第50話 3姉妹と昼食会
「皆も来たことあるかも知れないけど、ここ私のお気に入りの場所なんだよね」
そう言って生徒会長に連れられてきた先にあったのは、竹林が生い茂った中にある和風な建築物だった。
以前詩音に連れられて一度来た時にも感じたが、学生には少し入りにくい落ち着いた雰囲気に俺は少し足踏みしていたが――会長は特に気にした様子もなく、勢いよく引き戸を開けた。
「咲耶姉いるー?」
開口一番そう言ってズカズカと店内へ入っていく会長に対し、隣の詩音がため息をついた。
「あっ、渚ちゃんに、詩音ちゃん。いらっしゃい!」
どこか嬉しそうな声で店の奥から返事をして来たのは、以前このお店に来た時に詩音と仲良さげに話をしていた、落ち着いた雰囲気の女性――咲耶さんだった。
「そう言えば、渚ちゃんと詩音ちゃんが一緒にお店に来るのは、今年になって初めてだったかしら?」
首を捻りながら咲耶さんがそう問いかけると、詩音が頷いた。
「はい。今年はまだ渚さんとお昼一緒になったことないですね」
詩音がサラッとそう答えると、会長がわざとらしい仕草で咲耶さんに泣きついた。
「聞きました? 咲耶さん! 去年までは、渚お姉ちゃーん! って後ろついて来てたたのに、今年はこんな感じなんですよ? 信じられます?」
「……渚さん、嘘言わないでください。皆さん、渚さんの言っている事に騙されないでくださいね?」
会長がカラカラと笑うのに対し、詩音は顔を赤らめながら少し強めの語調で反論する。
「えっと、取り敢えず皆さん座りましょうか? 4人席を今2つくっつけますんで」
少し困った様な顔をしながら、咲耶さんにそう提案されて、俺達は戸惑いながらも頷いた。
◇
「んー、やっぱり咲耶さんの所の料理は絶品だねー!」
目を細め、この世の幸せを噛み締めるように天丼を食べる会長を見て、思わず俺も焼き鳥丼じゃなくそちらにすれば良かったかと考えていると、由香里が口を開いた。
「あの、一つ質問なんですけど。詩音ちゃんと会長さんと、咲耶さんはどう言った関係なんですか?」
俺も感じていた疑問を、由香里がそう口に出すと、会長が目を少し見開きながら詩音の方を見た。
「あれ? 皆には説明してないの?」
「そう、ですね。そう言えば、ちゃんと説明していなかったです」
詩音が口元を紙ナプキンで拭いながら応えると、会長がニシシと笑った。
「それじゃあまあネタバラシしちゃうと、私達は従姉妹の関係だね。他にも従兄弟はいるけど、私達が一番仲良いかなー……だよね? 咲耶姉?」
「そうねー。私達皆一人っ子なのもあって、殆ど本物の姉妹のように暮らしてきたものね。小さい頃の2人は、それはもう可愛かったんだから」
ニコニコと咲耶さんが応えると、詩音が僅かに耳を赤くしながら視線をそらし……桜が目を輝かせた。
「その当時の渚さ……生徒会長さんの写真とかあるっすか!?」
鼻息荒く桜が立ち上がったので、隣に座ってた真司が押さえつけながら「落ち着けっての」と言っている。
「あるわよー……。ほら、これなんか可愛いでしょう?」
そう言って咲耶さんがスマホの画面に映したのは、中等部の制服に身を包んだ咲耶さんの横に、ランドセルを背負ってVサインしている少女と、その裾を掴んで不安そうな顔をしている女の子が写った写真だった。
「コレ! 渚さんの小さい時の写真っすよね!?」
「この少し不安そうな顔してるの、詩音ちゃん? すっごい可愛い!」
「会長、この時は可愛かったんですねー……」
鼻息荒い桜と、テンションが一気に上がった由香里、そして何処か遠い目をした書記の人が写真をまじまじと見ていた。
「……よりによってその写真を出すなんて、咲耶さんイジワルです」
一方で隣に座る詩音は、少しむくれた顔でそう言っていたので、俺は素直に思った事を口にする。
「えっと……その写真、凄く詩音さんらしくて可愛いと思うよ?」
頬が上気するのを感じながらそう言うと、詩音が途端にそっぽを向いた。
「……きょうの海人さんは、ちょっと意地悪です」
「いや、俺はそう言うつもりじゃ……」
何とかして弁解しようとした所で、大きな声が上がる。
「あーっ、私が見てない隙にしーちゃんを口説き落とそうとしてるなー!?」
「……海人君?」
そんな風に会長から笑顔であらぬ指摘をされ、由香里からはジト目を向けられ……終始賑やかな調子で、俺達の昼食会はお開きになった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
本話で、早起きは人生のトクも50話に到達しました。
途中、連載が止まったり等色々ありましたが、今も読んでいただいている皆様には感謝しかありません。
また作品の更新だけでなく、ラジオ放送も今月一杯続きますので、どちらもよろしくお願いします。
なお、もし作品のフォローや評価などされてない方がいらっしゃいましたら、して頂けるとモチベーションにも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。
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