第51話 科学実験棟
会長から俺達用の溜まり場? 作業部屋? の最終検討をする為、全員事前に購買で弁当を買った上で、候補となっている部屋を見て回っていた。
「次が、本命の場所っすね。高等部の校舎の外でかつ少し離れているせいで、ちょっと利便性は悪いっすが、今の所誰も使ってないんで24時間使用可能で、利用上の制限も特に無いっす」
そう言って桜に先導されて向かった先、円筒状の閉鎖的な雰囲気の漂う白い建物――科学実験棟は主に大学生や研究者が利用している様な場所であり、玄関口にはしっかりと関係者以外立ち入り禁止の紙が貼られている。
「本当に、こんな所に大丈夫なのかな? 海人君?」
由香里がそう言って不安げに俺の裾を引っ張って来たので、できる限り平静を装いつつ応えた。
「まぁ、会長が候補に挙げたんだから、入っちゃダメってことは無いと思うぞ……ちなみに、真司や詩音さんは入った事は?」
思わずそう2人に問いかけるが、2人もややこわばった顔で首を横に振る。
「皆そんなところで何してるっすか? さっさと入るっすよー?」
俺達がそんな話をして二の足を踏んでいるにも関わらず、桜は何食わぬ顔でヅカヅカと正面から入っていったので、俺達は一度顔を見合わせて覚悟を決めた後に中へと入っていった。
「中は……思ったよりも、広く感じますね」
詩音が思わず漏らした言葉を聞いて、周囲をを見回してみると、廊下に接している壁の殆どがガラスで出来ている他、壁や床が白で統一されて居るので、窮屈さは感じなかった。
だが、受付なども無いのでどうしようか……と考えていたところ、ちょうど1人の白衣を着た研究員らしき人が前方から歩いてきて、軽く会釈されたので慌てて俺達も頭を下げる。
「君たちは……」
そう研究員の人が口を開いた所で、桜がにこやかな顔で、まるで知り合いかの様に馴れ馴れしく挨拶した。
「あっ、どもどもっす。ウチら、1-Fの教室を探してるんすけど何処にあるっすかね?」
そんな風に、いつもと変わらない口調で桜が問いかけたので、慌てて謝ろうかと考えていたところで、研究員の人は気さくな笑みを浮かべた。
「あー、1-Fならこの道を突き当たりまで進んだ先だよ」
「おっ、本当っすか? ありがとうございます。あっ、後この間送ったデータは使えたっすか?」
唐突に、桜がそんな事を研究員の人に尋ねると、研究員のおじさんは更に笑みを深めた。
「あー、あれの件は本当に助かってるよ。お陰で半年分は研究が進んだかな……っと、君たちは桜ちゃんのお友達かな?」
桜と研究員の人のやりとりに目を白黒させながらも、何とか頷く。
「そうかそうか、桜ちゃんは色々忙しない子だけど、悪い子じゃ無いから仲良くしてあげてね」
「余計なお世話っすよ!」
ハハハと、笑い声を上げながら去っていく気さくなおじさんの背中を呆けつつ見ていると、真司が桜を肘で突いていた。
「……おい桜? お前って、もしかしてここの人達と知り合いなのか?」
「あれ? ウチ事前にそう言ってなかったっすか?」
とぼけた調子で桜がそう言ったので、俺達は思わず大きなため息をつく。
「もう、桜ちゃん。それならそうと言ってくれてたら、少しは緊張も少なかったのに」
「由香里さんの言う通りです。凄くドキドキしてしまいました」
2人にそんな風にして責められて謝る桜に案内されながら、改めて科学棟の中を進んでいく。
実験棟と名のつく施設に入るのが初めてだったこともあり、施設内の景色はどれも見たことのないもので溢れていた。
ガラス張りの室内で、膝丈程もある大きな機会をいじくり回す様子や、大量のパソコンを前にして一心不乱に何かを打ち込んでいる様子、果てはvr機器を使って遊んでいる様にしか見えない光景など、中学や高校の授業とは大きく異なっている様に見えた。
「あっ、ここがウチらが使って良いって言われた部屋っすね」
そう言って桜が指さした先――1階の一番端にある部屋の扉を開くと、元は物置だったのか空になった本棚とパイプ椅子や机、そして空になった段ボールが積み重なっていた。
「何か必要な機材があれば、研究員の人に顔がきくんで融通してもらえるっすし、ネットの高速回線も繋がってるんで、ここが一番だと思うんすけど、どうっすか?」
そんな風にこの場所のメリットを並べ立てられたが……無駄な緊張をして疲れていた俺達は、やや投げやりに返事した。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
先週ご連絡させて頂いた、本小説を朗読しているラジオの第二回がYoutubeにて掲載されたので、改めて周知させていただきます。
ぜひ、一度聞いていただけると幸いです。
「寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2nd book-」#42~ざわみ誕生日おめでとう!~(2021/1/17OA)
https://youtu.be/2Td8gtH_2nk
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