱す。
「流石の動体視力だな、海人」
「真司の方こそ、良いパンチしてるよ」
そんな事を言い合いながら、互いに次の一手をどうしようかと考えていると……。
「海人君! 浅野君! そんな所で遊んでると、置いてっちゃうよ!」
由香里達はそんな俺達を無視して、さっさと歩いて行ってるのを確認し、2人で肩を竦めて化学実験棟の正面扉を通った。
数日ぶりに入る実験棟の中は、最初の時の様な緊張はしないものの、やはり行きかう人が年上の人が多いため、僅かに緊張する。
「なんだ海人、まだ緊張してんのか?」
俺の緊張を感じ取ったのか、真司が肩を組みながらそう言ってきたので、その手を軽く払った。
「ここ数日の真司達みたいに、何度も出入りしてるわけじゃ無いからな。……まっ、その内慣れるだろ」
「だな」
そう言い合うと、足早に桜たちの後を追い……丁度桜達が扉の前に着くところで追いついた。
「おっほん。皆さん我らがアジトへようこそっす」
突然、桜が咳払いすると口上を述べ始めた。
「ここに来るまで苦節……2,3日っすかね? まぁともかく、艱難辛苦を超えて、ここに我らが理想郷を作ったっす! 見て腰を抜かすんじゃないっすよ!?」
そんな前振りを桜からされて、俺だけじゃなく由香里や詩音も反応に困った顔になる。
なんせ、以前パイプ椅子と机や段ボールしかない殺風景な部屋をみてるのだ。
たった数日でそうそう変わる事は無いだろう。
「あっ、お前らその顔は期待してないな? 桜、さっさと開けて驚かせてやろうぜ?」
「合点承知の助っす! それじゃあ、開けるっすよー。3、2、1!」
0のタイミングでバンッと桜が扉を開くと、部屋の様子が見えて来て……俺達は、思わず唖然とした。
まず目に入ったのは、以前見た折り畳み式の物とは比べられないほど立派な、1枚板の大きな机が中央に鎮座し、その上にはパソコン用の高級そうな液晶が5台も据え置かれている。
それ一式だけでも驚きだと言うのに、壁際にはどこからか持ってきたのか、小型の冷蔵庫やらコンロ、給湯器やテレビなど、数日なら暮らせそうな程物が充実しおり、挙句の果てには棚の一部には真司達の私物と思われる漫画やゲーム機、プロジェクター等が鎮座していた。
――正直、陸上部の部室の数倍は充実しているな
思わずそんな感想を抱いていると、目を見張っていた由香里が言葉を漏らす。
「えっと……本当にここが私たちの拠点なのかな? 私たち、部活でもないのにこんなに充実しちゃってて大丈夫なのかな」
恐る恐ると言った風に由香里がそう言うと、桜が頬を掻いた。
「あはは、実験棟中から使えそうなものを色々貰ってきたら、こんな状態になったっす……ちょっとだけ、やり過ぎた感ももあるっすね」
口ではそう言いながらも、表情はテヘッと笑っているあたり、まるで反省してなさそうである。
「これはもしかしたら、生徒会室よりも物が多いかも知れませんね……」
詩音が食器棚に並んだ茶器などを手に取りながらそう呟いたので、思わず苦笑してしまうが……考えてみれ俺達にしてみれば悪い事でも無いので、口元を緩める。
「まぁなんだ、2人だけでここまでするなんて凄いよ。お疲れ様。そして、ありがとう」
そう言って感謝すると、真司と桜からVサインを返された。
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